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第二章
第六話 三年前との相違
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善希はお昼の休憩時間を利用して、尾形から教えてもらった店を検索してみた。
確かに尾形の言うとおり、野菜中心のメニューが多く、しかも温野菜を謳っているだけに家庭的な煮物系のメニューが多いようだ。
尾形の提案に乗るのは少し癪だったが、他にこれといった候補はない。他を探している時間もない。善希はその案に乗る事にした。
(三年前は適当に入った居酒屋が激マズで最悪だったからな。)
これで料理がマズイ事による その場の空気の悪化は避けられる。
あとは当日、雪枝を恩野菜へと導くだけ。
この店の近くには三年前に入った激マズ店がある。雪枝が激マズ店に入らないよう、その点だけが注意だ。
◇◇◇◇◇
そして仲直りデート当日。
(三年前は俺の遅刻が原因で、更に空気悪くなったんだっけ。)
わざと遅れたわけではなかった。だがどうしても急ぎの案件が片付かず、待ち合わせに遅れる事が確定。
当初はその事について雪枝に連絡するつもりだったが、途中で魔が差した。喧嘩の時からの雪枝の態度に腹が立っていた事もあり、“連絡なしに少し遅れて行ってやろう”、そんな子供じみた仕返しの念が善希の頭に過ぎったのである。
今思えば何ともくだらない仕返しだ。
人間関係とは、そんな些細な事から綻んでいくものである。
今回は、そんなくだらない事で棒に振るわけにはいかない。
折角与えられたチャンスなのだから。
(よし、完璧だ。ぬかりはない。三年前の遅刻の原因の案件は片付けたし、今日は余裕を持って早めに…)
会社を出ようと立ち上がったその時、事務の女性から声を掛けられる。
「永居さーん!一番に讃郭商店さんからお電話入ってまーす。」
「・・・・・。」
嫌な予感しかしない。
讃郭商店は三年前の遅刻原因案件の会社ではないが、善希の直感が言っている。電話に出たら遅れる、と。
そもそも、定時ギリギリに掛けてくる電話なんてろくなもんじゃない事がほとんどだ。
だが出ないわけにもいかず、渋々電話に出た。
「…はい、お電話代わりました、永居です。」
「永居さん!悪いんだけど、今すぐ対応して欲しい事があって…!」
「・・・・・。」
◇◇◇◇◇
結局 電話に約一時間つかまってしまい、会社を出るのは三年前とほぼ変わらない時間に。
電話をしながらPC作業を行なっていた為、LINE等で遅刻を連絡する事も叶わなかった。
(やっぱりこの時間なのかよ!!!!!)
腕時計を覗き込むと、時刻は十九時を回っている。どんなに頑張っても二十分の遅刻は免れない。
走りながら雪枝への連絡を試みるが、今度は別の得意先から電話が。
電話しながらの移動となってしまい、遅刻の連絡はとうとう出来ず。何の連絡もなしに待ち合わせ場所へと辿り着く羽目になる。
(こうなったら仕方ない。誠意を込めて謝ろう。俺が悪い事に変わりはないし。)
雪枝に叱られる未来。一度経験しているだけに口調や言い分は分かっているが、それ故に気が重い。
今はとにかく一分一秒でも早く待ち合わせ場所に着く事が先決だ。
そうして善希は待ち合わせ場所へと駆けつけた。
「ごめん!遅くなって!!」
『自分から呼び出しといて何なの?LINEのひとつぐらい送ってよ。』
(頭では分かっててもキツイな…。)
構えていた善希だが、次に掛けられた言葉は善希の予想を大きく外れた。
「大丈夫?事故にあったりしてないかって心配してたんだよ。」
(…え?)
これは夢か何かか?
