心臓

廃墟のアリス

文字の大きさ
上 下
5 / 12
第五章

「願望の失墜」

しおりを挟む
「はぁっ……はぁっ……!」

無我夢中に走る。周りの目なんか気にするな。走れ。
少しでも遠く。あの人達の目が届かないような場所へ…!




どうやって走ったかは覚えてない。気がつくと僕はとある森に立っていた。
知らない森。『あの森』じゃない……。
見覚えのない木。ゴォゴォと鳴り響く風。確かにあの森ではなかった。

なのに、そのときの僕はおかしかったんだろうか。

ここはいつもの森で、君がいる気がしたんだ。

僕は君を探すため、森を彷徨った。




そうしたら、ホントに君がいた。

でもいつもとは違った。いつもなら、僕に気づくと笑って寄ってくる。

でも今日は違った。



君は倒れてた……。

大量の血を流して。


どれだけ君を呼んでも反応は無い。

いつもはこう呼ぶと、顔を赤くして恥しがるのに…

そんな君はもういなかった。

君の心臓は止まっていた。

その時の僕の感情は何なんだろうか…

絶望……?いや、それよりももっと深い……。

体の奥底にぽっかりと穴が空いたようだった。

酷い虚空感……。視界が真っ暗になる。その真実を目の当たりにして、僕は壊れた。

だって信じたくなかった…。

もう君とは話せないの……?

いや、そんなことない……これは悪い夢だ……。


僕は君を置きざりにして走った。

走ったら、夢から醒めるるとおもったから。

でも無理だった。どれだけ走っても、肺がはち切れそうになっても、僕は夢から醒めなかった…。

君との思い出が溢れてくる…。

視界がぼやけてくる…………。君を思い出すだけで涙が止まらないんだ…。

君という光を失った僕はどうすればいい…?




僕は走った。走って走って走り続けた…。

君を忘れるために…。


気がつくと、僕は学校の屋上にいた。


「え……?」


そのとき思い出したんだ。君とのもう一つの約束を…………。





死にたいと嘆いた僕に君はこう言った。

「え…、だ、ダメだよ…!」

「……大丈夫だよ。今のところは死ぬ予定無いけど、まぁ交通事故とかだったらしょうがないけどね…!」

「本当に…?自分で死んだりしない?」

「大丈夫だよ。」

「でも………………、あ!そうだ…!」

「???」

「今から言う事、約束して!」

「え…、う、うん」

「私のために生きて、私のために死んで。そしたら、私もあなたのために生きて、あなたのために死ぬ。だから、お互いのどっちかが死んだら両親死ぬこと。」

「や、約束ね?」

「あはは!うん、約束。」

僕がそう言うと、君は微笑んだ…。




あの時僕は笑った。僕のせいで君が死ぬなら、絶対僕は死なないし、君も絶対死なないと思ってた。

でも、もう君はいないんだ。絶対なんてないってわかってた。そんなの僕が一番知ってる…。

唯一、親族で僕を家族だと思ってくれていた祖父は、僕が小学三年生の時に、急死した。

祖父は、僕が高校生になるまで絶対死なないとよく言っていた。確かに祖父は健康だったし、僕もそれは叶うと思ってた。

そのとき僕に突きつけたのは、『絶対』なんてこの世には存在しないってこと。

あのとき痛いほど痛感したのに、今まで忘れてた…。

ホントに僕って馬鹿だな。僕の願いが叶うわけないのに…。

僕の願いは、ことごとく潰れる。
幼少期からの僕の願いは『両親に愛してもらうこと。』

そして今の願いは…………、、

      『君との約束を必ず守ること。』


しおりを挟む

処理中です...