【完結】【R18】あざなえる光と闇~麗しの月巫女は常闇の魔性に偏愛される~

清見こうじ

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共寝の密約

2

 土曜日の朝……ではなくて、昼間。

 尭司の帰りを待ちながら、洗濯や掃除をして、お風呂も沸かし。けれど、尭司は一向に姿を現さず。

 もしかして、今日は来ないのかな?
 ううん、尭司が約束を破るわけがない。仕事、終わらないのかな?
 何か、危険な目にあった訳じゃないよね?

 様々な不安が胸に去来していたが、ようやく11時頃になって、尭司からメッセージが入った。

『ゴメン! 遅くなった! 今から直行すから』

 ……慌てて入力したのね。

 直行すから、って入力したつもりだったんだろうな。

 その慌てぶりが微笑ましくて、ニコニコしながらスマホをしばらく眺めて、到着に備えて鍋に火を入れる。

 色々考えたが、さっと食べられて消化に良くて、でもある程度ボリュームもあるもの、とご飯を柔らか目に炊いて、お豆腐と大根のお味噌汁、肉じゃがを用意した。

 そんな準備をしていると、インターホンが鳴り。

「おかえりなさい」
「ただいまー! 亜夜果、会いたかったー! あー、亜夜果可愛い! 癒される!」

 ドアを開けると、勢い良く尭司が飛び込んできて、そのまま亜夜果に抱きついた。
「お疲れ様、早く入って」

 さすがにドアが開いたまま、尭司の賛辞を聴くのは恥ずかしい。慌てて、亜夜果はドアを閉めた。

「ああ! 亜夜果好きだー! このまま押し倒していい?」
 
 夜勤明けで妙なテンションになっているのだろう。目の下にクマができていて明らかに寝不足なのに、興奮気味で、いつもと言動が違う。

「もう! それより休まないと! ご飯食べられる? お風呂も沸かしてあるけど」
「え? ホント? 一応シャワー浴びてきたけど……入っていい? あと、腹減った!」
「すぐ入れるよ。その間にご飯用意しておくね。あ、着替えある?」
「うん、Tシャツと半パン持ってきた」
「洗濯物は、脱衣場のカゴに入れておいて。寝ている間に、やっておくから」
「マジ? 亜夜果、天使すぎる!」
「いいから、早く入ってきなよ。あ、タオルとバスタオル、置いてあるから使ってね」

 亜夜果に誘導され、尭司が浴室を使っている間に、テーブルに食事を配膳する。

 ふと、思い立って、煮えたお味噌汁に卵を落とす。
 黄身が固まりすぎないうちに火を止めて。
 
「ありがとー、気持ち良かった。やっぱり風呂はいいなあ」
「良かった。あ、今ご飯よそうね」
「ちょっと、ホント、今日、世界が滅びそう……なに、この天国な夜勤明け……肉じゃがとか……わ、味噌汁に卵入ってる! これ超好き!」

 目をキラキラさせて、尭司はご飯にがっつく。

「大げさなんだから。あ、洗濯回してきちゃうね」


 洗濯カゴを覗くと、Yシャツに、Tシャツに、タオルにバスタオル……。
「ねえ、尭司。スラックスと、あと、その、パンツは?」
「え? いや、スラックスはクリーニング出すし、……その、下着は、さすがに……」
「……人の体、さんざん見ておいて、今さら……」
「いや、それとこれとは、ちょっと恥ずかしさの種類が違うと言うか……って、亜夜果は平気なの?」
「だって、洗濯だし。実家でもお父さんのとか、お兄ちゃんのとか、普通に私が洗っていたよ? ……もしかして、恥ずかしがるような下着、とか?」
「ぜんっぜんっ! ノーマル! 普通の!」

 そう言って、おずおず、着替えを入れていた袋を出してきた。スラックスと、まあ普通の男性用の柄物のトランクス。

「スラックスは、後で別に洗うけど大丈夫? クリーニングとかこだわる?」
「いや。って言うか、家で洗えるの?」
「ウォッシャブルって書いてあるから、大丈夫だけど」
 スラックスの内側の表示を見て言うと、尭司の目に尊敬の色が浮かぶ。
 
