【第三部スタート】魔王様はダラダラしたい

おもちさん

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第三部

3ー49 あなたの無事を知りたいだけ

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コロナで助けたお婆さんからは有用な話を聞けた。
街から収容所は近く、そこには大勢の若者が捕らえられているらしい。
亜人の領主夫妻も捕まってから大分日が経っているとの事。
どうにかお助けくださいと、お婆さんは涙ながらに頭を下げたのだった。

それがガント院長の姿とだぶる。
オレたちは街のお婆さんの想いも連れて、収容所へと向かった。


「旦那。あそこが目的の建物だ。きれぇな風景に不恰好なもん建ててやがる」

「ほぉん。この辺は灰やら砂はねぇんだな。レジスタリアと違ってさ」

「施設の役割が違う。鉄の生成じゃなくて、魔水晶だって言ってた」


オレたちは口の中を唾液まみれにさせつつ、遠目から収容所を偵察した。
例のお婆さんはから貰った「海苔ウメ」を頬張ってるためだ。
ウメという果実を磨り潰し、そのペーストを海苔でくるんだもの。
酸っぱくて軽く震えるが、独特の味わいから手が止まらなくなる。


「アラン。警備の様子はどうだ?」

「ライル。もう1個頂戴」

「うーん。見張りが5人ってとこかなぁ。思ったより少ねぇぞ」

「もしかしてコロナの騒ぎで、ここの兵が派遣された?」

「ライル。もいっこ頂戴」

「かもしれねぇ。それとも、元より配属されてるのが少ねぇのかも。ここはグラン領だから、襲撃される事を計算してないとかさ」

「まぁともかく無力化するか。小石の5つもありゃ簡単だ」

「ライル。もいっこ頂戴」

「お前食い過ぎだぞ! オレの分が無くなるだろうが!」

「いいじゃない。減るもんじゃない……」

「確実に残りが減ってんだろ!」


エリシアに食い尽くされる前に、残り全てを魔王さんのお口にイン。
すると押し寄せる唾液。
痙攣を起こしかける程の酸味が喉を焼いた。


「ンンーー! ンッンーー!」

「あぁ勿体ない。なんて贅沢な」

「ンガァァアーー!」

「ぎゃあ!」

「ぐぇえ!」


苛立ち気味に八つ当たり半分の投石。
それで見張りの5人は崩れ落ちた。
これで入り口の確保。


「はぁ、はぁ。潜入するぞ。ついてこい」

「ライル。帰りにコロナ寄ろう。お婆ちゃんにおかわりする」

「旦那方よぉ。もうちょっと緊張感を持てねぇもんかい?」


中の造りはレジスタリアのものと大差なかった。
最上階である3階までが吹き抜け。
部屋の両端に分かれて牢屋があり、それは全フロアびっしりと並んでいる。
詰め込めば数百人、いや千以上の囚人を収監出来るだろう。

下のフロアは恐らく子供。
上に行くほど大人というか、力のあるヤツが囚われているようだ。

聞こえるのは怨嗟の声。
何とも陰鬱な場所だと思う。
余りの暗さに気落ちしていると、それを突き破るような、意思の籠った明瞭な声が耳に届いた。

ーーグロリア、グロリア! 無事かぁー!

ーーセロニアス! 私は無事よ!

囚人の声だ。
グロリアにセロニアス。
この2人の名はコロナの領主と同じものだ。
鉄格子を挟んで互いの安否を確認しているのだろう。


「旦那、どうする? あんたらの力なら牢を壊すのも訳ないよな?」

「いや。制圧が先だ。逃げ惑う子供たちが敵兵に襲われたら面倒だ」

「じゃあ引き続き潜入ですよっと。ここの見張りも少ないな。きっと奥の方に居るんだろう」


部屋の向こうには大きな扉がある。
恐らく作業所か何かがあるんだろう。
守備兵は作業所や詰め所に大勢いるはずだ。

オレたちは息を潜めて進んだ。
邪魔な見張りは小石をギューンってやって無力化させる。

ーーグロリア! 怪我の方はどうだ!

ーーセロニアス! だいぶ塞がったわ! あなたは?

ーーこっちもだ! 膿んだりはしなかったぞ!

その間も宙を飛び交う会話。
まるで手探りでもしてるかの様なもどかしさがある。
叶うなら顔を合わせて話したいだろうに、状況のせいでそれすらも許されない。
こんな悪巧みは一刻も早く潰すべきだ。

ーーグロリア! お通じの方はどうだ!

ーーセロニアス! 今日は凄いのが出たわ! 自慢したくなるくらいよ!

ーーグロリア! 僕もだ! びっくりするくらい快調だぞ!


うるさっ。
確認作業うるさっ。
領民の前でお通じとか言うんじゃないよ。
助けた後の統治がやりにくくなっても知らんからな?


「さてと。この扉を開けたら戦闘になるだろう。覚悟はいいか?」

「ねぇライル。あなたのお通じはどう?」

「うるせぇよ。安否確認すんな。オレが病人に見えるか?」

「安否そのものじゃない。あなたの愛を確認したいだけ。ほら聞いて、私の排泄状態を」

「はいお邪魔しまーす」


ーーガコォン。

勿体ぶったような重い音。
その向こう側は、凄惨な世界となっていた。

何人もの亜人や獣人が小さな檻に閉じ込められている。
5や10じゃきかない数だ。
部屋の中央には溶鉱炉。
そして付属する大きな装置。

それらを100人近い兵がぐるりと囲み、作業を見守っている。
これは一刻の猶予もない。
何をやってるかは知らんが、ろくな事じゃないのは確かだ。
1人でも多くの犠牲者を減らす必要がある。


「な、何だ貴様らは!」

「敵だ! 総員隊列を組めぇ!」


室内の兵が一斉にこちらを向いた。
瞬時に槍の穂先を並べた陣形が組まれる。
ちょっとだけ迂闊だったが、恐らく問題ない。


「ミレイア、行くぞ。お前の力を試させてもらうからな」


鞘を揺すって、剣に語りかけた。
聖剣ミレイア。
今は亡きグレンが打った名剣とやらのお披露目だ。
お前たち兄弟の魂を見せてみろ!


「行くぞミレイアァァア!」


ーーズォオオオオオ!

抜き放って剣を払った瞬間に凄まじい剣圧が生じた。
反動でオレの体が吹き飛ばされそうになるが、たたらを踏みつつも持ちこたえる。
そして、響き渡る絶叫。
それは100人くらいが同時に叫んだかのような、不快な調和音(ハーモニー)だった。


「……すごい。ライル、何をしたの?」


驚愕と呆れの混ざった声。
それは称賛なのか非難なのか、判断に迷うものだ。


「旦那ァ。ちったぁ加減してくれよ。囚人まで死んじまう所だったぞ」


こっちのは間違いなく咎めてる。
これはオレのせいなんだろうか。
木の棒拾ったら伝説の神木でしたっていうくらいのフェイントだったんだが。


「ともかく解放だ、ぶつくさ言わず手を動かせよオラ!」

「ごまかした。この魔王ごまかした」

「うっせ、うっせ! いいからやれよ!」


エリシアが檻に、アランが牢屋の方へ駆けていく。
それを邪魔するような影はひとつもない。
ほんと、可哀想になるくらい。
みんな真っ二つだもんな。
幸い檻の方に被害は無さそうだから、今回は良しとしましょう。


「ミレイアよぉ。張り切りすぎだぞお前……」


柄の部分をペシリと叩いてみた。
すると、不必要なほどにカタカタと揺れた気がする。

何この剣、怖すぎる!
聖剣じゃなくて魔剣と呼ぶべきじゃないか?
それか呪いの剣だこの野郎!

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感想 3

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みんなの感想(3件)

桜木 蓮華
2017.11.28 桜木 蓮華

この小説は2ndの所からが第二部なのですか?

2017.11.28 おもちさん

そうですね。わかりにくかったようでスミマセン。

解除
リベラル
2017.08.28 リベラル

71話の?保留?と却下と?大却下ですが、これは保留?の?にして却下と大却下の前の?はない方が分かりやすいかと

2017.08.28 おもちさん

ご指摘ありがとうございます。

こちらは文字化けってやつですね。
私は複数のサイトで小説を投稿しているんですが、同じ文面でもサイトによって化けてしまう事があります。
一般的な記号でこうなってしまうので、中々対応が難しいです。

この手のものは見つけ次第対応しようと思います。

引き続き後愛読よろしくお願いします。

解除
リベラル
2017.08.28 リベラル

27話の子供なら7?8枚とありますが、7?8枚じゃなくて7~8枚のような気がします。
もし間違いなら、修正お願いします。

解除

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