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幼少 ―初めての王都―
第65話 新常識
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「へぇ、カッコいいじゃん」
「騎士団の本部なのだから当たり前よ、アル」
王都別邸出発から約1時間して着いた王都西側上位区――その一角にたたずむ王都第三騎士団本部建物を俺たち4人は見ていた。
目の前にあるそれは横に長くどっしりとした重厚感あふれる形をしており白が太陽光を反射していて眩しい。
例えるならあれだ、ホワイトハウスだ。
アルトアイゼンの王家、ディアーク家の居城アイゼンベルク城は何物にも染まらない支配の黒がメインカラーになっているのに対して騎士団はその黒を際立出せる白。
普通逆じゃね?と思わなくもないのだが光を際立たせるのが影であるならば、影を際立たせるのが光であるのもまた事実。
王家のイメージカラーが白ではあまりに無個性な気もするのでいいのではないだろうか。
そしてホワイトハウスならば合衆国の星条旗が掲げられているところ、第三騎士団のイメージカラーとされる群青色をふんだんに使った旗があり風に揺られている。
総じて言うとカッコいい。
そのままの言葉をこぼした俺だが、当然だとリア姉に窘められてしまった。
そんな俺たちのもとに群青色の騎士服を身に纏った二つの人影が寄ってくる。
一人は灰髪灰眼のザ・スポーツマンといった風貌の青年、もう一人は紫髪紫眼のスレンダーな見目麗しい女性。
二人ともどこか上品な歩き方をしていた。
見る者が見れば一瞬で分かる。あれは貴族の生まれだ。
こちらからも歩み寄り会話できる距離まで近づく。
一応今回の騎士団見学の言い出しっぺは俺なので代表して適当に挨拶をするとしよう。
「アルテュール・エデル・ヴァンティエール=スレクトゥだ。よろしく――俺の隣にいるのは姉のオレリア、それに側付きのハッツェン、最後に姉上の部下であるミラだ」
続いてリア姉はちょこっとスカートを掴み、ハッツェンとミラは礼をする。
随分とおざなりな俺の挨拶に最初に答えたのは青年の方だった。
「お待ちしておりました、本日の案内役を務めさせていただきます、王都第三騎士団所属ロタリオ・ルッツ・カーティス=ヴァイザーシュタットと申します」
ロタリオは美男子ではないがパーツの整った逞しい顔つきをしている。一人称は自分かな?
また、名からわかる通り彼はばあちゃんの弟、現カーティス伯爵家当主ルッツさんの直系の孫である。
ロドヴィコおじ様が俺たちに気を遣ってくれたのだろう。
完全な身内だ、会ったのはこれが初めてだけれども。貴族ではよくあることである。
「同じく案内役を務めさせていただきます、ナディア・ヴェリーヌ・ヴィントホーゼ=トロンベと申します」
そしてその次に簡略化された挨拶をしたナディアは紫髪紫眼のスレンダーな美女。これまた名前からわかる通り、彼女は先日の誕生会でじいちゃんの武勇伝を語ってくれた現ヴィントホーゼ伯爵家当主ティバルトの娘である。
本当にティバルトの娘か?ってくらい物静かで上品な雰囲気を醸し出しているが…。
こちらは身内とまではいかないまでも全くの無関係とは言えない間柄だ。
俺とリア姉が肩身狭い思いをしないようにロドヴィコおじ様が結構マジでキャスティングしているな。
「姉上はそうでないが俺はお上りさんなんだ。都会の、ましてや第三騎士団本部という大きな建物の中では迷子になってしまうかも…。案内頼んだよ」
「「はい」」
俺の粋なジョークは不発。ちょっぴり堅苦しいが随分と快適な第三騎士団ツアーになりそうだ。
「それじゃあ、早速」
「分かりました。――それではこちらに。自分が先頭となります」
(お、大正解)
ロタリオが主体となって案内してくれるらしい。
彼から見れば俺たちは祖父の上司の子息令嬢なので当然と言えば当然か。
白色の建物の奥には既に青々とした草木生え揃う広大な訓練場が見える。
