変態の烙印 ーー平凡男子の無茶ブリ無双伝ーー

おもちさん

文字の大きさ
18 / 51

第15話  治療をしましょ

しおりを挟む
僕たちは今森の中にいた。
王都からいくらか離れた手つかずの森だ。
コソコソと逃げ回っている理由はただひとつ。
王国兵に追われているからだ。


「リーダー、この辺りには追っ手は居ないようだぞ」
「そっかぁ。ちょっとこの辺りで休もうよ」
「そうしましょう。歩きづくめでヘトヘトです」


あの騒ぎが起きてすぐに僕たちは街から離れようとした。
でも簡単にはいかなかった。
門前で咎められたのだ。
見張りの兵は「殿下の傷害、及び騒乱罪」とか言ってたけど、暴動の首謀者の扱いを受けてしまった。
傷害というのは決勝の試合での事だろう。
『傷つけたら処刑』というのは冗談では無かったらしい。

その場はグスタフが兵士を気絶させ、3人で門から飛び出してからはインヴィシブルの出番。
何度か魔法をかけ直して森に入り、追っ手を巻く事にも成功した。
街道を堂々と進むわけにもいかないので森を歩いている。
なんだか釈然としない。


「とりあえず安全の確保はできたが、いつまでもここに居るわけにはいかん。どうする?」
「うーん、地方都市に逃げても無駄だよね」
「だろうな。大勢に囲まれて、簡単に捕まっちまうだろう」
「じゃあさ……西大陸に行くってのはどうかな? 船に乗せてもらってさ」


西大陸のとある片田舎が僕の故郷だ。
中央大陸に居場所が無いなら、そんな所へ向かうのも悪くないと思えた。


「そこまで逃げれば、なんとかなるかもな。オレは賛成だ」
「そうですね。レインさんのご実家には大変興味があります」
「じゃあ決まりだね。オリヴィエさんはもうちょっと周りに気を配ろう」


本人はピンと来なかったみたいだ。
これから逃亡生活になるんだけど、わかってないのかな?


「それはそうと、傷の手当てです。お怪我されてますよね?」
「うん。実を言うと脇腹が痛くて。歩く度にジンジンするんだ」
「悪化するといけません、上をはだけてください」


言われた通りに見てもらう事にした。
僕もこの時になって患部を初めて見たけど、皮膚の一部が赤黒く変色していた。
見るからに痛そうな色だった。


オリヴィエの杖が淡く光り、怪我の色味もみるみる薄れていった。
本当にこういう時にヒーラーには助けられるなぁ。

「ありがとうオリヴィエさん。おかげで随分楽になったよ」
「いえ、今回は傷が相当深いです。もう少し見せてください」
「本当に? 痛みはだいぶ和らいだんだけど」

注視するようにしてオリヴィエの顔が近づいてくる。
よほど集中しているのか、真剣な目をしている。
ひょっとして、僕が考えている以上に深刻な怪我なのかも……。


ーーぷちゅ。


え、なんで?
どうして唇を押し付けたの?
一旦口を離してからオリヴィエは言った。

「予想以上にダメージがありますね。これは経過観察する必要があります」
「それはいいけど、今の何?!」
「お気になさらず。さっきのは、その、祝福です」
「今考えたでしょ。絶対今考えたんでしょ?」


そうは言っても僕は治療に関して素人だ。
オリヴィエの申し出を受けるしかない。
疑いの気持ちを抱きつつも。

それからしばらくの間、治療は続いた。


「もう大丈夫だと思うよ。赤みもほとんど引いたし」
「いえ、まだ安心はできません。ぷちゅ」
「ほんとかなぁ……」


治療はまだ続く。


「さすがにもう大丈夫でしょ」
「うーん。あとちょっとですかね。ぷちゅ」
「ねぇ、それ本当に要るの?」


まだまだ続く。


「もういいでしょ。ツルッツルだってば」
「ここに虫刺されがありますね。ぷちゅ」
「そんなレベルの話になってたの?!」


無事完治しましたよ。
オリヴィエ先生ありがとうございましたっ!


「経緯はともかく、治療ありがとうね」
「いえいえ、私は当然の事をしたまでですから」
「うん、そのポーズはどうしたの?」
「ちょっとたまには労(ねぎら)いが欲しくなりまして」


両手を広げて何か迎え入れるような姿勢になっている。
いや、意図がサッパリわからないんだけど。


「祝福を返してもらえますか。そうですね、今は唇に返して欲しい気分です」
「感謝はしてるけど、そんな事はしないからね?」
「……やはり、あの女性のような方がお好みでしょうか」


あの一件か!
あの司会のお姉さんの事が引っ掛かってたのか!
やっと意味がわかったよ、もう。


「だとすると、あの格好を真似る事から初めてみましょう。生憎(あいにく)あのような服は持ち合わせていないので、ひとまず下着姿になれば……」
「待って、落ち着いて! 僕はああいう女性は苦手だなぁ!」
「そうなのですか。ですが男性はやはり薄着の女性を……」
「ほんとほんと。オリヴィエさんのような清楚な女性の方が好きかなぁ!」
「ほ、本当ですか!?」


わぁい、今までで一番の笑顔だぁ。
魂の根っこから喜んでるような、一切曇りのない笑みだなぁ。
どうしよう、取り繕うために咄嗟に出た言葉だなんて……言えないよ。
とりあえず、訂正するのは止めておこう。
というかやる勇気がないよ。


その日を境にして、僕らの間にあった『拳一個分』の距離感は『ほぼ密着』へとランクアップしたのだった。

何か誤解が生まれている気がしないでもないけど、オリヴィエが嬉しそうだから、まぁいっか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

処理中です...