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初デート中に他の女性に見惚れるなんて許せない!
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リクの無防備な顔に夢中になって、ついパフェを二人で食べさせっこして。
……すっかり高村先輩と遠藤先輩のことを忘れていた。
『見ている方が恥ずかしいので帰るね』
と、遠藤先輩からスマホにメッセージが入り。
続けて、高村先輩からも。
『次はちゃーちゃんも一緒にラブラブコーディネートさせてね』
慌てて階下を見ると、すでに先輩達の姿はなく。
「よかったじゃん? やっと自由に出来る」
「リクは十分自由にやってるでしょ? 先輩達がいないからって、おかしなことしないでよね」
「おかしなこと? それってなあに?」
ニマニマ笑って言わせようとするけど、その手に乗るもんか!
「まあ、ともかく、この後どうする? 今さらお昼ごはん、ってのも何だし、どっか行きたいとこある?」
「そうだね。もう、お腹いっぱいだし。少し歩いて、駅まで行く? ちょっと雑貨屋さんとか見たいな」
「駅前か……誰かに会いそうでちょっと心配だけど。まあ、何とかなるか」
そう言われると、ちょっと心配だけど。
「じゃあやめとく?」
「いいよ。いざとなったら、千野先生の弟、ってごまかしておけば?」
なるほど、それはいい考えだ。
「じゃあ、偽名考えようよ」
「……何か楽しそうだな、サホ」
「だって突然訊かれてたら、絶対パニクるもん」
「いいよ、リクの弟でリクトにでもしておけば。サホは決めておいたってどうせパニクるし。名前こんがらがって呼びそうで怖い」
リクの弟……リクオト………リクト。
安直だけど、確かに間違え呼んでしまう心配はないかも。
和風喫茶を出て、私達は駅前に向かって歩きだした。
「サホはどの店見たいの?」
「お稽古に持っていく巾着袋が傷んで来ちゃったから、新しいの見たいんだよね。だから、和系の雑貨があるお店がいいな」
「南口に、それっぽい店があったよな。そこに行く?」
「そうだね」
駅前に着いて、リクと2人で和雑貨屋さんに入り、品物を見ていく。
「あ、これかわいい! 猫柄! あ、こっちも」
「手拭い? サホ、猫好きなの?」
「うん! せっかくだから、買っちゃおう」
「……巾着見るんじゃなかったの?」
お店の入口から袋物コーナーにたどり着くまでに、つい色々目について寄り道していたら、リクがあきれたように言う。
「いいじゃない? せっかく来たんだから、色々見たいし!」
「やっぱり、サホも女だな。買い物が長い……」
「じゃあ、リクは外で待ってれば?」
「どうせ待つなら、サホと一緒にいる」
ため息つきながら、それでもリクは付き合ってくれた。
目的の巾着の場所にようやくたどり着いて、また私は悩みだす。
色とデザインが可愛い萌黄色の花柄の巾着と、ちょっと大人っぽい濃青のモダンなストライプ柄のとで悩む。何か、いつも可愛い系ばっかり選んじゃうしなぁ。
「リクはどっちが好み?」
「えー、どっちも………………あ、うん、どっちかな?」
どっちも、と言ったところで睨み付けたら、慌てて一緒に考え出してくれた。
お父さんも、買い物に行くとこう言う返事するけど、男の人って、皆こんな感じなのかな?