(あそこのどこかに竜がいるのか…。)
期待に胸膨らませながら俺はロタリオに続いて建物内に足を踏み入れた。
太陽は大空の頂点に達していない。
◇◇◇
建物に入ってすぐ騎竜を見ることができる場所へ行くのかと思っていたがそうではないらしい。
元気な受付嬢が出迎えてくれたエントランス、庭師によって整えられた中庭、清掃員がピカピカにしていた騎士団寮と見回るうちに30分が経過していた。
どうやらロタリオは騎竜だけでなく第三騎士団のことを知ってもらいたいようだ。
ナディアはそんなロタリオの意を汲み取って俺とリア姉が飽きないように彼をフォローしている。
最初は「いや、興味ねぇよ。早く騎竜のところに連れてけ」と思っていた俺であるが、途中よくよく考えてみれば王国の騎士団内に案内付きで入れる機会なんてそうそうないということに気づいた。
父上テストにない情報がここにはたくさんある。そして未知の情報は今の俺にとって何よりの宝である。
偽の宝につられて危うく本物の宝を取り損なう所だった。ロマンってのは恐ろしいぜ。
それ以降は疑問があれば質問、ロタリオとナディアの答えにまた疑問があるなら質問と絶え間なく会話を続けている。
今は食堂の中で起きている非日常に対してリア姉を巻き込んで疑問をぶつけているところだ。
「ここの食堂にいる者は皆、身分に関係なく食事をしているように見えるのだが王都では、いや、王国の騎士団ではこれが常識なのか?」
俺は目の前の光景に驚いていた。
(あそこに座ってんの竜騎士と…あ、さっきすれ違った清掃員のおばちゃんじゃね?)
女性の竜騎士とさっき廊下ですれ違った清掃員のおばちゃんが同じ机で飯を食っていたからだ。
同じ机と言っても席自体は少し離れているのでお互いの間での会話はない。
しかしそれでも見慣れない光景には違いなかった。そのほかの机でも同様の珍事が起きている。
貴族は貴族同士で、平民は平民同士で。ならば竜騎士は竜騎士同士で。
そう思っていたのだが王都の騎士団ではこれが常識なのだろうか。
「いえ、自分の知る限りですが身分に関係なく食事をとる習慣は王国広しと謂えども、ここ、第三騎士団だけのことです。自分も初めの頃は大変驚きました。生家では貴族と平民が共に食事をとる、などということは基本的にあり得ませんでしたので」
「そうか」
(だよね…)
転生してから今までの5年間の常識が通用したことに対する少しの安堵する。
(転生前の俺ならどちらかと言えば第三騎士団の常識の方が共感できたはずなのになぁ…)
一人で何とも言えない不思議な感覚を覚えていると今度は建物に入ってからここまでずっと貴族モードのリア姉が質問をしていた。
「何か利点でもあるのですか?ナディア」
「はい、もちろんでございますオレリア様」
貴族然としたリア姉の言葉に対してナディアが即答。
彼女曰く、身分に関係なく食事をするという少々異端な考え方には騎士団全体の結束力・連帯感を高める点においてメリットがあるらしい。そしてそれは第三騎士団の理念に必要不可欠なメリットだという。
「王都第三騎士団は竜騎士を中核とする騎士団ですが、竜騎士のみで成り立っている騎士団ではありません。我々の代わりに来客をもてなす受付嬢や憩いの場を提供する庭師、快適な生活には必要不可欠な清掃員、身体づくりには欠かせない料理人。挙げればきりがありません。今申し上げたような人々の支えがあるからこそ我々は我々の任務を全うすることができます」
淡々とナディアは語る。
「長々と申し訳ございません」と話し終えた彼女の横ではロタリオがうんうんと頷いていた。近くで食事をとっている数名もナディアの声に反応しロタリオ同様に頷いている。
俺的には常識を変えてまで結束力や連帯感を高める必要があるのか、と思わないでもない。しかし現場の人たちがそう思うのならその通りなのだろう。
現場を知らない以上、さらなる問答は反って先入観や偏見を俺の中に生み出してしまうかもしれない。
