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幼少 ―初めての王都―
第40話 エデル
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軟派な青年は制服のようなものを着ていた。王立高等学園のものか?詳しいことは何もわからないが王宮に一人で入ってきている以上身分が高いのは間違いない。
容姿は金髪紫眼に整った顔。典型的な貴公子と言ってもいい見た目をしていた。
ただ、彼女たちに色目を向けるのはいただけない。
今もなおハッツェンとマリエルに話しかけている青年を俺は精一杯睨みつけるが奴は気にするそぶりを見せない。目も少しだが合ったのに、だ。
単純に気付いていないだけなのか、それとも意図的に無視しているのか、はたまたイケメンの余裕なのか…。
「申し訳ございません、職務中でございますので。」
そのイケメンに話しかけられたマリエルはというと慣れているのか無表情だった。動揺しているそぶりはない。ただ、先ほどまで俺に向けていた笑みと比べると冷めているようにも見える。
彼女は王都別邸務めなので青年が身に着けている服の意味が分かるのだろう。腰を折ってしっかりと礼しながらもそれ以上は喋らない。他家の貴族に誘われたときのマニュアル通りの返答だ。
青年もそれは分かっているので少し工夫を入れてマリエルたちを崩そうとする。
「職務中?楽しそうにしていたから気づかなかったよ……。なら、仕事が終わった後でいいから待ち合わせしようよ。食事でもどうだい?こう見えても僕お金持ってるからさ、驕るよ。お金のことなら心配しないで。」
「……」
職務中だったのは事実だが、楽しそうにしていたのもこれまた事実。マリエルは言葉に詰まる。
「―――申し訳ございません、職務中でございますので。」
そこにハッツェンがフォローのためもう一度同じ言葉を言った。彼女も話しかけられていたのでこの返答の仕方で何も問題はない。
ただ、一番楽しそうにぷりぷりしていたのは何を隠そうこのハッツェンである。
彼女は「何のことやら」と完璧な無表情を貫いているが、助けられたマリエルは複雑な顔をしていた。だって青年《こいつ》に目をつけられた原因はハッツェンにあると思うもの。それを放置していたのは俺だが……。
(二人とも断りの態度を見せたしそろそろか)
場を収めるため、完全に蚊帳の外に置かれていた俺自ら入っていく。こうでもしないと奴は俺を相手にしない。
「女性を誘うなら、どこのだれか名乗ってみたらどうですか?」
相手の身分が分からないので丁寧な口調で、それでいて無視されないよう少し挑発の色を付けた発言をする。
青年は謁見の間にはいなかったから王族でないのは確かだ。もし王族だったら土下座しよう。
声を掛けられた青年は「いたの?」と少し驚いたような顔をしている。おそらく演技だろう。その証拠に小馬鹿にしたような口調が返ってきた。
「それもそうだね失念していたよ。―――初めましてお嬢さん方、僕はエミリオ・インガル・リミタ=グレンツというんだ。学園の用事が終わって帰る途中に楽しそうなあなたたちを見かけてね。ぜひ食事でも、と声を掛けたんだよ。」
今のは俺への言葉ではない、ハッツェンとマリエルへの言葉だ。そして思い出したように俺へと視線を向ける。
初めて目を合わせてきた。
「・・・あぁそうだ、ところで君は誰なんだい?陰に隠れていて見えなかったよ。彼女たちの関係者かい?―――言え、貴様の名前を・・・。僕を誰だと思っている。」
今までへらへらしていたのが最後の言葉で一変し、貴族独特の威圧感を醸し出し始た。
一方、威圧を掛けられた俺はというと冷静に頭を働かせることが出来ていた。2時間ほど前に国王陛下《黒狼》の圧を至近距離で浴びてきたのだ、エミリオ君には悪いがチワワがキャンキャン吠えて威嚇しているようにしか見えない。
(エミリオが最後に言った言葉の意味は『僕は本物の貴族だ、偽物が楯突《たてつ》くんじゃない。』ってとこかな?)
