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第一章 記憶喪失 -きおくそうしつ-

1 ここはどこンゴ!

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「お前さあ。キモいんだよ。ンゴンゴって老人かよ」
 もう語尾なんてンゴなんて言わないよ絶対。
「ど~でもいい話をペラペラ喋り出すしさあ。ヲタク丸出しでキモすぎ。高校も大学も無理して同じ所に来やがってストーカーかっつうの。いつもいつもエロい目で見てさあ。スリーサイズ聞かれた時マジ殺意芽生えた」
 あれ? おかしいな。涙が溢れてきた。
「前も寝たフリした私の髪の毛触って匂いかいでキスしやがったろ。耳元でンゴンゴ言いやがってマジ鳥肌。キモいからすぐ髪切ったし。告白? 婚約指輪? マジキモいマジ無理マジ死ねよ」
 全否定。悲しい……悲しいよ。
「お前は! 事故で! 落下した! って! ご両親にも! 伝えて! おいて! や! る! よっ!」
 ああ。僕の人生、何だったのかな。彼女のために生きて。でも彼女に殺されるなら……それもいいか。
「お、ち、ろォ!」
 最期に見た光景。濃紺の小箱を投げ捨てる彼女の姿。遠いのに。さっきまで霞んで見えなかったのに。彼女の鬼のような形相も。小さな宝石の輝きも。妙にくっきり見えた。

 何百メートルの高さだろう。急激な気圧の変化。息苦しい。岩。樹々。地面が。ゆっくりと近付いて来る。木の葉一枚一枚の形まで見分けられるほど……なんでこんなに遅いンゴ? 早く楽にして欲しい。ああ、痛くないといいンゴねえ……



「……か?」
 良かった。痛くない。それどころか、ふわふわして気持ちが良いンゴ。
「……夫ですか?」
 暖かいし、柔らかいし、何だかすべすべの手触りンゴねえ~……
「意識はありますか?」
 えっ!? ここは……天国? これはラノベでよくある展開! 異世界転生ンゴ!?
「大丈夫ですか?」
 呆然とする僕を、上から覗き込むように見ているのは、漆黒ロングヘア―の女性。誰? もしかして女神様ンゴ?
「聞こえますか?」
 近い近い近い! こんな間近で、こんな美人に見られたら! 女性経験がない僕はどうしていいか分からないンゴ。
「落ち着くンゴ、ここはどこンゴ!?」
「良かった。成功みたいです」
「セイコウ?」
 セイコウと言うと、男性と女性が真夜中に全裸でキャッキャウフフする、あれンゴ?
「起きられますか? 無理はせず、もし大丈夫なら御体を起こして頂けますか」
 無意識に撫でていた、柔らかくて温かいもの。それはこの女性の……お尻!? そして膝枕!? 慌てて跳ね起きたンゴ。

「あら。動けるみたいですね。御体は問題ないようですわ」
「ああ、見ていたから分かるよ、朱雀」
 朱雀、と呼ばれたのは、僕を膝枕していた中性的な魅力の女性。二十代後半か、三十そこそこぐらいに見えるンゴ。
「では手前は奏上に参る。後は頼んだよ」
 朱雀と呼んだ方は性別不詳の……多分男性ンゴ?
「問題ないとは思うけど、くれぐれも油断しないようにね」
「ええ、大丈夫です。いざとなったら音階を使いますから」
 そう言い残すと、スラッとしたスタイルの、床に届くほど長髪を一つに束ねた男性は部屋を後にした。広い和室の中は、僕と朱雀と呼ばれた女性、二人きりになってしまったンゴ。

「あの~ンゴ……」
 何がどうなっているのか、さっぱり分からない。混乱する僕に、優しく話しかけてくれたンゴ。
「まだ無理をなさってはいけません。定着度も分かりませんし、体も思うように動かないと思います。意識レベルは……いかがでしょう? 気分が悪かったり、何か体の異変はありませんか?」
「異変ンゴ? ン~っゴ……」
 お腹や背中を触ってみる。うん、いつも通り、だぶだぶ贅肉だらけのだらしないお腹! 自分で言ってて悲しくなるンゴ。
「問題ないンゴ」
「そうですか、それは幸いです。御名前は覚えていらっしゃいますか?」
「名前? それはもちろ……ンゴ?」
 僕の名前は……名前? なんでだろう、覚えているのに、覚えている筈なのに……記憶が……おかしいンゴ……
「名前は……僕の名前ンゴ……こ……すざ……たか……?」
「大丈夫ですよ、ゆっくり。ゆっくりです」
 なぜか……思い……出せないンゴ……
「分からないンゴ……名前が……分からないンゴ」
 泣きそうだ。なんで名前が分からないンゴ!?
「落ち着いて下さい、ね、大丈夫ですから。意識が混濁しているのですね。あっ暴れないで、危な……キャアッ!」
 気持ちが悪い! なんだろう、この感じは! 自分が自分ではないみたいンゴ!
「暴れないで! お願い、危ないですからっ」
 腹の底から湧いてくる違和感。恐怖感。絶望感ゴ!

「仕方がないわ。……アーアーアー、アアアー、アーアー……」
 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!

「アーアアアー、アアアーアアー……」
 気持ち悪い! 眠い! 何か聞こえるンゴ……

「アアアーアアアー、アーアーアアアアアー……」
 気持ち悪い。眠い。歌声が頭の中で響くンゴ……

「アーアーアー、アアーアーアー……」
 眠い……歌声が体中に沁み込んで行くンゴ……

「アーーーアーーーアーーー、アーアーーーアーーーアーーー……」
 そうして僕は意識を失ったンゴ……


「大丈夫ですか?」
「ぐっすり眠ったわ……」
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