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幼少 ―友達を求めて―
第30話 なんちゃって精霊魔法
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そして今に至る。
「さてと、本日はここまでですかな?」
「ん?もう?」
「先ほど午後3時の鐘が鳴りましたぞ、若はまだ小さいですからなぁ。無理は禁物です」
「わかったよ・・・」
実を言うと鐘が鳴ったのは聞こえていた。身体は悲鳴を上げているのにまだ動き足りないと感じてしまうため、悪あがきとして惚《とぼ》けてみたがばれているらしい。ちぇっ
いつの間にか近くにいたハッツェンから飲み物をもらう。
ごくっごくっごくっ、ぷはー!
「うまいっ」
自然と声が出てしまう。
今俺が飲んだものはなんちゃってスポーツドリンクだ。ラモンと呼ばれる酸味がある柑橘系の果物の果汁と蜂蜜、塩を水に溶かしたもので適度に冷えている。美味しくないわけがない。
「それは良かったです。」
ハッツェンがそんな俺を見て微笑んでおり、周りにいた若手の近衛騎士団員が見惚れていた。
ハッツェンはまだあげんぞ。
「ありがとうございました。オルデンまたね」
「お疲れさまでした、若」
挨拶を済ませ、近衛騎士団寮を出る。
体術の授業を受ける前と変わらない日差しの中、行きに通った道を今度はハッツェンと二人で歩く。
ちなみにライドオンはしていない。体力をつけるためだ。なので普段からライドオンする回数は減りつつある。
そのことに対してハッツェンは少し不満があるらしく今もちらちらこちらを見ては頬をぷくっとさせる。
かわいい。
「なに、ハッツェン」
分かっていながらも意地悪をする。
「別に、何でもありません」
「じゃあ何でちらちらと俺を見るのさ」
「知りませんっ」
普段はクールな顔が崩れ年相応になる。
(あ、いじけちゃった。でもかわいい)
11も年下の俺に生暖かい目で見られた彼女はそのことが面白くないらしい。
あからさまにそして強引に話を変える。
「アル様、次の授業なのですが―――」
「あ、逸らした」
「っ―――!意地悪なアルさまは嫌いです・・・」
ぐすっ、と泣く振りをしている。
振りとはわかっていても女の子を泣かせてしまったと後ろめたい気持ちになる。
「い、いや~ハッツェンがかわいくてつい―――」
「知りませんっ」
完全にしょげてしまったハッツェン。
誤魔化しは効かないな。
「ごめんなさい調子に乗り過ぎました」
「・・・」
しかし、へそを曲げたままで答えてくれない。
「ほ、ほんとにごめんてハッツェン」
「・・・」
(弱ったなぁ、引き際を間違えた…絶対あれさせないと機嫌直してくれないよなぁ)
あれとはあれである
「‥‥‥」
未だだんまりのハッツェン、主人に対してあるまじき行為だが気にしない。
ハッツェンも俺が怒らないとわかってやっている。
完全に後手に回った―――。
「は、ハッツェン?ほんとに悪かったって、そんなに怒らないでくれよ」
「‥‥‥」
(ああ、だめだあれを使おう)
俺はあきらめた、ハッツェンの勝ちだ。
「ライドオンするから許してください」
何とも情けない謝罪法である。しかし、効果は絶大だった。
「本当ですか…?なら許します。さあ、こちらへ。この後の予定を伝えたいので」
トテトテと項垂れ近づく俺、それを見て嬉しそうにするハッツェン
(畜生っ、体力作りするって決めてたのに―――!)
