30 / 32
2章
新しい契約輪
しおりを挟む
翌日、俺はジョゼに呼び出されて彼の部屋にいた。
執務室と違い、家具はベッドとテーブルがあるだけ。そのテーブルでジョゼはやはり書類とにらめっこしていて、周囲の床には直に書類の束がいくつも積み上がっていた。
「……俺に用事って何?」
扉を入ったところで声を掛けると、彼は手にしていた書類をまとめ、テーブルの上を片付けた。そして工具の入った袋を取り出す。
「とりあえずこっちに来て、向かいに座って下さい」
昨晩俺の作った食事をとったからか、今日のジョゼはだいぶ血色が良い。目の下のクマもいくらか薄れていることに安堵する。
「今日は体調良さそうだな」
「それはまあ、あなたの料理も食べられたし、ヒーリングも効きましたし。何よりあなたたちが来てくれたおかげで精神的に楽になりました」
「昨日まで精神的にやられてたってこと? ジョゼがそんなことを言うなんて珍しいな」
「私だって色々心配事があるのですよ」
まあ、ここに到着した時も忙しくて人手が足りないと言っていたからな。ディタルとの会話でも守るものが増えたと言っていたし、ジョゼもアイネルのために頑張っているのだ。
「あなたの方は、その後体調はどうですか?」
「俺? ……いや、うん、普通だけど」
唐突に訊ね返されて少し口ごもる。
その後、とは、あの行為の後ということだ。実はすこぶる身体の調子が良いなんて、とてもじゃないが答えられない。
俺の返しでそれを察したらしい目の前の男はにやにやとした笑みを浮かべたが、特にそこを突っ込んでは来なかった。
「問題ないのでしたら結構です。これで心置きなく予定を進めることができます。……巧斗、左腕を出して下さい」
「左腕?」
「一度私の腕輪を外します。もうあなたの能力を制御する術式は必要がなくなりましたからね。術式の書き換えをします」
書き換えって……それはつまり、問答無用でまた違う術式の腕輪を俺に着けるってことか。
……まあ、いいけど。
おとなしく左腕を出すと、俺ではびくともしないオリハルコンの紫の腕輪が、ジョゼの手によってあっさりと外された。
すぐに特殊な工具と金属粉で術式の一部が埋められ、腕輪が再加工されていく。
それを黙って眺めている俺に、彼は小さく笑った。
「また勝手に腕輪を着けるのかって、文句を言わないんですか?」
「ん-、今更文句言ってもな。……以前だったら得体が知れなくて嫌だったけど、今のジョゼが俺に酷いもの着けるとも思えないし。どういう効果がある腕輪なのか教えてくれればそれでいいよ」
「……そうやって、あんまり私を喜ばせないで下さい」
ん? 特に喜ばせることを言ったつもりもないのだけど。
きょとんとしていると、ジョゼは苦笑をした。
「巧斗は自分で気付いていないでしょうが、昨日の私へのヒーリングが、かなり強くなっていました。もう怯えた様子も見られないし、そんなふうに信頼を見せてくれる。……それが今の私にとってどれだけ喜ばしいことか、あなたには分からないのでしょうね」
「そういうのは、ちょっと分かんないけど。……でも、この状況は俺も嬉しいな。以前は怖くて近寄りたくなかったけどさ、あんたの知識やアイネルに対する愛国心は尊敬してるんだ。だからこうして直にジョゼの考えや行動を知れるようになったのは、勉強になるしありがたい」
「……まあ、にぶちんなあなたの心証がマイナスからプラスになっただけでも、今は十分です」
そう言いながら自身の腕輪を外し、そこに付いていたブラッドストーンを工具で取り外す。
そして、鞄の中から小さな巾着袋を取り出した。
ころりとテーブルの上に転がったのは、無数のヒビが入った透明な宝石だ。
「これは?」
「爆裂水晶……クラッククリスタルです。契約の内容としては、魔法の共有というところですか。少し急ごしらえでしたので、あまり凝った術式ではありませんが」
「……もしかしてこれ、新しく作ったのか? オルタのことでくそ忙しいだろうに、無駄に睡眠時間削るなよ……」
