14 / 25
14 「気」を養うには
しおりを挟むバートラフは、わたしをまいて、いつも一人でどこかへ行ってしまう。
帰ってくると、お風呂に入れようとするわたしの手をすり抜け、部屋に籠ってしまう。
なんだかひどく疲れているようで、気がかりだ。
そんなわたしを見て、執事のマティルドが教えてくれた。
実は彼は、次の魔力検定に向けて、修行を重ねていたのだ。
竜の魔力は、「気」を巡らすことによって生じる。だから、大きな力を発動するには、体内に取り込んだ「気」を、より強靭に育て上げねばならない。
山に登ったり、滝に打たれたり。
あるいは、長い時間座禅を組んで瞑想することもあった。
以前は、マティルドが指導していたという。けれど今は教えていない。
「ワッツァ陛下に禁じられたからでございます」
言いにくそうにマティルドが言う。
「なぜ? だって竜になれないまま、天が定めた時が来れば、バートラフは死んでしまうのでしょう」
驚いてわたしは問い返した。
「既に殿下には、教えられる全てをお授けしております。それを活かせないのは、なんと申しますか、そのう……」
マティルドは口を濁した。
「そのように、陛下がおっしゃったのです」
ワッツァは言ったのだ。それは、バートラフが無能なせいだ、と。
「なんてこと……」
つまりワッツァは、全てをバートラフの自己責任にしてしまった。
でも、それはバートラフのせいではない。彼は精一杯、頑張っているのだから。
ワッツァは、ひどい親だ。子どもを見殺しにするなんて、人倫に悖る。
あ、人でないか。
竜なんだ。
でも、バートラフの半分は、ジュリアさんから受け継いだ素質だ。
わたしと同じ、人間だ。
ぷんぷんと怒っているわたしを宥めるようにマティルドが言う。
「皇帝陛下を責めるのはおやめくださいませ。あまりに無能な竜は、天に代わって、皇帝や臣下の竜達が殺してしまうことさえあるのです。ですから、前回の魔力検定からバートラフ殿下が無事に帰られたのは、まさしく陛下の愛の証」
そんなことを言われても、素直に、ワッツァからバートラフへの「父の愛」を、信じることなんかできない。
なんとか、彼を一人前の竜にしてあげたい。生きて、幸せを掴む為に。
でも、わたしには、魔力だの気だのを使うことができない。彼に魔法を教えてあげることもできない。
いったいどうすればいいのだろう。自分の無力さが身に染みる。
「そうだ。誰かいい先生をお呼びして、魔力や気の手ほどきをしてもらったらどうかしら」
嫌味なやつだけど、ワッツァの義弟のオーギュストとか?
ところが、マティルドは首を横に振った。
「家庭教師を呼ぶことは、バートラフ殿下が嫌がられるのでございます」
「どうして?」
「この宮殿で働く者の大半は人間ですから」
「あ……」
年寄りではなく、力のある竜が来れば、魔毒もそれだけ増すことになる。それは、この宮殿で働く人間たちにとって、致命的な脅威となり得る。
わたしも含めて。
バートラフは、わたしたちを守るために、自ら、魔力を上達させる道を鎖しているのだ。まだ、あんなに小さいのに、人のことを気遣って。
「本当に殿下は、お優しい方です。龍にあるまじき優しさです。以前、宮殿のお庭で、野ネズミがヘビに丸のみにされる現場に居合わせたことがあるのですが、殿下は、目に涙を溜めておられました。あんなにお優しい竜人を、わたしは他に知りません」
聞いていて、わたしも胸がいっぱいになった。
マティルドが続ける。
「それに、気とは、修行や練習だけから得られるものではありません。魔術に関する技術の全ては、私からご伝授申し上げました。それでも魔力が顕現せず、完全な竜になれないというのは、陛下のおっしゃる通り、バートラフ殿下には、何か決定的に欠けているものがあるのです」
「彼に何が欠けているというの?」
「私にもわかりません」
悲し気に、マティルドは首を横に振った。
10
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなりました!〜個性豊かな獣人の国からコンニチハ!〜
カントリー
恋愛
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。
無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜
矢口愛留
恋愛
クリスティーナは、初級ポーションすら満足に作れない無能聖女。
成人を迎えたことをきっかけに、これまでずっと暮らしていた神殿を出なくてはいけなくなった。
ポーションをどうにかお金に変えようと、冒険者ギルドに向かったクリスティーナは、自作ポーションだけでは生活できないことに気付く。
その時タイミングよく、住み込み可の依頼(ただしとても怪しい)を発見した彼女は、駆け出し冒険者のアンディと共に依頼を受ける。
依頼書に記載の館を訪れた二人を迎えるのは、正体不明の主人に仕える使用人、ジェーンだった。
そこでクリスティーナは、自作の失敗ポーションを飲んで体力を回復しながら仕事に励むのだが、どういうわけかアンディとジェーンにやたら甘やかされるように。
そして、クリスティーナの前に、館の主人、ギルバートが姿を現す。
ギルバートは、クリスティーナの失敗ポーションを必要としていて――。
「毎日、私にポーションを作ってくれないか。私には君が必要だ」
これは無能聖女として搾取され続けていたクリスティーナが、居場所を見つけ、自由を見つけ、ゆったりとした時間の中で輝いていくお話。
*カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、私は異世界で――
恐怖と絶望の象徴・魔王の娘として生まれていた。
この世界で魔王の血を引く者は、恐れられ、忌み嫌われる存在。
孤独な運命を覚悟していたはずなのに、なぜか周囲の反応がおかしい。
父である魔王は超美形で娘に激甘。
魔族たちは命がけで守ってくる。
さらに人間側の勇者や王子、騎士までもが、次々と私に惹かれていき――。
どうやら私は、世界一の美貌を持って生まれてしまったらしい。
恐れられるはずだった魔王の娘・セラフィナ・ノワールの人生は、
気づけば溺愛と恋愛フラグだらけ。
これは、
魔王の血と世界一の美貌を持つ少女が、
数多の想いの中から“運命の恋”を選ぶ、
甘くて危険な異世界恋愛ファンタジー。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる