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第22話  容姿の良し悪し

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2人の懸命な励ましによって平静を取り戻すことが出来た。
一時はうわ言を話し出したというから、よっぽど追い詰められてしまったんだろう。
今は落ち着いた、というか諦めが着いた心地になっている。

ちなみにグスタフの役職は『守護者』らしい。
いいなぁぁぁあ格好良くて!
僕も名乗ってみたいなぁぁぁあ!
小さな妬みを抱きつつ、旅は再開された。

目的の村には今日の夕暮れ時くらいに着くみたいだ。
あまり記憶にないけど、随分進んでいたみたいだ。
今はお昼くらいだから、あと半日を残すのみだ。


「そろそろ昼休憩にしないか? 腹も減ったろう」


格好いい人がそう言うので、食事の準備を始めた。
その最中にオリヴィエが不思議な事を口にする。


「私は髪型が変ですけど、お昼を食べても良いんでしょうか?」
「えぇ? 良いと思うよ……うん」


ここ最近そんな言い回しが増えたけど、どうしたんだろう。
僕はいつもの例に漏れず、その真意について理解が及んでいない。

用意したのは串焼きの獣肉と炙りキノコという質素なもの。
特別美味しい訳でもないので、補給する気持ちで食べ終えた。
それから後片付けをしようと思っていたら、オリヴィエがまたあのフレーズを口にした。


「火の始末は私がやっておきますね。なんせ変な髪型ですから」


ここに来てようやく理解できた。
彼女はその言葉を否定して欲しかったのだと。
何日も気づいてあげられなくて、なんかごめん。
今さらかもしれないけど、僕は彼女の気持ちを汲もうと試みた。


「そんな事ないよ、全然変じゃないもの」
「そうでしょうか。前髪が綺麗に揃ってて、子供みたいじゃないですか?」


どうやらこの返しはお気に召さなかったらしく、全く心に響いてないようだ。
そうなるとやっぱり、あの言葉を使う必要があるんだろう。


「いやいや。今のも新鮮で、その……カワイイよ」
「カワイイですか?!」


オリヴィエの顔がズイと寄せられる。
お互いの鼻先がぶつかりそうな距離になるまで。
僕の視界は彼女の三日月のような形の瞳で占められた。


「そろそろ出発……だが、小便にでも行ってくるかな」


グスタフはぼやきながら森に消えていった。
そこからかなり長めのトイレを待ってから、また山道を進んだ。

代わり映えしない道を歩いていると、先頭のグスタフが声をあげた。


「おぉ、村が見えたぞ! これなら日暮れ前に着きそうだな」


その言葉通り、遠くに村があるのが見てとれた。
夜道を進むことにならなくてひと安心だ。


「ルルルー今夜は野宿をルルーしなくて済みそうですぅウウー」


オリヴィエは昼からずっと有頂天だ。
僕の言葉がよっぽど効いたらしく、軽快な歌をずっと口ずさんでいた。
見た目は何一つ変わっていないのに、気の持ちようでここまで変わるんだなぁ。


「気の持ちよう……か」


それは僕にこそ必要な言葉だろう。
呪われたように変わらない容姿を、ウジウジと嘆いても始まらない。
心のあり方ひとつで、ここまで上機嫌になる事だってあるんだから。
発想の転換と言うか、何かしらの工夫をするべきなんだ。

僕はまた仲間に助けられ、学ばせてもらった。
もう2度とこの役職に振り回される事はしたくない。
もう運命なんだと、腹をくくって受け入れてやる!


「あんたたち、見ない顔だねぇ。旅の人だろう?」


村の入り口に着いた頃、中年のおばさんに話しかけられた。
日焼け肌の恰幅の良い女性だ。


「あらやだ。そこの坊やはなんて格好してるんだい?! 麓(ふもと)じゃそんな服が流行ってるのかねぇ」


初対面の人をとても驚かせてしまった。
心の在り方が変わるのはあくまでも僕だけの話であって、見知らぬ人には関係の無いことだ。
だから強い言葉を投げつけられる事を、覚悟し続けなくてはならない。

決心したばかりの心が折れ曲がりそうになるけども、自分を見失わないよう頑張っていきたいと思う。
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