自分が知っている台詞とは180度違う。善希はほっぺたをつねりたくなる気持ちを抑えつつ、目を瞬かせた。
「ごめん。間に合わなさそうだったから遅れるってLINE入れるつもりだったんだけど、得意先から電話掛かってきて…。」
「そっか。無事ならそれで良かった。じゃあご飯行こっか。走って喉も乾いてんでしょ。」
「・・・・・。」
◇◇◇◇◇
(なんだったんだ?さっきのは。俺が気遣いのLINE送った事で未来が変わってきてるのか?)
善希はLINEで雪枝に無理はするなと伝えた。
『大丈夫?無理はすんなよ。しんどかったら早退してゆっくり休んで。明日もしんどかったら明後日でも良いし。何なら、ご飯買って持って行こうか?』
“本当は作ってあげたい”、本心からそう思い、気遣いながら送った。その想いが届いたとでも言うのだろうか。
自分が知っている未来ではない事に、少なからず戸惑いを隠せない。だがそれは考えても出ない答えだ。本番はこれから。まずは三年前失敗した激マズ店を回避しなければ。
激マズ店付近を通り掛かる際、善希は無意識のうちに足早になっていた。無事にお店を通り過ぎた時、ふと雪枝が顔を上げて善希の方をチラリと見やる。その視線に気付いた善希は雪枝へと目を向けた。
(やべっ。つい速足で通り過ぎたけど、速かったかな。雪枝体調崩してんのに…。)
「この道の突き当りに身体に良さそうな野菜メインの料理屋あるんだけど、そこまで歩けそう?」
「えっ?」
慌ててフォローを入れる善希に、雪枝は再び善希へと顔を向けた。そしてその顔を覗き込んだ善希は、雪枝の目の下にクマが出来ている事に気付いた。
善希は雪枝の頬にそっと触れる。
「顔色悪いな。今日も体調悪い?やっぱ今日はやめとく?」
「い、いや。大丈夫…。」
「無理させたみたいでごめん。本当にしんどくなったら遠慮なく言えよ。」
きょとんとした表情を浮かべる雪枝。無理もない。喧嘩直後に善希からそんな気遣いの言葉を掛けた事など、過去数える程しかなかっただろう。しかも付き合いたての頃だけだ。
その事に気付いた善希は、自分で自分の態度を改めて恥じた。
確かに尾形の言うとおり、野菜中心のメニューが多く、しかも温野菜を謳っているだけに家庭的な煮物系のメニューが多いようだ。
尾形の提案に乗るのは少し癪だったが、他にこれといった候補はない。他を探している時間もない。善希はその案に乗る事にした。
(三年前は適当に入った居酒屋が激マズで最悪だったからな。)
これで料理がマズイ事による その場の空気の悪化は避けられる。
あとは当日、雪枝を恩野菜へと導くだけ。
この店の近くには三年前に入った激マズ店がある。雪枝が激マズ店に入らないよう、その点だけが注意だ。
◇◇◇◇◇
そして仲直りデート当日。
(三年前は俺の遅刻が原因で、更に空気悪くなったんだっけ。)
わざと遅れたわけではなかった。だがどうしても急ぎの案件が片付かず、待ち合わせに遅れる事が確定。
当初はその事について雪枝に連絡するつもりだったが、途中で魔が差した。喧嘩の時からの雪枝の態度に腹が立っていた事もあり、“連絡なしに少し遅れて行ってやろう”、そんな子供じみた仕返しの念が善希の頭に過ぎったのである。
今思えば何ともくだらない仕返しだ。
人間関係とは、そんな些細な事から綻んでいくものである。
今回は、そんなくだらない事で棒に振るわけにはいかない。
折角与えられたチャンスなのだから。
(よし、完璧だ。ぬかりはない。三年前の遅刻の原因の案件は片付けたし、今日は余裕を持って早めに…)
会社を出ようと立ち上がったその時、事務の女性から声を掛けられる。
「永居さーん!一番に讃郭商店さんからお電話入ってまーす。」
「・・・・・。」
嫌な予感しかしない。
讃郭商店は三年前の遅刻原因案件の会社ではないが、善希の直感が言っている。電話に出たら遅れる、と。
そもそも、定時ギリギリに掛けてくる電話なんてろくなもんじゃない事がほとんどだ。
だが出ないわけにもいかず、渋々電話に出た。
「…はい、お電話代わりました、永居です。」
「永居さん!悪いんだけど、今すぐ対応して欲しい事があって…!」
「・・・・・。」
◇◇◇◇◇
結局 電話に約一時間つかまってしまい、会社を出るのは三年前とほぼ変わらない時間に。
電話をしながらPC作業を行なっていた為、LINE等で遅刻を連絡する事も叶わなかった。
(やっぱりこの時間なのかよ!!!!!)
