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第八話(生者視点)
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「陛下、申し訳ございませんが、明日の視察は中止願います。」
眉根を寄せ硬い表情でバークが執務室に入ってきた。
ちょうど執務もきりが良く、休憩しようとしたところだったので、バークと共にソファへ座る。秘書官が入れたお茶を勧めたが、バークは首を横に振り、俯いてしまった。
「……第一騎士小隊で負傷者が多数出ており、騎士団の再編を願い出ております。」
「怪我人?何か事故でもあったのか?」「いえ……訓練中の事故といえば事故なのですが…」
バークにしては歯切れが悪く語ったところによると、鍛錬場で模擬刀が折れたり、団員同士がぶつかって大怪我する様な事故が多発しているのだと言う。
「……こんなに怪我人が多いのは、騎士団長に管理不足だと叱責を受けてしまって。」
騎士団の団長はバークの父親だ。優秀なバークは普段、叱責されることなどないのだろう。
「だが、模擬刀の破損は管理不足かもしれんが、鍛錬なのだからぶつかったりはよくあることだろう。」
明日の視察中止の手配をしていたリアムがバークを慰める様に言う。
元々第一小隊はバークを慕って騎士団を目指した者が多く、その能力は折り紙付きだ。訓練に力が入ってしまって怪我人が出ることはあり得る。
「……そう、なんだが………」
「どうしたんだバーク、お前らしくもない。」
顔を俯かせ、髪をグシャリと掻き混ぜるバークに私は本気で心配になった。
バークとはリアムと共に幼少の頃からの付き合いだが、こんな姿はほぼ見たことがない。騎士の家系であるためか常に礼儀正しく、いつも自信に満ちた目で真っ直ぐに顔を上げているのだ。
従兄弟であるリアムは気心の知れた人の前では、私に敬語を使わないこともよくあるが、バークは二人きりでも必ず敬語で話すほどなのに。
「………誰もいないのに女性の声が聞こえるのです…」
かすれる声でバークが話すことに、サッと鳥肌が立った。
「鍛錬場で何人もの人間が聞いたのです。女性の呻く様な声を……。
声がすると必ず、模擬刀が折れたり、防具の紐が切れたり……昨日は鍛錬場の周りを走っていた団員に、柵の補修用に揃えてあった丸太が倒れてきて……ロープは新品だった!
新品を私と部下で使ったのに切れていたのです。刃物を使った様ではなく、まるで古いロープがほつれた様に……」
「バーク……」
声をかけると、バークは目が覚めたかのように目を瞬かせる。しばらく視線を左右に泳がせると、意を決したように私を見た。
「…騎士団の第一隊長の職を辞することにしました。再編にはその件も折り込んであります。」
「なぜ?お前が辞めるんだ?!」
「怪我をした騎士たちが怯えているのです。第一小隊だけにアクシデントが多いのは私のせいではないか、と。」
「なんだよ、それ!バークのせいなんかじゃないだろう!」
「あの声は、マリアベル様なのではないか、と。
学園の卒業式に、リリー様への嫌がらせを断罪した時に、衆人環視の中マリアベル様を押さえつけたのも、リリー様の毒殺未遂の時、マリアベル様を拘束したのも、私と第一小隊の人間です。
……マリアベル様の呪いではないかと。」
マリアベルの呪いと聞いて、私はショーンの部屋での不可思議な現象が浮かんでくる。
「いや、マリアベル様の呪いとか言って、お前一人で逃げるつもりなのか?」
リアムも自分が体験したことに思い当たったのだろう。いつもの飄々とした様子は微塵もなく、噛み付くようにバークにつかみかかる。
「騎士団の中に居場所がないのです。団員たちには遠巻きにされ、求心力も全くない私が騎士団に居残ることで、逆に騎士団全て、王城の防衛にも支障が出てしまう可能性が高い。
…それに……たとえ罪人だったとしても、騎士として淑女にすべきではなかった………。」
父の跡を継いでゆくゆくは騎士団長になることを目標にしてきたバークにとっては辛いことだろう。
だが、私もリアムと同じように、バークはこの言いようのない不安な世界から逃げ出すのではないかと感じてしまった。