「よいしょっ――――アル様、次の予定はですね―――――」
クールな表情に戻ったハッツェンだが声がうれしさで飛び跳ねている。
機嫌は完全に戻ったらしい。
(あぁ、楽ちん。徒歩移動に戻るのは何時なんだろう)
そんな俺の耳にはハッツェンの話の内容がほとんど入ってきていなかった。
◇◇◇
屋敷に戻った俺は魔法の授業の時間になるまでの間母上の膝上に乗りエテェネル語の勉強をしていた。母上は教え方が上手なので勉強していて楽しい。
しかしもたれ掛かりはしない。今、母上のお腹の中には新たな生命が宿っているから。
「母上、これはどういう意味ですか?」
「ん?あぁ、これはね―――――」
耳元で囁いてくる母上の鈴の音のような声が耳元を撫でる。
近くではハッツェンが母上が俺に教えている内容を耳を澄ませて聞いていた。
勉強しているようだ。こういうまじめなところもハッツェンの魅力である
穏やかな時間が経過していき、やがて楽しい時間が終わりを迎える。そろそろ魔法の授業に行かなくてはならない。
「母上、ありがとうございました。そろそろ時間なので行きますね」
「もうそんな時間なのね。行ってらっしゃい。気を付けるのよ」
「はい。お前も元気でな。静かにしていろよ?母上を困らせるなよ」
今度は母上のお腹にいるであろう兄弟に話しかける。
聞こえてないだろうけど、話しかけたくなっちゃうよな。不思議だ。
「元気な方がいいのよ。もっと暴れて頂戴?」
随分と豪傑な母上。
とても幸せそうだ。見ていてなんだか照れ臭くなってしまう。それを隠すように部屋を出た。
魔法の授業に向かうべく廊下を進む。少ししてハッツェンが付いてきていないのに気が付いた。
「ハッツェン?」
後ろを向き声をかける。
視線の先には中腰になり腕を広げ俺を待っているハッツェンが、まだ許されてないらしい。
はぁ、とため息をつき歩み寄る。
―――俺氏、ライドオン
◇◇◇
何をいまさら気味ではあるが孤児院組の前でのライドオン状態は恥ずかしいので玄関で降り、授業会場である屋敷前の芝生に歩いて行く。
「あ、アル様っ!」
元気に手を振ってくるのはピンク色の髪をした美少女ルウだ。
その後ろには他の孤児院組の子たちが俺に手を振ってくれているが、振っていないほうの手で目を擦っていた。昼寝の後だから眠いのだろう。そしてまたその後ろには教師役のブレンとイゾルダ。ブレンはしっかりとこちらにお辞儀している。前と比べると口調が砕けてきているが根っこの部分は変わらない。隣のイゾルダに関しては子供たちと一緒に手を振っていた。
(あ、イゾルダ、ブレンに叩かれた)
ここに俺とハッツェンを加えた合計12人で魔法の授業を行う。
授業と言っても魔法を楽しむのが最優先事項なので「魔法とは――――」みたいな堅苦しいことはしない。
この世界の住人は種族差、個人差はあれど全員が魔力を持っており、魔法が使える者はヒューマンの中でもそう珍しくない。珍しさが低い魔法から順番に並べていくと生活魔法・基本属性魔法・複属性魔法・固有魔法の順と言ったところか。
だからここにいる全員が生活魔法以上の魔法を使えるというのは驚くようなことじゃない。
「それでは始めるぞ」
「「「「「はーい」」」」」
ブレンが始業の合図をかけ、お喋りをしていた子供たちは話をやめて返事をする。
「せんせー、今日は何やるんですかー」
「オレも気になるー!」
ルイーサがいつも通り元気いっぱいに質問しデールもそれに続く。
この二人だけではなく他の子供たちもテンションが高い。
理由は簡単、魔法の授業が化学の実験みたいだからだ。
小学生の時、学校で行った化学の実験は楽しかったと俺は記憶している。
未知との遭遇は人に備わっている知識欲を刺激する。
そして本来未知との遭遇というのは自分の命を賭けることで初めて出会えるものだ。
ハイリスクハイリターンなのである。
にもかかわらず冒険する者は後を絶たない、この世界の冒険者がそれを証明している。
それほどに魅力的な代物だ。
ならば、安全性が確保されている魔法の実験は楽しさに溢れているに決まっている。ローリスクハイリターンなのだ、やり方さえ間違わなければ万が一の場合は起こらない。
かくいう俺も少しワクワクしている。
一応ブレンたちは安全性をしっかりと父上に伝え、確認をもらったうえで授業を行っているので父上に聞けば知れるのだがそれはやっていない。
何が出てくるかわかりきっている宝箱はつまらないだろ?そういうことだ。
屋敷の中に魔法の本はあるのだが、誤った解釈をしないようにと父上に読むのを禁止されているのでそのこともワクワクを助長させる要因となっている。
(我慢できずにブレンやイゾルダにちょこちょこ教わっているけどね)
ちなみに前回の実験は「水魔法の水を飲むとどうなるのか」だった。
結果は興味深いもので、飲んだ直後は渇きを潤せたものの飲む前以上の渇きがすぐ後に襲ってきた。
水魔法は時間経過によって魔力へと戻ってしまう。
そのせいで一度飲んだ水が魔力に戻り、しかも潤った直後だったので同じ渇きがさらなる渇きを錯覚させたのだという。
