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第一章 麗しき転校生
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「そうね。白い薔薇って、意外とあってるかも」
放課後、美術部の活動場所である美術室で、イーゼルや画材の整理をしながら、部員で同級生の三上加奈が言った。
「華やかなんだけど、けばけばしい感じじゃなくて、もっと控え目……って言うのは違うかなー、存在感が有るのに、アクは強くなくて、でも、印象的で……」
適当な言葉が思いつかず、唸っている姿も愛らしい、なかなかの美少女である。
ちょっときつめなところが、一部男子に絶大な人気がある、という噂だが、俊にとっては気の合う友人の一人であることの方が、重要であった。
二年目になってもなかなか打ち解けてくれないクラスメートの中で、加奈だけは最初から気負わず話しかけてきて、すぐに意気投合した。
俊自身は特別他者を拒んでいるつもりはないが、だからと言って、自分から積極的に親しくする気は毛頭ない。
幼い頃から一線を画される対応に慣れているため、特にそのことで、孤独を感じたり悲観したり、ということはなく、むしろ、人間関係が複雑になる方が、煩わしいとさえ感じていた。
相手から俊に近づいてきた場合でも、感情表現が希薄な俊の反応に気が削がれ、気がつけば距離を置き、いつの間にか離れていく。
唯一正彦だけが、飽きずに俊をかまい続け、そのしつこさに最初は辟易しながらも、気を許せる存在になった。
人気者の正彦だが、それは立ち回りが上手いというより、基本的に素直で明るく裏表がない性格の賜物であることを、俊が一番よく知っている。
だからこそ、(たとえ周囲からは険悪な雰囲気に見えたとしても)俊は正彦と毎日口をきき、食事を共にし、タイミングが合えば一緒に出かけることもある。
俊にとって受け入れがたい人間であれば、まず、必要以上の会話はしないし、余暇を共に過ごすようなこともない。
中学までは、それは正彦だけだった。
そんな俊にとって、加奈は二番目に現れた、心を許せる存在であり、俊の世界を広げてくれた、功労者でもある。
それは、高校に入学して、一月余りたった頃、丁度一年前。
「絵、好きなの?」
それが、初めて加奈と交わした会話だった。
芸術の選択科目として、美術を選んだ俊だったが、特別興味があるわけではなかった。
別に、部活動が強制されているわけではなかったので、ぜひどこかに入部する、という気はなかった。
たまたま美術の授業中、美術室の隅に固められた、描きかけのキャンバスに目をやった。
木炭デッサンだった。
そこに描いてある人物に見覚えがあって、つい、マジマジと見てしまった。
そこで、加奈に声をかけられた。
振り向くと、今見ていたデッサンに描かれていた少女が、そこにいた。
「これ、美術部員の作品なの。新入部員は、まずモデルをやるのが、慣例なんだって」
「美術部員なんだ……三上? ……さん?」
まだ、名前と顔が一致せず、名札に目をやりながら、俊は聞いた。
大人っぽい物静かな美人、という評判を、正彦から聞いていた気がする。
「うん。……これ、山口先輩の絵……上手なんだけど、ちょっとオーバーだと思わない? 私、こんなにきつい顔してるかな?」
俊が目を奪われていたデッサン画を示して、加奈は苦笑した。
その絵の中の少女は、その強いまなざしや、引き結んだ口元が、見ようによってはきつい、というより、厳しい表情に見えなくもない。
「でも……とても意志の強い、まっすぐな表情をしていると思う」
目を奪われたのは、少女が持つ表面的な美しさよりも、内面の美しさ。
真摯で、誠実で、強い生命の輝きを、その絵から感じた。
それは、加奈本人にも、もちろん備わっている。
「いい、絵だね。とても」
それは、俊の素直な気持ちだった。
「……高天君。よかったら、一度美術部に来てみない? 今日の放課後も、この教室で活動しているから」
そんな成り行きで、美術部に顔を出すことになったのだが。
