とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~

海堂金太郎

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幼少 ―初めての王都―

第66話 最後の見学場

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 食堂を後にした髪の毛カラフルな一行は次の見学場である訓練場に向かい滞在時間、脅威の10分弱という記録を残した。
 記録樹立の理由は二つあって、一つは騎竜との触れ合いの時間を長くしたいからというもの。つまりロマン第一主義だ。

 そして二つ目は訓練場で学ぶことがほとんどなかったから。
 食堂で発見した新常識のような目から鱗の知識がなかったことに加え、第三騎士団の訓練内容はヴァンティエール近衛騎士団のソレより劣っているものであった。
 訓練していたのが竜騎士でなく、竜騎士見習いであったことを差し引いても同じことが言えると思う・・・多分。
 これに関しては仕方ないとしか言えない。
 長らく戦争の最前線に身を置いている騎士団の訓練と空から王都の治安を守ってきたとはいえ長らく直接的な戦争に関わってこなかった騎士団の訓練。同等であるはずがないのだ。

 訓練場から最後の見学場所である騎竜の厩の前に移動した後ロタリオに「準備があるので少々ここでお待ちを」と言われ、おとなしくその準備とやらを待つ間、

「アルテュール様、少しいいですか?」
「ん?どした」

 先ほどの見学場について考えていると今の今まで俺にとってはほぼ空気のような存在であったミラが耳打ちしてきた。

(珍しいな・・・)

 基本的にお嬢と呼び、慕っているリア姉や魔法の師であるばあちゃんにしか話しかけない彼女が話しかけてきたことに驚く。が、驚かせた側であるミラは俺の胸中を察することなく続ける。

「どうして訓練場の見学にもう少し時間を割かなかったんですか?」
「あぁ、そのことね・・・というか姉上じゃなくてどうして俺に聞いたの?」
「お嬢に聞いたところ、アルテュール様に聞くように言われたので」
「あぁ・・・」

 おそらくリア姉は俺とミラを喋らせたかったのだろう。ミラは現在魔導学院に次席として籍を置いているが来年からはヴァンティエール辺境伯家の下に籍を置くことになる。
 おそらくリア姉の側付きポジションに収まると思うのでヴァンティエール領に来るのは当分後になりそうだが、そうなると決定したわけではない。
 決めるのはリア姉じゃなくて当主である父上だからだ。
 なのでリア姉はミラの配属先が自分の希望通りにならなかった場合のことを考え、俺とミラの間に少しでも良い関係を築かせようとしたのではないだろうか。

(まぁリア姉のお願いを聞かない父上ではないと思うが・・・)

「あの、アルテュール様」
「ん?あぁ、ごめん。どうして訓練場の見学にもう少し時間を割かなかったのか、だっけ」
「そうです」

 ミラにまた声をかけられたことによって今何をすべきか思い出した俺はすぐに訓練場に時間を割かなかった理由を簡潔に話し、ミラもそれを聞いて「なるほど、ヴァンティエールの近衛騎士団とはそれほどまでに精強なんですか」と興味深そうに頷いた。

 彼女は魔法師であると同時に近接型の戦士でもあるため、もしかしたら普通に第三騎士団の訓練をもっと長い時間見ていたかったのかも知れない。
 そう考えるとちょっと悪いことをしてしまった気分になった。だからといってじゃあ戻ろうか、と言う気分では全くない。
 せめてもの罪滅ぼし兼リア姉の思惑に乗っかって得するため用件は済んだと言わんばかりにリア姉の元へ戻ろうとするミラのローブをつまみ、それに気づいた彼女に耳を貸してと手招きする。

「近衛騎士団の訓練を見たいなら姉上の帰郷に合わせて俺が手配しておくよ。それと違いを理解してもらいたいからもう一度ここの訓練場を見させてもらえないかっていうのを王太子殿下に頼んでみる。確約は出来ないけどね」
「・・・本当ですか?」
「――もちろん。最善は尽くすよ」
「ありがとうございます」

 余程嬉しかったのか猫耳をパタパタさせ、隣にいるリア姉の少し後ろ――定位置に戻りこしょこしょとリア姉に耳打ちするミラを見ていたらリア姉と目が合った。
 そして軽いアイコンタクトを交わす。

「(そこまでする必要あるの?)」
「(もちろんあるよ)」

 リア姉は俺のミラに対する優遇が度を超しているのではないかと思っているのだろうが俺から言わせてもらうとこれしきの優遇で魔導学院の次席のような逸材に恩を売れるのなら安いものだ。あと普通に美少女に喜んでもらえるってだけでなんか嬉しい。
 ただ、これら全てを可能にするのは俺個人の力でなくヴァンティエールの血の力であるということを忘れてはならない。

「(アル・・・)」
「(大丈夫)」

 どこか心配そうな目で俺を見つめるリア姉にこれまた視線で返す。どこまで彼女は俺のことを見通してしまうのだろうか。

「(・・・そう。ならいいわ)」

 10歳の女の子が浮かべるものとは思えないほど大人びた笑みを浮かべるリア姉。ついさっき馬車の中で女の子らしくふくれっ面していたことが嘘みたいだ。

 アイコンタクトを交し終え、何もすることがなくなった俺はロタリオまだかなぁと思いながらただただ待つ―――のはもったいないので周りを見渡す。

 どこまでも広がっていそうだと錯覚するほど広大な草原、目の前にはもちろん騎竜の厩こと木造のドデカい豆腐型の建物があり、後ろには先ほどまで俺たちが居た第三騎士団本部の建物が。

(ここは本当に町の中なのだろうか・・・。)

 足下の青々とした大草原の一部を踏みしめながら、改めて上位区の非常識さを感じていると「「「クエェェェェェ――!」」」と正面の厩の中から鳴き声が聞こえてきた。
 雲一つない青空を眺めていた視線を声のする方へ向けた直後、ロタリオが3体の生き物を率いて厩の中から出てくる。

 その生き物は緑系統の色で構成された斑模様爬虫類質の皮膚、太く立派な二足の後ろ足に小さな翼とほぼ同化している退化した前足を持っていた。
 高さは大人の人間一人分、横幅は二人分と言ったところか。
 翼は小さいし、大きさもあんまりだがあれは間違いなく竜だ。

 ―――紛れもなくロマンなのだ。
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