もうちょい真剣に考えて欲しい。
「うーん、サホの着物って、大体そういうタイプ? パステル系の」
「割りとそうかな。あんまり大人っぽい色や柄は、持ってない」
「だとすると、無難なのはその可愛い方だけど。大人っぽいのも気になるんだよな?」
「そうだね。そろそろこういうデザインのも、欲しいかな」
「でも、持っている着物と合わないじゃん? だったら、例えば、こういうのとか」
リクは私が選んだのとは違う、抹茶色の巾着を手に取った。
鹿の子柄の生地に、辻ケ花模様の端切れがパッチワークされ、少し古風なデザイン。
「これなら、どっちにも合わせやすいと思うけど」
「逆に大人っぽ過ぎない?」
「古典柄だから、多少背伸びしても合わないことはないと思うよ。色も淡いから、そんなに主張してないし」
「そう? じゃあ、これにしようかな」
リクのおすすめに決めて、お会計に向かう。
「ダメだよ、リク。これは、私が払うの」
「いいよ、このくらい」
「ダメ! さっきも払ってもらったもん」
財布を取り出したリクを制して、私は自分でお会計を済ませる。
「もっと甘えていいのに」
「ダメだよ。高校生なんだから」
わざとらしく言うと、リクは「ちぇっ」と言いながら、財布をしまってくれた。
「じゃあ、せめて、何か記念になるもの、プレゼントさせて? 初デートの記念に」
諦めきれず、とあるお店のウインドウの前で立ち止まり、展示してある商品を見つめる。
……やめてよ、ここ、貴金属品屋さんだよ。
「だったら、私も買う。お互いあげっこしよ?」
私も買うといえば言えば、そんな高いもの選ばないだろうと思って、かつ、リクの視線を商品から遮るように首をかしげて覗き込むように言うと。
「……お前、それ反則だぞ……。急に可愛い仕草するなよ」
「へ? あ、別に狙ったわけじゃないし!」
……どうも上目遣いがいけなかったらしい。
まあ、顔を真っ赤にしながら、とりあえず視線は貴金属から外れた。
「あ、ね、これは?」
見つけたのは、隣のカバン屋さんにあった革製のブックマーク。
「リクは本、好きでしょ?」
「よく分かったな?」
「分かるよ。あんなに詳しいんだもん」
「そっか。……へえ、その場で名前も入れてくれるんだ? せっかくなら、二人の名前、入れる?」
……それは、とっても恥ずかしい。けど、ちょっと憧れるかも。
結局、リクは紺色、私は臙脂色のブックマークを選んで、『RIKU TO SAHO』『SAHO TO RIKU』とそれぞれに刻印してもらった。あと、今日の日付も。
どうしよう! もったいなくて使えない!
「ホントは指輪とかあげたかったのになぁ」
「それは、またいずれ。これも、すごく嬉しいから」
「まあ、確かに。俺も嬉しい」
そのあと、バスの時間まで2人でぶらぶら歩いて。
「あら、茶朋さん?」
急に声をかけられ、振り向くと。
「あ、先生?! ……こんにちは」
和服を着た、おっとりとした雰囲気の、中年の女性。
先生と言っても、学校ではなく、茶道のお師匠さま。
今日は浅葱色の訪問着を着ている。華やかな扇面流しの柄が素敵。どこかにお呼ばれかな?
「こんにちは。お買い物? ……って、あら、もしかして、お邪魔しちゃったかしら?」
クスッと微笑まれるその視線の先には……リクと繋いだ手。
「あ、いえ! これは!」
「茶朋さんもお年頃ですものね。同級生?」
「………あ、ハイ」
リクが珍しく反応が遅いので、手を引っ張ると慌てて返事をする。
よく見ると、ぼんやりお師匠さまを見ている。
……ちょっと? 何だか顔、赤くない?
確かにお師匠さまは、しっとり和服が似合う、いかにも大和撫子な美人だけど!
その所作に私も見惚れてしまうけど!
デート中にこの反応はないと思う!
「中沢さんとお付き合いしている、センノ、リク、と言います。」
はにかみながら自己紹介するけど、これ、演技じゃないよね?
「センノ……? リク、さん、と仰るの?」
繋いだ手から視線を上げて、挨拶するリクの顔を見て。
ちょっとお師匠さま、びっくりした様子で見つめて、やっと、という感じで声を出す。
「はい」
「……茶朋さんと同級生、なの? なら、今は、17歳くらい、かしら?」
「誕生日がくれば」
「そう、そうよね。ごめんなさい、知り合いによく似ていたものだから……ああ、せっかくのデートなのに、ごめんなさいね。茶朋さん、明日のお稽古でお会いしましょう」
そう言って、会釈しながら、慌てて去っていくお師匠さま。
珍しいなあ。お師匠さま、名前も名乗らず。あんな風に落ち着きがないなんて。
まさか?! 年の差フォーリンラブ?!
……ってまさかね。
お師匠さま、うちのお母さんよりは若いけど、でも、それほど変わらない。私くらいの歳の子供がいてもおかしくない年代。
まあ、独身だけど。
っていうか、むしろリク!
「……何よ、ボーッとしちゃって!」
「あ、ゴメンゴメン。だって、めちゃめちゃ好みだったから」
「好み?」
「うん」
デート中に、他の女の人見て、顔を赤らめてボーッと見惚れて、あまつさえ『好み』とか?!
いくら相手がお師匠さまでも、これは許せない!
「……きっと、サホが成長したら、あんな感じになるのかな? って想像したら、つい見惚れちゃったよ」
へ?
「同じ色の着物着ていたせいかな? 何だか、雰囲気がサホそっくり。ああ、あの人が茶道のお師匠さま? だからか。サホ、ずっと憧れていたんだもんな。うん、ちゃんと近付いているよ」
つまり、私と雰囲気が似ていて……だから、好み、って?
