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蟻の争い
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しおりを挟むそしてアリアーデが俺を持ち上げ、四匹は出発した。
どのくらい時間がかかるか解らないが、すぐには目的の場所には着かないだろう。
そう思い、俺は先ほど得た情報を元に、今一度自身の体を確認していた。
リカブ草の背丈は知っての通り20センチ前後。それが目の高さ。
幼虫である俺の体は、太く長い円錐を倒したような形でその上に顔が乗せてある。
そして頭部の直径と胴体の直径はほぼ同じ。目は顔の三分の二ほどの高さにある。
つまるところ俺の体の直径はだいたい30センチ前後ということになるのか。
それでリカブ草からアリアーデの体を比較し、体長を考えると、現在の俺やアリアーデ達の体長は1メートルも無いくらい。
アリアンナは三割増しくらいで1メートルと20センチといったところか。
――ふむ。
何にというわけではないが、俺は確信したように少々の笑みを零した。
確かに、こいつらは30メートルを超えるわけでもないし、ドラゴンに匹敵する力を持つわけでもない。
だが、こいつらの体躯は人間の幼児とさほど変わらないぐらいあることが解った。
人間大の蟻、それは巨大蟻と言っても差支えのない大きさだ。
――人間と同じ大きさの蟻が居るとすれば・・・。
そんな言葉が脳裏をよぎる。
「くくく・・・」
なんだ。それだけでも十分すぎる兵力ではないか。
一匹だけでも並の魔物と大差の無い戦闘力、それが数百、数千と居たのならば――。
――素晴らしい。
『あらあ、姫ちゃんどうしたのお? そんな嬉しそうに笑ってえ』
「いえアリアーデお姉さま、これから私たちが更に繁栄するかと思うと、急に嬉しくなってしまって」
『んもう、気が早いわよ。 そのためには、お婆様を倒さないといけないのよお』
「そうですねお姉さま。 では、早く倒してしまいましょう」
『姫ちゃんったら・・・』
果たして、俺たちはお婆様の居るという場所へと進む。
アリシアを先頭に、俺を運ぶアリアーデ、後方にアリアンナという縦一列。
先頭のアリシアは木の棒のような触角をめまぐるしく振りながら俺たちを誘導する。
子供である俺には触角は生えていないため、よくは解らんが、どうやら虫の触角は様々な感覚器官の集合体みたいなものらしい。
これは以前アリアンナに聞いたことだが、温度や匂い、明るさ果ては味までも、ほぼ全ての感覚情報をそこで得ることができるようだ。
アリシアのその行動は、近くに外敵がいないかどうか、道は間違っていないかなどを確認しているということなのだ。
そしてアリシアが進めばアリアーデが着いていき、そのまた後ろをアリアンナが追っていく。
アリアンナは時折振り返ったり、周りに視線を配りながらついてきていた。
体格も大きく、戦闘に長けるだろうアリアンナは後方の防衛のようなもの。更にはアリアンナは視覚情報を得る能力も向上していたため、アリシアが反応しづらいものを目視で発見することができる。
縦一列での隊形は後ろが手薄になりやすい。そのためアリアンナがそこに位置している。
そして中央には一番重要な俺様を運ぶアリアーデ。
まるでお手本のような配置だ。
しかしこれは誰かに命じられたためこの隊形になったというわけではない。
自然に、こいつらはこの隊形を組んでいた。
それは魔物となったために得た知恵によるものか、はたまた遺伝子に組み込まれた蟻としての何かがそうさせたのかはわからないが、俺は素直に感心したのであった。
しかしそこで残念に思うのは、知恵はあるのに知識が比例していないということだ。
自分たちが蟻であるとか、そんなことはもうどうでもいいのだが、数の概念くらいはあったほうがいいんじゃないかと思うのだ。
敵――今ならお婆様らのことだが――の数と、自分たちの数の差を知ることは戦闘に置いて重要なこと。
戦闘以外にも、幼虫の数を把握していれば必要な餌の数を求めることができるだろうし、とにもかくにも1から10くらいの数くらいは解るようになればいいのだが――。
「アリアーデお姉さま」
『なあに?』
「これから私の言う言葉を言って下さい」
『んー? 急にどうしたの?』
「お願いします」
『んもうわかったわ』
「いち、に、さん、よん、ご、ろく、なな、はち、きゅう、じゅう」
『んー、いち、に、さん、よん、ご、ろく、なな、はち、きゅう、じゅう。 これでいいの?』
「ありがとうございます。 では私たちは、よん、です。 私、アリアーデお姉さま、アリシアお姉さま、アリアンナお姉さまで、よん、なのです」
『んー?』
「そこにもしお母様がいたならば、ご、になります。 逆に私が抜けたとしたら、さん、になります。 これが数です。 それがどのくらいあるのか、というのを表す言葉」
『そんなものがあるのねえ』
ええい俺は真面目に説明しているんだ。
もっと真剣に聞かんか馬鹿者。
軽く子供をあやすように反応するアリアーデに俺はいらだちを覚えた。
しかしそんな俺を尻目に、なにやらアリアーデは、何かを探すように辺りを見回し始めた。
俺はというと、アリアーデの顎に咥えられたままなので、アリアーデが首を動かせば、それに伴って体が宙に浮いたまま右往左往する。
それはなかなかに気分の悪いもので、俺は更にいらだちを増していた。
だが、しばらくそれが続くと、ピタリとアリアーデの動きは止まった。
急に動きが止められたので俺の体は慣性でぷるるんと震える。
ああ、気持ちが悪い。
いったい急にどうしたというのだ。
『じゃあ姫ちゃん。 あの木の実は、ご、なのね?』
動きの止まったアリアーデは、念話で俺にそう伝えた。
――なに?ご、だと?