(この話はここで終わりだな)
「そのような考え方もあるのですね。勉強になりますわ」
理由は俺と違うだろうがリア姉もこれ以上の質問はしないらしい。同じタイミングで話を終わらせにかかっていたので便乗するとしよう。
「『同じ釜の飯を食《く》う』ことで騎士団の理念に必要な第三騎士団としての帰属意識を持たせる、ということだな。ふむ、なかなかに斬新な考えだ…。勉強になるな」
言い回しを少し変えただけであるがなんかそれっぽく言えたのではないだろうか。
「『同じ石窯のブロードを食《しょく》す』ですか…。なるほど…」
(俺そんな上品に言った覚えないんだけど…。)
ロタリオが何かブツブツ言っているが無視しよう。この話は終わったんだ。
その後も食堂で質疑応答を少しばかり行った。
こちら側から出る質問の内容は年齢不相応なもので中にはそれ聞いて本当に意味あるの?と思えてしまうこともあったがロタリオとナディアは答えられる範囲で丁寧に教えてくれた。
それが彼らの仕事なので当然なのだが、そうであってもありがたい。
この世界では聞いたことのない常識に新しい知識。打てば響くような案内役《ロタリオとナディア》。
「アルテュール様、お時間が…」
「ん?ああ、そうだね。ありがとうハッツェン」
(惜しむらくは時間があまりないと言ったところか…)
タイムキーパーを務めてくれているハッツェンが俺にだけ聞こえるような声でこっそりとタイムオーバーを伝えてきた。
(そんな時間経ったか?)
すんなりと返事をした俺であるが正直言って時間経過をあまり感じていない。
確認のため、あらためて食堂全体を見ると着いた時よりも明らかに人が増えていた。
人数に比例して料理からくる匂いも増えている。
――パカッ
ポケットから魔法時計を取り出して正確な時刻を確認。
――12時半
(ヤベ…!)
第三騎士団見学の後に控えているお偉いさんとの食事会は14:00から。レストラン自体は同じ王都西側上位区、しかも第三騎士団本部近くなので移動時間はあまり考えなくてもいいが余裕をもっておきたいので30分前にはここを出た方が良いだろう。
そうなると残り時間は約1時間。
この後に控える見学箇所は訓練場と騎竜の厩の残り二つ。
騎竜を見る時間をできるだけ長くしたいのでそちらに45分くらいは使おうと考えれば本当にギリギリだ。
(よくぞ気づかせてくれた。偉いぞハッツェン!)
グッジョブをしてくれた頼れる俺の侍女さんに向かってぱちりとウインクするとぺこりとお辞儀された。
与えられた仕事をこなしただけなのだから当然です、と思ってのペコリかもしれないがここはこっそりと周りにバレないようにウインクが正解だぞ。マリエルなら絶対にしていた。
可愛いハッツェンに最後会ったのは数時間前なのに遠い昔のことに感じてしまう。どこに行ったのだろうか、俺の可愛いハッツェンは。
ちなみに先ほど案内された騎士団の宿舎でも同じように時間を掛け過ぎて注意されているのでこの返しは妥当なものなのかもしれない…。
「―――ロタリオ、すまないが次の場所へ案内してくれないか?再び時間を忘れ話し込んでしまったらしい」
くだらないことを考えている時間の分だけ騎竜に会える時間が無くなることを思い出した俺はロタリオに話しかける。
「…畏まりました」
何故か一拍空いた。
「…お前、気づいてたろ」
「どういったことに対してでしょうか」
「……いや、いい」
(こいつぱっと見クール、中身は熱血かと思ってたけど、案外いい性格してるじゃねえか…。)
どうやらロタリオの中での優先度は騎竜の説明よりも第三騎士団そのものの説明の方が高いらしい。騎士団の理念を説明された今なら分かる。
―――そうはさせない。
「――姉上、行きましょう」
「どうしたの?急に」
「ロマンに危機が迫っているのです」
「?」
キョトンとする可愛いリア姉で不足していた可愛い成分を補給。
それをエネルギーにロタリオの尻を蹴っ飛ばして急がせたいところだがちんちくりんの脚のリーチじゃ届かない。