この学校で美術部がマイナーであるのは、単に人気がないということだけではなく、変わり者揃い、ということも大きな要因になっていた。
あの絵を描いた、当時二年生で今は部長になっている山口励輩は、絵を誉めた(と加奈が紹介がてら報告した)俊に対して、俊以上につれない眼差しで『ふーん』と答え、キャンバスに向かっていた。
あっけにとられた俊に対して、山口先輩は手を止め、傍らのスケッチブックと鉛筆を俊に押しやった。
「好きなもの、描いてみて、ってことですね?」
加奈が聞くと、無言で頷き、再び自分の作品に取り組む。
スケッチブックを開くと、そこには様々な筆致で描かれた鉛筆スケッチが並んでいた。
サインを見れば、一人のものではなかった。
所々、ページが剥がされた後もあった。
「ゲストブック、みたいなものかな? 自己紹介するより、作品を見た方が早い、って、山口先輩の持論なの」
そのスケッチブックの存在が、山口先輩の美術部内での発言力の強さ(と言っても口を開いてないが)を示していた。美術部に入るには、審査がある、という噂を、俊は思い出した。
入部するかどうかも決めかねていたが、これが噂に聞く入部判定らしいと感じた。
「俺、そんなに上手くないよ?」
「大丈夫。私だってほら、そんなに上手くないよ」
ページをめくって、加奈は自分のスケッチを開いた。
「……優しい絵だね」
筆致は粗いが、穏やかな眼差しの女性の横顔が描かれていた。
優しげな目元や口元はしっかり描かれているが、他はあまり書き込まれておらず、逆に、表情が浮き立っていた。
「これ、モデルは?」
「うーん、直接はいないかな。何となく、筆の赴くまま描いた、って感じ。だから、細部は描きこめなかったの」
とはいえ、俊にとっては、なかなか心ひかれる絵であり、加奈の才能を垣間見た……というのは大げさかもしれないが。
促されるまま加奈に手渡されたデッサン用の鉛筆を握った。周りを見回し、隅に置いてあったイーゼルを描き始めた。
人物よりは描きやすいだろうと思ったが、バランスを取るのが意外に難しく、何だか薄っぺらい絵になってしまった。
何度も線を足していくうちに、ますます不格好になってしまったが、俊は描きこみ続けた。
何となく、木の材質感は出せたかな、という所で、俊は手を止めた。
「なかなか、いい絵を描くな」
背後から声がして振り向くと、俊の絵を覗き込むように立っていた山口先輩と目合った。
なかなか魅力的な落ち着いたバリトンボイスで、感情の起伏が見えにくい無表情さとのギャップがあった。
「デッサン力はまだまだだが、根気がある。それに、意外と情熱があるな、見かけと違って」
「……?」
「熱心に、木の目を見ていたな。物事に真剣に取り組む姿勢は、評価すべきだ。よかろう。入部を許可する」
「……は?」
まだ、見学に来ただけで、入部したいとは一言も言ってない。
話の流れで、スケッチすることになってしまっただけである。
が、山口先輩の言葉に喜色満面になった加奈の前で、はっきりと言いにくかった。
「ここ数日、三上目的の冷やかしばかりでうんざりしていたが、なかなかの逸材だ。……用心棒にもなる」
「あの……」
「入部については、一応、部長がいるから、話を聞くとよい」
言うだけ言って、三再び自分の作品に取り組む山口先輩を、俊は茫然と見つめた。
「……ごめんね。入部は無理しなくていいよ」
『一応』部長であるらしい、女生徒が声をかける。
「加奈ちゃんも強引に勧めちゃダメよ? 困っているじゃない」
決して俊を厭っているわけでなく、純粋に気遣っている様子が伝わってきた。
無表情の山口先輩と関わっているだけあって、同じく無表情の俊の気持ちにも気付いているらしい。今まで初対面で俊の気持ちを読み取る人はいなかったので、その観察眼に驚き、同時に、心が揺れた。
人と関わることは苦手であったはずなのに、すんなり加奈の申し出を受け入れて美術部に顔を出したことも、その端緒であったのかもしれない。
