真のヒロインはおっさんだから興味ないでしょ?

七瀬なしの

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2章

新しい契約輪

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 翌日、俺はジョゼに呼び出されて彼の部屋にいた。

 執務室と違い、家具はベッドとテーブルがあるだけ。そのテーブルでジョゼはやはり書類とにらめっこしていて、周囲の床には直に書類の束がいくつも積み上がっていた。

「……俺に用事って何?」

 扉を入ったところで声を掛けると、彼は手にしていた書類をまとめ、テーブルの上を片付けた。そして工具の入った袋を取り出す。

「とりあえずこっちに来て、向かいに座って下さい」

 昨晩俺の作った食事をとったからか、今日のジョゼはだいぶ血色が良い。目の下のクマもいくらか薄れていることに安堵する。

「今日は体調良さそうだな」
「それはまあ、あなたの料理も食べられたし、ヒーリングも効きましたし。何よりあなたたちが来てくれたおかげで精神的に楽になりました」
「昨日まで精神的にやられてたってこと? ジョゼがそんなことを言うなんて珍しいな」
「私だって色々心配事があるのですよ」

 まあ、ここに到着した時も忙しくて人手が足りないと言っていたからな。ディタルとの会話でも守るものが増えたと言っていたし、ジョゼもアイネルのために頑張っているのだ。

「あなたの方は、その後体調はどうですか?」
「俺? ……いや、うん、普通だけど」

 唐突に訊ね返されて少し口ごもる。
 その後、とは、あの行為の後ということだ。実はすこぶる身体の調子が良いなんて、とてもじゃないが答えられない。

 俺の返しでそれを察したらしい目の前の男はにやにやとした笑みを浮かべたが、特にそこを突っ込んでは来なかった。

「問題ないのでしたら結構です。これで心置きなく予定を進めることができます。……巧斗、左腕を出して下さい」
「左腕?」
「一度私の腕輪を外します。もうあなたの能力を制御する術式は必要がなくなりましたからね。術式の書き換えをします」

 書き換えって……それはつまり、問答無用でまた違う術式の腕輪を俺に着けるってことか。
 ……まあ、いいけど。

 おとなしく左腕を出すと、俺ではびくともしないオリハルコンの紫の腕輪が、ジョゼの手によってあっさりと外された。
 すぐに特殊な工具と金属粉で術式の一部が埋められ、腕輪が再加工されていく。
 それを黙って眺めている俺に、彼は小さく笑った。

「また勝手に腕輪を着けるのかって、文句を言わないんですか?」
「ん-、今更文句言ってもな。……以前だったら得体が知れなくて嫌だったけど、今のジョゼが俺に酷いもの着けるとも思えないし。どういう効果がある腕輪なのか教えてくれればそれでいいよ」
「……そうやって、あんまり私を喜ばせないで下さい」

 ん? 特に喜ばせることを言ったつもりもないのだけど。
 きょとんとしていると、ジョゼは苦笑をした。

「巧斗は自分で気付いていないでしょうが、昨日の私へのヒーリングが、かなり強くなっていました。もう怯えた様子も見られないし、そんなふうに信頼を見せてくれる。……それが今の私にとってどれだけ喜ばしいことか、あなたには分からないのでしょうね」
「そういうのは、ちょっと分かんないけど。……でも、この状況は俺も嬉しいな。以前は怖くて近寄りたくなかったけどさ、あんたの知識やアイネルに対する愛国心は尊敬してるんだ。だからこうして直にジョゼの考えや行動を知れるようになったのは、勉強になるしありがたい」
「……まあ、にぶちんなあなたの心証がマイナスからプラスになっただけでも、今は十分です」

 そう言いながら自身の腕輪を外し、そこに付いていたブラッドストーンを工具で取り外す。
 そして、鞄の中から小さな巾着袋を取り出した。
 ころりとテーブルの上に転がったのは、無数のヒビが入った透明な宝石だ。

「これは?」
「爆裂水晶……クラッククリスタルです。契約の内容としては、魔法の共有というところですか。少し急ごしらえでしたので、あまり凝った術式ではありませんが」
「……もしかしてこれ、新しく作ったのか? オルタのことでくそ忙しいだろうに、無駄に睡眠時間削るなよ……」
「無駄ではありませんよ。今こそ必要な腕輪なんです」

 宝石をはめ直し、さらに術式を書き直すと、その腕輪は銀色に変化した。完成したそれを、ジョゼが自分の腕に着ける。
 そうするとさっきまで紫だった従の腕輪も、テーブルの上で銀色になった。

「魔法の共有をする契約だって言ったよな? 今こそ必要って事は、ヴィアラントとの戦いに関わる契約なのか?」
「それがメインだというわけじゃありませんが、この契約が役に立つことは間違いないと思います。……私とあなたの専用術式として組み上げてしまったので、巧斗に着けてもらうしかないのですが……」
「何だよ、今更。別に問題ないよ、俺が着けるよ」

 そう言って左腕を差し出したけれど、ジョゼは何故かすぐにそれを着けようとしなかった。
 代わりに俺の左手の上に、小さな玉を3個乗せる。赤と、黄色と、黒の玉だ。

「……何、これ?」
「私の特定の魔法術式が記述されているオリハルコンの玉です。従の腕輪に空けたこのくぼみに、それをはめて使う仕組みになっています。左手をかざして念じれば、術式に応じた魔法が発動します」
「俺にも魔法が使えるようになるのか? へえ、それはすごいな」
「……ただ、使用には制限がありますけどね。さきほど魔力の共有と言った通り、これは腕輪を通して私の魔力を使って発動する術式ですから」

 ということは、ジョゼの魔力がカラになったら打ち止めということか。

「どのくらい使えるんだ?」
「私とあなたで合わせて10回程度ですね。それ以上使用して私の魔力がカラになってしまうと、二人とも行動不能になってしまいます」
「10回か……。まあ、俺が魔法を使う機会なんてほぼないし、お守りみたいなものだと思ってればいいのか」
「……いえ、これを使って、巧斗には頼みがあります」
「頼み?」

 俺が訊ね返すと、ジョゼは少しだけ逡巡してから、僅かに声をひそめた。

「実はあなたには……ヴィアラントに乗り込み、ミカゲの救出をして頂きたいのです」
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