ただチワワはチワワでも厄介なチワワに目をつけられたと思う。俺の弱点を正確に突いてきやがったし、加えてこいつリミタ辺境伯家だという。
ただのナンパな野郎であってほしかった、めんどくせぇ・・。
リミタ家とはヴァンティエール家と同じくアルトアイゼン王国とアマネセル国の国境守護を使命としている辺境伯の爵位を持つ家だ。
ヴァンティエール家が北西を守護し、リミタ家は南西を守護している。ただ、ヴァンティエール家が国境付近に広がるアティラン平原にわざわざシアンドギャルド要塞を立てて守護しているのに対してリミタ家は要塞と言えるものは建てていない。
理由はただ一つ、アインザーム渓谷という自然の障害物が存在するからだ。
過去にはアマネセル側からの渡岸計画が実行されたらしいがリミタ家が手を出す前に失敗。以降、動く気配が全くないようだ。何とも羨ましい話だ、こちらは戦いが絶えないというのに・・・。
それでも国境を任されているのは事実である。そのため国内での発言力は高い。
つまりは父上の威光が利きづらいということ―――
全くもって面倒だ…。
ただ、こいつは勘違いしているな。お前が突いたのは俺の弱点じゃなくて弱点だったところだ。お前だけじゃないぞ?本物の貴族というのは…。
ここまでの思考に費やした時間は瞬きをするくらいのそんな僅かなもの。ただその間にもエミリオの視線は俺からまた彼女たちの方へ移ろうとしていた。
ガキは指をくわえて見てろってか?随分と余裕じゃないのエミリオ君・・・。
再びやつの意識を俺に向けるべく今度はゆっくりと言い聞かせるように―――
「――俺はアルテュール・エデル・ヴァンティエール=スレクトゥだ。この二人は俺のお着きなんだ。手を出すのなら他の者にしろ。」
7歳にも満たない小さな子供の口から貴族の証―――『二つ目の名』が出てきたことに、エミリオは演技ではない驚愕の表情を浮かべ視線を再びこちらに戻す。
残念、俺も本物の貴族なのだよエミリオ君―――。
容姿は金髪紫眼に整った顔。典型的な貴公子と言ってもいい見た目をしていた。
ただ、彼女たちに色目を向けるのはいただけない。
今もなおハッツェンとマリエルに話しかけている青年を俺は精一杯睨みつけるが奴は気にするそぶりを見せない。目も少しだが合ったのに、だ。
単純に気付いていないだけなのか、それとも意図的に無視しているのか、はたまたイケメンの余裕なのか…。
「申し訳ございません、職務中でございますので。」
そのイケメンに話しかけられたマリエルはというと慣れているのか無表情だった。動揺しているそぶりはない。ただ、先ほどまで俺に向けていた笑みと比べると冷めているようにも見える。
彼女は王都別邸務めなので青年が身に着けている服の意味が分かるのだろう。腰を折ってしっかりと礼しながらもそれ以上は喋らない。他家の貴族に誘われたときのマニュアル通りの返答だ。
青年もそれは分かっているので少し工夫を入れてマリエルたちを崩そうとする。
「職務中?楽しそうにしていたから気づかなかったよ……。なら、仕事が終わった後でいいから待ち合わせしようよ。食事でもどうだい?こう見えても僕お金持ってるからさ、驕るよ。お金のことなら心配しないで。」
「……」
職務中だったのは事実だが、楽しそうにしていたのもこれまた事実。マリエルは言葉に詰まる。
「―――申し訳ございません、職務中でございますので。」
そこにハッツェンがフォローのためもう一度同じ言葉を言った。彼女も話しかけられていたのでこの返答の仕方で何も問題はない。
ただ、一番楽しそうにぷりぷりしていたのは何を隠そうこのハッツェンである。
彼女は「何のことやら」と完璧な無表情を貫いているが、助けられたマリエルは複雑な顔をしていた。だって青年《こいつ》に目をつけられた原因はハッツェンにあると思うもの。それを放置していたのは俺だが……。
