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第6話:初めてのOLー午前中
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月曜日の早朝、僕は深い深いため息をつきながら事前に可愛いショーツを履いて出社した。
先週、佐々木課長や高橋さんの熱意を受け入れたものの前日から不安に襲われていた。
(男の力も期待してたが、女性でも力のある社員を異動させたほうが手っ取り早いのでは?)
って言葉が今更思いついた。いつも相手の反応を気にしてしまうのか言葉が見つからず、何かある度に「すみません」、「わかりました」と返すばかりだった。
「本当に、今日からこれを…?」
僕のロッカーは特別に課長室内の一角に設けられ、衝立式のカーテンも用意されていた。先週の制服の他、ブラにストッキング、ロングのヴィッグも追加されていた。だが、もう後には引けないので意を決して着替え始めた。
「うっ…きつい…」
慣れないブラとストッキングの締め付け感に顔をしかめる。スカートを履き、最後にハイヒールを履いた。
「よろっ…」
予想通り、足元がふらつく。特に立ち上がるときは小鹿が立ち上がるようなイメージで何とかバランスを取っていた。
「鈴木さん、おはようございます!」
「お、おはようございます…」
「駄目ですよ!今日から女の子なんだから!カワイイ声で話さないと」
「あっ…すみません」
早めに出社してくれた彼女が笑顔で注意した。
メイクやヴィッグはまだ慣れてないので、彼女にお願いしていたのだ。
僕は思わず、ぎこちない挨拶をしてしまった。
「はい、できたわよ!凄くきれいよ!」
(これ…本当に僕?)
最後に口紅が塗られ、鮮やかな色が唇に乗った瞬間、僕は心の中で叫んだ。
鏡に映る自分の姿に、まだ現実感が湧かなかった。完成すると本当に別人だった。改めてメイクの凄さを感じた頃、始業時間が近づいた。
「おはようございます…」
オフィスへ戻ると、女性社員達が出社していた。僕は懸命に震える声で挨拶すると、皆返事するやいなや悲鳴に近い驚きの声が上がった。
「本当にきれい…!」
「スタイル抜群!羨ましい!」
「ありがとうございます…」
「メイクもばっちりね!こっち向いて!」
口々に褒め言葉をかけてくれて僕は照れ笑いを浮かべながらも返事したが、話すたびに口紅のヌルッとした感触がどこか落ち着かなかった。ファンデーションも、肌に薄い膜が貼られ、大寒の新鮮な空気が感じられなかった。
(褒められるのは嬉しいけど、やっぱり落ち着かない…)
業務が始まると、服装に慣れないことだらけなのがわかった。
ロングヘアが気になって何度も触ってしまうし、スカートの裾がめくれていないか何度も確認してしまう。
「きゃっ!」
ハイヒールでの歩行は、想像以上に大変でカーペットの上ではヒールが沈み込み何度もバランスを崩してしまう。
コピー機へ向かう途中、近くにいた女性社員が慌てて駆け寄り、支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい…」
「けど、「きゃっ!」は可愛かったよ!」
僕は顔を赤らめた。
(やっぱり、俺には無理なんじゃ…)
そんな弱気な気持ちが頭をよぎる。
昼休憩になり、僕は彼女と一緒にランチに出かけた。声の練習も兼ねて。
「鈴木さん、少しは慣れたかしら?」
「いいえ、全然…よ」
「でも、似合ってるし、頑張ってるじゃないですか」
「ありがとう…」
彼女が心配そうに尋ね、励ましてくれた。
僕は俯き加減で返事したが、彼女の言葉は精神的に救われる。
「あのね、鈴木さん。実は…実は、鈴木さんに女装してもらうことには、もう一つ理由があるんです」
彼女は少し言い淀んだ後、話し始めた。
「もう一つ?」
「はい。それは…」
彼女が話す準備をしたその時、
「それはね、うちの課では以前からジェンダーレスなイベント企画を考えていたの。でも、なかなか理解が得られなくて…」
いつの間にか、背後に佐々木課長が登場していた。確か僕らがオフィスを出る時、課長はまだ仕事してたはず??
「ジェンダーレス…?」
驚きを隠しながら、僕は聞き返した。
「ええ。近年人口の減少が進んでいるけど、イベントの来客数が頭打ちになっているのは性別もあると思ったの。例えば、スイーツの店が女性客だらけで入るのを躊躇ってしまう男性のように。誰でも楽しめる筈なのに、それは勿体ないなと思ったの。それを打開すべく性別に関係なく楽しめるイベント実現するためには、まず私たちがジェンダーレスを体現する必要があると思ったの」
課長は熱く語る。
「それで、僕が、いや私が…?」
僕は慌てて訂正した。
「イベントコンパニオンを通じて、その象徴となれそうな男性を探してたけど、近ごろの子は体格も大きいし、何より軽くあしらう人ばかりだった…。そんな時、高橋さんが君を連れてきて、やっと出会えたと思ったの。男手や人手不足解消も理由だけど、あなたが女装をして活躍する姿を見せることで人々の意識を変えられるんじゃないかって」
課長は真剣な眼差しで僕を見つめて言った。
「なるほど……。分かりました。頑張ってみます」
僕は少しだけ理解できた気がしたが、高橋さんの気持ちは?聞きそびれてしまった。
「ありがとう、鈴木君。期待してるわ」
佐々木課長は笑顔で言った。
先週、佐々木課長や高橋さんの熱意を受け入れたものの前日から不安に襲われていた。
(男の力も期待してたが、女性でも力のある社員を異動させたほうが手っ取り早いのでは?)
