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エドワード
しおりを挟む私の父上はロッド国王と異母兄弟だ。
母親がメイドであった為に卑しい庶民の血筋だとして、王族とは認められず冷遇されて育ったらしい。
私が生まれた時、一年先に産まれていたエドワード殿下の身代わりにする為に、王命で名前は同じエドワードと名付けられたのである。
「お前は僕の身代わりだからな。僕の代わりにちゃんと稽古してこいよ。」
そう言ってエドワード殿下は模擬刀を放り投げてどこかへ行ってしまった。
私は仕方なく模擬刀を拾うと、中庭に向かった。
「エディ。どうした?」
国王陛下から、エドワード殿下の剣の稽古をつけるよう命じられた父上は、私の手にある模擬刀を見て、ため息をつかれた。
ロッド王国軍の将軍の職にある父上は、忙しくて親子の交流の時間すらほとんど取れない。そんな父上に剣の稽古なんかを命じる方もどうかしていると思うけど、それをサボる王太子は本当に馬鹿なんじゃないかと思う。
「父上、私が稽古をつけてもらってもよろしいでしょうか?」
父上はまさに戦神だ。
一騎当千の強さを誇り、軍を率いて戦えば、たとえ新兵ばかりの隊であっても敵軍を撃破できる程の統率力をもつ。
父上と模擬刀を打ち合わせながら、逃げ出したエドワード殿下に感謝した。
それからしばらくして、国の各所で蜂起が起こった。
この蜂起は、数年続いた天候不良に加え、重税に耐えられなくなった民衆だけではなく、不当な弾圧を受ける辺境の貴族たちも加わったのである。
国王は当然父上に討伐を命じた。
「討伐することはできません。
すでに北西部、北東部から南にかけて蜂起のが起こっているのです。
今は失政により、民意が離れている。
このまま圧政を続けるかぎり、民衆は蜂起の連鎖は広がり、辺境の貴族たちは独立を選ぶでしょう。」
「民衆など武力で薙ぎ払って仕舞えばいい、」
「たかだか田舎貴族が、独立などできるわけなかろう!」
「貴様は農民共に勝てないというのか?戦神が臆病風に吹かれたか!」
王の側近たちは都合の良いことばかり言い募るだけで、自分たちが圧政を敷いていることを正したりはしなかった。
「クルザー大将。貴様はこの国のため、叛乱を抑えてくればいいのだ。」
「この国のためですか……」
「そうだ。貴様の卑しい庶民の血にも僅かながら高貴なる王家の血が入っているであろう。
誇りを持って、王家の力を見せつけてくるが良い。
そうだ。その間、貴様の息子は王宮で預かってやろう。」
王宮に連れて行かれた私は、この時ほど自分の無力を呪ったことは無かった。卑怯にも自分が人質だと子どもでもわかる。
父上に、自分を見捨ててくれるよう伝えたかった。
王宮の一室で、軟禁のような生活をしていたが、時々エドワード殿下が現れてくだらないことの身代わりをさせられた。
その頃エドワード殿下は、婚約者がいるにもかかわらずお気に入りの令嬢がいて、機嫌を取る為に私を利用していたのだ。
ある時、婚約者のところに行く約束と令嬢との約束が重なったと言って、私に身代わりを命じて来た。
婚約者のところにご機嫌伺いに行くようにと。
そう、婚約者はもちろん王宮の外にいる。
エドワード殿下の使う馬車に乗り、王宮を出た私はそのまま付き人たちを撒いて、父上の元に向かったのである。
結果、叛乱を起こした地方をまとめ上げ、父上を旗頭に独立国家クルザー王国が誕生した。
地方や辺境の貴族は、父上の戦神としての名声と、庶子とは言え王家の血筋であることが、担ぎ上げやすかったのだろう。
反乱軍に圧されたロッド国王は側近たちと逃げ出し、力の及ぶ南西部に王都を移した。
クルザー王国に対しては、もちろん周りの国からは風当たりが強かった。なんと言っても簒奪した国家だ。
父上の武勇にばかり頼ってはいられない。
私はロッド王国の元宰相と共に内政に励んだ。元宰相はロッド王国を諫めた為、地方に追放されていたところ、父上の元に駆けつけた人物だ。
優秀な彼と優秀な官僚たちとともに、天候不良で荒れた土地を整備し、農業、商業を立て直していく。
エドワード殿下に身代わりにされ、学んだ帝王学や経済学が本当に役に立った。