そして数ヶ月後、バークは国内では最も過酷と言われる北の砦に旅立っていった。
眉根を寄せ硬い表情でバークが執務室に入ってきた。
ちょうど執務もきりが良く、休憩しようとしたところだったので、バークと共にソファへ座る。秘書官が入れたお茶を勧めたが、バークは首を横に振り、俯いてしまった。
「……第一騎士小隊で負傷者が多数出ており、騎士団の再編を願い出ております。」
「怪我人?何か事故でもあったのか?」「いえ……訓練中の事故といえば事故なのですが…」
バークにしては歯切れが悪く語ったところによると、鍛錬場で模擬刀が折れたり、団員同士がぶつかって大怪我する様な事故が多発しているのだと言う。
「……こんなに怪我人が多いのは、騎士団長に管理不足だと叱責を受けてしまって。」
騎士団の団長はバークの父親だ。優秀なバークは普段、叱責されることなどないのだろう。
「だが、模擬刀の破損は管理不足かもしれんが、鍛錬なのだからぶつかったりはよくあることだろう。」
明日の視察中止の手配をしていたリアムがバークを慰める様に言う。
元々第一小隊はバークを慕って騎士団を目指した者が多く、その能力は折り紙付きだ。訓練に力が入ってしまって怪我人が出ることはあり得る。
「……そう、なんだが………」
「どうしたんだバーク、お前らしくもない。」
顔を俯かせ、髪をグシャリと掻き混ぜるバークに私は本気で心配になった。
バークとはリアムと共に幼少の頃からの付き合いだが、こんな姿はほぼ見たことがない。騎士の家系であるためか常に礼儀正しく、いつも自信に満ちた目で真っ直ぐに顔を上げているのだ。
従兄弟であるリアムは気心の知れた人の前では、私に敬語を使わないこともよくあるが、バークは二人きりでも必ず敬語で話すほどなのに。
「………誰もいないのに女性の声が聞こえるのです…」
かすれる声でバークが話すことに、サッと鳥肌が立った。
「鍛錬場で何人もの人間が聞いたのです。女性の呻く様な声を……。
声がすると必ず、模擬刀が折れたり、防具の紐が切れたり……昨日は鍛錬場の周りを走っていた団員に、柵の補修用に揃えてあった丸太が倒れてきて……ロープは新品だった!
新品を私と部下で使ったのに切れていたのです。刃物を使った様ではなく、まるで古いロープがほつれた様に……」
「バーク……」
声をかけると、バークは目が覚めたかのように目を瞬かせる。しばらく視線を左右に泳がせると、意を決したように私を見た。
「…騎士団の第一隊長の職を辞することにしました。再編にはその件も折り込んであります。」
「なぜ?お前が辞めるんだ?!」
「怪我をした騎士たちが怯えているのです。第一小隊だけにアクシデントが多いのは私のせいではないか、と。」
「なんだよ、それ!バークのせいなんかじゃないだろう!」
「あの声は、マリアベル様なのではないか、と。
学園の卒業式に、リリー様への嫌がらせを断罪した時に、衆人環視の中マリアベル様を押さえつけたのも、リリー様の毒殺未遂の時、マリアベル様を拘束したのも、私と第一小隊の人間です。
……マリアベル様の呪いではないかと。」
マリアベルの呪いと聞いて、私はショーンの部屋での不可思議な現象が浮かんでくる。
「いや、マリアベル様の呪いとか言って、お前一人で逃げるつもりなのか?」
リアムも自分が体験したことに思い当たったのだろう。いつもの飄々とした様子は微塵もなく、噛み付くようにバークにつかみかかる。
「騎士団の中に居場所がないのです。団員たちには遠巻きにされ、求心力も全くない私が騎士団に居残ることで、逆に騎士団全て、王城の防衛にも支障が出てしまう可能性が高い。
…それに……たとえ罪人だったとしても、騎士として淑女にすべきではなかった………。」
父の跡を継いでゆくゆくは騎士団長になることを目標にしてきたバークにとっては辛いことだろう。
だが、私もリアムと同じように、バークはこの言いようのない不安な世界から逃げ出すのではないかと感じてしまった。
そして数ヶ月後、バークは国内では最も過酷と言われる北の砦に旅立っていった。
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