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10 表敬訪問
「水に濡れるのがそんなに怖いか?」
頭の上から、嘲るような声が降ってきた。
恐る恐る目を上げると、目の前に、見たことのない人が立っていた。
竜人は人間より背が高く、体つきもがっちりしている。けれど、見た目は殆ど変わらない。
ワッツァに会った時は気が動転していて気が付かなかったけど、竜人には、左右どちらかの顎の下に、鱗が一枚だけある。執事のマティルドが教えてくれた。スカーフやタートルネックで隠れる場所だ。色や大きさは人によって異なり、鱗だとわからない人もいる。
ちなみに、バートラフにはまだ、鱗は生えていないらしい。身の回りの世話をするメイドから聞いた。彼は首のボタンを一番上まできっちり留めていて、お風呂やお着替えの手伝いもさせてくれない。だから、残念ながら直接確かめることができていないのだ。
この人は、竜人だ。シャツの胸元ははだけられており、たくましい首筋に、オレンジ色に光る鱗が見える。
「俺は皇妃に拝謁に来た。おい、人間の女。皇妃はどこだ。俺を彼女の元へと連れていけ」
目の前の竜人は、尊大に言い放った。
それから、わたしが胸に閉じ込めているバートラフに気づいた。
「ワッツァの子なのに、水を怖がるか。人間の胸になど抱かれやがって。人の血が混じるとこのザマだ。恥を知れ、この半竜が!」
バートラフがわたしの懐から飛び出す。
彼の体温で暖かかった体が、急速に冷えて行く。その瞬間、わたしの中に、強烈な怒りが沸き上がった。
「人間の血が混じっていることの何が悪いっていうの? 竜と人間では元々の作りが違うだけよ。ジュリアさんは命がけでバートラフを産んだのよ? この子が生きているのは、奇跡なの!」
竜人は、ぽかんと口を開けてわたしを見ている。人間であるところのわたしが、よもや自分に楯突くとは思ってもみなかったのだろう。
「そもそもバートラフは水を怖がってなんかいないわ。雨や雷が襲ってきたのがいけないのよ。それ、貴方の仕業なんじゃない? 楽しく遊んでいたわたしたちを襲うなんて、とんでもない野蛮な行いだわ!」
誰かがわたしのスカートの裾を引いた。バートラフだ。
「この人は、ぼくのおじさんだ」
「おじさん?」
伯父か叔父かわからないけど、竜は子どもを産まないのではなかったか。ならなんで、ワッツァに兄だか弟がいるのだ?
「皇帝は、俺を弟と認めたのだ。俺が賢く有能で、美しいからだ」
つまり、義兄弟ということね?
それはいいとして、ワッツァには人(竜だけど)を見る目がないのだろうか。腕は立つのかもしれないが、この竜人には、品性のかけらもない。ただがさつなだけだ。なにより、バートラフを尊重する気持ちが、まるでない。
「黙って聞いていれば何よ? 失礼だわ! わたしはバートラフを悪く言う人を、決して許さないんだから!」
ちょこちょことバートラフがわたしの前に出て来た。勇敢にも竜人と向き合う。
「あのね、オーギュスト叔父さん。この人が皇妃だよ」
「なんだってぇ! ワッツァのやつ、また人間の女を連れ込んだのか!」
オーギュストと呼ばれた竜人が目を剥いた。
頭の上から、嘲るような声が降ってきた。
恐る恐る目を上げると、目の前に、見たことのない人が立っていた。
竜人は人間より背が高く、体つきもがっちりしている。けれど、見た目は殆ど変わらない。
ワッツァに会った時は気が動転していて気が付かなかったけど、竜人には、左右どちらかの顎の下に、鱗が一枚だけある。執事のマティルドが教えてくれた。スカーフやタートルネックで隠れる場所だ。色や大きさは人によって異なり、鱗だとわからない人もいる。
ちなみに、バートラフにはまだ、鱗は生えていないらしい。身の回りの世話をするメイドから聞いた。彼は首のボタンを一番上まできっちり留めていて、お風呂やお着替えの手伝いもさせてくれない。だから、残念ながら直接確かめることができていないのだ。
この人は、竜人だ。シャツの胸元ははだけられており、たくましい首筋に、オレンジ色に光る鱗が見える。
「俺は皇妃に拝謁に来た。おい、人間の女。皇妃はどこだ。俺を彼女の元へと連れていけ」
目の前の竜人は、尊大に言い放った。
それから、わたしが胸に閉じ込めているバートラフに気づいた。
「ワッツァの子なのに、水を怖がるか。人間の胸になど抱かれやがって。人の血が混じるとこのザマだ。恥を知れ、この半竜が!」
バートラフがわたしの懐から飛び出す。
彼の体温で暖かかった体が、急速に冷えて行く。その瞬間、わたしの中に、強烈な怒りが沸き上がった。
「人間の血が混じっていることの何が悪いっていうの? 竜と人間では元々の作りが違うだけよ。ジュリアさんは命がけでバートラフを産んだのよ? この子が生きているのは、奇跡なの!」
竜人は、ぽかんと口を開けてわたしを見ている。人間であるところのわたしが、よもや自分に楯突くとは思ってもみなかったのだろう。
「そもそもバートラフは水を怖がってなんかいないわ。雨や雷が襲ってきたのがいけないのよ。それ、貴方の仕業なんじゃない? 楽しく遊んでいたわたしたちを襲うなんて、とんでもない野蛮な行いだわ!」
誰かがわたしのスカートの裾を引いた。バートラフだ。
「この人は、ぼくのおじさんだ」
「おじさん?」
伯父か叔父かわからないけど、竜は子どもを産まないのではなかったか。ならなんで、ワッツァに兄だか弟がいるのだ?
「皇帝は、俺を弟と認めたのだ。俺が賢く有能で、美しいからだ」
つまり、義兄弟ということね?
それはいいとして、ワッツァには人(竜だけど)を見る目がないのだろうか。腕は立つのかもしれないが、この竜人には、品性のかけらもない。ただがさつなだけだ。なにより、バートラフを尊重する気持ちが、まるでない。
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ちょこちょことバートラフがわたしの前に出て来た。勇敢にも竜人と向き合う。
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