数年もすると周辺国もクルザー王国を認め、同盟を結ぶ友好的な国も増え、安定し始めた。
そこに降って湧いたのが隣国リール王国のアンジェリカ姫との縁談だ。
初めてアンジェリカ姫と顔合わせをした時、彼女の目はエドワード殿下と同じ、私を見下す目をしていた。
余程私との婚姻は嫌なのだろう、嫌悪感を隠そうとしないその態度に、怒りより笑いが出そうになった。
身代わりだったと言っても私とエドワード殿下はあまり似ていない。眼の色は同じだが、髪は暗い茶色で、甘い美男子と言われるエドワード殿下とは顔の造作も全く似ていない、どこにでもいるような顔だ。
そんな事も気に入らなかったのだろう。
秘密裡にロッド王国のエドワード殿下と通じたアンジェリカ姫は、婚姻式に身代わりを送りつけてきた。
ロッド王国の情報は間諜によって手に取るようにわかっている。アンジェリカ姫と通じて何か仕掛けて来てもロッド王国を潰す材料にしかならないだろう。
アンジェリカ姫が体調を崩したと言う言い訳で代わりに来たアンジェリカ姫の身代わりには全く興味はなかった。
アンジェリカ姫でもアンジェリカ妃でもどちらでも変わらない。
わかりやすい間諜だ。メイドに命じて監視しておけばいいだろうと。
婚姻式の際、この身代わりがどこまで事情を知っているのか。何を命ぜられているのか。素直には答えるまいと思いながらも尋ねてみた。
なんのためにこの国へ来たのかと。
『アンジェリカ姫の名を汚さないよう、精一杯がんばります!』
身代わりを一生懸命頑張るって、なんだ?
婚姻式で初めて会ったアンジェリカは、綺麗な瞳で真っ直ぐに私を見つめた。
婚姻式典に向かう為、手を取るとわずかに震えているが、真っ直ぐ前を向いて微笑みを浮かべる彼女の横顔はとても美しかった。
**************
「エドワード様。お茶の時間ですわ。」
仕事がひと段落つく頃、アンジェリカがお茶の用意をして執務室にやってくる。
彼女の思惑を図る為、婚姻してから間もなく、一日に一度お茶の時間を設け、顔を合わせるようにした。隙を作れば何かを仕掛けてくるだろうと。
素直な彼女は、王太子へのご機嫌伺いだと思っていたらしい。
私の為にと、疲れの取れるお茶をブレンドしたり、甘さを控えた菓子を開発したり、それはもう一生懸命ですよ。と、監視のメイドたちが入れ替わり立ち替わり報告に来たものだ。
ロッド王国を併呑した今でも、アンジェリカはこのお茶の時間を王太子妃の大事な公務だと思っている。
わざわざアンジェリカが、私の為にお茶を用意して会いにきてくれるのだから、公務ではない、などと教える必要はないだろう?
「ありがとう。アンジェリカ。」
ソファに座り、嬉しそうにお茶を入れるアンジェリカの隣に座り、頬にキスをする。
「エドワードさま!」
「お礼だよ、お礼。」
真っ赤なアンジェリカが可愛らしくて、ついつい目元にもキスをしてしまう。
「エドワード様。最近スキンシップが過剰ですわ。」
それは仕方がない。
第一王女を罪人として収監した後、すぐにロッド王国には宣戦布告をした。
と言っても、すでに国境での戦闘でロッド国軍が再起不能になったという情報がながれ、恐慌状態になったロッド国民が王宮になだれこみ、国王やその側近たちは殺され、残された者たちは降伏したのである。
第一王女は罪人として、リール王国に送り返した。処遇はリール王国任せだ。
甘い対応だとは思うが、私の元にはすでに本物のアンジェリカがいる。
クルザー王国との関係を守りたいなら、いまさら第一王女を表舞台に出すことはないだろう。
と、ここまで私は国内外を走り回っていたのだ。
当然、アンジェリカと本物の夫婦になったのは、全てが落ち着いた、つい最近のことだ!
「新婚なんだからね。まだまだ足りないくらいだよ。」
誰がなんと言おうと新婚だ。
婚姻式を行なったのは三年前だろうが、新婚だ!
自分で言うが、頑張ったご褒美が欲しい、
真っ赤になって恥ずかしがるアンジェリカを抱きしめて、その髪に頬擦りする。
最近は、気を利かせたのか、休憩時間になると皆、部屋を出るようになった。
もう少しだけ、アンジェリカを堪能しよう。
**************
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