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短編①門派を追放されたらライバルが溺愛してきました。
010:呉越同舟(四)
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山を下りるのは比較的簡単だった。昨晩は一歩進むのも難儀したものだったが、既に雨はすっかりと止んでいて地面のぬかるみもそこそこだ。多少よろけつつも煬鳳は凰黎に時おり支えられながら下山した。
「歩きで申し訳ありませんね」
「お前は敢えてそうしたんだろう? 世話になってるのは俺だ。気を使うな」
「それは、どうも」
運動能力まで全て奪われた手前、普段なら全く苦労しないような場所でも必要以上に苦労してしまう。よもや山を下りるだけでも苦労するとは思わなかったと、降りて来た山を振り返り煬鳳は痛感した。
「それで、どこに行くんだ? 俺の……俺の元いた門派のことも聞くんだろう。そのためについてきたんだからな」
「分かっています。……ですがその前に」
そう言うと凰黎は煬鳳の頭に竹笠を被せると、顎下で結わう。
「今の見た目なら恐らく貴方だと気づかれることはないでしょうが……念のためです。ここから先は私の門弟、ということで」
「分かった」
「うん、宜しい。では行きましょう」
ゆったりと歩き始めた凰黎から離れないよう、煬鳳はその背をしっかりと追いかける。
――凰黎の笑顔がこんなにも眩しいなんて、思ったことも無かった。
そんなことを想う自分が何だか気恥ずかしい。彼の背を見ながらそんなことばかり考えていると、やがて直視できなくなってしまった。
(門派の情報を聞きに来たのに、何を考えているんだろう、俺……)
煬鳳は笠の端を摘まんで俯いた。
意外なことだが、煬鳳が力の全てを奪われたあとで門派を追われ、掌門の座から引きずり降ろされたという話は、まだどこにも伝わっていないようだった。
露店や行商を回りながら凰黎が時おり「最近驚くようなことはありましたか?」と尋ねていたのだが、出てくる話題と言えば「女幽霊の退治を依頼したら、お持ち帰りしてしまった」とか「飲兵衛の怪異が出没するので助けを求めたら飲み比べ勝負が始まって、店の酒を全て飲み尽くされてしまったが、どうしたらいいか」という、どうしようもない相談が持ちかけられてしまった。
凰黎という男は随分と皆に慕われているらしい。凰黎が問いかけると皆嬉しそうに答えてくれるし、野菜を買い求めようとすれば一つ多く、二つ多くと喜んで上乗せしてくれるのだ。
凰黎は昨晩「がさつで傲慢。誰に対しても尊大」だと言っていたが、確かにそんな態度では誰からも好かれるはずもない。皆の見つめる凰黎への視線をぼんやりと見つめながら、煬鳳は思った。
「……おい、坊主!」
「お、俺!?」
それまでずっと蚊帳の外だったはずの煬鳳は、不意に呼びかけられて驚く。
「よう坊主! 凰様のお弟子さんかい」
振り向いた先にいたのは抱え桶の魚売りだ。無精ひげを生やした魚売りは親しみある笑みを見せながらニコニコと煬鳳を見ている。
違うと言いかけ、今の自分は凰黎の弟子という設定だったことを思い出し、慌てて煬鳳は頷いた。
「そ、そうなんだ。買い物の、付き添いで一緒に……」
「おぉ、そうかいそうかい。ならこれを持って行きな」
たどたどしい返しを気にも留めず豪快に魚売りは笑う。桶の中から何匹か魚を取り出すと煬鳳の目の前に突き出した。
「凰様には日ごろ大変なお世話になってるからよ。金はいらねえから持ってきな」
勝手に貰って良いものなのか。どうしたら良いか分からずにおたおたとしていると、それに気づいた凰黎がすかさず魚売りとの間に割って入ってくれた。
「申し訳ありませんが、売り物なのにただで頂くわけには参りません。せめて少しでも……」
