とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~

海堂金太郎

文字の大きさ
39 / 76
幼少 ―初めての王都―

第39話 ぷりぷり

しおりを挟む
 国王陛下との私的な対面は夕方になるとのことなので、暇な時間が出来てしまった

 今は大体午後3時ごろ、一度屋敷に帰るには短いし何もせずに待つにはちと長い。
 父上にはハッツェン達と一緒なら自由に王宮をふらついてきていいと言われのでまずはハッツェン、マリエルと合流する。

「アル様、大丈夫ですか!?」
 俺を見るなり、ハッツェンが駆け寄ってペタペタと触ってくる。もっと触っておくれ

「若様、お顔が真っ青ですね」
「マリエル、気遣っておくれ。それは気遣いの言葉ではなく感想だよ」
「アル様お着替えをしましょう。全身汗だくです、このままでは風邪をひかれてしまいます」

 おお~、ハッツェンのやさしさが身に染みる。極限状態だったもんでいつも以上にだ。

「マリエル、これだよ気遣いというのは。」
「ご教授感謝致します。」

 心にもないことを言うマリエル。
 ただそんなマリエルと話すことでいつもの調子を取り戻してきた。

 不意にぎゅっと抱きしめられる。

「ハッツェン?汗で汚れちゃうよ」
「何で私とは話してくれないのですかアル様、私も話したいです……」
(おっふ、なんだこのかわいい生き物は)

 可愛すぎる、愛おしさまで込み上げてきそうだが、放置はダメなので彼女にも話しかける。

「ごめんよハッツェン。そんなつもりはなかったんだ。玉座の間での出来事を話したいから早く着替えたいな?お願いできる?」
「はい!」

(マリエル、これだよこれ)

 目線でマリエルに訴えかける。しかし当の本人は微笑んでいるだけだ。

 ちぇっ

 二人が待機していた場所に俺の服やらなんやらがあるらしい。
 今すぐライドオンしたい気分だが、流石にそれはまずいので自力で何とか歩きやっとの思いで着いた。

 2人に着替えさせてもらい30分ほど休憩してから王宮散策へ繰り出す。
 余裕を持って戻りたいので午後5時には撤収したい。が、それを考えても1時間以上ある。
 さあどうしよう。

「二人ともどっか行きたいとこある?」
 思考放棄して二人の美少女に放り投げた、まずハッツェンを見る。

「私は特にありませんね、来たことありませんし」

 そりゃそうか、俺と同じでお上りさんだ。こういうのは都会っ子に任せよう
 てなわけでマリエル都会っ子に視線を向ける。

「私は何度か来たことがあるので案内くらいはできますよ」
「お、じゃあお願いしようかな」
「お任せください―――ただご褒美が欲しいなぁ、なんて」

 なんだって?

「マリエル、アル様に対して不敬ですよ」

 そうだそうだ~

「あら、別にいいじゃない。あなたも頼めば?」
「え?私もですか、ん~」

 なんだかんだマリエルにうまく丸め込まれてしまうハッツェン、頑張れよハッツェン

(慣れたのかマリエルの本性が出てきた気がするな~)

 マリエルはおっとりお姉さんの外見に似合わず結構ぐいぐい来るようだ。
 美人で巨乳でおっとりなお姉さん系、全然嫌じゃない。むしろぐいぐい―――

「アル様?私にもお役目をください、ご褒美が「来てほしい」――へ?」

 あ、口滑った

「何が来てほしいのですか?アル様。私今すごく嫌な気持ちになりました。何故でしょう」

 出てしまったものを引っ込めることはできない。
 しかし、それがじゃんけんでないのなら後の行動でいかようにも挽回することが出来る。それが人生ってもんだぜ―――

「ナンデダロウネ、まりえるイコウカ。」
「畏まりました若様」

 ―――俺は逃げることを選択しました…。


◇◇◇


「若様、あちらに見えるのが法務省に続く通路です。」
「へー。」
 バスガイドさんのように手を使って説明するマリエルに棒読みで返事をする俺氏。

 ―――1時間ほど前に人生の挽回に失敗した俺は今、頬をぷりぷりさせているハッツェンと共にマリエルの案内を受けている。
 案内と言っても工場見学のように現場の近くまで行きこれはこうでこうするためにあるのだとかいう細かい説明はない。
 王宮内をうろつき「あれは中庭です。あの花は―――」とか「あれは食堂です。用途は―――」とざっくり説明されるくらい。整えられた花壇に踏み入ってまでして花を触りたいとは思わないし、ここで食事をとろうとも思わないのでスムーズに進んでいく。 

