真のヒロインはおっさんだから興味ないでしょ?

七瀬なしの

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1章

ギースの本気

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「何でもするなどと……巧斗きゅんがそんなエロワードをっ……! やばい、思わずするりと欲望が口を突いて出るところだった……!」

 何でもする、の何がエロワードだったのだろう。ギースは時々わけの分からないことを言うんだよな。こっち世界の人間は向こうと何か感性が違うのかも。

「おっさんが相手じゃあんまり癒やされないだろうけど、何か俺にできることがあれば」
「何を言ってるんですか、僕を癒やすことができるのは巧斗さんだけです! 待って下さい、してもらいたいことなどありすぎて……。ミュリカに怒られない単語を探すのに脳みそフル回転します」

 ギースは視線を落とし、ものすごく真剣な様子で考え事をしている。そんなに悩むほどのことだろうか。
 とりあえずしばし彼の回答を待っていると、ようやくこちらに目線が戻ってきた。

「……決めました。僕は腕輪の効果で巧斗さんから触ってもらうことでも回復できるので、抱きしめていただいていいですか? あと、ついでに匂い嗅がせて下さい」
「え……おっさんの抱擁で癒やせる?」
「僕にとっての今選びうる最高のご馳走ですが何か?」
「……ギース様がそれでいいなら、いいですけど」

 まあ、そんなことで癒やすことができるなら、簡単なものだ。
 俺は特に躊躇することなく、ギースの正面から抱きついて、背中に手を回した。

 いつだったかイオリスに抱きついたことがあったが、彼と比べるとギースはだいぶ細身だ。それでも俺より胸板は厚いし、肩幅も広く筋肉もしっかり付いている。身長も高い。いくら鍛えてもなかなか身体に厚みが付かない俺には、うらやましいスタイルだ。

 そんなことを考えていると、唐突にギースに抱きしめ返されて、首筋に顔を埋められた。

「あああもう、素晴らしい感触、抱き心地です、巧斗さん! はあ、良い匂い……僕の息子もあっという間に元気いっぱいに……!」
「ん? ギース様の息子って……? と、とりあえず癒やされてますか?」
「もちろんです! ああでも、これが素肌同士の抱擁だったら尚良し……せめて前だけ開けて……いや、そんなことをしたらミュリカにあとで殺されるか……」

 ギースはぶつぶつと言いながら、俺の肩から背中を手のひらで慈しむように撫でた。
 美由も含めて、他人からこういう接触をされたことがないから、少しどぎまぎしてしまう。逞しい腕の中にすっぽり包まれて、何だか守られているような感覚。

 知らなかった。誰かの体温ってこんなに気持ちよくて、安心できるものなのか。

 その気付きにどこか強ばっていた身体からふっと力が抜ける。
 無意識にギースの肩口に甘えるように額を擦りつけると、不意にうなじを撫でられて驚いた。

「ひゃっ……!」

 首を竦め、慌てて身体を離す。しかしギースの腕が背中に回っているから、たったの十数センチくらいの隙間ができただけだった。
 それでも見上げれば、彼の表情くらいは確認できる。

 すでに太陽が地平に沈み、わずかな残光があるのみだけれど、ギースの表情がいつもの柔和なものから、ひどく雄を感じさせるものに変わっているのが分かった。

「ギース様……?」
「巧斗さんはいつも可愛らしいですが、今日は特に子猫のように愛らしい……。今、完全に僕に身体を預けてくれたでしょう?」
「あ、すみません。俺がギース様を癒やすはずが、逆に抱きしめられてたら安心しちゃって」
「……謝ることじゃないですよ。僕は嬉しいんです」

 素直に返すと、ギースはそう言って少し困ったような苦笑を浮かべた。

「……その鈍感っぷりももちろん萌えポイントなんですが、そろそろご自分が僕たちにとってどういう存在なのか、少しは分かって欲しいものです」
「僕たち?」

 複数人を指す言葉に目を瞬く。しかし彼はそれには答えず、にこりと口角を上げた。

「ちなみに、僕にとっての巧斗さんは、愛する人です」
「あい……愛!?」

 俺は目を丸くしてギースを見返した。
 何度か軽口のように聞くことはあった言葉だけれど、あんなの戯れだったはずだ。なのに。この状況で真っ直ぐぶつけられただけで、重みがまったく違ってくる。

 愛って、愛だよな……? 何かの間違いじゃないのか? 俺おっさんなんだけど。
 よりによって、アイネルのうら若き乙女たちを魅了する美男が、何で俺……?

「冗談……?」
「本気を証明しろとおっしゃるなら、喜んで。このまま優しくファーストキスを奪って差し上げてもいいですし、何なら初めての快感をお教えして差し上げてもいいですよ?」

 言いつつあごに手を添えて、上向かせられる。

「僕は今まで巧斗さんを戯れに口説いたことはありません。全部本気の言葉です」
「……あの、俺、男ですけど……。おまけにおっさんだし……」
「もちろん分かっていますが、それが何か? その色気や包容力は重ねた年齢があるからこそですし、男同士だって問題なく愛し合えます。……それに、『女神の加護』を持つ巧斗さんなら、子供もできるんじゃないかとわりと本気で思ってるんですよね」
「子供……」

 もう何か、ギースの話が俺の理解の範疇を超えている。まるで異次元の話を聞いているような気分で、俺は素朴な疑問を投げかけた。

「あの……ギース様、男同士で子作りなんて、どうやるんですか? 挿れるところないから無理だと思うんですけど……」

 男同士の知識が皆無どころか、俺には遙か昔に受けた保健体育の授業分程度しか性知識がない。だから女性器がないのにどうやるのか不思議だったのだ。
 それを恐る恐るぶつけると、ギースは目を瞠って一瞬絶句した後、片手を額にあてて天を仰いだ。

「くっ……天然煽りか! ああもう、年上なのに無垢ピュアで性に不慣れで、さらに上目遣いが可愛すぎるッ……! このまま裸に剥いて、実地でやり方教えて、ブチ犯して孕ませたい!」
「兄様、心の声が漏れてる」
「あ、美由」

 いつの間にか監視塔に上ってきていた美由が、落とし戸から顔を覗かせて冷静な突っ込みを入れた。
 そのまま見張り台まで上がってきて、密着していた俺とギースをばりんと剥がす。途端に場に溜まっていた熱を持った空気が、すうっと二人の間を流れて行った。

「……ミュリカ、ここで僕から巧斗さんを取り上げるのは酷じゃないかい? これからというところだったのに」
「これからとんでもないことになりそうだから止めたんだけど。それに、30分と言っていたのにもう一時間よ。十分待ってあげたほう」

 不服そうなギースを美由はけんもほろろに一蹴する。それから、俺の方にも小言をくれた。

「師匠、暗くなる前に帰ってこないと危ないって言ったでしょ。ギース兄様はどうせなかなか手放そうとしないから、自分で切り上げて帰ってこないと駄目よ?」

 確かに、ギースは全然俺と離れようとしなかった。そういえば今までだってそうだった。それが何故なのか、これまで考えもしなかったけれど。

「……巧斗さん、騎士ナイトが現れてしまったので今日は残念ですがここまでのようです。僕はもう戻りますが……明日から、大いに僕のことを意識して下さいね。愛してますよ」

 去り際に、蕩ける笑顔と共に間近で囁かれて、俺は今更のように頬に熱が上ってしまった。
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