朝になるまでモフッてやるから覚悟しろ

せりもも

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りんごジャムと赤カブのマリネ

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 郵便局で用を済ませ、村の大通りを歩いていると、米村さんが歩いてきた。
 顔見知りの人だ。
 郵便局でよく会う。
 目を合わさぬよう、俯いたまま軽く頭を下げた。そのまま通り過ぎようとする。

「野添さん」
呼び止められた。

 ……なんで?
 溂は、村の誰とも、親しくつきあってはいなかった。つきあう理由もきっかけもないのだから、仕方がない。

「りんごのジャムな。うまかったよ」
「は?」
驚いて振り返ると、米村さんは、にこにこ笑っている。
「ありがとう。あんなに安くて、いいのかい?」
「はあ?」
「皮を煮出して赤くするんだってね。色がきれいで、孫が喜んでたよ」
「……?」
「また、買わせてもらうよ」

 ……というか、あなたにジャムを売った覚えは全く無いのですが。
 きょとんとしている溂を置いて、米村さんはどんどん、歩いていってしまった。





 「あなた、あれ、ほら、あの、赤かぶのマリネ。おーいしかったわよぉー。お酢がよく効いていて」

 スーパーで溂の顔を見るなり、その婦人は、ぺらぺらとしゃべり始めた。
 中年、といわれるほどの年齢だ。だが、バスや電車で、席を譲られるほどではない。

「塩加減も、ちょうどよかったわ。うちはほら、お父さんが減塩でしょ? あのくらいがちょうどいいの」

 名前も知らない人だ。顔も……見たことがあるような、ないような……。

「また頼むわね。次はピクルスが欲しいわ。もう少ししたら。……いつも来てくれるあの子に言えばいいのかしら。あの白い子に」
「白い子?」
「そう。真っ白で銀色の髪の」
「七緒は、言葉はわからないと思いますが?」

 フロレツァールの集合知の教えを守り、七緒は、溂以外の人とは、口をきかない筈だ。

「あら、七緒ちゃんって言うの!? きれいな子よね。確かにね。真っ白なのに、七色の光が尾を引いて流れていくイメージがあるわよね。すごくいい名前ね!」

 ネーミングセンスを褒められた。

「そういえば、あの子、口をきいたことがなかったわ。だったら、もうひとりの子に注文するわね。ピクルス。妹の家の分も頼もうかしら」

 いや、口をきかない以前に、言うことがあるだろう、と、溂は思った。
 羽が生えていることとか。
 鳥の足をしていることとか。
 フロレツァールであることとか!

 喋るだけ喋り散らすと、女性は、じゃあねー、と言って立ち去った。





 寺に戻って厨を開けると、案の定、ストックしておいた保存食が、あらかたなくなっていた。
 誰と誰の仕業か、容易に見当がついた。
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