早くしろ、と睨んでおこう。
「畏まりました」
今度は一拍も空けず即答したロタリオが次なる目的地に向かうために食堂を後にする。
俺たちもそれについて行った。
「騎士団の本部なのだから当たり前よ、アル」
王都別邸出発から約1時間して着いた王都西側上位区――その一角にたたずむ王都第三騎士団本部建物を俺たち4人は見ていた。
目の前にあるそれは横に長くどっしりとした重厚感あふれる形をしており白が太陽光を反射していて眩しい。
例えるならあれだ、ホワイトハウスだ。
アルトアイゼンの王家、ディアーク家の居城アイゼンベルク城は何物にも染まらない支配の黒がメインカラーになっているのに対して騎士団はその黒を際立出せる白。
普通逆じゃね?と思わなくもないのだが光を際立たせるのが影であるならば、影を際立たせるのが光であるのもまた事実。
王家のイメージカラーが白ではあまりに無個性な気もするのでいいのではないだろうか。
そしてホワイトハウスならば合衆国の星条旗が掲げられているところ、第三騎士団のイメージカラーとされる群青色をふんだんに使った旗があり風に揺られている。
総じて言うとカッコいい。
そのままの言葉をこぼした俺だが、当然だとリア姉に窘められてしまった。
そんな俺たちのもとに群青色の騎士服を身に纏った二つの人影が寄ってくる。
一人は灰髪灰眼のザ・スポーツマンといった風貌の青年、もう一人は紫髪紫眼のスレンダーな見目麗しい女性。
二人ともどこか上品な歩き方をしていた。
見る者が見れば一瞬で分かる。あれは貴族の生まれだ。
こちらからも歩み寄り会話できる距離まで近づく。
一応今回の騎士団見学の言い出しっぺは俺なので代表して適当に挨拶をするとしよう。
「アルテュール・エデル・ヴァンティエール=スレクトゥだ。よろしく――俺の隣にいるのは姉のオレリア、それに側付きのハッツェン、最後に姉上の部下であるミラだ」
続いてリア姉はちょこっとスカートを掴み、ハッツェンとミラは礼をする。
随分とおざなりな俺の挨拶に最初に答えたのは青年の方だった。
「お待ちしておりました、本日の案内役を務めさせていただきます、王都第三騎士団所属ロタリオ・ルッツ・カーティス=ヴァイザーシュタットと申します」
ロタリオは美男子ではないがパーツの整った逞しい顔つきをしている。一人称は自分かな?
また、名からわかる通り彼はばあちゃんの弟、現カーティス伯爵家当主ルッツさんの直系の孫である。
ロドヴィコおじ様が俺たちに気を遣ってくれたのだろう。
完全な身内だ、会ったのはこれが初めてだけれども。貴族ではよくあることである。
「同じく案内役を務めさせていただきます、ナディア・ヴェリーヌ・ヴィントホーゼ=トロンベと申します」
そしてその次に簡略化された挨拶をしたナディアは紫髪紫眼のスレンダーな美女。これまた名前からわかる通り、彼女は先日の誕生会でじいちゃんの武勇伝を語ってくれた現ヴィントホーゼ伯爵家当主ティバルトの娘である。
本当にティバルトの娘か?ってくらい物静かで上品な雰囲気を醸し出しているが…。
こちらは身内とまではいかないまでも全くの無関係とは言えない間柄だ。
俺とリア姉が肩身狭い思いをしないようにロドヴィコおじ様が結構マジでキャスティングしているな。
「姉上はそうでないが俺はお上りさんなんだ。都会の、ましてや第三騎士団本部という大きな建物の中では迷子になってしまうかも…。案内頼んだよ」
「「はい」」
俺の粋なジョークは不発。ちょっぴり堅苦しいが随分と快適な第三騎士団ツアーになりそうだ。
「それじゃあ、早速」
「分かりました。――それではこちらに。自分が先頭となります」
(お、大正解)
ロタリオが主体となって案内してくれるらしい。
彼から見れば俺たちは祖父の上司の子息令嬢なので当然と言えば当然か。
白色の建物の奥には既に青々とした草木生え揃う広大な訓練場が見える。
(あそこのどこかに竜がいるのか…。)
期待に胸膨らませながら俺はロタリオに続いて建物内に足を踏み入れた。