「良いって良いって。その代わりまた困ったときはお願いしますよ、凰様」
凰黎は金を払おうと懐に手を突っ込んでいたところだったが、魚売りに懇願されて少しばかり困った顔する。
「普段から蓬静嶺の皆様にはお世話になっておりますから。これは我々の気持ちです」
「……分かりました。有り難く頂きます」
それでも魚売りは凰黎にどうしても渡したいと引かぬ様子だったので、最終的には魚売りの好意を受け取ることにしたようだ。
「やだなあ、そんなに畏まらないでくださいよ。凰様はあの玄烏門の奴らとは違うんですから!」
突然己の門派の名が出てきたものだから、煬鳳は咳き込みそうになった。慌てて凰黎が彼を背後に隠す。気づかれないだろうと踏んではいたようだが、煬鳳が気に病み話題を聞かせるわけにもいかず咄嗟に遮ったらしい。
「まあまあ、末端はともかくとしても、彼らとて無差別に危害を加えるようなことはしなかったでしょう?」
「そうかもしれねえけどさ。玄烏門の頭は横暴だし、あいつの手下どもが調子に乗って、たびたびやってきては好き放題に暴れ散らかしていくんだよ。あれじゃごろつきと何ら変わらない。堪ったもんじゃねえってもんです」
「……」
これには凰黎も反論できず、困った顔で魚売りを見る。
そうなのだ。
確かに煬鳳は、力のある者とは遠慮なく戦うが、弱い者に当たり散らしたことはないつもりだ。……とはいえ、機嫌が悪いときには怒鳴ったりしたかもしれないが。
そして弟子の中でも末端のならず者のような者たちが半ば略奪行為に近いことをしていたことも気づいていた。煬鳳は我存ぜぬとそのような行いがあっても気にしたことは無かったのだ。
しかし、今なら分かる。
己は玄烏門の掌門だったのだ。もしも信条に反するような行為がどこかで起きていたのなら、そしてそれが自分の門派の者の所業であるならば。
掌門として責任ある行動をすべきだったし、今の凰黎のように掌門たるべき態度を日ごろからすべきだったのだ。
……威厳があるように見せることや、背を高く見せることとは全く違う。
所詮は全て終わったあとのこと。
持たされた魚を見つめながら、俯く。
「うわ!?」
――が、何故か急に笠の上からがしがしと頭を揺さぶられ、煬鳳は驚き声をあげた。
「坊主もちゃんと凰様の仰ることを聞いて、修行に励むんだぞ! 強くなったらしっかりと助けて貰うからな! がっはっは!」
年上から暴力を振るわれることは多かったが、こんなふうに接してこられたのは初めてだ。こそばゆい気持ちを感じながら煬鳳は「は、はい」ともぞもぞ答えた。
その後も情報収集と凰黎の買い物は続き、夕刻に差し掛かった頃にようやく二人は帰路についた。まだ一日しか経っていないというのに、戻ってきた瞬間妙にほっとしたような不思議な気持ちになってしまう。小屋の外の小川に野菜を浸している凰黎の姿を見つめながら、煬鳳は思う。
(玄烏門に戻ってきたときはホッとした気持ちより、一層気を引き締めて踏み入れる方が多かったな)
今この場所は、煬鳳にとって『安らげる場所』ということなのだろうか。煬鳳には分からない。
凰黎は小屋に入ると「夕餉の支度をする」と言って支度を始めた。煬鳳も何か手伝えることがあるかと尋ねたが、よくよく考えてみれば料理など一切したことが無い。せめて野菜を切ろうと思ったが、刃物の持ち方が人を殺しそうだと言われ、止む無く断念することになった。
「そう落ち込まないでください。その気があるなら少しずつ教えますよ」
煬鳳を止めた凰黎の表情はどこか嬉しそうだ。
「その気があるかどうかはまだ分からない」
「気長に待ちますよ」
凰黎はくすくすと笑ったが、凰黎は気長に――この小屋で煬鳳がどれ程のあいだ暮らすと思っているのだろうか。と、一瞬よぎったが、あまり深く考えないことにした。
「器用なものだな」
