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第18章「コルヌイエホテルにて」
第151話「おれ以外の男」
しおりを挟む(UnsplashのMariela Ferboが撮影)
環の小さな頭は、つぎつぎと考えた。
今野は政治家としてどこまで行けるだろう?
性格から言って、聡のように国政《こくせい》の大舞台で華やぐタイプではない気がする。むしろ、地元の小さな輪の中で支援者とやり取りしながら存在感を増すほうだ。
だとしたら、市議か県議―――そう、県議あたりがいいかもしれない。
いま24歳なら政治家にはまだまだ若い。あと2年か3年ほど聡の下で実績をあげ、30歳前後になれば、県議選でもいいところへ食い込めるだろう。
あとは後援会の固さがものを言う。
それを作り上げるのは、環の手腕にかかっている。
そんな環の気持ちを知らず、今野はただもう明るくしゃべった。
「俺、こんな高級ホテルのスイートになんか泊まったことねえんだけど。やっぱ、すごいねコルヌイエホテルって。金《かね》と価値が一致しているっていう感じがするよ。こんなところでさ……」
言葉を切り、隣にいて一緒に眼下に広がるホテルの日本庭園を見おろしている環にニヤリとしてみせた。
「カノジョをたっぷりかわいがったら、楽しいよね」
「かわいがる? ……あっ、何言っているんですか、今野さん!」
「明日はさ、べつに用事もないじゃん。今日の夕方、人に会う用事が終われば、明日はのんびり東京見物して帰ればいいって、聡さんから言われているんだよね。
ってことはさ、今夜はじっくりと環ちゃんといろんなことをして、明日の朝は寝坊するってことで」
「そういうことじゃありません!」
顔を赤くして怒ると、今野が笑いながらそっと後ろから抱きかかえてきた。
「環ちゃん」
「なんですか」
「怒んないで……緊張、とけた?」
はっと、環は息をのんだ。
たしかに、名古屋駅を出てからついさっきまで、環はひそかに緊張しっぱなしだったのだ。
亡き松ヶ峰紀沙《まつがみねきさ》の遺品を、昔の恋人に手渡す。その行為の唐突さに、環自身も怖気《おじけ》づいている。
だが、緊張も不安も怖さも、今野には隠しきっていたつもりだった。
環は、自分を支えている今野の腕をじっとみつめた。
「……気づいていました? ずっと緊張していること」
今野はポリポリと自分の鼻の頭をかいた。
「どうかな。今日は朝からあんまり食べないとは思っていたよ。でもほら、その、いろいろあるだろ、女の子には」
「女の子?」
今野は上唇をぺろりとなめて、
「ええと。“そういう”の」
ああ、と環はうなずいた。それからあわてて、
「あの。ちがいますよ、今」
それを受けた今野はぶっきらぼうに答えた。
「違うみたいだね。あのさ環ちゃん、誤解してほしくないんだけど」
「はい」
「俺は、環ちゃんと“そういう状態”であっても、そうじゃなくても、今回の東京行きに、俺以外の男を付き添わせるつもりはなかったよ」
「おれ以外の男?」
環は今野を振りかえった。
こういう時の今野はいつも決まって、少し怒っているように見える。バランスのいい顔立ちをしぶそうにしかめて、口をとがらせているからだ。
「環ちゃんが困ったり悩んだりしている時に、隣にいる男は俺だ。聡さんでも、音也《おとや》さんでもだめだ。
環ちゃんにもそう思っていてほしい」
ゆっくりと、抱きしめている今野の両手に力がこもった。
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