地球では到底体験することのできなかった感覚を味わえたのだ。
(今回もそうに違いない)
そう期待していると、ブレンがついに口を開く。ちょっとドヤっている。
自信があるのだろう。
「今日はなんちゃって精霊魔法を使おう!」
声高らかに宣言する。偉大な功績を発表するかのようだ。
「「「「「おお!」」」」」
子供たちから声が上がる。その声の中には俺の声も含まれていた。
(なんちゃって精霊魔法だとっ!これは予想以上だ)
こう思ってしまうのは無理ない。
精霊魔法とは固有魔法の一つに数えられており見える者にしか見えない存在、精霊と契約した者のみが扱うことのできる特別な魔法だ。
しかし、固有魔法の一つであると言っても使用者は極少数だが複数おり、それも種族を問わず発現する。
どこが固有《オリジナル》だと言いたくもなるがそれは置いといて…。
そんな精霊魔法を疑似的にではあるが使えるのだという。そりゃ驚くしはしゃぎもする。
子供たちが疑似精霊魔法を使える嬉しさでひとしきり騒いでいる間ブレンとイゾルダは実験の用意をしていたが、それもすぐに終わったようで手をパンパンと叩き子供たちを静まらせた。
幼稚園の先生みたいだ。
「嬉しいのはわかるが、あまりはしゃぎ過ぎないように。生活魔法の実験とはいえ今回は火を使うんだ。落ち着きのないものはやらせないぞ」
「ブレンの言う通りですよ~、本当にやらせませんからね」
ブレンとイゾルダが注意をする。
折角の機会をふいにするほど馬鹿ではない。子供たちは途端に行儀良くなりブレンとイゾルダを目を輝かせて見つめている。現金な奴らだ。
「先生、精霊魔法とはどのような特徴があるのですか?」
話を進めるために質問したのは子供たちの中では比較的落ち着いていたラヨス。
そんな彼も内心ではドキドキしているのだろう。頬に熱を帯びている。
「よし、まずはそこから説明していこうか。―――精霊魔法は各属性に普通の属性魔法にない特徴があるんだ。水属性魔法は時間経過で消えない水を、風属性魔法は癒しを与える風を、土属性魔法は豊穣の土を、と―――こんな風にな。ちなみに無属性は存在しない。また光属性と闇属性を持つ精霊は最上位精霊である精霊王だけだと言われていて、契約出来る者がいないため謎に包まれている」
ブレンがここで言葉を意図的に切る。質問タイムだろうか。
まあ質問する内容は一つしかないが。
「先生、火属性魔法は?」
当然の質問を真面目な委員長系女子のメリアが質問する。
「いい質問をありがとうメリア。もちろん忘れたわけじゃないぞ。今日みんなが使うなんちゃって精霊魔法は火属性だからな」
予想通りの質問にブレンが少し安心しながら答える。
不安なら最初から自分で言っちゃえばいいのにと思うがブレンなりにどうやって授業を面白くしようかと考えたのだろう。
教師が一人でずっとしゃべる授業ほどつまらないものはない。その話の内容がとても面白かったり、ためになるのであれば別だがそれを出来る人間はそういない。
ブレンは自分がそういう類の人間ではないとわかっているから、生徒に問いかける形式にしたのではないだろうか。こういう心掛けをできるのが真面目なブレンのいいところだ。
イゾルダを中心に授業をやらなくてよかった。
彼女がダメだと言っているわけではない。人には向き不向きがあるってことだ。
「せんせい、ひぞくせいのとくちょうは?」
俺がブレンをひっそりと褒め称えている間に普段は恥ずかしがってあまり発言しない
ルーリーが珍しく質問をする。純粋な興味からだろう。
質問を受けたブレンは嬉しそうに答える。
「それはだなっ!「(びくっ)」―――ああすまないルーリー、びっくりさせてしまったな。――――火属性の特徴はだな・・・火の色が変わることなんだよ。さてまた質問だ。それは何色だろうか」
みんながまたう~んと悩み始める。
火は色鮮やかに変わる、温度によって赤、白、青の順番に燃える物質によっても変わる、それこそ紫や緑などの本来の火とは無関係の色にまで。
(うーん、絞り込めないなぁ)
予想をつけることに難航していると「青ですか?」と孤児院組トップの秀才であるラヨスが尋ねた。
「どうしてそう思ったんだ?」
尋ねられたブレンは肯定も否定もせずに根拠を問う
「火というのは本来温かみのある色をしています。メリアやデールのような髪の色みたいに。しかし、それと似たような色であるのならばグレン先生はわざわざ問を出さない。なので、精霊魔法の火はそれと似ても似つかない対極の色―――冷たい感じの色ではないかと思いまして」
なるほど、優等生らしい答えだな。
しかし、答えは青色じゃない。
理由はみんなの見つめる先にいるブレンの顔が強張っているから。
そういうことは全く考えていなかったようだ。顔に出すなよな・・・
ってことは本来の火と同系色なのかもしれない。実験道具を遠目に見る。
銀色のトレーの中身はここからでは目視できないがひと際目立つものがその横に置かれていた。
(酒瓶だよな?)