「無駄ではありませんよ。今こそ必要な腕輪なんです」
宝石をはめ直し、さらに術式を書き直すと、その腕輪は銀色に変化した。完成したそれを、ジョゼが自分の腕に着ける。
そうするとさっきまで紫だった従の腕輪も、テーブルの上で銀色になった。
「魔法の共有をする契約だって言ったよな? 今こそ必要って事は、ヴィアラントとの戦いに関わる契約なのか?」
「それがメインだというわけじゃありませんが、この契約が役に立つことは間違いないと思います。……私とあなたの専用術式として組み上げてしまったので、巧斗に着けてもらうしかないのですが……」
「何だよ、今更。別に問題ないよ、俺が着けるよ」
そう言って左腕を差し出したけれど、ジョゼは何故かすぐにそれを着けようとしなかった。
代わりに俺の左手の上に、小さな玉を3個乗せる。赤と、黄色と、黒の玉だ。
「……何、これ?」
「私の特定の魔法術式が記述されているオリハルコンの玉です。従の腕輪に空けたこのくぼみに、それをはめて使う仕組みになっています。左手をかざして念じれば、術式に応じた魔法が発動します」
「俺にも魔法が使えるようになるのか? へえ、それはすごいな」
「……ただ、使用には制限がありますけどね。さきほど魔力の共有と言った通り、これは腕輪を通して私の魔力を使って発動する術式ですから」
ということは、ジョゼの魔力がカラになったら打ち止めということか。
「どのくらい使えるんだ?」
「私とあなたで合わせて10回程度ですね。それ以上使用して私の魔力がカラになってしまうと、二人とも行動不能になってしまいます」
「10回か……。まあ、俺が魔法を使う機会なんてほぼないし、お守りみたいなものだと思ってればいいのか」
「……いえ、これを使って、巧斗には頼みがあります」
「頼み?」
俺が訊ね返すと、ジョゼは少しだけ逡巡してから、僅かに声をひそめた。
「実はあなたには……ヴィアラントに乗り込み、ミカゲの救出をして頂きたいのです」
執務室と違い、家具はベッドとテーブルがあるだけ。そのテーブルでジョゼはやはり書類とにらめっこしていて、周囲の床には直に書類の束がいくつも積み上がっていた。
「……俺に用事って何?」
扉を入ったところで声を掛けると、彼は手にしていた書類をまとめ、テーブルの上を片付けた。そして工具の入った袋を取り出す。
「とりあえずこっちに来て、向かいに座って下さい」
昨晩俺の作った食事をとったからか、今日のジョゼはだいぶ血色が良い。目の下のクマもいくらか薄れていることに安堵する。
「今日は体調良さそうだな」
「それはまあ、あなたの料理も食べられたし、ヒーリングも効きましたし。何よりあなたたちが来てくれたおかげで精神的に楽になりました」
「昨日まで精神的にやられてたってこと? ジョゼがそんなことを言うなんて珍しいな」
「私だって色々心配事があるのですよ」
まあ、ここに到着した時も忙しくて人手が足りないと言っていたからな。ディタルとの会話でも守るものが増えたと言っていたし、ジョゼもアイネルのために頑張っているのだ。
「あなたの方は、その後体調はどうですか?」
「俺? ……いや、うん、普通だけど」
唐突に訊ね返されて少し口ごもる。
その後、とは、あの行為の後ということだ。実はすこぶる身体の調子が良いなんて、とてもじゃないが答えられない。
俺の返しでそれを察したらしい目の前の男はにやにやとした笑みを浮かべたが、特にそこを突っ込んでは来なかった。
「問題ないのでしたら結構です。これで心置きなく予定を進めることができます。……巧斗、左腕を出して下さい」
「左腕?」
「一度私の腕輪を外します。もうあなたの能力を制御する術式は必要がなくなりましたからね。術式の書き換えをします」
書き換えって……それはつまり、問答無用でまた違う術式の腕輪を俺に着けるってことか。
……まあ、いいけど。
おとなしく左腕を出すと、俺ではびくともしないオリハルコンの紫の腕輪が、ジョゼの手によってあっさりと外された。
