【完結】【R18】あざなえる光と闇~麗しの月巫女は常闇の魔性に偏愛される~

清見こうじ

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夢の追跡者

2 ☆

 今日も忙しかったな。

 軽い疲労感と充足感に満たされて、亜夜果は足取りも軽く帰宅中であった。
 亜夜果は、大手建築会社で営業補助の仕事をしている。営業担当の社員が使う見積書やプレゼン資料を提示されたデータを元に、適宜指示に応じて作成する。
 まだ新人の亜夜果に任せられるのは、単純で簡単なデータ入力や出来上がった原稿を資料に整えたり、会議の準備などの雑用がほとんどであるが。
 そういう細々した作業は嫌いではない。
 今日は作業量も多く、ひたすらコツコツと取り組んでいたら、先輩から「笑顔でやってくれるから、こちらもありがたいよ」なんて誉めてもらって。
 先輩は自分の裁量で資料のレイアウトまで任せられている部署でも信頼の厚い女性で。亜夜果の憧れの存在だったりする。
 その先輩から誉めてもらえて、疲労感が吹き飛んだ。
 その分一緒に残業も頼まれてしまったが、全く苦でなかった。
 
 いつもより遅い帰宅時間になってしまい、周囲の人通りも少なくなっていたが、浮かれた亜夜果は気付いていなかった。
 だから。
 いつもと同じように、つい近道を選んでしまった。
 
 最寄り駅からマンションへの近道を。
 ひっそりとした、公園を横切る道を。

 あ……。

 しまった。

 閑静な、と言えば聞こえはよいが、人通りもなく、街灯も少ない公園の真ん中で、やっと亜夜果は自分の失敗に気が付いた。
 この時間に帰る時は、ここは避けようって気を付けていたのに。無意識に入り込んでしまった。

 不安感が募り、亜夜果は慌て歩調を早めた。
 急いで通り抜けないと……。

 人気のない公園は、風の音が妙に大きく聞こえる。
 まるで、人の息づかいみたいに。
 いや、これは自分の息だ。
 気持ち早まる鼓動と呼吸が、余計に耳についているだけで。
 半月とはいえ、月明かりもあったが、雲も多く、時々翳る。

 ようやく公園の外の街灯が見えて、少しホッとした、その時!

 体が、宙に浮き上がった気がした。

 ドサッ!

 実際は、逆に地に引き込まれた。
 公園の、あと数歩で外に出られる、その場所で。

 植え込みの陰に引きずり込まれた。

「……!」
「……よかった……間に合った」

 のし掛かる黒い塊が、人であることに、亜夜果は気がついた。

(な? 誰?)
 恐怖より先に疑問が浮かぶが、声に出せない。
「ずっと、待って、いたんだ、よ……今夜は、もう、会えないかと、思った、のに………よかった」

 途切れ途切れの言葉の合間には、荒い息遣いが混じる。
 低い声なのに、所々妙に甲高く、それが興奮のためなのだと気がついた。
 低い男の声。聞き覚えはない。
 ただ、相手は自分を知っているらしい。
「……誰……?」
 ようやく、かすれながら声に出して問いかけたが。

「いつも、は、誰かに、見られたら、まずい、から我慢、して、たんだ。でも、よう、やく、願いが、叶う、よ」
 亜夜果の問いに答えることなく、感極まったように話すと、男は体を少しずらした。
 その拍子に、かすかな月明かりに照らされて、男の顔が闇に浮かび上がった。……けれど、全く記憶にない。

 記憶にないが、男の目に浮かぶものの正体は、分かった。

 瞳孔が開き気味なのは、この暗さのせいなのかもしれないが。黒々としたその眼は、真っ直ぐ亜夜果に注がれ。
 そこにたぎる欲望と愉悦もまた、亜夜果に向けられていた。
「……や、やめ」
「また、せた、ね。さあ、いっしょ、に……」

 男は、亜夜果の唇を捉えようと顔を近付けてきたが、必死に顔を背けて、それに抗う。
 その動きで露になった首筋に男は食らいついた。
 舌が這うぬめった感触に、亜夜果はゾッとした。

「やっ、いやっ、やめて!」
 亜夜果の首筋を嘗めながら、男の手はその下にある体幹をまさぐる。6月のもう真夏も近付いた時期だ。亜夜果の体を覆うのは、薄手のカットソーと、かろうじて羽織っていたこれも薄手のカーディガンのみ。
 男の手は苦もなく亜夜果の豊かな胸元にたどり着いた。