普段とは違う色の火を起こす実験、その色は普通の火と同系色、酒を使う―――あれを使った実験かな?
「ブレン、黄色?」
「え、あっ、そうです。よくわかりましたね」
俺は自分の考えがあっているかを確認するために聞く
声をかけられてラヨスの言葉のパンチから復帰したブレンが答えた
そして俺は項垂れる。
何故かって?
未知との遭遇だと思っていたことが既知との再会になったからだよ…。
なんちゃって精霊魔法が炎色反応のことだったなんて…。
酒はエタノールの代わりだ、そんでもってトレーの中には脱脂綿みたいなやつと塩が入ってると思う。
手順は簡単。
酒を吸わせた脱脂綿に(ナトリウムを含んでいる)塩をふりかけ生活魔法で火をつける。たったこれだけ。
そしたら黄色く光る疑似精霊魔法こと、炎色反応を起こして黄色くなった火の完成だ。
問題はお酒がエタノールの代わりになるのかというところだが、高校でやった時のようには綺麗に燃えないだけで、ちゃんと変化はするだろう。
俺の周りでは子供たちが「どうしてわかったの?」とか「すごいアルさま!」と言ってくれている。
そんな子供たちも実験が始まるや否やブレンとイゾルダに群がり楽しそうにそれを見ていた。
そして俺は少し離れたところでそれを見ている。
―――あーきれいだなー
「さてと、本日はここまでですかな?」
「ん?もう?」
「先ほど午後3時の鐘が鳴りましたぞ、若はまだ小さいですからなぁ。無理は禁物です」
「わかったよ・・・」
実を言うと鐘が鳴ったのは聞こえていた。身体は悲鳴を上げているのにまだ動き足りないと感じてしまうため、悪あがきとして惚《とぼ》けてみたがばれているらしい。ちぇっ
いつの間にか近くにいたハッツェンから飲み物をもらう。
ごくっごくっごくっ、ぷはー!
「うまいっ」
自然と声が出てしまう。
今俺が飲んだものはなんちゃってスポーツドリンクだ。ラモンと呼ばれる酸味がある柑橘系の果物の果汁と蜂蜜、塩を水に溶かしたもので適度に冷えている。美味しくないわけがない。
「それは良かったです。」
ハッツェンがそんな俺を見て微笑んでおり、周りにいた若手の近衛騎士団員が見惚れていた。
ハッツェンはまだあげんぞ。
「ありがとうございました。オルデンまたね」
「お疲れさまでした、若」
挨拶を済ませ、近衛騎士団寮を出る。
体術の授業を受ける前と変わらない日差しの中、行きに通った道を今度はハッツェンと二人で歩く。
ちなみにライドオンはしていない。体力をつけるためだ。なので普段からライドオンする回数は減りつつある。
そのことに対してハッツェンは少し不満があるらしく今もちらちらこちらを見ては頬をぷくっとさせる。
かわいい。
「なに、ハッツェン」
分かっていながらも意地悪をする。
「別に、何でもありません」
「じゃあ何でちらちらと俺を見るのさ」
「知りませんっ」
普段はクールな顔が崩れ年相応になる。
(あ、いじけちゃった。でもかわいい)
11も年下の俺に生暖かい目で見られた彼女はそのことが面白くないらしい。
あからさまにそして強引に話を変える。
「アル様、次の授業なのですが―――」
「あ、逸らした」
「っ―――!意地悪なアルさまは嫌いです・・・」
ぐすっ、と泣く振りをしている。
振りとはわかっていても女の子を泣かせてしまったと後ろめたい気持ちになる。
「い、いや~ハッツェンがかわいくてつい―――」
「知りませんっ」
完全にしょげてしまったハッツェン。
誤魔化しは効かないな。
「ごめんなさい調子に乗り過ぎました」
「・・・」
しかし、へそを曲げたままで答えてくれない。
「ほ、ほんとにごめんてハッツェン」
「・・・」
(弱ったなぁ、引き際を間違えた…絶対あれさせないと機嫌直してくれないよなぁ)
あれとはあれである
「‥‥‥」
未だだんまりのハッツェン、主人に対してあるまじき行為だが気にしない。
ハッツェンも俺が怒らないとわかってやっている。
完全に後手に回った―――。
「は、ハッツェン?ほんとに悪かったって、そんなに怒らないでくれよ」
「‥‥‥」
(ああ、だめだあれを使おう)
俺はあきらめた、ハッツェンの勝ちだ。
「ライドオンするから許してください」
何とも情けない謝罪法である。しかし、効果は絶大だった。
「本当ですか…?なら許します。さあ、こちらへ。この後の予定を伝えたいので」
トテトテと項垂れ近づく俺、それを見て嬉しそうにするハッツェン
(畜生っ、体力作りするって決めてたのに―――!)
