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3章 勇者への備え
小話-魔術の武装転用
しおりを挟む「あら、珍しいですねミドラ支部長。あなたが資材倉庫にいらっしゃるなんて」
「実は、今倉庫に置いてある魔術道具について、いまいち把握しきれていない部分がありまして。確認を兼ねてちょっと見に来ました」
南支部の地下にある資材倉庫。戦闘部隊の装備をはじめとする様々な資材が保管してある倉庫を取り仕切っているのが、管理担当のキャルトさんだ。彼女と数名の魔物がこの資材倉庫の整理を担当している。
「魔術道具はちょっと分かりづらい場所に置いてありますから、良かったら私が案内しましょうか」
「もしお手隙でしたら、お願いします」
「今は急ぎの仕事もありませんから、お気になさらず。付いてきてください」
資材倉庫には大小様々な箱や棚が並べられており、私には何が何だか正直分からない。だが、キャルトさんにはどれがどこにあるのかすっかり分かりきっているらしく、迷うそぶりも無く魔術道具がある場所へと案内してくれた。
「ここです。その箱の中に、今南支部に残されている魔術道具が全て詰め込まれています。先の勇者との戦いでほとんど使い切ってしまったみたいで、そんなに量はないんですけどね」
案内された先にあったのはそれなりの大きさの箱だった。キャルトさんが開けてくれると、その中には様々な魔術道具が入っていた。いくつか見た事があるものがあったが、詳しい仕様までは知らないかった。
「ミドラ支部長は、魔術道具がどんなものかご存知ですか?」
「魔術が使えない者でも簡単な魔術の行使が可能になるよう作られた物だと聞いています」
「そうです。勇者が扱う聖剣ヴァイルセイバー、あれはかつて魔術師が命と引き換えに自らの光の魔術を刻み込んだ、厄介極まりない物です。それをもう少しスケールダウンさせて、簡単な魔術を込めて誰でも扱えるようにした物が、いわゆる魔術道具です。まぁ、例外もそれなりにあるんですけどね」
キャルトさんが箱の中から手のひらより少し小さいくらいの玉を取り出した。玉にはラベルのようなものが貼られていて、炎を模したマークがラベルに描かれていた。
「例えば、これは火炎玉と呼ばれる即時発動型の魔術道具です。相手に向かって投げつけて、着弾した所に小規模の炎の魔術を発生させます。込められている魔術もその発動方法も簡単なので、誰でも容易く扱えます。その代わり、基本的に使い切りなのがちょっとネックです」
次いで取り出されたのは短剣。至って普通の短剣に見えるが、これも鍔の側面にラベルが貼られていた。見たところ風のように見えるマークだ。
「こちらも同じ魔術道具ですが、先程の火炎玉と違って使い切りではなく、込められた魔術を何度も使う事ができます。聖剣と同じと思っていただいて大丈夫です。その代わり、魔術の発動には少しコツが必要で、ある程度魔術の適性がないと込められた魔術が使えません。勇者が選別されているのも、光の魔術に適性があるかどうか見られているのかも知れませんね」
「うちの戦闘部隊に配備するとすれば、やっぱり使い切りの魔術道具の方がいいんでしょうか?」
「そうですね、対勇者の集団戦を想定するならば、小技の一つとして扱える使い切りタイプがおすすめです。手に入りにくいのですが、雷の魔術が込められた雷光玉なんかは目眩しに使えるので、攻撃のきっかけなどに使えたりして応用が効きやすいです」
「そちらの短剣は、強い魔物に持たせたりといった使い方を想定しているのでしょうか?」
「隊長格の魔物に持たせてより強くするといった使い方が一般的です。聖剣ぐらい強い魔術道具ならばどの魔物に持たせても超強化が見込めるのですが、この短剣のような単一の魔術が込められた程度の物ならば、元から強い魔物に持たせるのが適切ですね」
「勉強になります」
「まぁ、そこらへんの話は実際にギロリアさんと話を擦り合わせたりしながら決めても良いと思いますよ。あの方なら、色々お詳しいでしょうし」
私も箱の中から玉を一つ取り出す。水を模したマークが付けられているので、これは水の魔術が込められているのだろうか。
「こういった魔術道具は、基本的には人間たちの物を奪って使っているんですか?」
「それもありますし、魔王城に居る魔術の使える魔物たちに作っていただいている分もあります。奪った物の方がやや多いでしょうか」
「なるほど。南支部にも魔術の使える魔物が居たら、これらの道具を作る事ができますか?」
「可能だと思います。といっても、こういった玉一つ作るのも結構時間がかかってるみたいなので、何体か集まらないと量産はできないでしょうけど」
実用的ではないと言うことだろう。戦術に組み込めたら大きいと思っていたが、難しいらしい。
「ありがとうございます。いくつか持っていって、ギロリアさんたちに見せてもいいですか?」
「もちろんです!この玉と短剣をお持ちになってください。それ以外だと盾とかもありますけど、玉と短剣以外はちょっと扱いが複雑なので、要相談かも知れません」
私が持っていた水の玉に加え、炎の玉と風の短剣を受け取る。これだけ持っても特に重いと感じることはない。懐にしまっていざという時に使うことも十分できるだろう。
「では、ありがとうございました。また何か用ができたらお邪魔します」
「いつでもどうぞ、お待ちしてますね!」
手を振るキャルトさんに一礼して、資材倉庫を後にするのだった。
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