「逆に貴方は思った以上に不器用でしたね。胡桃を割れば小屋の外まで飛んでいくのですから。ある意味才能です」
「ほ、ほっとけ!」
そう。皮むきや殻割り程度なら何とかなるだろうと思ったのだが、力の加減が難しくて中身があらぬところに飛び去ってしまった。悲しいことに胡桃の本体は川の中に沈んでしまったのだ。
対する凰黎は慣れた手つきで魚をさばき、野菜は綺麗に切りそろえ、鮮やかな手つきで魚を炒めている。煬鳳の記憶の中にある普段の彼は、剣を取ればそれこそ暴君などと呼ばれることもある煬鳳と対等にも渡り合えるほどの腕前を持つ人物だ。なのに、どうして握るものが変わると、こうも印象が変わるのか。彼の端正な横顔は、ついぞこの前まで『高飛車で高慢ちきそうな男』などと思っていた自分を殴ってやりたいほどには優しく穏やかに見えた。
結局凰黎が夕餉を作っているところを一頻り見るだけで終わってしまった煬鳳だったが、凰黎は文句ひとつ言うことはない。
「ふふ。昼間の話、聞きましたよ。確か……『ちゃんと凰様の仰ることを聞いて、修行に励むんだぞ』『は、はい』でしたっけ」
夕餉を二人で食べながら、凰黎が唐突に口にする。その場しのぎで答えただけのやりとりを一字一句間違えず言われてしまい、煬鳳は焦った。
「あ、あれは! 弟子っていうことにしてたからだな……」
凰黎は慌てる煬鳳の言葉をまともに取り合おうとはしない。
「貴方がその気なら、私はいつでもお待ちしていますよ? 上に掛け合いますので」
「ばっ……か、からかうな!」
「はいはい。……冷めないうちに、食べてください」
反論したら、料理のことを持ち出されてはぐらかされてしまった。しかしせっかく作って貰った食事をいつまでも放置するのは勿体ない。大人しく煬鳳は夕餉に再び箸をつける。凰黎の作った夕餉は決して豪勢な料理ではないが、彼の一連の調理工程を見ていれば、雑にさっさと作れるようなものではないとすぐ分かる。美味しいかどうかでいうならば、
「とても美味い」
懐かしく優しい味付けで、とても美味かった。
「それは、どうも」
「……何だか、子供の頃のことを思い出した」
「それは……聞いても構いませんか?」
「なに、そんな大したことじゃない。月並みで、よくあるような身の上だよ」
「歩きで申し訳ありませんね」
「お前は敢えてそうしたんだろう? 世話になってるのは俺だ。気を使うな」
「それは、どうも」
運動能力まで全て奪われた手前、普段なら全く苦労しないような場所でも必要以上に苦労してしまう。よもや山を下りるだけでも苦労するとは思わなかったと、降りて来た山を振り返り煬鳳は痛感した。
「それで、どこに行くんだ? 俺の……俺の元いた門派のことも聞くんだろう。そのためについてきたんだからな」
「分かっています。……ですがその前に」
そう言うと凰黎は煬鳳の頭に竹笠を被せると、顎下で結わう。
「今の見た目なら恐らく貴方だと気づかれることはないでしょうが……念のためです。ここから先は私の門弟、ということで」
「分かった」
「うん、宜しい。では行きましょう」
ゆったりと歩き始めた凰黎から離れないよう、煬鳳はその背をしっかりと追いかける。
――凰黎の笑顔がこんなにも眩しいなんて、思ったことも無かった。
そんなことを想う自分が何だか気恥ずかしい。彼の背を見ながらそんなことばかり考えていると、やがて直視できなくなってしまった。
(門派の情報を聞きに来たのに、何を考えているんだろう、俺……)
煬鳳は笠の端を摘まんで俯いた。
意外なことだが、煬鳳が力の全てを奪われたあとで門派を追われ、掌門の座から引きずり降ろされたという話は、まだどこにも伝わっていないようだった。
露店や行商を回りながら凰黎が時おり「最近驚くようなことはありましたか?」と尋ねていたのだが、出てくる話題と言えば「女幽霊の退治を依頼したら、お持ち帰りしてしまった」とか「飲兵衛の怪異が出没するので助けを求めたら飲み比べ勝負が始まって、店の酒を全て飲み尽くされてしまったが、どうしたらいいか」という、どうしようもない相談が持ちかけられてしまった。