「亜夜果……神すぎる……マジ尊敬」
「だから大げさだって! じゃあ洗ってくるから。あ、もうご飯ないね。おかわりする?」
「……お願いします」

 洗濯機のスイッチを入れて戻ると、尭司はもうおかわりしたばかりのご飯を平らげていた。
 でも、さすがに眠くなってきたのか、ぼうっとしている。
「尭司、ご飯食べ終わったなら寝たら? もう限界っぽいよ」
「……うん、あ、でも、これ片付けて……」
「いいから、寝て? 私がやるから」
「でも……」

 そう言えば「亜夜果を抱いて寝る!」って騒いでいたなぁ。一昨日のやり取りを思い出して、亜夜果は苦笑する。

「食器洗ったら、添い寝してあげるから、ベッドに行って、ね?」

 尭司は素直にうなづくと、ふらふらしながらベッドに向かい。

 亜夜果が食器を洗い、残り物を冷蔵庫にしまってベッドに向かうと、そこにはすやすや寝入っている尭司がいて。
 
「寝顔、かわいいな……」

 亜夜果を本気で抱いて寝るつもりだったのか、しっかりベッドの半分を空けて寝ている姿が笑える。
 安心しきった寝顔を見ていて、つい、亜夜果は、そのほっぺたに、キスをする。

「……ん、あ、や……」
 声が聞こえて、思わず身を引くが、寝言だったらしく、むにゃむにゃと言いながら、また深い呼吸になる。

 そのまま寝顔を眺めていたら、洗濯機のブザーが聞こえた。時間も忘れて眺めていたらしい。

 尭司を起こさないように、そっと立ち上がり、亜夜果は洗濯機に向かった。



 全ての洗濯物を干し終わり、亜夜果は一息つく。
 残り物で昼食を済ませて、再び尭司の眠るベッドに行き。

 何度か寝返りを打つうちに、ベッドの中央でゆったり眠る尭司は、一向に目覚める気配がない。
 昨夜一晩中起きていたのだろうか。仮眠も取れるって聴いたけれど、そうは言ってもしっかりと眠れるわけではないだろうし。
 体を張って、市民の生活を守ってくれているんだろうな。まさか、亜夜果の、本人も覚えていないような戯れ言で就職を決めてしまうなんて。

「でも、やっぱり、尭司は、お巡りさん、似合うね」

 昨日の昼間見せてくれたパトロールの姿も、本当はもっと近くで見たかった。

 きっと、誠実で優しいお巡りさんなんだろうな。
 でも、危険なことだってあるだろう。
 あの夜、自分を救ってくれたように、悪辣な犯罪者に立ち向かわなければいけないことだって。

 昨日、あの事件を担当した刑事さんから連絡がきた。
 亜夜果を襲ったあの男が、他にも犯罪行為をしていて……それが、おそらく世間でも騒ぎになりそうな大きな事件で。
 亜夜果のことは一切伏せるから、もし、何か問い合わせがあっても、相手にしないように。必要なら弁護士を立てて、個人では対応しないように、と。
 
 電話では細かい内容は教えて貰えなかったけれど。

『詳しいことは、警察署でお話出来ます。一人で不安なら、ご家族か……間宮くんと一緒に』

 刑事さんの気遣いに感謝を述べて、尭司に相談してまた連絡します、と答えた。

 これ以上、尭司に迷惑はかけたくないけれど、現実的に一番頼れるのも、尭司だ。

 できれば、家族には知らせたくない。最悪、過保護な両親や兄は、さっさと仕事をやめて実家に戻るように言うだろうし。

 それだけは、イヤだ。
 せっかく巡り会えた尭司と、再び離れるなんて。
 そんなこと、耐えられない。


「………尭司、ずっと、そばにいたい。私を離さないで……」
 思わず口にして、ハッとして尭司の反応を見る。

 眠っている尭司の耳には届いていないことを確かめ、そっと息を吐く。

「……尭司、愛してる。誰よりも、何よりも、尭司が、好き……」

 そう呟いて、掛けものから出ていた尭司の手を、そっと握り、頬ずりする。

「……ん、………や、か………」

 その拍子に寝言が聞こえ、亜夜果は固まる、が。そのまま亜夜果に向かって寝返りを打っだけで、尭司は目覚めない。

 そのまま、尭司の手を握りしめ、亜夜果はベッドにもたれてうとうとし始め。


 気が付くと、窓の外は夕暮れが迫り、亜夜果は慌てて夕食の準備を始めた。
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