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32 頭上の白い竜
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風呂から上がり、用意されたドレスに自分で着替えると、謁見室へ連れて行かれた。
ワッツァが人払いを命じる。
豪奢な調度に彩られた広い部屋には、わたしとワッツァと二人だけになった。
「随分派手な入城だったではないか。頭上に竜を引き連れてとは」
「頭上に……竜?」
わたしは首を傾げた。心当たりがまるでない。
「白い竜だったと聞くぞ。道中ずっと、上空を飛んでいたとか」
それで、馬車の上空はいつも曇っていたんだ。すれ違う人々が上ばかり見ていたのも、竜の姿に気がついたから。
おかげで、盗賊にも遇わなかった。
「まさか、陛下がお遣わしになったのですか?」
「俺がそんなことをするものか」
待って。
白い竜?
「もしかして、バートラフ?」
玉座に座ったまま、ふいとワッツァは身を引いた。ひどく不快そうだ。
「いずれにしろ、今回の魔力測定で失敗すれば、あいつの命はない。もう、充分待ってやったのだからな。これ以上失敗を重ねるようでは、他の竜に対して、しめしがつかない」
「彼は、必ず、成功します」
きっぱりとわたしは断言する。
ワッツァは首を傾げた。
「いやに肩を持つな。そんなに半竜とはいいものか? 人間と竜人との間の子どもは。それなら、どうだ。俺の子を産まぬか?」
なにをこの皇帝は言っているのだろう。
「お前は俺の妃なのだから」
「いやです」
脊髄で反射していた。
もちろんわたしだって、政略結婚で生まれる子どもの重要性は知っている。
けれど、竜人との間のお産は、命がけだ。わたしは、ジュリアさんの二の舞を踏みたくない。
断られると思っていなかったのだろう。ワッツァは不思議そうな顔をした。
「半竜の存在は、人間の国とつき合う上で便利なのだ。帝王に、人間の血を分けた子がいれば、人間どもは安心するからな。戦闘中の国へと遣わすのにも都合がよい」
戦闘中の国へ遣わす?
「もちろん、人間なぞ竜の相手ではない。だが、人間に比べて竜の数は遥かに少ない。敵国に潜り込み、情報を齎す者が必要だ」
わたしは息を飲んだ。
「それって、まるでスパイのようではないですか!?」
ワッツァが義兄弟の契りを結んだオーギュストによると、兄が人間の女性に手を出すのは、ちょっと変だから、ということだった。
けれど、ワッツァには目的があって、人間との間に子どもを作っていたのだ。
そしてその目的は、人間との戦争で優位に立つことにある。
では、バートラフは?
魔力検定に合格した彼は、どうなってしまうのだろう。
ワッツァは肩を竦めた。
「そうだな。スパイともいう。いずれにしろ半竜は、人間の目くらましには最適だ。お前に、その半竜を産む栄誉を与えてやろう」
いらないから。そんな栄誉、いらない。
自分が所属する人間の世界を裏切るようなこと、わたしはしたくない。自分の子どもに、スパイになる苦しみなんか与えたくない。
はっとした。
バートラフ。彼はスパイになる運命なのか? 彼の半分は人間だというのに?
わたしの拒絶は、ワッツァには聞く価値もないもののようだった。
「今宵、お前の部屋へ行く。準備は、カミラにさせる」
自分の情婦に、同衾の床の用意をさせるなんて。
全方向にかけて、ワッツァは、狂っている。
謁見室を出ると、前の廊下に、バートラフが立っていた。
水色の髪を逆立て、なんだか苛立っているようだ。
「随分探しました。どこにいたんですか?」
「お風呂に入っていたのよ」
魔力検定は明日だ。
今は、スパイの話をして、彼を動揺させたくない。
「長旅で、そのう、少し汚れてしまったから」
「入浴すれば、疲れも取れるでしょうしね」
バートラフは納得したようだった。
「ずっと父上とご一緒だったわけじゃないんですね?」
「謁見室には、5分といなかったわ」
見る間に、尖った雰囲気が柔らかくなっていく。
そんな彼に問うてみる。
「あなた、旅の間中、わたし達の馬車を守ってくれたの?」
「誰がそんなことを?」
「だって、白い竜が見えたと」
「雲を見間違えたんだ」
ふん、とバートラフは肩を聳やかせた。
ワッツァが人払いを命じる。
豪奢な調度に彩られた広い部屋には、わたしとワッツァと二人だけになった。
「随分派手な入城だったではないか。頭上に竜を引き連れてとは」
「頭上に……竜?」
わたしは首を傾げた。心当たりがまるでない。
「白い竜だったと聞くぞ。道中ずっと、上空を飛んでいたとか」
それで、馬車の上空はいつも曇っていたんだ。すれ違う人々が上ばかり見ていたのも、竜の姿に気がついたから。
おかげで、盗賊にも遇わなかった。
「まさか、陛下がお遣わしになったのですか?」
「俺がそんなことをするものか」
待って。
白い竜?