って言葉が今更思いついた。いつも相手の反応を気にしてしまうのか言葉が見つからず、何かある度に「すみません」、「わかりました」と返すばかりだった。
「本当に、今日からこれを…?」
僕のロッカーは特別に課長室内の一角に設けられ、衝立式のカーテンも用意されていた。先週の制服の他、ブラにストッキング、ロングのヴィッグも追加されていた。だが、もう後には引けないので意を決して着替え始めた。
「うっ…きつい…」
慣れないブラとストッキングの締め付け感に顔をしかめる。スカートを履き、最後にハイヒールを履いた。
「よろっ…」
予想通り、足元がふらつく。特に立ち上がるときは小鹿が立ち上がるようなイメージで何とかバランスを取っていた。
「鈴木さん、おはようございます!」
「お、おはようございます…」
「駄目ですよ!今日から女の子なんだから!カワイイ声で話さないと」
「あっ…すみません」
早めに出社してくれた彼女が笑顔で注意した。
メイクやヴィッグはまだ慣れてないので、彼女にお願いしていたのだ。
僕は思わず、ぎこちない挨拶をしてしまった。
「はい、できたわよ!凄くきれいよ!」
(これ…本当に僕?)
最後に口紅が塗られ、鮮やかな色が唇に乗った瞬間、僕は心の中で叫んだ。
鏡に映る自分の姿に、まだ現実感が湧かなかった。完成すると本当に別人だった。改めてメイクの凄さを感じた頃、始業時間が近づいた。
「おはようございます…」
オフィスへ戻ると、女性社員達が出社していた。僕は懸命に震える声で挨拶すると、皆返事するやいなや悲鳴に近い驚きの声が上がった。
「本当にきれい…!」
「スタイル抜群!羨ましい!」
「ありがとうございます…」
「メイクもばっちりね!こっち向いて!」
口々に褒め言葉をかけてくれて僕は照れ笑いを浮かべながらも返事したが、話すたびに口紅のヌルッとした感触がどこか落ち着かなかった。ファンデーションも、肌に薄い膜が貼られ、大寒の新鮮な空気が感じられなかった。
(褒められるのは嬉しいけど、やっぱり落ち着かない…)
業務が始まると、服装に慣れないことだらけなのがわかった。
ロングヘアが気になって何度も触ってしまうし、スカートの裾がめくれていないか何度も確認してしまう。
「きゃっ!」
ハイヒールでの歩行は、想像以上に大変でカーペットの上ではヒールが沈み込み何度もバランスを崩してしまう。
コピー機へ向かう途中、近くにいた女性社員が慌てて駆け寄り、支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい…」
「けど、「きゃっ!」は可愛かったよ!」
僕は顔を赤らめた。
(やっぱり、俺には無理なんじゃ…)
そんな弱気な気持ちが頭をよぎる。
昼休憩になり、僕は彼女と一緒にランチに出かけた。声の練習も兼ねて。
「鈴木さん、少しは慣れたかしら?」
「いいえ、全然…よ」
「でも、似合ってるし、頑張ってるじゃないですか」
「ありがとう…」
彼女が心配そうに尋ね、励ましてくれた。
僕は俯き加減で返事したが、彼女の言葉は精神的に救われる。
「あのね、鈴木さん。実は…実は、鈴木さんに女装してもらうことには、もう一つ理由があるんです」
彼女は少し言い淀んだ後、話し始めた。
「もう一つ?」
「はい。それは…」
彼女が話す準備をしたその時、
「それはね、うちの課では以前からジェンダーレスなイベント企画を考えていたの。でも、なかなか理解が得られなくて…」
いつの間にか、背後に佐々木課長が登場していた。確か僕らがオフィスを出る時、課長はまだ仕事してたはず??
「ジェンダーレス…?」
驚きを隠しながら、僕は聞き返した。
「ええ。近年人口の減少が進んでいるけど、イベントの来客数が頭打ちになっているのは性別もあると思ったの。例えば、スイーツの店が女性客だらけで入るのを躊躇ってしまう男性のように。誰でも楽しめる筈なのに、それは勿体ないなと思ったの。それを打開すべく性別に関係なく楽しめるイベント実現するためには、まず私たちがジェンダーレスを体現する必要があると思ったの」
課長は熱く語る。
「それで、僕が、いや私が…?」
僕は慌てて訂正した。
「イベントコンパニオンを通じて、その象徴となれそうな男性を探してたけど、近ごろの子は体格も大きいし、何より軽くあしらう人ばかりだった…。そんな時、高橋さんが君を連れてきて、やっと出会えたと思ったの。男手や人手不足解消も理由だけど、あなたが女装をして活躍する姿を見せることで人々の意識を変えられるんじゃないかって」
課長は真剣な眼差しで僕を見つめて言った。
「なるほど……。分かりました。頑張ってみます」
僕は少しだけ理解できた気がしたが、高橋さんの気持ちは?聞きそびれてしまった。
「ありがとう、鈴木君。期待してるわ」
佐々木課長は笑顔で言った。
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