心臓

廃墟のアリス

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第四章

「想望の刻」

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8月10日。初めて君に会った日。それから僕は、毎日君に会いに行った。

もう何回も来ているけど、未だに道は覚えられてない。

おかしいよね。基本的一回で色んな事を覚えられる僕が、駅から30分くらいしか離れてない場所への道を覚えられないなんて。

でも、適当に歩いてれば絶対に着く。確かにおかしいとは思ってるけど、心底どうでもよかった。ちゃんと君に会えるなら。

森に着いて、少し歩くと必ずそこには君がいる。最初の方は、ただ立っていただけだけど、今は後ろから驚かしてきたりもする。

そんな君との時間が僕の救いだった。生きる意味だった。

君には名前が無いというから、僕は君を『天使さん』と読んだ。

そしたら君は恥ずかしがって「私は天使なんかじゃないよ…!」って言った。

そんな君の反応が、あまりにも可愛らしくて僕は君をもっと好きになった。

他にもたくさん話しをした。

僕が家族や学校の話をすると、君は悲しい目をする。君はいつも一人だ。ここは君と植物以外の生き物がいない。

そんな彼女に外の話をしたら寂しいに決まってる。僕だって、君と同じ状況にいたら、寂しいだろう。

話さなきゃよかったと落ち込んでいる僕を見て、君はこう言った。

「寂しいわけじゃないよ。だって今はあなたがここにいるし、一人はなれてる。私が思ってたのはね、あなたの話を聞いてると胸が痛くなるの。あなたの事を思うと悲しくなったの。」

そう言って君は、寂しいような温かいような、そんな顔で笑った。



僕にとって君は光で、君のためだったら何だってする。そう思った……。
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