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第7話

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「ベルちゃん~~マジ超絶かわゆす!!!」

「ベルちゃんペロペロッ!!!」

 野太い声援が飛び交う、熱気でサウナと化したライブ場。
 狂い踊るようにペンライトを振りかざす人々の群れ。
 眞央は心の中でつぶやく。
 
 ココハ異国デスカ?

 彼らの視線を一心に受け止めているのは、ステージで孤高に君臨する10代前半の美少女。笑顔を決して崩さず、彼らのために踊り、彼らのために天使のような歌声を捧げる。
 アイドルってマジですげぇなと、眞央が呆気に取られていた時、美少女アイドルことベルと視線が交わった。
 ベルは心底驚いた様子で、歌うのを放棄して「まおー様!!!」と叫んだ。
 そしてステージから飛び下りると、人をかき分け、眞央の元へと走ってきた。

「うそ、夢みたい。ベルの所に来てくれるなんて」

 ベルはギュッと眞央に抱きついて、涙ぐんで言った。
 マシュマロみたいな感触、甘い匂い。
 女子と体を密着するくらい接近したことのない童貞には、なかなかキツイものがある。
 場内はしんと静まり返っていたが、やがて何ごとかとざわざわし始める。

「あの……とりあえず場所変えないっすか?」

 眞央は周りからの殺意のこもった視線に耐えきれず提案した。



***


 やむを得ない事態(主に眞央のせい)でライブは中止となり、眞央はベルの楽屋に招かれた。
 眞央は自分の状況を、全て包み隠さずベルに話した。
 この行為は敵の懐に裸で飛び込むようなものだが、助けてもらうためには嘘をついちゃいけないと思っていた。
 決して駆け引きが下手だからじゃない。断じて違う。
 しかしベルは意外にも、家の前にいた黒スーツの怪しげな男らは、自分の追っ手ではないと言い放った。

「あれはレヴィちゃんかルーちゃんの追っ手じゃないかなぁ。二人とも裏の世界の人だからね~」

 ベル曰く、レヴィちゃんことレヴィアタンはニューヨークマフィア。ルーちゃんことルシファーは日本でヤクザをやってるらしい。
 七つの大罪の顔面偏差値とスペックがメチャクチャ高くて、どうして魔王の俺がこんな底辺なのか理解ができない。転生の意味を考えたくなる眞央。

「でもよかったぁ。ちゃんと逃がしてあげられて」

 急にベルが安堵した顔で衝撃的発言をしたので、眞央は思わず聞き返す。

「逃がしてって……じゃあ、あのおじさんに助けるよう仕向けたのは――」

 「ベルだよ」と少女は迷いなく答えた。
 「どうして?」と眞央は信じられずに問う。

「元々ベルはあーゆうこと、したくなかったの。だって、拉致して集団レイプなんて犯罪だもん。本当は止められたら良かったんだけど、逆らってもし殺されたりしたらって思うと……」

 ベルは細い肩を震わし、途中で口をつぐんだ。
 ギラギラしたケダモノ同然の男性陣の中で唯一の女で、しかも非力な子供。
 それなのにこのか弱い少女は、自分の危険を顧みず俺を逃がしてくれた。そのことに素直に眞央は感謝し「なんかごめん。あんたも俺と同じ被害者なのに……」と素直に口にすると、ベルは気にしないでと笑って言ってくれた。

「まおー様がベル達のこと思い出せないのはちょっぴり寂しいけど、ベルはこうして再会できただけで、すごく嬉しいの」

 雪のように白い頬が一気に赤く染まる。
 本当に俺自分に会いたかったのが見て取れて、眞央まで照れてしまう。
 うぅ……ベルちゃんマジ天使。
 こんな見た目も中身も可愛い子、ファンにならないはずがないわ。
 眞央が内心感動を噛みしめていると、ベルは真剣な顔で「今、他の七つの大罪がまおー様を死にもの狂いで探してる」と告げた。

「ベルはまおー様を守りたい。だから、ベルのお家に来て」

 匿ってあげると言ってくれる少女に、彼は疑う余地なく快諾した。



シャリ…シャリ…

 ――――耳元で、金属同士が擦れ合う音がする。
 眞央は重い瞼を開けるが、視界はモヤがかっていてよく見えない。意識も朦朧としていて、どうして眠っていたのかさえ思い出せないでいた。

シャリ…シャリ…

 ベルの家に来たとこまでは覚えている……そこからの記憶が眞央には全くない。

「お寝坊さんですねぇ、まおー様」

 ネットリとした囁きに目を向けると、両手に斧を持った少女がいた。

「…………ベル」

 眞央は驚いて反射的に手を動かしたが、何か強い力で押さえつけられていた。
 拘束ベルトだ。革製の拘束ベルトのせいで、両手だけでなく両足も身動きが取れない。
 しかもやけに冷たい感触が全身にこびりつくなぁと思っていたら、案の定裸だった。
 真っ裸で手術台の上に磔状態にされ、目の前には凶器を持ち微笑む少女――どうやら俺はとんでもない過ちを犯したらしい。
 何をされるか分からない恐怖に震える彼に、ベルは「ねぇ、まおー様。ベルの自己紹介まだしてなかったよね」と優しい口調で語りかける。

「七つの大罪が一人、『暴食』のベルゼブブ。前世では死体処理をしていたの。人間はもちろん、獣や精霊、逆らった同胞も全て噛み千切って、飲み干して、『食べた』の」

 シャリ…シャリ…と両手に持った斧を擦り合わせ、淡々と答えるベル。
 彼はいやでもこの先に待ち受ける展開が読めてしまい、全身の血がサーッと抜かれたような気持ちになった。

「まおー様のカラダ、骨の髄までたっぷり味わせてね♪」

 『暴食』の悪魔は、天使のような微笑みを浮かべて言った。
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