(二人とも断りの態度を見せたしそろそろか)
場を収めるため、完全に蚊帳の外に置かれていた俺自ら入っていく。こうでもしないと奴は俺を相手にしない。
「女性を誘うなら、どこのだれか名乗ってみたらどうですか?」
相手の身分が分からないので丁寧な口調で、それでいて無視されないよう少し挑発の色を付けた発言をする。
青年は謁見の間にはいなかったから王族でないのは確かだ。もし王族だったら土下座しよう。
声を掛けられた青年は「いたの?」と少し驚いたような顔をしている。おそらく演技だろう。その証拠に小馬鹿にしたような口調が返ってきた。
「それもそうだね失念していたよ。―――初めましてお嬢さん方、僕はエミリオ・インガル・リミタ=グレンツというんだ。学園の用事が終わって帰る途中に楽しそうなあなたたちを見かけてね。ぜひ食事でも、と声を掛けたんだよ。」
今のは俺への言葉ではない、ハッツェンとマリエルへの言葉だ。そして思い出したように俺へと視線を向ける。
初めて目を合わせてきた。
「・・・あぁそうだ、ところで君は誰なんだい?陰に隠れていて見えなかったよ。彼女たちの関係者かい?―――言え、貴様の名前を・・・。僕を誰だと思っている。」
今までへらへらしていたのが最後の言葉で一変し、貴族独特の威圧感を醸し出し始た。
一方、威圧を掛けられた俺はというと冷静に頭を働かせることが出来ていた。2時間ほど前に国王陛下《黒狼》の圧を至近距離で浴びてきたのだ、エミリオ君には悪いがチワワがキャンキャン吠えて威嚇しているようにしか見えない。
(エミリオが最後に言った言葉の意味は『僕は本物の貴族だ、偽物が楯突《たてつ》くんじゃない。』ってとこかな?)
ただチワワはチワワでも厄介なチワワに目をつけられたと思う。俺の弱点を正確に突いてきやがったし、加えてこいつリミタ辺境伯家だという。
ただのナンパな野郎であってほしかった、めんどくせぇ・・。
リミタ家とはヴァンティエール家と同じくアルトアイゼン王国とアマネセル国の国境守護を使命としている辺境伯の爵位を持つ家だ。
ヴァンティエール家が北西を守護し、リミタ家は南西を守護している。ただ、ヴァンティエール家が国境付近に広がるアティラン平原にわざわざシアンドギャルド要塞を立てて守護しているのに対してリミタ家は要塞と言えるものは建てていない。
理由はただ一つ、アインザーム渓谷という自然の障害物が存在するからだ。
過去にはアマネセル側からの渡岸計画が実行されたらしいがリミタ家が手を出す前に失敗。以降、動く気配が全くないようだ。何とも羨ましい話だ、こちらは戦いが絶えないというのに・・・。
それでも国境を任されているのは事実である。そのため国内での発言力は高い。
つまりは父上の威光が利きづらいということ―――
全くもって面倒だ…。
ただ、こいつは勘違いしているな。お前が突いたのは俺の弱点じゃなくて弱点だったところだ。お前だけじゃないぞ?本物の貴族というのは…。
ここまでの思考に費やした時間は瞬きをするくらいのそんな僅かなもの。ただその間にもエミリオの視線は俺からまた彼女たちの方へ移ろうとしていた。
ガキは指をくわえて見てろってか?随分と余裕じゃないのエミリオ君・・・。
再びやつの意識を俺に向けるべく今度はゆっくりと言い聞かせるように―――
「――俺はアルテュール・エデル・ヴァンティエール=スレクトゥだ。この二人は俺のお着きなんだ。手を出すのなら他の者にしろ。」
7歳にも満たない小さな子供の口から貴族の証―――『二つ目の名』が出てきたことに、エミリオは演技ではない驚愕の表情を浮かべ視線を再びこちらに戻す。
残念、俺も本物の貴族なのだよエミリオ君―――。
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