73 / 76
幼少 ―初めての王都―
第75話 既知との遭遇
しおりを挟む
(ふぅ、気を引き締めなおさないとな……)
いつまでも自分の懐事情の環境を気にしたって仕方がない。
さも当然のようにヴァンティエール家につけておけば何とかなるんじゃね?と開き直った俺は当初の目的であった貴族同士の対談に備えて心を落ち着かせていた。
コトンッ
「お待たせ致しました。クーヘン・ショコラーデでございます」
「ありがとう」
そんな俺のもとへ例の新商品『クーヘン・ショコラーデ』が運ばれてくる。
「ご苦労様……あぁ、あと私にはカフェーを頂戴」
「畏まりました、オーナー」
正面に座るエルさんのもとにも『クーヘン・ショコラーデ』が運ばれていた。
(カフェーってなんだ……?)
エルさんの発言中の未知の単語『カフェー』に疑問を覚えながらも俺は目の前に置かれた『クーヘン・ショコラーデ』を見る。
「……ほぅ」
そして思わず驚きのこもったため息を吐いた。
しかし、俺のその反応がお気に召さなかったのか、エルさんは若干拗ねた振りをしながら話しかけてくる。
「あら?驚かないのね。このお菓子を見た貴婦人方は誰一人例外なく二度見していたのに。驚かすことが出来なくて残念だわ」
「いえいえ、心の臓が口から飛び出るくらいには驚きましたよ。これほどまでに黒いお菓子は初めてなので」
「それが本心でないとしても面白い例えね」
「紛れもない本心ですよ」
努めて冷静に冗談ぽく返答する俺。
だが内心、本当に心臓が飛び出してきそうなくらいには驚いていた。
(おいおいマジかよ……これがこの世界にあるなんて聞いてねぇぞ)
純白の皿の真ん中。
真上から少し押しつぶした円柱型の茶色みがかった黒いスイーツ。
香る甘く、どこか香ばしい、懐かしい匂い。
―――どこからどう見てもチョコレートが使用されたケーキがあったからだ。
『クーヘン・ショコラーデ』が来るまでの待ち時間に聞いたエルさんからの説明でもしやとは思っていたが、まさか本当にそのもしやが起こり得ようとは。
驚きのあまり若干震える手を何とか抑えながらフォークを握り『クーヘン・ショコラーデ』改め『チョコレートケーキ』を切り分ける。
そしてフォークを突き刺して口に―――ではなくまずは鼻に近づけて一呼吸。
(間違いない。少し香りが弱い気もするけどこれは俺の知っているチョコレートだ)
「……香り高いですね。…それにこの『ショコラーデ』でしたっけ?元が木の実だなんて信じられない」
「そうでしょ?」
嗅いだ以上感想を言わなければ失礼に当たると思ったので、演技を入れながら感想を述べるとエルさんは嬉しそうにする。
―――ささ、食べてみなさい。おったまげるわよ!
勿論こんな言葉遣いはしていないが目でそう訴えかけてくるのでフォークの先に突き刺さったケーキを鼻の前から口の中へ移動させる。
モグモグ、モグモグ
舌に広がる確かな甘みを噛み締め、鼻から抜けるカカオの香りを堪能する。
そこで俺は首を傾げた。もちろん心の中ではあるが。
(確かに美味い。紛れもなくチョコレートだ―――でも足りない。俺が知っているチョコレートには程遠い……)
そう、チョコレートの完成度が低いのだ。
しかし、これに関しては仕方がないとしか言えない。
そもそも俺の知っているチョコレート―――つまり21世紀の地球における完成されたうえで磨かれ続けてきたチョコレートはレベルが高すぎたのだ。
そのようなチョコレートとついこの前発見されたばかりの『ショコラーデ』。
似て非なるものである。
逆に発見直後でよく元地球人である俺にチョコレートであると思わせれたな、と称賛したいくらいだ。
しかし、俺の中でのスイーツとしては欠陥品であることに変わりない。
「―――あら、お気に召さないようね」
そんな俺の内心を敏く感じ取ったエルさん、いやフィリグラン伯爵が俺に問いかけてくる。
その声色は先ほどまでの優しくも凛としたものではなく、威厳とナイフのような鋭利な美しさを孕んでいた。
およそ子供に向けていいような声じゃない。俺を一人の貴族として見ている証である。
(ここからが本番か……)
前世の俺にはなかった貴族の青い血が第六感を発揮し警戒の信号を発する。
来るぞ、備えろ―――と。
いつまでも自分の懐事情の環境を気にしたって仕方がない。
さも当然のようにヴァンティエール家につけておけば何とかなるんじゃね?と開き直った俺は当初の目的であった貴族同士の対談に備えて心を落ち着かせていた。
コトンッ
「お待たせ致しました。クーヘン・ショコラーデでございます」
「ありがとう」
そんな俺のもとへ例の新商品『クーヘン・ショコラーデ』が運ばれてくる。
「ご苦労様……あぁ、あと私にはカフェーを頂戴」
「畏まりました、オーナー」
正面に座るエルさんのもとにも『クーヘン・ショコラーデ』が運ばれていた。
(カフェーってなんだ……?)
