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11 竜体変化
オーギュストは住処のある北の高山から、はるばるわたしに会いに来たという。
「兄貴が皇妃を娶ったというから、礼を尽くしに来たんだ。竜が結婚するなんて、滅多にないことだしな」
「娶ったというか、」
わたしは口籠る。
「ははん。バートラフの子守りに雇われたのか」
オーギュストがずばり正答を放つ。
「そもそも竜に配偶者なんていらないのよね。子作りの必要がないのだから、結婚なんてしなくていいんでしょ?」
負けずにわたしが言うと、オーギュストは肩を竦めた。
「ワッツァはちょっと変なんだ。若気の至りとはいえ、人間の女との間に子どもまで作ってるし」
呆れた。
それ、バートラフの前で言う?
オーギュストは、バートラフに目を向けた。
「ワッツァに会いにコンディエンヌ城へ向かう通り道だから、ソスクレアの宮殿に寄ってやったのだ。だが、今回も結婚相手が人間なら、わざわざ来る必要もなかったな。まあいいか。半竜の顔は見たことだし」
わたしはオーギュストを睨んだ。
「わたしは子守りで構わないけど、バートラフは立派な竜人です!」
「半分は人間だろう? こいつは未だに魔力検定に合格していない。風も呼べなければ、雨を降らすこともできない」
魔力検定?
そんなのがあるのね。竜って大変だな。
じゃなくて、これ以上、バートラフを侮辱するのは許さないんだから!
「そっ、それはまだ子どもだからでは?」
「180歳にもなって、未だに竜に変化できないんだぞ」
180歳って、人間にすると何歳くらいかしら。見た感じは、そして中身も、5歳は超えてない感じだけど。
傍らからバートラフが口を出した。
「ぼく、少しだけ竜になれたんだよ!」
「えっ!」
「なんだって!?」
わたしとオーギュストは同時に叫んだ。
バートラフが竜体に? その姿を、わたしはまだ、一度も見ていない。
「知らなかったわ。見せて! 見せてよ!」
オシのことなら、どんなことでも知りたいし、見てみたい。
夢中になっているわたしを、オーギュストが押しのけた。
「いつからだ?」
照れ臭そうにバートラフは笑った。
「ちょっと前」
「ならば、変化してみよ」
オーギュストが命じる。
「え? 今?」
「そう」
「ここで?」
ちらりとわたしを見る。どうやらわたしにこの場から立ち去って欲しいらしかった。
「いつでもどこでも、自在に竜体になれねば、変化できるとは言わん!」
オーギュストが言い放つ。そうよ。わたしも竜体になったバートラフが見たいもの。今度ばかりは、オーギュストが頼もしく見える。
「はい、叔父様」
バートラフは小さく頷いた。
目を閉じ、気を集中させる。固く拳を握った手は、両脇に下げたままだ。
鼻が大きく膨らんで、息を吸ったり吐いたりしている。
本当に彼は竜になるのだろうか。
どきどきする。
肘が、ぐっと曲げられた。大きな気が体に送り込まれたのがわかる。バートラフの眉間に皺がより、彼が集中しているのがわかる。目の下にまつ毛の影が落ちている。
まじめくさった顔は、精いっぱい大人のふりをしているようでもあり、とてもチャーミングだ。
数分が流れた。
わたしもオーギュストも動かない。そして、バートラフも。
さらに数分。
不意に、力んでいた肩が下がった。おずおずと目を開ける。
バートラフの体には、何の変化もない。
「で、」
オーギュストが声をかける。
「ちっとも竜ではないようだが?」
「あのね」
バートラフは得意そうだった。くるりと後ろを向く。
「あっ!」
思わずわたしは叫んだ。
ずり下がった半ズボンの、ウェストゴムの上から確かに……。
「ね! しっぽだよ!」
首だけこちらに覗けて、得意満面だ。
「尻尾? ありえない!」
なのに、オーギュストは大声でどやしつけた。
「なんて貧弱なんだ。細くてひょろひょろしてて、ヘビかトカゲのようだぞ」
「……ごめんなさい」
バートラフが謝った。得絶頂だったのに、泣きそうな顔をしている。
なんで? なんで謝るの?
さっきまで、彼には尻尾なんて生えてなかった。それが、今はちゃんと生えている。
バートラフは竜体に変化したのだ。
一部だけど。
「尾籠である。尾をしまえ!」
割れ金のような声で、オーギュストが怒鳴る。
まあね。
もうちょっとでもズボンが下がったら、お尻が見えちゃうものね。
叔父の怒声に驚いたのか、バートラフは慌てて尻尾をしまった。ずり落ちてかけていたズボンを引き上げる。
こんな時だけど、とってもキュート! スチルを取って、全世界に布教したいわ。
オーギュストが唸った。
「それで? しっぽは貧弱だし、体の他の部分は人間のままだな?」
「……うん」
「トカゲのしっぽなら、切れば生え変わって来るだろう。もっと立派なのが生えてくるかもしれん。もう一度尻尾を出せ、俺が切り落としてやる」
物騒なことを言って、オーギュストが腰の剣に手をやる。バートラフの顔が、さっと青ざめた。
「やめて! バートラフは頑張ったのよ!」
わたしは叔父と甥の間に割り込んだ。
「あなたも見たでしょう? あんなに真剣な顔をして。小さな子が。貧弱だっていいでしょ? そのうち立派な竜のしっぽになるんだから!」
「なるもんか。気が足りておらんのだ。やっぱりこいつは、出来損ないの半竜だ」
「出来損ないですって!? 半竜の何が悪いの? バートラフは竜帝の息子よ」
「竜に変化できんけどな」
「そのうちできるようになるわ!」
「いつのことやら。これは、兄者に報告せねばならんな。あと何百年待っても、あんたの息子は成竜にはなれないだろうって」
ワッツァに言いつけると言われた途端、大声をあげてバートラフが泣き出した。
「兄貴が皇妃を娶ったというから、礼を尽くしに来たんだ。竜が結婚するなんて、滅多にないことだしな」
「娶ったというか、」
わたしは口籠る。
「ははん。バートラフの子守りに雇われたのか」
オーギュストがずばり正答を放つ。
「そもそも竜に配偶者なんていらないのよね。子作りの必要がないのだから、結婚なんてしなくていいんでしょ?」
負けずにわたしが言うと、オーギュストは肩を竦めた。
「ワッツァはちょっと変なんだ。若気の至りとはいえ、人間の女との間に子どもまで作ってるし」
呆れた。
それ、バートラフの前で言う?
