夜明けのカディ

蒼セツ

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第1章

4.黒マントの下にあるもの

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「それより。この町をどう見る?」

「釣りには最適だけど、人がほぼいないね。平和な町ではなさそうだよ」

「ほら」とスレッドが顔を向ける。

「あんなところでまた喧嘩」

 スレッドが見つけたのは、船で揉める二人。話しを聞こうと思い近づくと、一人が海に突き落とされた。

「生意気言ってんじゃねぇぞ。てめぇらはタタルド様のために働けば良いんだよ。次に舐めた口聞いたら魚の餌にするからな」

「待ってくれよ! これ以上は無理だ! 死んじまう! 俺には家族がいる! 小さい子供もだ! 儲けの殆どをもってかれちゃ、どうしようもねえ!」

 警備隊の一人が鼻で笑う。

「使えねぇなら死んじまえよ。ガキどもも後で送ってやるからよ」

その言葉を聞き、ルルカは怒りが込み上げてきた。スレッドは特に何も感じず、カディは表情こそ変えなかったが……

「おい」「あん?」呼びかけて振り向いた男の顔を殴り飛ばしていた。

軽い脳震盪を起こし、状況が理解できない警備隊。カディはその頭を掴み、海へと落とした。

「あ、あんた……誰だ?」

「待ってて。今引っ張り上げるから」

 言いながらスレッドが釣り竿を構えたが、すぐにカディが引っ張り上げた。

「あ、ありがとうよ。あんたら、旅の人か?」

自己紹介を返したカディは、更にこう続けた。

「静かな町だと思ってたが、事情がありそうだな」

「あぁ、この町はタタルドに支配されている。金で自警団という暴力を買い、俺たちを奴隷のように働かせているんだ」

 自分の故郷と全く同じ状況に、嫌な顔をするルルカ。

「SOへの通報は握りつぶされ、船を出して助けを呼ぼうにも、家族を人質に取られててそれもできない」

「仮に助けが来ても、それよりも先に人質を殺せるもんね」

男があえて口にしなかった嫌な部分を、スレッドが口にする。

「他の住民たちは?」

「みんな家に籠もってる。ボロボロに働かされて気力もないし、たまに外に出れば自称警備隊に絡まれる」

イリソウはメダルを優先し、住民にはあまり関わらなかったが、ここならば……

「そいつらが全員入れる建物はあるか?」

「釣り竿屋の向かいの倉庫なら」

「全員をそこに集めろ。支配から抜け出したいならな」

 男は少しだけ疑問に思ったが、急げと言われ分かったと返した。

「釣り竿屋ってどこだ?」



 スレッドに案内されて件の場所へ向かうと、三十人くらいの住民が集まっていた。

「みんなボロボロだね」

 漁師らしく体つきは良いが、顔はくたびれていて元気がなかった。

「これで全員か?」とカディの問いに住民が頷いた瞬間、また扉が開いた。

「何してやがんだてめぇ」

 声の主はレジオンだった。住民が次々と倉庫に入っていくのを見て、様子を見に来たのだ。

「てめぇには関係ねぇ」

 面倒そうに目をそらすカディに、レジオンが言葉を放つ。

「あるんだよ。こいつらを危険な目に合わせるなら容赦しねぇ!」

 ゼガンを嫌うレジオンは槍を取り出し、カディへと襲いかかった。

 カディは突き出された槍の軌道を手で逸らすと、腹部を殴りつけた。

「おぉお……ぐぉお」

 苦痛に悶えながら、レジオンは仰け反り、膝をつく。さっきと同じように重く速い一撃。まぐれだと思いたかったが……

「邪魔するってんなら、てめぇには眠ってもらう」

 こいつは俺より強い……嫌な考えを振り払うように、レジオンは吠える。

「じょ、上等だ。グラサンの前にてめぇから片付けてやらぁ!!」

 腹部を握りしめながら、レジオンは鋭い顔をカディに向ける。

「待ってくれレジオンさん!」「待ってくれカディさん!」

 ほぼ同じタイミングで、二人の住民から声を駆けられるカディ達。

「カディさんは俺を警備隊から助けてくれたんだ」

「レジオンさんはタタルドのペットに噛まれそうになった家の子を助けてくれた!」

「悪い人じゃない!」

 助けられた住民二人が、それぞれの恩人の前に立つ。

「ゼガンがそんなことをするはずがねぇ。気まぐれで故郷を滅ぼすようなゲスに決まってる」

 レジオンは立ち上がろうとするが、またも膝をついてしまう。

「確かに俺はゼガンだが、ここをぶっ壊すつもりはない」

 カディはそう言ってメダルを見せる。身分を明かしたのは面倒事を避けるためと、カディなりの誠意だ。

「ジュ、ジュラウド様がどうしてここに? 何で俺達を集めた……のですか?」

「かしこまらなくていい。この町のことを聞かせろ」

 改めてしっかりと、この町の状況を聞くカディ。
 タタルドは金で雇ったならず者で警備隊を結成し、この町を支配していた。暴力で脅して住民を働かせ、漁や商売で得た利益を独占し、私腹を肥やした。

「つまりお前らは、あいつらに良いように使われているわけだ」

 事情を聞いたカディが要約する。

「何で反抗しない?」

「俺達には力がない。他の警備隊はともかく、ウェルってのがとんでもないんだ。俺達全員が束になっても、あいつには敵わない」

「あいつが居なきゃ、俺がとっとと終わらせていた」

 壁に寄りかかっていたレジオンが口を挟む。その言葉は、ウェルの実力を認めているようなものだった。

「てめぇでも手を焼くだろうぜ。ゼガンらしくイヴォルブで踏み潰そうってなら話しは別だがな」

「もう少し言い方を考えたら? また喧嘩したいの?」

 そう口にしたのはスレッド。至極真っ当な物言いに、思わずルルカが目を見開く。

「……そこのゼガン次第だ」

 少しは堪えたのか、レジオンはそれだけ言ってそっぽを向いた。

 タタルドの誘いを蹴った甲斐があった。支配する人間の下には必ず、それに苦しむ弱者が居る。

「お前らを集めたのは他でもない。覚悟があるかを聞くためだ」

「覚悟?」と誰かが復唱する。

「お前らはこの支配から抜け出したいか?」

「もちろんだ!」「こんな生活もうたくさんだ!」

住民達の速い返事と大きな声は、心からの願いである何よりの証拠だ。

「自分が傷つき、命を懸ける覚悟はあるか?」

さっきと比べ、元気の良い返事が減った。無理もないと思いながら、カディは続ける。

「本当にその覚悟があるなら……」

カディは自分のマントに手をかけると――

「好きなのを使わせてやる」

 その中身を見せた。そこにあったのは、剣や斧といった、沢山の武器――戦うための力だった。

「なに……それ……」マントの下を知らなかったルルカが驚く。

 イリソウに居た時、カディが危険人物だと判断され、牢に入れられたことは聞いていた。しかし、危険な理由までは知らされていなかった。

 看守は見てしまったのだ。目つきの悪い青年がマントの下に忍ばせた、多くの武器を。
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