エスコート株式会社

ぽよよん

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設立

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 エスコート株式会社

 婚約者が他の人をエスコートしてしまって、エスコートをしてくれる人がいない貴女に朗報です。
 我が社のエスコートのプロによるエスコートをご堪能ください。

 馬車によるご自宅へのお迎え
 ダンスのパートナー
 会場での歓談の相手
 定時でのご自宅までお送り
 
 これらを適度な距離をもってお相手させていただきます。







「アホですか?お嬢様は…」
「ぎゃあぁっっ!!」

 突然、私の後ろから降ってきた声に、令嬢としてはアレな声を上げてしまった。
 振り返れば呆れた顔のリードが、私の手元を覗き込んでいる。びっくりした!

「何よ!なんか文句あるの?」

 私が机をバンっと叩くと、紙にインクが飛んでしまったわ。床までは飛んでいないみたいで、ホッとしたけど、点々の飛んだ紙を慌てて持ち上げて乾かすと、リードの目の前に突きつける。

「どうして私がアホなのよ!!」



 私はマーシャ・トルネイ。トルネイ侯爵家の長女ですわ。そしてここで私をアホ呼ばわりしているのが、私付きの侍従リードよ。

「まず、エスコート株式会社って、この名前がダサ過ぎです。」
「そこ?」
「未婚の淑女は家族又は婚約者以外とは、適切な距離を取らなくてはならないですよね。
 こんなの商売になるわけないじゃないですか。」

 はっはっはとわざとらしい大声で、さらに手のひらを上に両手を広げるポーズがホントにムカつくんですけど!!!!


「タ、ターゲットは未婚の女性だけとは限らないわ!」
「例えば?」
「う、例えば…例えば…」

 そんなこと急に言われたって!

「未亡人とか?」
「そ!それよ!!お金持ちの未亡人とかなら…」
「大体若いツバメがいますよね。」

 ツバメって何?
 エスコートとツバメってどう言う関係があるの?
 燕尾服のことスワローテイルっていうわよね。燕尾服を来てる人の隠語か何か?

「ちなみにツバメというのは、年上の女性の愛人になっている男性のことです。」
「し、知ってるわよ!!」

 そうなんだ!知らなかった…
 てことはジャイル伯爵のいつも側にいる麗しのランド様、儚げで白い礼服がバリ似合うあのランド様はジャイル伯爵のツバメ⁉︎愛人よりもなんだか素敵!

「お嬢様、またなんかぶっ飛んだこと考えてますね。まあいいですけど。」

 若いツバメに妄想を滾らせてしまった私を呆れた目で見ていたリードだけど、いつの間にか濡らしたハンカチで私の手についたインクを拭ってくれた。

「リード、ありがとう。貴方のハンカチ汚しちゃったわね。」

 インクの滲みはなかなか落ちないのに…
 リードはとっても私のこと馬鹿にするけど、こういうちょっとした所で優しい。
 そして、私はチョロいという自覚はある!
 …だから

「リードの10分の1でいいから、私に気を遣って欲しい~!!」

あ、心の叫びが溢れてしまったわ。

「マグナス様ですか?」
「そうよ!あいつ、今度の夜会は私をエスコートしないとか言いやがったのよ!」
「ほう。」
「仮面舞踏会とか、いかがわしい夜会に他の娘をエスコートしてたのは知ってたわよ!
だけど、だけど!正式な夜会に婚約者をエスコートしないなんて、あり得なくない⁈⁈」
「ほう。」
「しかも、その相手にドレス贈るつもりなのよ!
 しかも、私のお気に入りのターン服飾店に注文出したのよ!!
 しかも、いつもとサイズが違いますけど宜しいのですか?なんて!いらない恥までかいたのよおぉっ!!!」
「ほーお!」

 ついつい高くなる声に反比例して、リードの合いの手はどんどん低くなっていく。
 あ、私ったらリードの襟首掴んでいたわ。

 だって、注文されたドレスの胸のサイズが2カップも上だったのよ!!
 いくら私でもそんな見栄は張らないわ……ささやかでもいいじゃない!

「それで、お嬢様はこのような会社を作る妄想で、悔しさを紛らわせていたと?」
「うっ……それは……」

夜会にエスコートは必須だ。
男性は一人でも参加できるが、女性には許されない。

「マグナスがエスコートしてくれないと、私は夜会に出ることはできないのが悔しくて……」

声に出してみると、なんだかすごく情けない。
マグナスが遊んでいても、止めることが出来ないのをこんなことで紛らわしていたのだから。

「リードに馬鹿にされてもしょうがないや。」
「お嬢様…」

「でもね、こんな会社あったら、お仕事だから~ってリードにエスコート頼める、かなってね。」

 リードだったら、きっと夜会でファーストダンス踊ってくれるよね。
 夜会の間中、放置したりしないよね。
 帰ってくるところ一緒だから、自分で馬車手配しなくてもいいよね。

 あ~、ほんと情けないよう。



「クソだ、クソだと思っていたが、あんのクソガキが~~っっ!!!!」


地の底を這うようなリードの声が、落ち込んでどこまでも沈んでいきそうな私の心を引き上げた。
あれ、もしかしてまた心の声が外に出てた?

うわあ!なんかリードの体からなんだか黒いモノが溢れているような気がする!

「お嬢様!」
「ひゃいっ!」

「立ち上げましょう!エスコート株式会社!」


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