 そして今、ぷりぷりハッツェンを横に法務省へと続く道を遠いところから見ていた。
 そう、近くではない、遠いところからだ。そして法務省の建物自体でもない。
 ちなみに一つ前は財務省の建物の屋根の一部を遠目から見ていた。

(つまらん・・・。)
 そう思わざるを得ない。ぷりぷりハッツェンもどこかつまらなそうにしている。顔芸が器用だな、いつまでぷりぷりしているのだろうか。

 もちろん悪いのはマリエルではない。
 強いて言うのであれば王宮探索を心のどこかで楽しみにしていた俺が悪い。ハードルを上げていたのだ。

 アイゼンベルク城の王宮はとにかく広い。同じ建物内でもある地点からある地点に移動するのに数時間かかりそうだ。
 そして、そのだだっ広い王宮を好き勝手に歩けるのは国王陛下ただ一人。下位貴族は勿論のこと、上位貴族の中でも身分が高いうちの父上でさえ行くことのできない場所は多く存在する。
 なので御曹司一人と侍女二人の集団でしかない俺たちが行動できる範囲は限りなく狭い。

 そのような厳しい条件下にあってもマリエルは俺を楽しませようと重要な建物の一部だけでも見えるところに連れて行ってくれたりしていた。彼女の努力がなければ食堂とかの基本的な施設を見た後、とっとと部屋に戻っていたことだろう。

 また当たり前のことだが、許可なく禁止エリアに入ろうとすると衛兵がすっ飛んでくる。
 RPGをプレイしたことのある人間ならば誰もが経験する『ストーリーが進まなければ入れない場所に何度も突進し、その度「ここから先はお通しすることが出来ません」と衛兵なんかに出戻りを要求される』なんて過程は踏まない。
「許可なく入ろうとする怪しい奴め、拘束してやる!」で終わりだ。疑いが晴れるまで開放してもらえない。
 そうなれば国王陛下との待ち合わせに間に合わなくなってしまう。そうじゃなくてもやんないけどね・・・。

「申し訳ありません若様。」
 つまらなそうにしていた俺に彼女が謝ってくる。

「いや、マリエルは悪くないよ。悪いのは王宮に期待し過ぎていた俺さ。
 でも、マリエルのおかげで王宮内の雰囲気とか何が何処にあるとかの大まかな場所を知れたから助かったよ。ありがとうマリエル。」

 最後の感謝の言葉は彼女を慰めるためのものではなくて本心だ。
 俺とハッツェンだけだったら何もできずに時間が過ぎるか、変なところに入っちゃってしょっ引かれるかの二択だったはずだ。

「そう仰っていただけると助かります。―――ご褒美はありますか?」
(げ、覚えてたのかよ。)
 お礼なんか言わなきゃよかったと思いつつも助かったのは本当なので頷いておく。
「・・・うん。」
「楽しみにしていますね、若様。」
 マリエルは大人っぽい微笑みを浮かべている。

 そして、こんな話をすれば横にいるぷりぷりが反応してくるのは当然のことで・・・

「アル様、私にご褒美はないのですか?」

 少し期待した目で横にいたハッツェンが聞いてきた。
(いや、君何もしていないでしょう・・・。)
 そう、彼女はただついてきてぷりぷりしていただけ。あっちでぷりぷり、こっちでぷりぷり。最近クール崩れてきてない?
 しかし、頷かないとぷりぷりモードが解除されない。可愛いから放置してもいいのだが、そろそろ解除しないと彼女の頬の肉が伸びたままになってしまいそうだ。万が一にでも可愛いハッツェンの顔が変わってしまうと嫌なので、頷いてしまう。

「わ、わかったよハッツェン・・・。」
「ありがとうございます♪」
 ハッツェンがぷりぷりモードを解除して嬉しそうに微笑む。魅力的な笑みだ。

(まあいっか、二人に何あげようかなぁ・・・。)
 悩みながらも心のどこかでこの状況を楽しんでいると―――


「そこのお嬢さん方、僕とお茶でもしませんか?」
 人好きしそうな笑みを浮かべた青年がハッツェンとマリエルに話しかけてくるのが見えた。


 ―――なんだお前?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...