特定の人間と(それも多数の)自発的に同じ時間を過ごす、という行動から遠ざかっていたはずなのに。中学時代も、正彦を介してしか、そんな集団に身を置くことができなかったし、それでも苦痛を感じることが多かったのに。
ここでは、とても楽に息ができる感じがした。
だから。
「……入ります」
「え?」
驚いて、けれど、すぐに柔らかく微笑んだ部長の様子に励まされて、俊は宣言した。
「入部します。美術部に」
そんな経緯で入部してから、もう一年になった。
すでにその当時から、近寄りがたい雰囲気の俊は、周囲の人間に遠巻きにされがちだった。
しかし、山口先輩や部長のように、他の部員も歓迎してくれた。
(当時、山口先輩を入れて七人。内訳は三年生三人、二年生二人、一年生二人である。俊が入部しなかった場合、三年生引退後、生徒会規約による部存続条件の五人を切ってしまい、廃部か同好会に格下げになる恐れがあったのだ。その点でも、俊が入部したことは、皆から大変喜ばれた)
加奈の他にもう一人いる同じ学年に唐沢斎という男子がいた。
粘土をいじっていれば満足、という陶芸オタクで、部活の為だけに学校に来ているような(というか、授業中も美術雑誌を読んでいて、ろくすっぽ聞いていないらしい。なのに成績は良く、学年200人中30番より落ちたことがない)変わり種で、俊を含めて、周囲の様子にあまり関心がない。
一見傍若無人だが、他人の意見に左右されることもないし、良くも悪くも人の噂話に興じることがない。
そういう意味で、俊は斎に対して、好意を持っていた。
それは、美術部全体に言える事であった。
部員達は加奈を含めて、基本的にマイペースに、黙々と自分の作品に取り組んでいたし、手を休めた時にも、程よい距離感を保ちながら、穏やかに過ごすのが常だった。
三年生が引退したあとも、良好な関係は続き。
新部長となった山口先輩やもう一人の三年生である真島美由紀先輩、加奈……そしてまだ十分に人間性を把握してはいないが、今のところ問題なく接することが出来ている(と俊は思っている)一年生の二人が入部し。
それぞれが気儘に活動しているようだか、やるべきことはきちんと行う、緩やかさとまとまりを持った、この部で過ごす時間が、俊には、とても大切だった。
放課後、美術部の活動場所である美術室で、イーゼルや画材の整理をしながら、部員で同級生の三上加奈が言った。
「華やかなんだけど、けばけばしい感じじゃなくて、もっと控え目……って言うのは違うかなー、存在感が有るのに、アクは強くなくて、でも、印象的で……」
適当な言葉が思いつかず、唸っている姿も愛らしい、なかなかの美少女である。
ちょっときつめなところが、一部男子に絶大な人気がある、という噂だが、俊にとっては気の合う友人の一人であることの方が、重要であった。
二年目になってもなかなか打ち解けてくれないクラスメートの中で、加奈だけは最初から気負わず話しかけてきて、すぐに意気投合した。
俊自身は特別他者を拒んでいるつもりはないが、だからと言って、自分から積極的に親しくする気は毛頭ない。
幼い頃から一線を画される対応に慣れているため、特にそのことで、孤独を感じたり悲観したり、ということはなく、むしろ、人間関係が複雑になる方が、煩わしいとさえ感じていた。
相手から俊に近づいてきた場合でも、感情表現が希薄な俊の反応に気が削がれ、気がつけば距離を置き、いつの間にか離れていく。
唯一正彦だけが、飽きずに俊をかまい続け、そのしつこさに最初は辟易しながらも、気を許せる存在になった。
人気者の正彦だが、それは立ち回りが上手いというより、基本的に素直で明るく裏表がない性格の賜物であることを、俊が一番よく知っている。
だからこそ、(たとえ周囲からは険悪な雰囲気に見えたとしても)俊は正彦と毎日口をきき、食事を共にし、タイミングが合えば一緒に出かけることもある。
俊にとって受け入れがたい人間であれば、まず、必要以上の会話はしないし、余暇を共に過ごすようなこともない。
中学までは、それは正彦だけだった。
そんな俊にとって、加奈は二番目に現れた、心を許せる存在であり、俊の世界を広げてくれた、功労者でもある。
それは、高校に入学して、一月余りたった頃、丁度一年前。