腕時計を覗き込むと、時刻は十九時を回っている。どんなに頑張っても二十分の遅刻は免れない。
走りながら雪枝への連絡を試みるが、今度は別の得意先から電話が。
電話しながらの移動となってしまい、遅刻の連絡はとうとう出来ず。何の連絡もなしに待ち合わせ場所へと辿り着く羽目になる。
(こうなったら仕方ない。誠意を込めて謝ろう。俺が悪い事に変わりはないし。)
雪枝に叱られる未来。一度経験しているだけに口調や言い分は分かっているが、それ故に気が重い。
今はとにかく一分一秒でも早く待ち合わせ場所に着く事が先決だ。
そうして善希は待ち合わせ場所へと駆けつけた。
「ごめん!遅くなって!!」
『自分から呼び出しといて何なの?LINEのひとつぐらい送ってよ。』
(頭では分かっててもキツイな…。)
構えていた善希だが、次に掛けられた言葉は善希の予想を大きく外れた。
「大丈夫?事故にあったりしてないかって心配してたんだよ。」
(…え?)
これは夢か何かか?
自分が知っている台詞とは180度違う。善希はほっぺたをつねりたくなる気持ちを抑えつつ、目を瞬かせた。
「ごめん。間に合わなさそうだったから遅れるってLINE入れるつもりだったんだけど、得意先から電話掛かってきて…。」
「そっか。無事ならそれで良かった。じゃあご飯行こっか。走って喉も乾いてんでしょ。」
「・・・・・。」
◇◇◇◇◇
(なんだったんだ?さっきのは。俺が気遣いのLINE送った事で未来が変わってきてるのか?)
善希はLINEで雪枝に無理はするなと伝えた。
『大丈夫?無理はすんなよ。しんどかったら早退してゆっくり休んで。明日もしんどかったら明後日でも良いし。何なら、ご飯買って持って行こうか?』
“本当は作ってあげたい”、本心からそう思い、気遣いながら送った。その想いが届いたとでも言うのだろうか。
自分が知っている未来ではない事に、少なからず戸惑いを隠せない。だがそれは考えても出ない答えだ。本番はこれから。まずは三年前失敗した激マズ店を回避しなければ。
激マズ店付近を通り掛かる際、善希は無意識のうちに足早になっていた。無事にお店を通り過ぎた時、ふと雪枝が顔を上げて善希の方をチラリと見やる。その視線に気付いた善希は雪枝へと目を向けた。
(やべっ。つい速足で通り過ぎたけど、速かったかな。雪枝体調崩してんのに…。)
「この道の突き当りに身体に良さそうな野菜メインの料理屋あるんだけど、そこまで歩けそう?」
「えっ?」
慌ててフォローを入れる善希に、雪枝は再び善希へと顔を向けた。そしてその顔を覗き込んだ善希は、雪枝の目の下にクマが出来ている事に気付いた。
善希は雪枝の頬にそっと触れる。
「顔色悪いな。今日も体調悪い?やっぱ今日はやめとく?」
「い、いや。大丈夫…。」
「無理させたみたいでごめん。本当にしんどくなったら遠慮なく言えよ。」
きょとんとした表情を浮かべる雪枝。無理もない。喧嘩直後に善希からそんな気遣いの言葉を掛けた事など、過去数える程しかなかっただろう。しかも付き合いたての頃だけだ。
その事に気付いた善希は、自分で自分の態度を改めて恥じた。
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