凰黎という男は随分と皆に慕われているらしい。凰黎が問いかけると皆嬉しそうに答えてくれるし、野菜を買い求めようとすれば一つ多く、二つ多くと喜んで上乗せしてくれるのだ。
凰黎は昨晩「がさつで傲慢。誰に対しても尊大」だと言っていたが、確かにそんな態度では誰からも好かれるはずもない。皆の見つめる凰黎への視線をぼんやりと見つめながら、煬鳳は思った。
「……おい、坊主!」
「お、俺!?」
それまでずっと蚊帳の外だったはずの煬鳳は、不意に呼びかけられて驚く。
「よう坊主! 凰様のお弟子さんかい」
振り向いた先にいたのは抱え桶の魚売りだ。無精ひげを生やした魚売りは親しみある笑みを見せながらニコニコと煬鳳を見ている。
違うと言いかけ、今の自分は凰黎の弟子という設定だったことを思い出し、慌てて煬鳳は頷いた。
「そ、そうなんだ。買い物の、付き添いで一緒に……」
「おぉ、そうかいそうかい。ならこれを持って行きな」
たどたどしい返しを気にも留めず豪快に魚売りは笑う。桶の中から何匹か魚を取り出すと煬鳳の目の前に突き出した。
「凰様には日ごろ大変なお世話になってるからよ。金はいらねえから持ってきな」
勝手に貰って良いものなのか。どうしたら良いか分からずにおたおたとしていると、それに気づいた凰黎がすかさず魚売りとの間に割って入ってくれた。
「申し訳ありませんが、売り物なのにただで頂くわけには参りません。せめて少しでも……」
「良いって良いって。その代わりまた困ったときはお願いしますよ、凰様」
凰黎は金を払おうと懐に手を突っ込んでいたところだったが、魚売りに懇願されて少しばかり困った顔する。
「普段から蓬静嶺の皆様にはお世話になっておりますから。これは我々の気持ちです」
「……分かりました。有り難く頂きます」
それでも魚売りは凰黎にどうしても渡したいと引かぬ様子だったので、最終的には魚売りの好意を受け取ることにしたようだ。
「やだなあ、そんなに畏まらないでくださいよ。凰様はあの玄烏門の奴らとは違うんですから!」
突然己の門派の名が出てきたものだから、煬鳳は咳き込みそうになった。慌てて凰黎が彼を背後に隠す。気づかれないだろうと踏んではいたようだが、煬鳳が気に病み話題を聞かせるわけにもいかず咄嗟に遮ったらしい。
「まあまあ、末端はともかくとしても、彼らとて無差別に危害を加えるようなことはしなかったでしょう?」
「そうかもしれねえけどさ。玄烏門の頭は横暴だし、あいつの手下どもが調子に乗って、たびたびやってきては好き放題に暴れ散らかしていくんだよ。あれじゃごろつきと何ら変わらない。堪ったもんじゃねえってもんです」
「……」
これには凰黎も反論できず、困った顔で魚売りを見る。
そうなのだ。
確かに煬鳳は、力のある者とは遠慮なく戦うが、弱い者に当たり散らしたことはないつもりだ。……とはいえ、機嫌が悪いときには怒鳴ったりしたかもしれないが。
そして弟子の中でも末端のならず者のような者たちが半ば略奪行為に近いことをしていたことも気づいていた。煬鳳は我存ぜぬとそのような行いがあっても気にしたことは無かったのだ。
しかし、今なら分かる。
己は玄烏門の掌門だったのだ。もしも信条に反するような行為がどこかで起きていたのなら、そしてそれが自分の門派の者の所業であるならば。
掌門として責任ある行動をすべきだったし、今の凰黎のように掌門たるべき態度を日ごろからすべきだったのだ。
……威厳があるように見せることや、背を高く見せることとは全く違う。
所詮は全て終わったあとのこと。
持たされた魚を見つめながら、俯く。
「うわ!?」
――が、何故か急に笠の上からがしがしと頭を揺さぶられ、煬鳳は驚き声をあげた。
「坊主もちゃんと凰様の仰ることを聞いて、修行に励むんだぞ! 強くなったらしっかりと助けて貰うからな! がっはっは!」
年上から暴力を振るわれることは多かったが、こんなふうに接してこられたのは初めてだ。こそばゆい気持ちを感じながら煬鳳は「は、はい」ともぞもぞ答えた。
その後も情報収集と凰黎の買い物は続き、夕刻に差し掛かった頃にようやく二人は帰路についた。まだ一日しか経っていないというのに、戻ってきた瞬間妙にほっとしたような不思議な気持ちになってしまう。小屋の外の小川に野菜を浸している凰黎の姿を見つめながら、煬鳳は思う。
(玄烏門に戻ってきたときはホッとした気持ちより、一層気を引き締めて踏み入れる方が多かったな)
今この場所は、煬鳳にとって『安らげる場所』ということなのだろうか。煬鳳には分からない。
凰黎は小屋に入ると「夕餉の支度をする」と言って支度を始めた。煬鳳も何か手伝えることがあるかと尋ねたが、よくよく考えてみれば料理など一切したことが無い。せめて野菜を切ろうと思ったが、刃物の持ち方が人を殺しそうだと言われ、止む無く断念することになった。
「そう落ち込まないでください。その気があるなら少しずつ教えますよ」
煬鳳を止めた凰黎の表情はどこか嬉しそうだ。
「その気があるかどうかはまだ分からない」
「気長に待ちますよ」
凰黎はくすくすと笑ったが、凰黎は気長に――この小屋で煬鳳がどれ程のあいだ暮らすと思っているのだろうか。と、一瞬よぎったが、あまり深く考えないことにした。
「器用なものだな」
「逆に貴方は思った以上に不器用でしたね。胡桃を割れば小屋の外まで飛んでいくのですから。ある意味才能です」
「ほ、ほっとけ!」
そう。皮むきや殻割り程度なら何とかなるだろうと思ったのだが、力の加減が難しくて中身があらぬところに飛び去ってしまった。悲しいことに胡桃の本体は川の中に沈んでしまったのだ。
対する凰黎は慣れた手つきで魚をさばき、野菜は綺麗に切りそろえ、鮮やかな手つきで魚を炒めている。煬鳳の記憶の中にある普段の彼は、剣を取ればそれこそ暴君などと呼ばれることもある煬鳳と対等にも渡り合えるほどの腕前を持つ人物だ。なのに、どうして握るものが変わると、こうも印象が変わるのか。彼の端正な横顔は、ついぞこの前まで『高飛車で高慢ちきそうな男』などと思っていた自分を殴ってやりたいほどには優しく穏やかに見えた。
結局凰黎が夕餉を作っているところを一頻り見るだけで終わってしまった煬鳳だったが、凰黎は文句ひとつ言うことはない。
「ふふ。昼間の話、聞きましたよ。確か……『ちゃんと凰様の仰ることを聞いて、修行に励むんだぞ』『は、はい』でしたっけ」
夕餉を二人で食べながら、凰黎が唐突に口にする。その場しのぎで答えただけのやりとりを一字一句間違えず言われてしまい、煬鳳は焦った。
「あ、あれは! 弟子っていうことにしてたからだな……」
凰黎は慌てる煬鳳の言葉をまともに取り合おうとはしない。
「貴方がその気なら、私はいつでもお待ちしていますよ? 上に掛け合いますので」
「ばっ……か、からかうな!」
「はいはい。……冷めないうちに、食べてください」
反論したら、料理のことを持ち出されてはぐらかされてしまった。しかしせっかく作って貰った食事をいつまでも放置するのは勿体ない。大人しく煬鳳は夕餉に再び箸をつける。凰黎の作った夕餉は決して豪勢な料理ではないが、彼の一連の調理工程を見ていれば、雑にさっさと作れるようなものではないとすぐ分かる。美味しいかどうかでいうならば、
「とても美味い」
懐かしく優しい味付けで、とても美味かった。
「それは、どうも」
「……何だか、子供の頃のことを思い出した」
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