俺は自分の体とアリアーデの向く方向を一瞥する。
するとそこには背の低い植物が茂っており、そしてその葉に埋もれるように大きな――まあ俺たちが小さいから大きく見えるだけだが――赤い種子が五つ、存在していた。
俺はそれを見て驚愕した。
もちろん理由は、その種子が極めて希少なものだから発見できて驚いた――とかそんなバカな理由ではない。むしろこいつはどこにでも生えている雑草の類いだ。
俺の驚いた理由とは、こいつの理解力の高さだ。
たったあれだけの説明で、もう数字を理解した。
自慢じゃないが俺は別段説明が上手いというわけでもない。
その上、あの説明は数字の概念の『さわり』の部分にしか過ぎない。そこから何通りかの説明を経て、最終的に任意の物体の数を言わせるつもりでいた。
だというのに、こいつはすぐに五つある物体を見つけ、それを五つだと言ってみせた。
この行為がどれだけ高度な理解力が必要になるのか、想像がつかない。
そして人間であれば、数を数えるというのはどのくらいで理解するのであろうか?と俺は考えた。
確かに数を数えるなどそう難しいことではない――が。
全ての人間の子供はそれが可能であるのか?同じ説明で理解しうるのか?
こいつらの知恵、理解力というのは人間で例えるとどの程度になるのか、俺はそれが気になって仕方がなかった。
あまりの出来事に俺はうろたえ。
「え、ええ。 そうです、お姉さま」
と答えるしかなかった。
『あら、あそこにも同じ種があるわね。 あれは、さん、かしら? 合わせて、はち、になるわね』
視線の先にはまた赤い種子があり、数は三つであった。
確かに、合わせれば八になる。
しかし俺は――数の順番までは説明はしていない!
俺は数字を一から十まで言った。確かにそれは順番通りだが。
ただ一度言った順番から、二つの数を計算した答えにまで行き着くのか?
「お姉さま、確かに合わせれば、はち、になります。 しかし私が言った数が順番になっているとは限りませんし、どうしてわかったのです?」
『んー。 それが数を表してるなら、解りやすく大きい方からか小さい方からか順番に姫ちゃんは言うと思ってえ』
「ですが私は小さい方から順番に言うとは言ってませんよ」
『よん、の説明で、増えたら、ご、になったでしょお? じゃあ、ろくななはち、って大きくなるのかなあって思っただけよお』
「お、恐れ入ります・・・お姉さま」
『やだー誉められちゃったわあ』
アリアーデは嬉しそうに体をくねらせた。
やめい。お前の顎には俺が居るのだ。気持ち悪いだろう。
しかし、こいつらの学習能力、応用力というものには驚かされる。
もともとはどこにでもいるような蟻だったと言うのに、魔物となっただけでこうも変わるものなのだろうか?
そこで俺は、自分がまだ魔王だった頃の配下のことを少し思い出そうと、少し考えた。
しかし、側近衆の顔も形もほとんどぼやけ始めていることに気づく。
はて?
ベリス以外にどんな奴がいただろうか?
確か一人は竜族の男がいたはずだ。里を抜け出して修行をしているとかなんとか言って俺に勝負を挑んできたから、倒して配下に加えた。見事な成竜だったが、まだ若く経験も浅かったのかあまり強くなかったな。
あいつで俺の魔力のだいたい何割くらい持っていたのだろうか?二割?
まあそれくらいあるかないかくらいだろう。
あの時の俺の二割と言えば、相当なものだ。
魔物は魔力量が増えれば増えるほど、強靭な肉体と高度な知能を得ることができる。とは言うが。
あいつはそんなに頭が良かったのだろうか?体は丈夫だったが、頭の方はそこまでだったような気がするぞ。
他にも何かいたような気がするが、覚えていない。まあ元々そんなに他人に興味を持つタイプではなかったし、仕方ないか。
あとは兵隊によくオークだとかがいたが、頭の方はからっきしだったな。高位のアンデットの奴らは頭がよかったような気がする。
つまるところ、魔物になると知恵は得るが、差は絶対に産まれるということか。
そうすると気になるのはアリアーデ以外の奴だ。
アリシアやアリアンナも、数というものをすぐに理解できるのだろうか?
アリアーデが特別理解力があったということもあり得る。
『姫様!』
そう考えてると、アリシアが念話で語りかけてきた。
切羽詰まったような感じで、念話でも耳元がうるさく感じるほどに。
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