「よいしょっ――――アル様、次の予定はですね―――――」
クールな表情に戻ったハッツェンだが声がうれしさで飛び跳ねている。
機嫌は完全に戻ったらしい。
(あぁ、楽ちん。徒歩移動に戻るのは何時なんだろう)
そんな俺の耳にはハッツェンの話の内容がほとんど入ってきていなかった。
◇◇◇
屋敷に戻った俺は魔法の授業の時間になるまでの間母上の膝上に乗りエテェネル語の勉強をしていた。母上は教え方が上手なので勉強していて楽しい。
しかしもたれ掛かりはしない。今、母上のお腹の中には新たな生命が宿っているから。
「母上、これはどういう意味ですか?」
「ん?あぁ、これはね―――――」
耳元で囁いてくる母上の鈴の音のような声が耳元を撫でる。
近くではハッツェンが母上が俺に教えている内容を耳を澄ませて聞いていた。
勉強しているようだ。こういうまじめなところもハッツェンの魅力である
穏やかな時間が経過していき、やがて楽しい時間が終わりを迎える。そろそろ魔法の授業に行かなくてはならない。
「母上、ありがとうございました。そろそろ時間なので行きますね」
「もうそんな時間なのね。行ってらっしゃい。気を付けるのよ」
「はい。お前も元気でな。静かにしていろよ?母上を困らせるなよ」
今度は母上のお腹にいるであろう兄弟に話しかける。
聞こえてないだろうけど、話しかけたくなっちゃうよな。不思議だ。
「元気な方がいいのよ。もっと暴れて頂戴?」
随分と豪傑な母上。
とても幸せそうだ。見ていてなんだか照れ臭くなってしまう。それを隠すように部屋を出た。
魔法の授業に向かうべく廊下を進む。少ししてハッツェンが付いてきていないのに気が付いた。
「ハッツェン?」
後ろを向き声をかける。
視線の先には中腰になり腕を広げ俺を待っているハッツェンが、まだ許されてないらしい。
はぁ、とため息をつき歩み寄る。
―――俺氏、ライドオン
◇◇◇
何をいまさら気味ではあるが孤児院組の前でのライドオン状態は恥ずかしいので玄関で降り、授業会場である屋敷前の芝生に歩いて行く。
「あ、アル様っ!」
元気に手を振ってくるのはピンク色の髪をした美少女ルウだ。
その後ろには他の孤児院組の子たちが俺に手を振ってくれているが、振っていないほうの手で目を擦っていた。昼寝の後だから眠いのだろう。そしてまたその後ろには教師役のブレンとイゾルダ。ブレンはしっかりとこちらにお辞儀している。前と比べると口調が砕けてきているが根っこの部分は変わらない。隣のイゾルダに関しては子供たちと一緒に手を振っていた。
(あ、イゾルダ、ブレンに叩かれた)
ここに俺とハッツェンを加えた合計12人で魔法の授業を行う。
授業と言っても魔法を楽しむのが最優先事項なので「魔法とは――――」みたいな堅苦しいことはしない。
この世界の住人は種族差、個人差はあれど全員が魔力を持っており、魔法が使える者はヒューマンの中でもそう珍しくない。珍しさが低い魔法から順番に並べていくと生活魔法・基本属性魔法・複属性魔法・固有魔法の順と言ったところか。
だからここにいる全員が生活魔法以上の魔法を使えるというのは驚くようなことじゃない。
「それでは始めるぞ」
「「「「「はーい」」」」」
ブレンが始業の合図をかけ、お喋りをしていた子供たちは話をやめて返事をする。
「せんせー、今日は何やるんですかー」
「オレも気になるー!」
ルイーサがいつも通り元気いっぱいに質問しデールもそれに続く。
この二人だけではなく他の子供たちもテンションが高い。
理由は簡単、魔法の授業が化学の実験みたいだからだ。
小学生の時、学校で行った化学の実験は楽しかったと俺は記憶している。
未知との遭遇は人に備わっている知識欲を刺激する。
そして本来未知との遭遇というのは自分の命を賭けることで初めて出会えるものだ。
