目覚めたら三年前でした。

柚木 小枝

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第二章

第八話 オススメの紅茶

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そうは言ったものの。
お礼の品は何を渡せば良いものか。

先程は何とか匂わせ投稿の格好の餌食となりそうなランチ会を回避出来たが、“贈る物”にも注意が必要だ。
間違っても“残る物”を贈ってはならない。

尾形は何を好むのか?
…いや、むしろ“尾形の好む物”は贈らない方が良いのでは。
永居さんオレが私の好きな物を買ってくれた♡』等と社内で触れ回られても面倒だ。

ここは善希自分が好きな物を押し付け、むしろ嫌われるぐらいの方が良い気がする。
自分が良いと思う物をお勧めしておけば、適当に選んだ感は出ないだろう。


「よし、そうと決まれば。紅茶でも買ってくるか。紅茶ならそこまで好きじゃなくても飲めるだろ。…いや、ちょっと待てよ。」


そこで次なる懸念が浮かび上がる。

プレゼント用で買ってきて社内で渡せば、それこそ変な噂が立ってしまうのでは?

この便利なご時世。わざわざ買ってくる必要はない。LINEには便利な機能、“ギフト”がある。


「これで贈っとくか。メッセージは…『先日は有難うございました。』これだけで充分だろ。」


そうして善希は尾形にギフトという形で紅茶を贈った。


◇◇◇◇◇


対応に抜かりはない。
ギフト送信後、尾形からはお礼のLINEが届いたが、リアクションのみで返信はせず。
仮にインスタにアップされたとて単なる紅茶。義理感が満載で逆に疑いが晴れるかもしれない。


そうして数日の間、善希は尾形のインスタに注意を払った。だが、特にそれらしき投稿は上がってこない。


「まぁ流石に単なる紅茶なんてアップしないよな。」


善希はホッと胸を撫で下ろして、いつもどおり出勤した。

一日の仕事を終え、帰路に着いた時に何気なく尾形のインスタページを開いてみる。
すると新たな投稿が。


『好きな人から紅茶セット頂いちゃった!タンブラーと一緒に♡この紅茶のブランド、私も大好きだから凄く嬉しい!大切にします♡』

「・・・・・。はァァァ!?」


いやいやいやいや、待て待て待て待て。
タンブラーなんて贈ってあげてねぇし!!!!!

怒りの感情が芽生えた善希だが、それは一瞬で恐怖へと変わる。

純粋に怖すぎる。

尾形の方がいくつも上手を行っているのもそうだが、どう転んでも悪いルートに進もうとする現実に、悪役令嬢に転生した気持ちになった。


(なんだこれ、最近流行りの転生もの!?悪役令嬢系のやつ!どう回避しようと進めても処刑ルートに進むやつ!!)


とは言え、その投稿について尾形に言及する事は叶わないだろう。タンブラーは善希が贈った物ではないからだ。
だがこれでハッキリした。尾形はやはりこの時点で既に善希に好意を抱いているという事が。

流石にこのタイミングで同じ銘柄、同じ味の紅茶を他の誰かからプレゼントされたとは考え難い。
なんせ、味は普通ならあまり選ばないようなクセ強のコアな物を選んだのだから。
好き嫌いの分かれる商品を選んだのである。普通ならアールグレイやアッサム等、メジャーな物を選ぶだろう。何なら、『こんな紅茶贈ってきやがって!』ぐらいの感じで嫌われても良いと思って選んだのだ。

だが、斜め上を行く尾形の行動に、善希は大きなため息を吐いた。


◇◇◇◇◇


それから数日が経ち、雪枝から仕事終わりのお誘いが掛かる。


『今日の仕事終わり、時間ある?付き合って欲しい場所があるんだけど。』

(付き合って欲しい場所、か。なんだろう。この誘い方だと、ご飯だけじゃないって事だよな。…ま、行ってみれば分かるか。)


行き先について推理しようとした善希だったが、数時間後には分かる答えだ。推理するだけ時間の無駄だと思い、了解とだけ返事を送った。


◇◇◇◇◇


そして仕事終わり。雪枝指定の駅で待ち合わせをする。


(あれ?この駅って確か…。)

「お待たせ。」
「お疲れ様。仕事は順調?今度プレゼンあるんだろ?」
「うん。準備万端だよ。」


他愛ない話をしながら、雪枝について行く。
そして辿り着いた先は…


(ここって、俺が昔雪枝に勧めた…)

「ここだったよね?前にオススメしてくれた紅茶って。」
「!」
「最近仕事疲れが酷いから紅茶で癒やされたいなって思って。」
「!?」

(そうだ、雪枝が残業続きで疲れた顔してた時に連れて来たんだっけ。)


少しでも雪枝の疲れを取れたらと思って連れてきた紅茶専門店。
だが当時はタイミングが悪かったように思える。疲れを癒やしたいが為に良かれと思って連れて来たのだが、仕事終わりに連れ回してしまった事で、逆に疲れさせてしまったように思える。
善希は熱のこもった口調で癒しの紅茶を勧めたのだが、当の本人は睡魔で話半分だった。

そう思っていたのだが…。


「…覚えててくれたんだ。」


素直にめちゃくちゃ嬉しい。
そもそも、こうして雪枝から頼りにされた事が嬉しかった。
自分の想いが届いていた、そう思うと自然と笑顔が溢れる。

一方の雪枝は目を丸くして善希を見つめている。


(ハッ!やべっ、つい顔が緩んでたっ!)


とは言え、たかが紅茶。
付き合っている彼氏の好きな物ぐらい覚えていても当然、かもしれない。それに対してここまで喜んだら逆に気持ち悪いのでは?
そう思った善希は慌てて元の表情に引き締める。

二人は気を取り直して入店した。

雪枝のリクエストに応えようと、善希は癒やし効果のある紅茶を探す。
そんな善希に、雪枝が一つの商品を手に取って声を掛けた。


「ねぇ、これはどうかな?美味しい?」
「!?」


雪枝が持っているのはクセ強の好き嫌いが分かれる紅茶。そう、尾形に贈った紅茶だ。
雪枝の嗜好を考えれば間違ってもリラックスは出来ない。オススメした紅茶店の商品を初めて自分で選んで飲んで、それが美味しくなければその印象だけが残ってしまう。下手をすれば“マズイ紅茶店”という認識になってしまうだろう。何としても回避しなければ!

その焦りに駆られる善希の表情は、無意識に凍り付いていた。
善希は慌てて雪枝が好みそうな紅茶を手に取って勧める。


「あー…どうなんだろ。俺、限定のフレーバーティーってよく分かんなくて。こっちのキャラメルがオススメかな。毎日飲んでる。甘い香りがするから仕事の疲れも癒せると思うよ。」
「そう。じゃあそれにしよっかな。」


雪枝は善希に勧められたキャラメルの紅茶を購入する事にした。
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