エルさんの発言中の未知の単語『カフェー』に疑問を覚えながらも俺は目の前に置かれた『クーヘン・ショコラーデ』を見る。
「……ほぅ」
そして思わず驚きのこもったため息を吐いた。
しかし、俺のその反応がお気に召さなかったのか、エルさんは若干拗ねた振りをしながら話しかけてくる。
「あら?驚かないのね。このお菓子を見た貴婦人方は誰一人例外なく二度見していたのに。驚かすことが出来なくて残念だわ」
「いえいえ、心の臓が口から飛び出るくらいには驚きましたよ。これほどまでに黒いお菓子は初めてなので」
「それが本心でないとしても面白い例えね」
「紛れもない本心ですよ」
努めて冷静に冗談ぽく返答する俺。
だが内心、本当に心臓が飛び出してきそうなくらいには驚いていた。
(おいおいマジかよ……これがこの世界にあるなんて聞いてねぇぞ)
純白の皿の真ん中。
真上から少し押しつぶした円柱型の茶色みがかった黒いスイーツ。
香る甘く、どこか香ばしい、懐かしい匂い。
―――どこからどう見てもチョコレートが使用されたケーキがあったからだ。
『クーヘン・ショコラーデ』が来るまでの待ち時間に聞いたエルさんからの説明でもしやとは思っていたが、まさか本当にそのもしやが起こり得ようとは。
驚きのあまり若干震える手を何とか抑えながらフォークを握り『クーヘン・ショコラーデ』改め『チョコレートケーキ』を切り分ける。
そしてフォークを突き刺して口に―――ではなくまずは鼻に近づけて一呼吸。
(間違いない。少し香りが弱い気もするけどこれは俺の知っているチョコレートだ)
「……香り高いですね。…それにこの『ショコラーデ』でしたっけ?元が木の実だなんて信じられない」
「そうでしょ?」
嗅いだ以上感想を言わなければ失礼に当たると思ったので、演技を入れながら感想を述べるとエルさんは嬉しそうにする。
―――ささ、食べてみなさい。おったまげるわよ!
勿論こんな言葉遣いはしていないが目でそう訴えかけてくるのでフォークの先に突き刺さったケーキを鼻の前から口の中へ移動させる。
モグモグ、モグモグ
舌に広がる確かな甘みを噛み締め、鼻から抜けるカカオの香りを堪能する。
そこで俺は首を傾げた。もちろん心の中ではあるが。
(確かに美味い。紛れもなくチョコレートだ―――でも足りない。俺が知っているチョコレートには程遠い……)
そう、チョコレートの完成度が低いのだ。
しかし、これに関しては仕方がないとしか言えない。
そもそも俺の知っているチョコレート―――つまり21世紀の地球における完成されたうえで磨かれ続けてきたチョコレートはレベルが高すぎたのだ。
そのようなチョコレートとついこの前発見されたばかりの『ショコラーデ』。
似て非なるものである。
逆に発見直後でよく元地球人である俺にチョコレートであると思わせれたな、と称賛したいくらいだ。
しかし、俺の中でのスイーツとしては欠陥品であることに変わりない。
「―――あら、お気に召さないようね」
そんな俺の内心を敏く感じ取ったエルさん、いやフィリグラン伯爵が俺に問いかけてくる。
その声色は先ほどまでの優しくも凛としたものではなく、威厳とナイフのような鋭利な美しさを孕んでいた。
およそ子供に向けていいような声じゃない。俺を一人の貴族として見ている証である。
(ここからが本番か……)
前世の俺にはなかった貴族の青い血が第六感を発揮し警戒の信号を発する。
来るぞ、備えろ―――と。
0
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる