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4章 東支部攻略戦
獣躙
しおりを挟む圧倒的な体格差=力の差がある相手には、対魔物の剣術である対魔剣術が有効である。先ほどのクモの魔物との戦いは、下手に相手の攻撃を利用しようとすると糸を絡められ逆に不利になる可能性があった為、ナギルもラグラベも対魔剣術を使わないようにしていた。使うようなタイミングが無かった、という方が正しいかもしれないが。
だが、この四天王リネル相手には対魔剣術が有効だろう。人間とは比べ物にならないパワーから繰り出される爪撃、強靭な脚を巧みに使った縦横無尽で素早いステップ、相手の力を利用して戦う対魔剣術が通用する相手だ。
だが、それは甘い考えだったのだ。
「どうした勇者!早く本気を出せ!」
「くっ、速すぎる!」
「クソがッ!」
右から攻撃を受けたかと思えば、ぐらつく身体が左からの攻撃に揺さぶられる。そうして思わず膝をつけば、後方から背中を蹴飛ばされ床に転がされる。ゴルザが絶えず身体に沿うように盾の魔術を纏わせてくれているおかげでダメージは抑えられるが、ゴルザの魔力も無限ではない。
ゴルザの魔力が尽きて盾が無くなる前に、聖剣でリネルを何度も攻撃し闇の魔術の効果を弱めて弱体化させなくてはならない。その為には、他でもない僕が踏ん張らなくてはいけないのだ。
頭ではそんな事、とうの昔に分かっている。だが、頭に思い描いた理想通りに戦える事など、そう簡単にできるはずもなく。
「そこかっ!」
正面から繰り出された巨大な爪の一撃を聖剣で受ける。その攻撃に剣が押される勢いを利用して、素早く剣を閃かせてリネルの右腕を切り裂く、はずだったのだが。
攻撃を防がれたリネルは咄嗟に背後へと飛び退き、返す斬撃を避けていた。リネルも分かっているのだ、聖剣に切り裂かれれば自分が大きなダメージを受けるという事を。
空振りになった聖剣を握り直し、リネルへと切り掛かる。だが、リネルはまたもこちらの攻撃が届かない位置まで瞬時に移動した。どれだけ攻め立てても一撃も当てられず、逆に向こうの攻撃を一方的に受け続ける、このがんじがらめの状況を脱するには。
両脚に魔力を集中させ、魔術を発動した。地面を強く踏み込み、一気に駆け出す。飛び退いたリネルに喰らいつくように走り、再び距離を詰めてリネルに向けて聖剣を振るった。
「なんだと!?」
先ほどまでより格段に速くなったナギルのスピードに驚いたリネルが、右腕の巨爪で剣を迎え撃つ。ガキン!と音を立てて聖剣と爪がかち合う。聖剣が宿す光の魔術に僅かにリネルが身じろぎしながらも、ナギルの力に負けまいと力を込めた。
その力を利用する。リネルのパワーを剣で受け切り、押されるように身を翻し、その首元を狙って聖剣を振るった。動きはさっきまでとほとんど同じだ。だが、今回は速度が異なった。
魔術により速さを増した肉体による聖剣の斬撃は、その一瞬リネルの野生的な反射速度を凌駕する。リネルは避けようと身を仰け反らせたが、ナギルの攻撃の方が速く、リネルの首筋を剣先が斬り裂いた。
斬撃に加え、光の魔術による灼かれたような痛みが、リネルの首元から全身へと走る。それでも何とか痛みを堪えながらリネルは跳躍し、何とかナギルのリーチから逃れた。
「いいぞ、ナギル。今のは身体強化の魔術か」
「はい、効果の範囲を両脚に絞れば、今の僕でもけっこうな効果量で使えるので」
ラグラベがナギルの肩をポンと叩く。二人の後ろにゴルザが立った。
「その調子です、ナギルさん。どんどん攻撃して、四天王の力を削いでください。その為のサポートは、私とラグラベさんに任せてください」
「おう、ガンガン行けよ!」
「はい!」
ナギルたちの様子を見ていたリネルがギリリと歯軋りをする。勢いづこうとしていた勇者たちへ、リネルは四天王としての洗礼を浴びせる事にした。
「たった一度俺に傷を付けたぐらいで、粋がるなよ勇者ども……!」
リネルの身体を覆う体毛が総毛立つ。ググッと力を込められたその巨体より発露したのは、全身の皮膚に突き刺さるほどに強烈な殺気だった。
「……ッ!これは!?」
「はッ、やべェなこれは……」
正面から浴びせられたその殺気に、汗が額を静かに伝い、鳥肌が立つ。明らかに攻撃を強めてくると思われるリネルに、ナギルとラグラベが剣をより強く握り直し、ゴルザが盾の魔術をより厚くした、その時だった。
音もなく、リネルが姿を消した。消える寸前僅かに見えた残像から、これまでの比ではないスピードで跳躍した事が窺い知れたが、辺りを見回してもその姿は見られない。駆け回っているような音も聞こえず、先ほどまで浴びせられていた殺気も感じられなくなった。
あまりの静寂に一瞬、やつが自滅したのではないかと思うような楽観的すぎる思考さえ過ぎる。それほどまでにリネルの気配が無い。いつ不意打ちを喰らってもいいように、背中合わせになって周囲を警戒しようとしたナギルとラグラベの視界に飛び込んできたのは、血の筋を纏いながら宙に舞うゴルザの姿だった。
「ゴルザさん!」
「いつまでも盾を貼られるのは鬱陶しかったんでな。まずはそいつから潰させてもらった。とは言っても、致命傷は与えられなかったが」
先ほどまでゴルザが立っていた場所に、リネルの姿があった。速すぎる、いつの間に移動していたというのか。
リネルの攻撃で宙を舞ったゴルザが地を落ちる。脇腹を切り裂かれており、そこから血が流れているのが見える。咄嗟に盾の魔術を自身に向けて発動したのだろう、本来なら大きく肉を抉られ即死していたかもしれないほどの攻撃を、ゴルザはなんとか耐えていた。
ナギルがゴルザの元へと駆ける。回復の魔術でゴルザが受けたダメージを和らげなければならない。言葉を介さずその意図を汲み取ったラグラベは、治療の間の時間稼ぎをするべくリネルに向かって斬りかかった。
「喰らいやがれッ!」
ラグラベは懐から取り出した火炎玉を剣に叩きつけた。先刻のクモの魔物との戦いでも使った、炎を纏わせた剣。魔物たちの根源的な無意識へ危機感を覚えさせる、光の魔術とはまた違った輝きだ。
リネルに向けて正面から繰り出された斬撃。ラグラベの渾身の一撃を、リネルは簡単に親指と人差し指で摘んで受け止めてみせた。手が炎に巻かれるのも意に介さずに。
「くそッ、離せ!」
「己の非力を恨めよ、剣士!」
目一杯空気を吸い込んだのち、リネルが思いっ切り口を開いた。ルーツであるライオンさながらの大きく鋭い牙が並ぶ口内をラグラベに向けたかと思うと、そこから大音量の咆哮が迸った。
あまりの威力で繰り出された咆哮は衝撃波を伴い、真っ正面からラグラベへと叩きつけられる。もろに喰らったラグラベは鼻から幾筋もの血を流し、意識が朦朧とし始めた。更にリネルの前蹴りを腹部へと喰らい、床へと転がされる。
「ラグラベさん!」
リネルは指で摘んでいた剣を手に取ると、その側面を大きな手の甲で叩き、剣を中ほどからへし折って側へと投げ捨てる。
「さぁ、勇者よ。俺を倒せるか?お前の兄を超えられるか?」
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