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第13章「姫の逆襲」
第109話「そいつを、ぶち殺してやる」
しおりを挟む(UnsplashのBrock Wegnerが撮影)
今野は腕時計をベッドに投げつけると同時に、環の小さな身体を自分の下におさえ込んだ。
環は、身長が160センチちょっと。
今野は175センチあるから、やすやすと押し倒せる。そして目の前に柔らかい耳たぶがふるえているのが見えたとたん、時制が吹っ飛んで、思いっきり歯を立てた。
「……いたっ」
さすがに、環が小さく悲鳴を上げた。
その悲鳴が、またゾクゾクするほどに今野を駆り立ててゆく。
「不用心すぎるぜ、環ちゃん。男のものを部屋に置いたまま、別の男を入れちゃダメなんだ」
「ちがう……今野さん、聞いて」
「ああ、聞くよ。君のかわいい声なら、聞く」
そう言うと、ふっくらした胸に爪を喰い込ませて、なぶりはじめた。
環は乱暴な愛撫にじっと耐えている。その様子がまた、今野をどんどんおかしくしていった。
今野哲史は、環を目の前にするとコントロールがきかなくなる。
ただセックスのことだけではない。
そもそも、聡の剛腕秘書、楠音也《くすのきおとや》から
『何があっても、環ちゃんだけには手を出すな』
と厳命されていたにもかかわらず、たった一晩もこらえきれず、朝6時にいきなり松ヶ峰邸を強襲した。
そこには、音也に対する当てつけの気持ちもあっただろう。
「簡単に、アニキたちの言うなりになれるかよ」
低くつぶやくと、環がびくりと震えた。
「あにきたち? サト兄さんと、音也さん……?」
環がそう言った瞬間、今野の細すぎる自制の糸は簡単に引きちぎれた。
環が、自分以外の男の名前を呼ぶことに腹が立つ。
環のまわりに、自分が逆立《さかだ》ちしてもかなわない男が二人もいることに、腹が立つ。
松ヶ峰聡と、楠音也。
どちらも環とは血縁関係はなく、したがって、どちらが環をさらっていってもおかしくはない。
二人に対してまったく勝ち目のない自分に対する歯がゆさが、今野の全身を揉みしだくように駆けめぐっている。
だが、たったいま藤島環のそばにいるのは、今野だ。
今野だけが環の柔らかい身体を押しひしぎ、優しい部分を乱暴に食い荒らすことができる。
物理的な距離が近いからだ。
だがそれ以外に、今野があのふたりに勝てる要素があるだろうか。
今野はもう我慢できずに環のスカートの中に手を差し入れた。
環が、身体をよじる。
「こんのさん……っ」
「あの時計の持ち主を言えよ、そいつ、ぶち殺してやる」
「そんなこと、できません!」
環が悲鳴のようにそう言うと、またしても今野の怒りが燃え広がった。
「できるさ、やれるぜ。環ちゃん、
君は、君に惚れている男のバカさ加減を甘く見ている。後がどうなろうと、そいつを、ぶち殺してやる」
「できません!」
環は珍しく声を荒げてそう言うと、ぐいっと今野の身体を押しのけた。
想像以上に強い力で押されて、今野はベッドの上にひっくり返った。
「……くそ。そんな男をかばうなよ、環ちゃん」
「ちがいます」
環は急いでベッドの上に起き上がると、あおむけに転がったままの今野の上にかがみこんだ。それから愛らしい小鳥のエナガのようにほんのりとほほ笑むと、そっとキスをした。
「この時計は、紀沙おばさまのものなんです」
「……きさ、おくさん? 紀沙奥さんの時計?」
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