オーギュストは、バートラフに目を向けた。
「ワッツァに会いにコンディエンヌ城へ向かう通り道だから、ソスクレアの宮殿に寄ってやったのだ。だが、今回も結婚相手が人間なら、わざわざ来る必要もなかったな。まあいいか。半竜の顔は見たことだし」
わたしはオーギュストを睨んだ。
「わたしは子守りで構わないけど、バートラフは立派な竜人です!」
「半分は人間だろう? こいつは未だに魔力検定に合格していない。風も呼べなければ、雨を降らすこともできない」
魔力検定?
そんなのがあるのね。竜って大変だな。
じゃなくて、これ以上、バートラフを侮辱するのは許さないんだから!
「そっ、それはまだ子どもだからでは?」
「180歳にもなって、未だに竜に変化できないんだぞ」
180歳って、人間にすると何歳くらいかしら。見た感じは、そして中身も、5歳は超えてない感じだけど。
傍らからバートラフが口を出した。
「ぼく、少しだけ竜になれたんだよ!」
「えっ!」
「なんだって!?」
わたしとオーギュストは同時に叫んだ。
バートラフが竜体に? その姿を、わたしはまだ、一度も見ていない。
「知らなかったわ。見せて! 見せてよ!」
オシのことなら、どんなことでも知りたいし、見てみたい。
夢中になっているわたしを、オーギュストが押しのけた。
「いつからだ?」
照れ臭そうにバートラフは笑った。
「ちょっと前」
「ならば、変化してみよ」
オーギュストが命じる。
「え? 今?」
「そう」
「ここで?」
ちらりとわたしを見る。どうやらわたしにこの場から立ち去って欲しいらしかった。
「いつでもどこでも、自在に竜体になれねば、変化できるとは言わん!」
オーギュストが言い放つ。そうよ。わたしも竜体になったバートラフが見たいもの。今度ばかりは、オーギュストが頼もしく見える。
「はい、叔父様」
バートラフは小さく頷いた。
目を閉じ、気を集中させる。固く拳を握った手は、両脇に下げたままだ。
鼻が大きく膨らんで、息を吸ったり吐いたりしている。
本当に彼は竜になるのだろうか。
どきどきする。
肘が、ぐっと曲げられた。大きな気が体に送り込まれたのがわかる。バートラフの眉間に皺がより、彼が集中しているのがわかる。目の下にまつ毛の影が落ちている。
まじめくさった顔は、精いっぱい大人のふりをしているようでもあり、とてもチャーミングだ。
数分が流れた。
わたしもオーギュストも動かない。そして、バートラフも。
さらに数分。
不意に、力んでいた肩が下がった。おずおずと目を開ける。
バートラフの体には、何の変化もない。
「で、」
オーギュストが声をかける。
「ちっとも竜ではないようだが?」
「あのね」
バートラフは得意そうだった。くるりと後ろを向く。
「あっ!」
思わずわたしは叫んだ。
ずり下がった半ズボンの、ウェストゴムの上から確かに……。
「ね! しっぽだよ!」
首だけこちらに覗けて、得意満面だ。
「尻尾? ありえない!」
なのに、オーギュストは大声でどやしつけた。
「なんて貧弱なんだ。細くてひょろひょろしてて、ヘビかトカゲのようだぞ」
「……ごめんなさい」
バートラフが謝った。得絶頂だったのに、泣きそうな顔をしている。
なんで? なんで謝るの?
さっきまで、彼には尻尾なんて生えてなかった。それが、今はちゃんと生えている。
バートラフは竜体に変化したのだ。
一部だけど。
「尾籠である。尾をしまえ!」
割れ金のような声で、オーギュストが怒鳴る。
まあね。
もうちょっとでもズボンが下がったら、お尻が見えちゃうものね。
叔父の怒声に驚いたのか、バートラフは慌てて尻尾をしまった。ずり落ちてかけていたズボンを引き上げる。
こんな時だけど、とってもキュート! スチルを取って、全世界に布教したいわ。
オーギュストが唸った。
「それで? しっぽは貧弱だし、体の他の部分は人間のままだな?」
「……うん」
「トカゲのしっぽなら、切れば生え変わって来るだろう。もっと立派なのが生えてくるかもしれん。もう一度尻尾を出せ、俺が切り落としてやる」
物騒なことを言って、オーギュストが腰の剣に手をやる。バートラフの顔が、さっと青ざめた。
「やめて! バートラフは頑張ったのよ!」
わたしは叔父と甥の間に割り込んだ。
「あなたも見たでしょう? あんなに真剣な顔をして。小さな子が。貧弱だっていいでしょ? そのうち立派な竜のしっぽになるんだから!」
「なるもんか。気が足りておらんのだ。やっぱりこいつは、出来損ないの半竜だ」
「出来損ないですって!? 半竜の何が悪いの? バートラフは竜帝の息子よ」
「竜に変化できんけどな」
「そのうちできるようになるわ!」
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