太陽は大空の頂点に達していない。
◇◇◇
建物に入ってすぐ騎竜を見ることができる場所へ行くのかと思っていたがそうではないらしい。
元気な受付嬢が出迎えてくれたエントランス、庭師によって整えられた中庭、清掃員がピカピカにしていた騎士団寮と見回るうちに30分が経過していた。
どうやらロタリオは騎竜だけでなく第三騎士団のことを知ってもらいたいようだ。
ナディアはそんなロタリオの意を汲み取って俺とリア姉が飽きないように彼をフォローしている。
最初は「いや、興味ねぇよ。早く騎竜のところに連れてけ」と思っていた俺であるが、途中よくよく考えてみれば王国の騎士団内に案内付きで入れる機会なんてそうそうないということに気づいた。
父上テストにない情報がここにはたくさんある。そして未知の情報は今の俺にとって何よりの宝である。
偽の宝につられて危うく本物の宝を取り損なう所だった。ロマンってのは恐ろしいぜ。
それ以降は疑問があれば質問、ロタリオとナディアの答えにまた疑問があるなら質問と絶え間なく会話を続けている。
今は食堂の中で起きている非日常に対してリア姉を巻き込んで疑問をぶつけているところだ。
「ここの食堂にいる者は皆、身分に関係なく食事をしているように見えるのだが王都では、いや、王国の騎士団ではこれが常識なのか?」
俺は目の前の光景に驚いていた。
(あそこに座ってんの竜騎士と…あ、さっきすれ違った清掃員のおばちゃんじゃね?)
女性の竜騎士とさっき廊下ですれ違った清掃員のおばちゃんが同じ机で飯を食っていたからだ。
同じ机と言っても席自体は少し離れているのでお互いの間での会話はない。
しかしそれでも見慣れない光景には違いなかった。そのほかの机でも同様の珍事が起きている。
貴族は貴族同士で、平民は平民同士で。ならば竜騎士は竜騎士同士で。
そう思っていたのだが王都の騎士団ではこれが常識なのだろうか。
「いえ、自分の知る限りですが身分に関係なく食事をとる習慣は王国広しと謂えども、ここ、第三騎士団だけのことです。自分も初めの頃は大変驚きました。生家では貴族と平民が共に食事をとる、などということは基本的にあり得ませんでしたので」
「そうか」
(だよね…)
転生してから今までの5年間の常識が通用したことに対する少しの安堵する。
(転生前の俺ならどちらかと言えば第三騎士団の常識の方が共感できたはずなのになぁ…)
一人で何とも言えない不思議な感覚を覚えていると今度は建物に入ってからここまでずっと貴族モードのリア姉が質問をしていた。
「何か利点でもあるのですか?ナディア」
「はい、もちろんでございますオレリア様」
貴族然としたリア姉の言葉に対してナディアが即答。
彼女曰く、身分に関係なく食事をするという少々異端な考え方には騎士団全体の結束力・連帯感を高める点においてメリットがあるらしい。そしてそれは第三騎士団の理念に必要不可欠なメリットだという。
「王都第三騎士団は竜騎士を中核とする騎士団ですが、竜騎士のみで成り立っている騎士団ではありません。我々の代わりに来客をもてなす受付嬢や憩いの場を提供する庭師、快適な生活には必要不可欠な清掃員、身体づくりには欠かせない料理人。挙げればきりがありません。今申し上げたような人々の支えがあるからこそ我々は我々の任務を全うすることができます」
淡々とナディアは語る。
「長々と申し訳ございません」と話し終えた彼女の横ではロタリオがうんうんと頷いていた。近くで食事をとっている数名もナディアの声に反応しロタリオ同様に頷いている。
俺的には常識を変えてまで結束力や連帯感を高める必要があるのか、と思わないでもない。しかし現場の人たちがそう思うのならその通りなのだろう。
現場を知らない以上、さらなる問答は反って先入観や偏見を俺の中に生み出してしまうかもしれない。
(この話はここで終わりだな)
「そのような考え方もあるのですね。勉強になりますわ」
理由は俺と違うだろうがリア姉もこれ以上の質問はしないらしい。同じタイミングで話を終わらせにかかっていたので便乗するとしよう。