「絵、好きなの?」
それが、初めて加奈と交わした会話だった。
芸術の選択科目として、美術を選んだ俊だったが、特別興味があるわけではなかった。
別に、部活動が強制されているわけではなかったので、ぜひどこかに入部する、という気はなかった。
たまたま美術の授業中、美術室の隅に固められた、描きかけのキャンバスに目をやった。
木炭デッサンだった。
そこに描いてある人物に見覚えがあって、つい、マジマジと見てしまった。
そこで、加奈に声をかけられた。
振り向くと、今見ていたデッサンに描かれていた少女が、そこにいた。
「これ、美術部員の作品なの。新入部員は、まずモデルをやるのが、慣例なんだって」
「美術部員なんだ……三上? ……さん?」
まだ、名前と顔が一致せず、名札に目をやりながら、俊は聞いた。
大人っぽい物静かな美人、という評判を、正彦から聞いていた気がする。
「うん。……これ、山口先輩の絵……上手なんだけど、ちょっとオーバーだと思わない? 私、こんなにきつい顔してるかな?」
俊が目を奪われていたデッサン画を示して、加奈は苦笑した。
その絵の中の少女は、その強いまなざしや、引き結んだ口元が、見ようによってはきつい、というより、厳しい表情に見えなくもない。
「でも……とても意志の強い、まっすぐな表情をしていると思う」
目を奪われたのは、少女が持つ表面的な美しさよりも、内面の美しさ。
真摯で、誠実で、強い生命の輝きを、その絵から感じた。
それは、加奈本人にも、もちろん備わっている。
「いい、絵だね。とても」
それは、俊の素直な気持ちだった。
「……高天君。よかったら、一度美術部に来てみない? 今日の放課後も、この教室で活動しているから」
そんな成り行きで、美術部に顔を出すことになったのだが。
この学校で美術部がマイナーであるのは、単に人気がないということだけではなく、変わり者揃い、ということも大きな要因になっていた。
あの絵を描いた、当時二年生で今は部長になっている山口励輩は、絵を誉めた(と加奈が紹介がてら報告した)俊に対して、俊以上につれない眼差しで『ふーん』と答え、キャンバスに向かっていた。
あっけにとられた俊に対して、山口先輩は手を止め、傍らのスケッチブックと鉛筆を俊に押しやった。
「好きなもの、描いてみて、ってことですね?」
加奈が聞くと、無言で頷き、再び自分の作品に取り組む。
スケッチブックを開くと、そこには様々な筆致で描かれた鉛筆スケッチが並んでいた。
サインを見れば、一人のものではなかった。
所々、ページが剥がされた後もあった。
「ゲストブック、みたいなものかな? 自己紹介するより、作品を見た方が早い、って、山口先輩の持論なの」
そのスケッチブックの存在が、山口先輩の美術部内での発言力の強さ(と言っても口を開いてないが)を示していた。美術部に入るには、審査がある、という噂を、俊は思い出した。
入部するかどうかも決めかねていたが、これが噂に聞く入部判定らしいと感じた。
「俺、そんなに上手くないよ?」
「大丈夫。私だってほら、そんなに上手くないよ」
ページをめくって、加奈は自分のスケッチを開いた。
「……優しい絵だね」
筆致は粗いが、穏やかな眼差しの女性の横顔が描かれていた。
優しげな目元や口元はしっかり描かれているが、他はあまり書き込まれておらず、逆に、表情が浮き立っていた。
「これ、モデルは?」
「うーん、直接はいないかな。何となく、筆の赴くまま描いた、って感じ。だから、細部は描きこめなかったの」
とはいえ、俊にとっては、なかなか心ひかれる絵であり、加奈の才能を垣間見た……というのは大げさかもしれないが。
促されるまま加奈に手渡されたデッサン用の鉛筆を握った。周りを見回し、隅に置いてあったイーゼルを描き始めた。
人物よりは描きやすいだろうと思ったが、バランスを取るのが意外に難しく、何だか薄っぺらい絵になってしまった。
何度も線を足していくうちに、ますます不格好になってしまったが、俊は描きこみ続けた。
何となく、木の材質感は出せたかな、という所で、俊は手を止めた。