……これは、怒るに怒れないじゃない!
……すっかり高村先輩と遠藤先輩のことを忘れていた。
『見ている方が恥ずかしいので帰るね』
と、遠藤先輩からスマホにメッセージが入り。
続けて、高村先輩からも。
『次はちゃーちゃんも一緒にラブラブコーディネートさせてね』
慌てて階下を見ると、すでに先輩達の姿はなく。
「よかったじゃん? やっと自由に出来る」
「リクは十分自由にやってるでしょ? 先輩達がいないからって、おかしなことしないでよね」
「おかしなこと? それってなあに?」
ニマニマ笑って言わせようとするけど、その手に乗るもんか!
「まあ、ともかく、この後どうする? 今さらお昼ごはん、ってのも何だし、どっか行きたいとこある?」
「そうだね。もう、お腹いっぱいだし。少し歩いて、駅まで行く? ちょっと雑貨屋さんとか見たいな」
「駅前か……誰かに会いそうでちょっと心配だけど。まあ、何とかなるか」
そう言われると、ちょっと心配だけど。
「じゃあやめとく?」
「いいよ。いざとなったら、千野先生の弟、ってごまかしておけば?」
なるほど、それはいい考えだ。
「じゃあ、偽名考えようよ」
「……何か楽しそうだな、サホ」
「だって突然訊かれてたら、絶対パニクるもん」
「いいよ、リクの弟でリクトにでもしておけば。サホは決めておいたってどうせパニクるし。名前こんがらがって呼びそうで怖い」
リクの弟……リクオト………リクト。
安直だけど、確かに間違え呼んでしまう心配はないかも。
和風喫茶を出て、私達は駅前に向かって歩きだした。
「サホはどの店見たいの?」
「お稽古に持っていく巾着袋が傷んで来ちゃったから、新しいの見たいんだよね。だから、和系の雑貨があるお店がいいな」
「南口に、それっぽい店があったよな。そこに行く?」
「そうだね」
駅前に着いて、リクと2人で和雑貨屋さんに入り、品物を見ていく。
「あ、これかわいい! 猫柄! あ、こっちも」
「手拭い? サホ、猫好きなの?」
「うん! せっかくだから、買っちゃおう」
「……巾着見るんじゃなかったの?」
お店の入口から袋物コーナーにたどり着くまでに、つい色々目について寄り道していたら、リクがあきれたように言う。
「いいじゃない? せっかく来たんだから、色々見たいし!」
「やっぱり、サホも女だな。買い物が長い……」
「じゃあ、リクは外で待ってれば?」
「どうせ待つなら、サホと一緒にいる」
ため息つきながら、それでもリクは付き合ってくれた。
目的の巾着の場所にようやくたどり着いて、また私は悩みだす。
色とデザインが可愛い萌黄色の花柄の巾着と、ちょっと大人っぽい濃青のモダンなストライプ柄のとで悩む。何か、いつも可愛い系ばっかり選んじゃうしなぁ。
「リクはどっちが好み?」
「えー、どっちも………………あ、うん、どっちかな?」
どっちも、と言ったところで睨み付けたら、慌てて一緒に考え出してくれた。
お父さんも、買い物に行くとこう言う返事するけど、男の人って、皆こんな感じなのかな?
もうちょい真剣に考えて欲しい。
「うーん、サホの着物って、大体そういうタイプ? パステル系の」
「割りとそうかな。あんまり大人っぽい色や柄は、持ってない」
「だとすると、無難なのはその可愛い方だけど。大人っぽいのも気になるんだよな?」
「そうだね。そろそろこういうデザインのも、欲しいかな」
「でも、持っている着物と合わないじゃん? だったら、例えば、こういうのとか」
リクは私が選んだのとは違う、抹茶色の巾着を手に取った。
鹿の子柄の生地に、辻ケ花模様の端切れがパッチワークされ、少し古風なデザイン。
「これなら、どっちにも合わせやすいと思うけど」
「逆に大人っぽ過ぎない?」
「古典柄だから、多少背伸びしても合わないことはないと思うよ。色も淡いから、そんなに主張してないし」
「そう? じゃあ、これにしようかな」
リクのおすすめに決めて、お会計に向かう。
「ダメだよ、リク。これは、私が払うの」
「いいよ、このくらい」
「ダメ! さっきも払ってもらったもん」
財布を取り出したリクを制して、私は自分でお会計を済ませる。
「もっと甘えていいのに」
「ダメだよ。高校生なんだから」
わざとらしく言うと、リクは「ちぇっ」と言いながら、財布をしまってくれた。
「じゃあ、せめて、何か記念になるもの、プレゼントさせて? 初デートの記念に」
諦めきれず、とあるお店のウインドウの前で立ち止まり、展示してある商品を見つめる。
……やめてよ、ここ、貴金属品屋さんだよ。
「だったら、私も買う。お互いあげっこしよ?」
私も買うといえば言えば、そんな高いもの選ばないだろうと思って、かつ、リクの視線を商品から遮るように首をかしげて覗き込むように言うと。
「……お前、それ反則だぞ……。急に可愛い仕草するなよ」
「へ? あ、別に狙ったわけじゃないし!」
……どうも上目遣いがいけなかったらしい。
まあ、顔を真っ赤にしながら、とりあえず視線は貴金属から外れた。
「あ、ね、これは?」
見つけたのは、隣のカバン屋さんにあった革製のブックマーク。
「リクは本、好きでしょ?」
「よく分かったな?」
「分かるよ。あんなに詳しいんだもん」
「そっか。……へえ、その場で名前も入れてくれるんだ? せっかくなら、二人の名前、入れる?」
……それは、とっても恥ずかしい。けど、ちょっと憧れるかも。
結局、リクは紺色、私は臙脂色のブックマークを選んで、『RIKU TO SAHO』『SAHO TO RIKU』とそれぞれに刻印してもらった。あと、今日の日付も。
どうしよう! もったいなくて使えない!
「ホントは指輪とかあげたかったのになぁ」
「それは、またいずれ。これも、すごく嬉しいから」
「まあ、確かに。俺も嬉しい」
そのあと、バスの時間まで2人でぶらぶら歩いて。
「あら、茶朋さん?」
急に声をかけられ、振り向くと。
「あ、先生?! ……こんにちは」
和服を着た、おっとりとした雰囲気の、中年の女性。
先生と言っても、学校ではなく、茶道のお師匠さま。
今日は浅葱色の訪問着を着ている。華やかな扇面流しの柄が素敵。どこかにお呼ばれかな?
「こんにちは。お買い物? ……って、あら、もしかして、お邪魔しちゃったかしら?」
クスッと微笑まれるその視線の先には……リクと繋いだ手。
「あ、いえ! これは!」
「茶朋さんもお年頃ですものね。同級生?」
「………あ、ハイ」
リクが珍しく反応が遅いので、手を引っ張ると慌てて返事をする。
よく見ると、ぼんやりお師匠さまを見ている。
……ちょっと? 何だか顔、赤くない?
確かにお師匠さまは、しっとり和服が似合う、いかにも大和撫子な美人だけど!
その所作に私も見惚れてしまうけど!
デート中にこの反応はないと思う!
「中沢さんとお付き合いしている、センノ、リク、と言います。」
はにかみながら自己紹介するけど、これ、演技じゃないよね?
「センノ……? リク、さん、と仰るの?」
繋いだ手から視線を上げて、挨拶するリクの顔を見て。
ちょっとお師匠さま、びっくりした様子で見つめて、やっと、という感じで声を出す。
「はい」
「……茶朋さんと同級生、なの? なら、今は、17歳くらい、かしら?」
「誕生日がくれば」
「そう、そうよね。ごめんなさい、知り合いによく似ていたものだから……ああ、せっかくのデートなのに、ごめんなさいね。茶朋さん、明日のお稽古でお会いしましょう」
そう言って、会釈しながら、慌てて去っていくお師匠さま。
珍しいなあ。お師匠さま、名前も名乗らず。あんな風に落ち着きがないなんて。
まさか?! 年の差フォーリンラブ?!
……ってまさかね。
お師匠さま、うちのお母さんよりは若いけど、でも、それほど変わらない。私くらいの歳の子供がいてもおかしくない年代。
まあ、独身だけど。
っていうか、むしろリク!
「……何よ、ボーッとしちゃって!」
「あ、ゴメンゴメン。だって、めちゃめちゃ好みだったから」
「好み?」
「うん」
デート中に、他の女の人見て、顔を赤らめてボーッと見惚れて、あまつさえ『好み』とか?!
いくら相手がお師匠さまでも、これは許せない!
「……きっと、サホが成長したら、あんな感じになるのかな? って想像したら、つい見惚れちゃったよ」
へ?
「同じ色の着物着ていたせいかな? 何だか、雰囲気がサホそっくり。ああ、あの人が茶道のお師匠さま? だからか。サホ、ずっと憧れていたんだもんな。うん、ちゃんと近付いているよ」
つまり、私と雰囲気が似ていて……だから、好み、って?
……これは、怒るに怒れないじゃない!
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