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蟻の自覚
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しおりを挟む賛成とは言ったが、そこまでのものだとは思ってもいなかった。
説明を頭の中で反芻し、しばし考える。
現在俺が居る巣の中に居る蟻の数はどのくらいなのだろうか?
十、二十ではないが、百も二百もいるとは思えない。
お婆様の巣は最低でも働き蟻の数がそれ以上であり、プラスして兵隊蟻が居る。
兵隊蟻のスペックがどれほどのものかはわからんが、体格も大柄で顎も攻撃的なものであるとしたら、一体で働き蟻数匹分の能力を有する可能性もある。
となれば、戦力はやはり数倍。しかも、『お母様の産まれた時点』で、だ。
するとそれから時間が経ち、現在はさらに強大に膨れ上がっていると考えていい。
勝率ゼロ。いやそれすらも生ぬるい。
数とはそれだけで武力。戦闘という表現さえも馬鹿ばかしくなるほどの蹂躙となるだろう。
しかし、その兵隊蟻というのがそれほどまでに強力というのであれば――。
「――欲しい」
「どうしましたアンス?」
「いえ、なんでもありませんわお母様」
おっと、声が漏れてしまったようだ。
ドラゴンさえも凌ぐ身体能力。働き蟻だけでも優秀な駒となるはずだ。
それよりも強力な駒となれば――。
お婆様を打倒し、肥沃な大地に移れば、俺のためだけに動く兵隊蟻が量産できる。
実に面白いではないか!
「お母様、実に絶望的な戦況というのは理解できました。 しかしながら、その上でアンスは賛成いたします。 お婆様を打倒しましょう」
「ありがとうアンス。 アリアンナは?」
「お母様の決断というのであれば・・・」
「ありがとう。 それではすぐにお婆様の巣周辺に斥候を出します! いくらかここへ娘たちを呼びなさい!」
「ハッ!」
ここで、蟻共は動き出す決断をした。
絶望的な戦力差。しかし動かねば時が蟻共を殺す。だが戦っても死ぬ。
生きるために死ぬというような、矛盾。
蟻共自身も解っているはずだ。それは死を意味することを。
しかしそれでも動くしかないのだ、蟻共は――。
だが、なんという奇跡か。蟻共には俺が居る。
例え敵が何百何千という巨大蟻の軍団であろうとも、俺の膨大な魔力の前ではゼロに等しいことを教えてやろう。――まあ近づかられたら今だと少しまずいが・・・。
いや、近づく前に掃討してやろう。
我が肉体の更なる成長のために、消し炭になってもらう。
となると――。
「お母様、よろしいですか?」
「なんです?」
「斥候の件なのですが、アンスも同行させて頂きたいです」
「何を考えているのアンス! 外は危ないのよ! しかも斥候はお母様の巣の近くまで向かいます、ただ外に出るということではないの! あなたは女王になるのよ!? あなたに何かあったらどうするのですか!?」
――やはりか。
否定されるのは解っていた。
しかし、それではダメだ。
斥候に同行し、周辺の状況を把握するのは戦闘を有利に進めるためには必須。だが蟻共の斥候がどれほどまでに情報を得られるのかも解らない。そして伝達能力も、情報からの戦略構築も信用ならない。
となれば俺自身が外に出て、必要な情報を入手し戦略を考えねばならないはずだ。
加えて外の地理情報は俺の復讐にも必要な情報の一つ。なんとしてでも外に出なければならない。
ではどう納得させる?
『自分は魔力を使い多少の外敵なら倒す自身があります』
いや、この程度ではお母様は許さない。それでも危険だなんだと否定されるのがオチだ。
『魔法で傷は回復できます』
ダメだ。
『逃げることもできる』
ダメだな・・・。
さてどうしよう。
やはり――そうだな。
蟻共の好みそうな言葉しかないか――。
「お母様! 女王になるからこそアンスは外に出るのです。 お姉さま方が命を賭けて外に出るというのに、次期女王たる私がここで待っていてどうするのですか!? 私は次期女王! 家族のために命を賭ける覚悟はできております!」
「アンス・・・あなたは・・・」
「それと、次期女王である前に、アンスはお母様の娘なのですよ? 家族を想う気持ちは、お母様譲りですからね」
「いつまでも子供だと思っていましたが、既にあなたは女王として育っていたのですね・・・」
かー。意志に反する言葉を並べるというのはこれほどまでに気持ちの悪いものなのだな。
しかし、お母様の雰囲気からして好印象という感じだ。
反吐が出るのを我慢して正解だった。
「では――」
「ええ、でも念のため斥候にはアリアンナも同行させます。 そして、もし何かあればすぐに帰ってくるようにも伝えておきますからね?」
「ありがとうございます、お母様」
くっくっく、これでようやく外を見られる。
また一歩、ベリス共への復讐に近づいた。
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