ハイリスクハイリターンなのである。
にもかかわらず冒険する者は後を絶たない、この世界の冒険者がそれを証明している。
それほどに魅力的な代物だ。
ならば、安全性が確保されている魔法の実験は楽しさに溢れているに決まっている。ローリスクハイリターンなのだ、やり方さえ間違わなければ万が一の場合は起こらない。
かくいう俺も少しワクワクしている。
一応ブレンたちは安全性をしっかりと父上に伝え、確認をもらったうえで授業を行っているので父上に聞けば知れるのだがそれはやっていない。
何が出てくるかわかりきっている宝箱はつまらないだろ?そういうことだ。
屋敷の中に魔法の本はあるのだが、誤った解釈をしないようにと父上に読むのを禁止されているのでそのこともワクワクを助長させる要因となっている。
(我慢できずにブレンやイゾルダにちょこちょこ教わっているけどね)
ちなみに前回の実験は「水魔法の水を飲むとどうなるのか」だった。
結果は興味深いもので、飲んだ直後は渇きを潤せたものの飲む前以上の渇きがすぐ後に襲ってきた。
水魔法は時間経過によって魔力へと戻ってしまう。
そのせいで一度飲んだ水が魔力に戻り、しかも潤った直後だったので同じ渇きがさらなる渇きを錯覚させたのだという。
地球では到底体験することのできなかった感覚を味わえたのだ。
(今回もそうに違いない)
そう期待していると、ブレンがついに口を開く。ちょっとドヤっている。
自信があるのだろう。
「今日はなんちゃって精霊魔法を使おう!」
声高らかに宣言する。偉大な功績を発表するかのようだ。
「「「「「おお!」」」」」
子供たちから声が上がる。その声の中には俺の声も含まれていた。
(なんちゃって精霊魔法だとっ!これは予想以上だ)
こう思ってしまうのは無理ない。
精霊魔法とは固有魔法の一つに数えられており見える者にしか見えない存在、精霊と契約した者のみが扱うことのできる特別な魔法だ。
しかし、固有魔法の一つであると言っても使用者は極少数だが複数おり、それも種族を問わず発現する。
どこが固有《オリジナル》だと言いたくもなるがそれは置いといて…。
そんな精霊魔法を疑似的にではあるが使えるのだという。そりゃ驚くしはしゃぎもする。
子供たちが疑似精霊魔法を使える嬉しさでひとしきり騒いでいる間ブレンとイゾルダは実験の用意をしていたが、それもすぐに終わったようで手をパンパンと叩き子供たちを静まらせた。
幼稚園の先生みたいだ。
「嬉しいのはわかるが、あまりはしゃぎ過ぎないように。生活魔法の実験とはいえ今回は火を使うんだ。落ち着きのないものはやらせないぞ」
「ブレンの言う通りですよ~、本当にやらせませんからね」
ブレンとイゾルダが注意をする。
折角の機会をふいにするほど馬鹿ではない。子供たちは途端に行儀良くなりブレンとイゾルダを目を輝かせて見つめている。現金な奴らだ。
「先生、精霊魔法とはどのような特徴があるのですか?」
話を進めるために質問したのは子供たちの中では比較的落ち着いていたラヨス。
そんな彼も内心ではドキドキしているのだろう。頬に熱を帯びている。
「よし、まずはそこから説明していこうか。―――精霊魔法は各属性に普通の属性魔法にない特徴があるんだ。水属性魔法は時間経過で消えない水を、風属性魔法は癒しを与える風を、土属性魔法は豊穣の土を、と―――こんな風にな。ちなみに無属性は存在しない。また光属性と闇属性を持つ精霊は最上位精霊である精霊王だけだと言われていて、契約出来る者がいないため謎に包まれている」
ブレンがここで言葉を意図的に切る。質問タイムだろうか。
まあ質問する内容は一つしかないが。
「先生、火属性魔法は?」
当然の質問を真面目な委員長系女子のメリアが質問する。
「いい質問をありがとうメリア。もちろん忘れたわけじゃないぞ。今日みんなが使うなんちゃって精霊魔法は火属性だからな」
