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蟻の自覚
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しおりを挟む一つ思ったのは、俺の復讐の第一歩は、蟻共の思考回路を理解することではないか、ということ。
いかんせん俺の考えと蟻共の考えが違いすぎる。
万が一、ということもありうるからな――。
そのためには、愛情――、それを理解する必要があるやもしれん。
アリアンナはいつか気づくとは言っていたが、なるべく早めにしてほしいものだ。
果たして、お母様とアリアンナの問答が終息すると、俺はまた部屋に戻された。
期待していたお母様とアリアンナの戦いだが、ただの育児方針に関する口論があっただけである。
強大な魔力を使って女王をどうにかしようという素振りは全くなく、強大な魔力を持った蟻を恐れることもない。
全く拍子抜けである。
気になった俺は『アリアンナお姉さま、お母様よりも強くなったのにどうして?』と聞くが、返ってきたのは『力とは守るために使うのよ』とかなんとか。
力とは自分の欲を満たすための手段の一つであろう。
つまるところ、やはり蟻の欲求というのは、生物の持つ原初の欲しかないということだ。
それは種の繁栄。女王と新女王の命である。
確かに増やす者が居れば蟻の群れは滅ぶことはない。俺や女王のためなら蟻共は喜んで犠牲になるはずだ。
しかしそれではダメだ。
今は一匹一匹が俺の大切な駒。馬鹿みたいな自己犠牲で数を減らされては困る。
どうせ死ぬなら実験中の名誉の死だ。
これからの俺の課題は、いかに蟻共の数を減らさずに強化をしていくか、とそれと意識の改革だろう。
それにはやはり更なる実験が必要だ。
アリアンナに更に魔力を注ぎ込めばどうなるのか、他の蟻にアリアンナ以上の魔力を一度に与えればどうなるのか、それが知りたい。
そのためにはまた俺の部屋に蟻が来てくれないと困るのだが、お母様より今回の件で注意喚起がされてしまった。
『アンスが魔力を異常に溜めはじめたら距離を置くように』という内容である。
このため餌を持ってくる際にも、皆餌を渡すとそそくさと離れるようになってしまった。
今までは餌を持ってきては触覚で俺の体をひたすらツンツンと触っていたのに、今では餌を渡すと何やら我慢するように俺を見るだけになっている。
恥を忍び、『お姉さまのお顔をもっと近くで見とうございます』と言うが、『きゃああ、我慢するのよあたしいい。 これはアンスのためなのおお』と身悶え叫んでいる。
更に少しわかったが、こいつらにもう一つの欲求があるようだ。
それは『俺を触りたい』、『俺を見たい』という欲求。
全く意味が解らんが。俺より先に生まれたお姉さま方にはそれがあるようだ。
それを上手く使おうと思ったが、なかなかもって我慢強いため失敗に終わった。
その後また数週間、同じようなことが続く。
俺はただただ暇であった。
魔王だったころは他の魔王軍の兵に単身突撃して暇つぶしとかができたのだが、いかんせんこの体では外に出るのはおろか少し動くことでさえ難しい。
早く成虫にならんと、外にも出られんではないか。
いつになれば俺は成虫へとなれるのだろうか?
もう蟻になってから大分経つと思うんだが・・・。
このままこの体で一生生きていかなければならない――とかはないよな?
――そういうことは考えないようにしよう。
――よし、時間は限りなくある。
有効に時間を使おうではないか。
「むっ」
俺は腹の底に力を入れる。
するとゆっくりと温かい物が湧き上がっていくのを感じていく。
その温かいものをどんどん増やしていき、適量で止める。
――これで二割くらいか。
アリアンナに与えた魔力の、だいたい倍くらい。俺は魔力の調整が上手くないと自負している。だから完全に二割を引き出せてるとは自分でも思っていない。
大抵いつも思った以上に引き出してしまう。
まあ魔力が多すぎるから少し多いくらいが丁度いいのだ。
さて、これを三対の脚に集めていくイメージをする。
一言に魔力は万能。そして力の源である。
体の各所に魔力を集中すれば、その箇所の能力が引き出せたりするのだ。腕に魔力を集めれば力が増す、という感じに。
では脚に集めればどうなるかと言えば、そう、こんなあってないような頼りない脚でも歩けるかもしれない。ということだ。
魔力が脚に集まり、安定したのを感じると、俺は脚を動かした。
よいしょ――。
「おお! 動ける動ける!」
実験は成功だった。
短い三対六本の脚は、力強く地面を踏み俺の体を動かした!
おおおおお、凄い凄い。
調子に乗って広い部屋を歩き回る。
はたから見れば超スピードで動き回る芋虫。気味の良い物ではない。
しかしこれは偉大な発見だ!
これで自由に他の部屋を行き来できるかもしれん。
だが巡回するお姉さま方に見つかると何を言われるか解らんな・・・。
実験は成功だが、あまり使えそうにないことも発見してしまった。
少し考えて、魔力を下っ腹に集めてうねうねと尺取虫の要領で動いた方が魔力を効率的に使えてなおかつ素早いことも気づく。ため息が出た。
では・・・。
次に俺は壁際に近づいていき、小さな顎に魔力を集めた。
魔力は身体強化にも使えるが、武器などに纏わせることもできる。
いわゆる魔剣だとか言われている武器だ。
元来魔剣とは、魔力の流れやすい金属で打たれた刀剣であり、その剣自体に魔力を帯びているわけではない。
使用者が剣に魔力を流し、初めて真価を発揮する武器なのだ。
であるため、魔力量の少ない使用者の魔剣はナマクラであったり、魔力量の多い使用者が同じ剣を使えば名刀になったりもする。
ただ総じて魔剣は強力だ。
変な言い方をするが、ナマクラの魔剣も名刀の魔剣も全部ひっくるめて強い。
何故かと言えば、魔剣への対策は魔力による防御しかないからだ。
魔力を帯びていないところを魔剣で斬られると、それが肉体だろうが金属だろうがなんだろうが関係なくスッパリと斬られる。
だから強い。
しかも魔剣を含め魔力を帯びた武器などの攻撃と防御は簡単な引き算。
攻撃の魔力から防御の魔力を引いて、プラスなら防御成功、マイナスなら防御失敗。
となると、それがたった十でも一でも魔力を帯びている魔剣であるならば、魔力を一切帯びていない盾や鱗などバターと一緒。というわけなのである。
それを今から実験しようというわけだ。
今回魔剣の代わりになるものは、そう俺の顎。
体格はもうすぐアリアンナやお母様の三分の二ほどになりそうだが、顎だけは小さいままである。
多分成虫になれば一気に大きくなるんだろうな。
さて、魔力を込めた顎を、部屋の壁である岩盤に突き立てる。
「あぐっ」
もちろん成功だ。
顎はなんの負荷も感じず岩盤に吸い込まれた。
氷に熱した棒を突き立てる、バターにナイフを突き立てる、まあそんな感じだ。
気持ちがいいので少しばかり調子に乗って掘ってしまった。
岩盤には丸い穴がぽっかりと開いている。
こりゃアリアンナに怒られるな・・・。
まあその時はその時だ。
とりあえず身体強化面はもういいだろう。
次はなんといっても魔法だ。
俺の基本戦術は膨大な魔力を練り込んだ魔法を適当にその辺に撃ちまくるというもの。
いざという時のために、以前使っていた魔法というのが今もちゃんと使えるのかというのを確認しないといけない。
それに、少し気になることもあるしな・・・。
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