「なかなか、いい絵を描くな」
背後から声がして振り向くと、俊の絵を覗き込むように立っていた山口先輩と目合った。
なかなか魅力的な落ち着いたバリトンボイスで、感情の起伏が見えにくい無表情さとのギャップがあった。
「デッサン力はまだまだだが、根気がある。それに、意外と情熱があるな、見かけと違って」
「……?」
「熱心に、木の目を見ていたな。物事に真剣に取り組む姿勢は、評価すべきだ。よかろう。入部を許可する」
「……は?」
まだ、見学に来ただけで、入部したいとは一言も言ってない。
話の流れで、スケッチすることになってしまっただけである。
が、山口先輩の言葉に喜色満面になった加奈の前で、はっきりと言いにくかった。
「ここ数日、三上目的の冷やかしばかりでうんざりしていたが、なかなかの逸材だ。……用心棒にもなる」
「あの……」
「入部については、一応、部長がいるから、話を聞くとよい」
言うだけ言って、三再び自分の作品に取り組む山口先輩を、俊は茫然と見つめた。
「……ごめんね。入部は無理しなくていいよ」
『一応』部長であるらしい、女生徒が声をかける。
「加奈ちゃんも強引に勧めちゃダメよ? 困っているじゃない」
決して俊を厭っているわけでなく、純粋に気遣っている様子が伝わってきた。
無表情の山口先輩と関わっているだけあって、同じく無表情の俊の気持ちにも気付いているらしい。今まで初対面で俊の気持ちを読み取る人はいなかったので、その観察眼に驚き、同時に、心が揺れた。
人と関わることは苦手であったはずなのに、すんなり加奈の申し出を受け入れて美術部に顔を出したことも、その端緒であったのかもしれない。
特定の人間と(それも多数の)自発的に同じ時間を過ごす、という行動から遠ざかっていたはずなのに。中学時代も、正彦を介してしか、そんな集団に身を置くことができなかったし、それでも苦痛を感じることが多かったのに。
ここでは、とても楽に息ができる感じがした。
だから。
「……入ります」
「え?」
驚いて、けれど、すぐに柔らかく微笑んだ部長の様子に励まされて、俊は宣言した。
「入部します。美術部に」
そんな経緯で入部してから、もう一年になった。
すでにその当時から、近寄りがたい雰囲気の俊は、周囲の人間に遠巻きにされがちだった。
しかし、山口先輩や部長のように、他の部員も歓迎してくれた。
(当時、山口先輩を入れて七人。内訳は三年生三人、二年生二人、一年生二人である。俊が入部しなかった場合、三年生引退後、生徒会規約による部存続条件の五人を切ってしまい、廃部か同好会に格下げになる恐れがあったのだ。その点でも、俊が入部したことは、皆から大変喜ばれた)
加奈の他にもう一人いる同じ学年に唐沢斎という男子がいた。
粘土をいじっていれば満足、という陶芸オタクで、部活の為だけに学校に来ているような(というか、授業中も美術雑誌を読んでいて、ろくすっぽ聞いていないらしい。なのに成績は良く、学年200人中30番より落ちたことがない)変わり種で、俊を含めて、周囲の様子にあまり関心がない。
一見傍若無人だが、他人の意見に左右されることもないし、良くも悪くも人の噂話に興じることがない。
そういう意味で、俊は斎に対して、好意を持っていた。
それは、美術部全体に言える事であった。
部員達は加奈を含めて、基本的にマイペースに、黙々と自分の作品に取り組んでいたし、手を休めた時にも、程よい距離感を保ちながら、穏やかに過ごすのが常だった。
三年生が引退したあとも、良好な関係は続き。
新部長となった山口先輩やもう一人の三年生である真島美由紀先輩、加奈……そしてまだ十分に人間性を把握してはいないが、今のところ問題なく接することが出来ている(と俊は思っている)一年生の二人が入部し。
それぞれが気儘に活動しているようだか、やるべきことはきちんと行う、緩やかさとまとまりを持った、この部で過ごす時間が、俊には、とても大切だった。
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