魔王軍中間管理職ですが、2年連続で勇者が来るのは聞いてません

鹿樋歩

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0章 先代勇者

旅の終わり

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 ここまで何百体もの魔物を討ち倒してきた。四天王と呼ばれた強力な魔物達も、鉄壁を誇る砦も、仲間と共に乗り越えてきた。

 その過去は俺たちの確かな強さの証明であり、自信でもあった。だからこそ、こんな所で負けるわけにはいかないのだ。俺を勇者と信じて力を貸してくれた皆に報いるためにも、俺は、勝たなくてはならない。

「その程度か、勇者」

 ついに乗り込んだ魔王城。そこで待ち構えていたのは、一人の剣士。俺たちと同じ人間だった。だが、その身からは魔物達と同じ、魔王の魔力が感じられた。俺たちの姿を見るなり襲いかかってきたその人間が魔王の手下であることは、疑いようがなかった。

 全く隙の無い洗練された剣技に、魔王の魔力を基とした絶大な威力の魔術。それらを完璧に使いこなす剣士の、四天王すらも凌ぐであろう圧倒的な強さを前に、ここまで苦難を共にしてきた仲間達が、一人、また一人と倒れていった。

「俺は、負けるわけにはいかないんだ」

 幾度となく剣士の攻撃を受けズタボロになった自らの身体に、今一度鞭を打ち立ち上がる。痛みに歪みそうになる顔をグッと堪え、剣士に向かって聖剣を構えた。

 俺の決死の想いに応えるように、聖剣が淡く柔らかな光を帯び始めた。どこか暖かささえ感じるその輝きは、かつてこの聖剣を作り出した魔術師が剣に込めた、聖なる魔力の発露らしい。ここまでの死闘の中でも、この輝きに俺たちは助けられてきた。

 聖剣を大きく振りかぶり、渾身の一振りを放つと、剣に込められた魔を払う聖なる魔力が、斬撃として放たれた。

 魔物たちが身に宿す魔王の魔力を浄化することが出来る聖なる魔力が込められた一振り。これまでの戦いでも勝負の決め手となってきた会心の一撃だったが、闇の魔力を込めた剣士の斬撃に、無惨にも打ち砕かれた。

「その程度か、と聞いている」

「くそっ!」

 すかさず剣士に詰め寄り、斬撃の隙を突くように剣を振るう。しかし、それも素早く身を翻した剣士には当たらない。それどころか、瞬時に魔力を溜めた剣士が放った黒い雷の魔術をもろに喰らってしまい、吹っ飛ばされて地面を転がった俺は、再び地面にひれ伏すこととなった。

 魔術の直撃した脇腹が、身体中の傷の中でも一際激しくズキズキと痛み出す。思わず涙がちょちょぎれそうになりながらも、再び立ち上がろうと力を振り絞ったその膝を、迸る黒い雷が撃ち抜いた。

「~~~~っ!!」

 言葉にならない悲鳴を上げながら、三度俺は地面へと転がることとなった。そうしながらも何とか剣士の姿を見失わないよう目を向けると、剣士は剣を構えながらこちらへと歩み寄っていた。

 死

 脳裏によぎり出したその一文字を何とか打ち消そうと、必死に身体に力を込め、立ち上がろうとした。だが、奴の斬撃と魔術にズタボロにされた肉体が、痛みというシグナルをひっきりなしに脳へ送り続けてくる。もう、戦えないとでもいうように。

 戦いの中で痛みには慣れたつもりだった。だが、所詮俺は勇者なんかじゃなく、ただの人間だったのだ。今、命の危機に瀕した俺の思考は、目の前の戦いのことではなく、故郷に残してきた家族のことを思い返そうとしていた。

 ここからでも逆転勝利できないだろうか、せめて一矢報いてやろうなどという考えは一切起きず、眼前に迫った剣士をただ見つめることしかできなかった。

「過去、11人の勇者が誕生し魔王様に反旗を翻したと聞いているが、この魔王城まで辿り着いた勇者は、お前が初めてだ。賞賛に値する」

「じゃあ、見逃してくれるか?」

 苦し紛れの言葉にも、剣士の冷ややかな表情は微動だにしない。無情なる剣士が剣を振りかぶり、俺のことを見据える。

「故郷はどこだ」

「故郷?」

「生まれ育った村はどこだ」

 全身からの出血に遠のき始めた意識では、繰り返された質問の意図が分からない。思わず口を突いて出た故郷の響きは、どこか懐かしさを帯びていた。

「ルタールだ、この魔王城から北東にある。野菜が美味い。一度食いに行ってみてくれ」

「そうか。覚えておこう」

 剣士がそう言い終えるが早いか、高速で振り下ろされた一撃に俺は意識を手放し、静かに目を閉じた。
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