「もしかして、バートラフ?」
玉座に座ったまま、ふいとワッツァは身を引いた。ひどく不快そうだ。
「いずれにしろ、今回の魔力測定で失敗すれば、あいつの命はない。もう、充分待ってやったのだからな。これ以上失敗を重ねるようでは、他の竜に対して、しめしがつかない」
「彼は、必ず、成功します」
きっぱりとわたしは断言する。
ワッツァは首を傾げた。
「いやに肩を持つな。そんなに半竜とはいいものか? 人間と竜人との間の子どもは。それなら、どうだ。俺の子を産まぬか?」
なにをこの皇帝は言っているのだろう。
「お前は俺の妃なのだから」
「いやです」
脊髄で反射していた。
もちろんわたしだって、政略結婚で生まれる子どもの重要性は知っている。
けれど、竜人との間のお産は、命がけだ。わたしは、ジュリアさんの二の舞を踏みたくない。
断られると思っていなかったのだろう。ワッツァは不思議そうな顔をした。
「半竜の存在は、人間の国とつき合う上で便利なのだ。帝王に、人間の血を分けた子がいれば、人間どもは安心するからな。戦闘中の国へと遣わすのにも都合がよい」
戦闘中の国へ遣わす?
「もちろん、人間なぞ竜の相手ではない。だが、人間に比べて竜の数は遥かに少ない。敵国に潜り込み、情報を齎す者が必要だ」
わたしは息を飲んだ。
「それって、まるでスパイのようではないですか!?」
ワッツァが義兄弟の契りを結んだオーギュストによると、兄が人間の女性に手を出すのは、ちょっと変だから、ということだった。
けれど、ワッツァには目的があって、人間との間に子どもを作っていたのだ。
そしてその目的は、人間との戦争で優位に立つことにある。
では、バートラフは?
魔力検定に合格した彼は、どうなってしまうのだろう。
ワッツァは肩を竦めた。
「そうだな。スパイともいう。いずれにしろ半竜は、人間の目くらましには最適だ。お前に、その半竜を産む栄誉を与えてやろう」
いらないから。そんな栄誉、いらない。
自分が所属する人間の世界を裏切るようなこと、わたしはしたくない。自分の子どもに、スパイになる苦しみなんか与えたくない。
はっとした。
バートラフ。彼はスパイになる運命なのか? 彼の半分は人間だというのに?
わたしの拒絶は、ワッツァには聞く価値もないもののようだった。
「今宵、お前の部屋へ行く。準備は、カミラにさせる」
自分の情婦に、同衾の床の用意をさせるなんて。
全方向にかけて、ワッツァは、狂っている。
謁見室を出ると、前の廊下に、バートラフが立っていた。
水色の髪を逆立て、なんだか苛立っているようだ。
「随分探しました。どこにいたんですか?」
「お風呂に入っていたのよ」
魔力検定は明日だ。
今は、スパイの話をして、彼を動揺させたくない。
「長旅で、そのう、少し汚れてしまったから」
「入浴すれば、疲れも取れるでしょうしね」
バートラフは納得したようだった。
「ずっと父上とご一緒だったわけじゃないんですね?」
「謁見室には、5分といなかったわ」
見る間に、尖った雰囲気が柔らかくなっていく。
そんな彼に問うてみる。
「あなた、旅の間中、わたし達の馬車を守ってくれたの?」
「誰がそんなことを?」
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ふん、とバートラフは肩を聳やかせた。
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