「やっぱり、おっきい、な。こん、な、体で、俺を誘惑、す、するなんて、悪い、子、だ」
「なっ! 何を?! や、いやっ!」

キャミソールやブラジャーを押し退けて、男の手のひらが亜夜果の胸の、その頂を包むように揉みしだく。
「こんな、大きくて、ほら、触った、だけで、固く……」
 男は耐えきれなくなったようにガバッと身を起こし、亜夜果の上半身覆うカットソーをキャミソールごとめくりあげた。ブラジャーも強引にそのまま首元に押しやったため、引き絞られた乳房が否応なく持ち上がり、濃く色づいた頂きが天を向く。
 夜目にも白く浮かび上がるその豊かなふくらみを目にして、再び体を沈め、その片方にむしゃぶりつく。
「いやっ! いやっ! だれか……! 誰か! 助けて!」
 やっとのことで大きく声を出せた、が。
「うるさい!」
 男は体を離し亜夜果の頬を横殴りにした。
「……や……」
 頬を叩かれた痛みよりも、その衝撃で頭がくらくらし、意識が一瞬飛んだ。
「すぐに済むから……」
 自分で殴り付けておいて、労るように呟くと、男はもぞもぞを足元でうごめいた。

 カチャカチャという金具の音。
 厚手の生地の擦れる音。

 押さえつけられているわけでもないのに、手足に力が入らない。軽い脳震盪を起こしているのだと、なんとなく分かった。
 そして、急に風通しがよくなった足。
 ウエストのボタンが外され、スラックスが下ろされ、太ももが露になったのも、分かった。
 未経験の亜夜果とはいえ、知識はある。
 この後に、起きるであろう出来事も、予測できた。

「……や……め……」
 くらくらする頭で、それがきちんと声になったのか分からない。
 残されたショーツを下ろそうとして、男の手が止まる。
「こ、これは、は、履いたままが、いい、かな」
 変態じみたセリフをあえて亜夜果に聴かせるように囁く。
 
 太ももの内側を男の指が這う。その動きに、亜夜果は身をこわばらせる。
 抵抗できなくなった亜夜果をいたぶるようにしばらくさすったあと、おもむろに体を起こすと、亜夜果の両膝を立て、押し開く。
 ショーツの上から、男は亜夜果の、まだ誰にも触れさせたことのない秘部に指を伸ばす。
 
(や、いやっ、こんな、こんな風に……こんな男に!)

 もはや声にならない、悲痛な叫びが、脳内を巡り。

 意に染まぬ処女喪失への絶望に目の前が真っ暗になり。

「………………」

 不意に、静けさが訪れる。

「よかった……間に合った?」

 似たような言葉を、先ほども聞いた気がする、が。

 呆然として、夜空を見上げたまま返事も出来ない。

「もしもし?! 分かりますか?!」

 焦ったような声に驚き、朦朧としながらも、亜夜果は、何とかうなづいた。
 時前後してバサリ、と何かで体を覆われ。

「気分は? 動けそうかな?」
「……はい」
 まだ少しくらくらするが、何とかその声に答えようと体を持ち上げ……バランスを崩す。
「大丈夫? 無理しないで」
 咄嗟に自分を支えた手が、男性のものだと分かった。
 けれど、先ほどまでの嫌悪感はない。

 ふと脇を見れば、もう一人男が、うずくまっている。
 呻く男が……特に下半身が露出しているのが醜悪で、亜夜果は目を反らした。
 今更ながらに、怖気がよみがえる。

 あともう少し、遅かったら……この人が、来てくれなかったら。
 私は、あの男に、最後まで……。

 過ぎ去った恐怖と安心感で、亜夜果は深く息を吐いた。
「深夜じゃないとはいえ、公園は危ないよ。通りかかれてよかった」
「……すみません。……でも、ありがとうございます……?」
 注意されながらも、心配そうなその声に、亜夜果は素直に謝罪と礼を述べてから、不意に気がついた。

 この、声……どこかで?

「……もしかして、亜夜果?」

 再び雲居から顔を出した月に照らされ。

 そこにあったのは、懐かしい思い出の。
 
 初恋の人の、顔だった。

 
 





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