「『同じ釜の飯を食《く》う』ことで騎士団の理念に必要な第三騎士団としての帰属意識を持たせる、ということだな。ふむ、なかなかに斬新な考えだ…。勉強になるな」
言い回しを少し変えただけであるがなんかそれっぽく言えたのではないだろうか。
「『同じ石窯のブロードを食《しょく》す』ですか…。なるほど…」
(俺そんな上品に言った覚えないんだけど…。)
ロタリオが何かブツブツ言っているが無視しよう。この話は終わったんだ。
その後も食堂で質疑応答を少しばかり行った。
こちら側から出る質問の内容は年齢不相応なもので中にはそれ聞いて本当に意味あるの?と思えてしまうこともあったがロタリオとナディアは答えられる範囲で丁寧に教えてくれた。
それが彼らの仕事なので当然なのだが、そうであってもありがたい。
この世界では聞いたことのない常識に新しい知識。打てば響くような案内役《ロタリオとナディア》。
「アルテュール様、お時間が…」
「ん?ああ、そうだね。ありがとうハッツェン」
(惜しむらくは時間があまりないと言ったところか…)
タイムキーパーを務めてくれているハッツェンが俺にだけ聞こえるような声でこっそりとタイムオーバーを伝えてきた。
(そんな時間経ったか?)
すんなりと返事をした俺であるが正直言って時間経過をあまり感じていない。
確認のため、あらためて食堂全体を見ると着いた時よりも明らかに人が増えていた。
人数に比例して料理からくる匂いも増えている。
――パカッ
ポケットから魔法時計を取り出して正確な時刻を確認。
――12時半
(ヤベ…!)
第三騎士団見学の後に控えているお偉いさんとの食事会は14:00から。レストラン自体は同じ王都西側上位区、しかも第三騎士団本部近くなので移動時間はあまり考えなくてもいいが余裕をもっておきたいので30分前にはここを出た方が良いだろう。
そうなると残り時間は約1時間。
この後に控える見学箇所は訓練場と騎竜の厩の残り二つ。
騎竜を見る時間をできるだけ長くしたいのでそちらに45分くらいは使おうと考えれば本当にギリギリだ。
(よくぞ気づかせてくれた。偉いぞハッツェン!)
グッジョブをしてくれた頼れる俺の侍女さんに向かってぱちりとウインクするとぺこりとお辞儀された。
与えられた仕事をこなしただけなのだから当然です、と思ってのペコリかもしれないがここはこっそりと周りにバレないようにウインクが正解だぞ。マリエルなら絶対にしていた。
可愛いハッツェンに最後会ったのは数時間前なのに遠い昔のことに感じてしまう。どこに行ったのだろうか、俺の可愛いハッツェンは。
ちなみに先ほど案内された騎士団の宿舎でも同じように時間を掛け過ぎて注意されているのでこの返しは妥当なものなのかもしれない…。
「―――ロタリオ、すまないが次の場所へ案内してくれないか?再び時間を忘れ話し込んでしまったらしい」
くだらないことを考えている時間の分だけ騎竜に会える時間が無くなることを思い出した俺はロタリオに話しかける。
「…畏まりました」
何故か一拍空いた。
「…お前、気づいてたろ」
「どういったことに対してでしょうか」
「……いや、いい」
(こいつぱっと見クール、中身は熱血かと思ってたけど、案外いい性格してるじゃねえか…。)
どうやらロタリオの中での優先度は騎竜の説明よりも第三騎士団そのものの説明の方が高いらしい。騎士団の理念を説明された今なら分かる。
―――そうはさせない。
「――姉上、行きましょう」
「どうしたの?急に」
「ロマンに危機が迫っているのです」
「?」
キョトンとする可愛いリア姉で不足していた可愛い成分を補給。
それをエネルギーにロタリオの尻を蹴っ飛ばして急がせたいところだがちんちくりんの脚のリーチじゃ届かない。
早くしろ、と睨んでおこう。
「畏まりました」
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