予想通りの質問にブレンが少し安心しながら答える。
不安なら最初から自分で言っちゃえばいいのにと思うがブレンなりにどうやって授業を面白くしようかと考えたのだろう。
教師が一人でずっとしゃべる授業ほどつまらないものはない。その話の内容がとても面白かったり、ためになるのであれば別だがそれを出来る人間はそういない。
ブレンは自分がそういう類の人間ではないとわかっているから、生徒に問いかける形式にしたのではないだろうか。こういう心掛けをできるのが真面目なブレンのいいところだ。
イゾルダを中心に授業をやらなくてよかった。
彼女がダメだと言っているわけではない。人には向き不向きがあるってことだ。
「せんせい、ひぞくせいのとくちょうは?」
俺がブレンをひっそりと褒め称えている間に普段は恥ずかしがってあまり発言しない
ルーリーが珍しく質問をする。純粋な興味からだろう。
質問を受けたブレンは嬉しそうに答える。
「それはだなっ!「(びくっ)」―――ああすまないルーリー、びっくりさせてしまったな。――――火属性の特徴はだな・・・火の色が変わることなんだよ。さてまた質問だ。それは何色だろうか」
みんながまたう~んと悩み始める。
火は色鮮やかに変わる、温度によって赤、白、青の順番に燃える物質によっても変わる、それこそ紫や緑などの本来の火とは無関係の色にまで。
(うーん、絞り込めないなぁ)
予想をつけることに難航していると「青ですか?」と孤児院組トップの秀才であるラヨスが尋ねた。
「どうしてそう思ったんだ?」
尋ねられたブレンは肯定も否定もせずに根拠を問う
「火というのは本来温かみのある色をしています。メリアやデールのような髪の色みたいに。しかし、それと似たような色であるのならばグレン先生はわざわざ問を出さない。なので、精霊魔法の火はそれと似ても似つかない対極の色―――冷たい感じの色ではないかと思いまして」
なるほど、優等生らしい答えだな。
しかし、答えは青色じゃない。
理由はみんなの見つめる先にいるブレンの顔が強張っているから。
そういうことは全く考えていなかったようだ。顔に出すなよな・・・
ってことは本来の火と同系色なのかもしれない。実験道具を遠目に見る。
銀色のトレーの中身はここからでは目視できないがひと際目立つものがその横に置かれていた。
(酒瓶だよな?)
普段とは違う色の火を起こす実験、その色は普通の火と同系色、酒を使う―――あれを使った実験かな?
「ブレン、黄色?」
「え、あっ、そうです。よくわかりましたね」
俺は自分の考えがあっているかを確認するために聞く
声をかけられてラヨスの言葉のパンチから復帰したブレンが答えた
そして俺は項垂れる。
何故かって?
未知との遭遇だと思っていたことが既知との再会になったからだよ…。
なんちゃって精霊魔法が炎色反応のことだったなんて…。
酒はエタノールの代わりだ、そんでもってトレーの中には脱脂綿みたいなやつと塩が入ってると思う。
手順は簡単。
酒を吸わせた脱脂綿に(ナトリウムを含んでいる)塩をふりかけ生活魔法で火をつける。たったこれだけ。
そしたら黄色く光る疑似精霊魔法こと、炎色反応を起こして黄色くなった火の完成だ。
問題はお酒がエタノールの代わりになるのかというところだが、高校でやった時のようには綺麗に燃えないだけで、ちゃんと変化はするだろう。
俺の周りでは子供たちが「どうしてわかったの?」とか「すごいアルさま!」と言ってくれている。
そんな子供たちも実験が始まるや否やブレンとイゾルダに群がり楽しそうにそれを見ていた。
そして俺は少し離れたところでそれを見ている。
―――あーきれいだなー
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