すぐに特殊な工具と金属粉で術式の一部が埋められ、腕輪が再加工されていく。
それを黙って眺めている俺に、彼は小さく笑った。
「また勝手に腕輪を着けるのかって、文句を言わないんですか?」
「ん-、今更文句言ってもな。……以前だったら得体が知れなくて嫌だったけど、今のジョゼが俺に酷いもの着けるとも思えないし。どういう効果がある腕輪なのか教えてくれればそれでいいよ」
「……そうやって、あんまり私を喜ばせないで下さい」
ん? 特に喜ばせることを言ったつもりもないのだけど。
きょとんとしていると、ジョゼは苦笑をした。
「巧斗は自分で気付いていないでしょうが、昨日の私へのヒーリングが、かなり強くなっていました。もう怯えた様子も見られないし、そんなふうに信頼を見せてくれる。……それが今の私にとってどれだけ喜ばしいことか、あなたには分からないのでしょうね」
「そういうのは、ちょっと分かんないけど。……でも、この状況は俺も嬉しいな。以前は怖くて近寄りたくなかったけどさ、あんたの知識やアイネルに対する愛国心は尊敬してるんだ。だからこうして直にジョゼの考えや行動を知れるようになったのは、勉強になるしありがたい」
「……まあ、にぶちんなあなたの心証がマイナスからプラスになっただけでも、今は十分です」
そう言いながら自身の腕輪を外し、そこに付いていたブラッドストーンを工具で取り外す。
そして、鞄の中から小さな巾着袋を取り出した。
ころりとテーブルの上に転がったのは、無数のヒビが入った透明な宝石だ。
「これは?」
「爆裂水晶……クラッククリスタルです。契約の内容としては、魔法の共有というところですか。少し急ごしらえでしたので、あまり凝った術式ではありませんが」
「……もしかしてこれ、新しく作ったのか? オルタのことでくそ忙しいだろうに、無駄に睡眠時間削るなよ……」
「無駄ではありませんよ。今こそ必要な腕輪なんです」
宝石をはめ直し、さらに術式を書き直すと、その腕輪は銀色に変化した。完成したそれを、ジョゼが自分の腕に着ける。
そうするとさっきまで紫だった従の腕輪も、テーブルの上で銀色になった。
「魔法の共有をする契約だって言ったよな? 今こそ必要って事は、ヴィアラントとの戦いに関わる契約なのか?」
「それがメインだというわけじゃありませんが、この契約が役に立つことは間違いないと思います。……私とあなたの専用術式として組み上げてしまったので、巧斗に着けてもらうしかないのですが……」
「何だよ、今更。別に問題ないよ、俺が着けるよ」
そう言って左腕を差し出したけれど、ジョゼは何故かすぐにそれを着けようとしなかった。
代わりに俺の左手の上に、小さな玉を3個乗せる。赤と、黄色と、黒の玉だ。
「……何、これ?」
「私の特定の魔法術式が記述されているオリハルコンの玉です。従の腕輪に空けたこのくぼみに、それをはめて使う仕組みになっています。左手をかざして念じれば、術式に応じた魔法が発動します」
「俺にも魔法が使えるようになるのか? へえ、それはすごいな」
「……ただ、使用には制限がありますけどね。さきほど魔力の共有と言った通り、これは腕輪を通して私の魔力を使って発動する術式ですから」
ということは、ジョゼの魔力がカラになったら打ち止めということか。
「どのくらい使えるんだ?」
「私とあなたで合わせて10回程度ですね。それ以上使用して私の魔力がカラになってしまうと、二人とも行動不能になってしまいます」
「10回か……。まあ、俺が魔法を使う機会なんてほぼないし、お守りみたいなものだと思ってればいいのか」
「……いえ、これを使って、巧斗には頼みがあります」
「頼み?」
俺が訊ね返すと、ジョゼは少しだけ逡巡してから、僅かに声をひそめた。
「実はあなたには……ヴィアラントに乗り込み、ミカゲの救出をして頂きたいのです」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる