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短編①門派を追放されたらライバルが溺愛してきました。
013:寤寐思服(一)
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眠れない、とは思っても、案外限界を超えると気づけば眠っていることもある。
あれほど思い悩み、眠れぬ眠れぬと思っていたのだが、朝になるころにはぐっすりと眠っていたらしい。小鳥のさえずる声で煬鳳は目を覚ました。
「凰黎……」
凰黎の姿は見当たらない。
やはり昨日のことがあったから、ここを離れてしまったのだろうか。そう考えるともう堪らなかった。
「あれ……」
外に出ようと立ち上がると、卓子の上に朝餉が置かれていることに気づく。傍には紙が置かれているようだ。
「これは……」
それは凰黎の書き置きだ。
一瞬別れの言葉が書いてあるのかと怯えたが、書いてある内容は別れの言葉ではなかった。
『朝餉は置いてありますので、残さずしっかりと食べるように。それから……今日は玄烏門の方々と会って、貴方の力を戻してもらえないか掛け合ってきます』
凰黎ほど礼儀のある者が、約束も取り付けぬまま他門派の者たちの元に行くなどあり得ないことだ。きっと今日にいたるまでのあいだに、凰黎はあちこちに掛け合って面会の機会を得たのだろう。
(昨日あんなことがあったばかりなのに、俺のために……)
昨晩のあれこれが脳裏によぎる。
凰黎が作ってくれた朝餉はいつも通り、とても美味しかった。添えられていた竜眼をかじると甘い味が広がってゆく。
「甘いな……」
けれどどうしてなのか、涙で視界が歪んで仕方ないのだ。
「はあ……」
朝餉を済ませたあと、煬鳳は小屋の外で茶碗を洗っていた。凰黎は今ごろ玄烏門へ行っているのだろう。あれだけ皆で結託して煬鳳の力を奪い取ったのだ。どんなに凰黎が頼んだところでまともに取り合って貰えるわけはないだろう。
そんなことよりだ。
正直煬鳳にとって力が戻るかどうかなどということは、今どうでもよく思えた。それより頭の中は凰黎のことばかりが占有している。
(もし玄烏門から戻ってきたら、凰黎は俺のことをどうするつもりなんだろう。……愛想が尽きたと追い出すつもりだろうか……)
思い起こされるのは昨晩に見た、彼の冷たい眼差し。
雨の中凰黎に助けられてからというもの、煬鳳が見た凰黎の表情はどれも優しくて暖かい笑顔ばかりだった。どんな時でも柔らかく、時には意地悪な笑みを浮かべる。
それなのに……。
返す返すも昨晩の凰黎の表情が頭から片時も離れないのだ。
昔なら何一つ気にすることはなかったが、今はその眼差しの意味するところが気になって仕方がない。
『おい、若人よ』
何故だろう、幻聴が聞こえる。
多分寝不足のせいだろう、煬鳳はそう思った。
『おい、若人よ。儂じゃ』
どこかで聞いたことがある声だ。それに話し方にも覚えがある。
『川じゃ、川』
「川……? って、ああーっ! 鯉爺さん!」
『鯉仙人だと言ったじゃろう』
「爺さんは爺さんだろう」
『まあよい。それより若人よ。恋に悩んでおるな』
「ち、ちが、そ、そんなことは……」
『初心じゃな』
「だ、誰がだ! お、俺だって大人だぞ、酒楼に行ったり、女と遊んだことだってあるし……」
『どうせ何もできなかったのであろ?』
「ぐっ……」
鯉仙人の言うことはとても悔しいが当たっている。強がって妓楼や酒楼に弟子たちを引き連れて行ったものの、案外度胸が無くて何もできなかった。
(悔しい、鯉にそんなことまで見透かされるなんて……!)
「……」
『まあ、そう落ち込むでない。この爺にお前さんの悩みを話してみるがいい。何を一体悩んでいるのじゃ?』
「じ、実は……」
煬鳳は昨晩のことを、ありのまま鯉仙人に語った。鯉にこんな話をするなんて……とも思ったが、今は話を聞いてくれるならだれでも良いと思えたし、何より誰かに縋りたい気持ちだった。
「いきなり好きだって言われて、でも好きにしろって言ったら凄い怒られて。どうしたらいいのか分からない。もう嫌われたかもしれない……」
『ふむふむ。そりゃ相手さんが怒るのも無理はないじゃろ』
「どうして?」
『相手はちゃんと伝えているではないか。お前さんが投げやりで適当な対応をしたのが分かっている。そんな気持ちのまま受け入れて欲しくなかったんじゃ。分かるか?』
「あ……」
てっきり煬鳳は、投げやりなことを言ったから、凰黎が起こったのだと思っていた。しかし鯉仙人は怒ったのではなく――いい加減な気持ちで煬鳳に決めて欲しくなかったのだと言っている。
「俺は全ての力を失った。好きだってんなら俺がどう言おうかまた思おうが好きにすりゃあいい。なのになんであいつは俺の気持ちなんか優先して、遠慮するんだ……」
『はっ、お子ちゃまじゃなー』
「まだ言うか! この鯉ジジイ!」
『なぜ相手さんがお前に遠慮しているか? 遠慮しているからじゃない。お前の気持ちを尊重してるからじゃ。そんなことも分からないからお子ちゃまだと言うんじゃ』
鯉仙人は熱く語る。
(襲われかけたけどな)
煬鳳は黙っていたが、そこだけは言いたかった。
『まあ良い。それより、なぜ相手さんがそうしたのか分かるか?』
「……あいつは、優しいしいい奴だから……」
『違うな。お前さんのことが、好きだからじゃ。それ以上でも以下でもなく、ただ好きだから。大切にしたいと思うからじゃ』
「大切に……」
鯉仙人の言う通り、山の中で助けられてからずっと、凰黎は煬鳳のことを大切にしてくれた。昨晩でさえも、決して邪険にはしなかった。
(襲われかけたけどな)
しかし、それでも最終的には煬鳳が戸惑っているのを理解して、無理強いはしなかったのだ。
「凰黎……」
凰黎は今、どうしているのだろう。凰黎のことを考えると胸が痛む。
『それで。お前さんはどう思ってるんじゃ? 相手さんのことを』
水面からぱくぱくと口を出して鯉仙人は問いかける。
煬鳳は胸に手を当て、考えた。答えは浮かんでは来ず、悩みばかりがぐるぐると回る。
「俺? 俺は……分からない……。急にそんなこと言われても……」
『ならどうしてお前さんはそんなにも悩んでいるのじゃ? 分からないなら分からない、それでもいいんじゃよ?』
「そ、そうだけど……」
『よいか、聞くのじゃ。お前さんが今ウジウジしているのは、相手さんの気持ちが嫌だと思ってはいないからじゃ。嫌なら拒絶すれば済む話。それをしないのは……お前さん自身迷っているからじゃ』
「迷って、いる?」
『そうじゃ。確かに突然で戸惑ってもいるじゃろう。だがそれ以上にお前さんは自分の気持ちに揺れているのじゃ。何故か。簡単なことじゃ。相手さんのことを意識しているからだ。嫌じゃない、でも分からない。しかし気にはなる。違うか?』
「……当たってる」
否定できない思いに、煬鳳は素直に頷いた。
「なら、どうしたら良いと思う? かつての力もない、生活能力もない、普通以下のこの俺に、あいつの、その思いに応えるだけの価値がどこにあるっていうんだ?」
何故だか鯉仙人は水の中から泡をブクブクと出し、煬鳳の言葉を豪快に笑い飛ばした。
『馬鹿じゃな~~~~! 力は仕方ないとしても、生活能力は努力さえすればどうにでもなるじゃろ』
「……か、簡単に言うなよ」
『そんなに自分に自信がないのなら、まず自分にできることをしながら、これからどうしたらいいか考えたらいいのではないか? 何もしないお前さんが、その少ない力で懸命に相手さんのために頑張ったとしたら、きっと相手さんは心から喜んでくれると思うがのう?』
「ほ、ほんとか?」
『儂が嘘を言うと思うか?』
「言わないとは思わないけど、説得力はあったと思う」
『正直じゃな、お前……。まあ良い。とにかくそうやって関係を修復しているうちにおのずと自分の気持ちもはっきり理解することができるじゃろうて。まずは今の自分にできることを、探してみるがよいぞ』
「鯉仙人って、凄いんだな……」
『崇めてもいいのじゃぞ』
「とにかく、有り難う。少しでも今の無価値な状況から這い上がれるか……やってみようと思う!」
* * *
『ふう、やれやれ。全く世話の焼けるお子ちゃまじゃ』
いそいそと小屋に戻って行った煬鳳を見ながら、鯉仙人は溜め息をついた。
(相手さんの気持ちにどうやったら応えることができるか。……そう考えるってことは、もうお前さんの気持ちなど決まっているのじゃよ)
それに気づいていないところが、子供なのだと鯉仙人はぼやいた。
* * *
意気揚々と小屋に戻った煬鳳だったが、いざ自分にできることを考えてみると薪拾いくらいしか思い浮かばない。
(料理は……ううん、簡単な羹か粥くらいなら何とかなるか?)
穀物類は小屋の中に常備してあるはずだ。粥や羹なら、普段から凰黎が作っているところを見ていたし、似たものくらいは作れるかもしれない。力はないが、幸いにして煬鳳は山菜の見分けなら何とかできる。頑張れば木の実や果実も何とかなるかもしれない。
(凰黎みたいにうまくはいかなくても……少しでも誠意を見せて昨日のことを謝ったら、許してくれるかもしれない)
そうと決まったら善は急げだ。煬鳳は籠を背負うと小屋を飛び出した。
『やれやれ、入ったと思ったら出て行って。実に騒がしいやっちゃのぉ……』
背後から鯉仙人の声が聞こえたような気がしたが、煬鳳はそれどころではない。
「確か、山草がありそうな場所は……」
昨日の場所には行きたくないが、この山で暮らすようになってそれなりに山の中を歩いた。だから、どこにどんなものが生えていたか少しは覚えている。
食事のお礼もしたい。
昨日のことは謝りたい。
それから……。
(それから、もっとあいつのことが知りたい。……だから、もう暫く一緒にいられたら……)
しかし、そこまで考えて「もう暫く?」と自問自答する。
(暫くって、いつまでだ? 三日? 四日? もっと? でも、もっとって……いつまでだ?)
山菜を探しながらぐるぐると考えあぐね、『いつまで』の答えを出すことはできなかった。
あれほど思い悩み、眠れぬ眠れぬと思っていたのだが、朝になるころにはぐっすりと眠っていたらしい。小鳥のさえずる声で煬鳳は目を覚ました。
「凰黎……」
凰黎の姿は見当たらない。
やはり昨日のことがあったから、ここを離れてしまったのだろうか。そう考えるともう堪らなかった。
「あれ……」
外に出ようと立ち上がると、卓子の上に朝餉が置かれていることに気づく。傍には紙が置かれているようだ。
「これは……」
それは凰黎の書き置きだ。
一瞬別れの言葉が書いてあるのかと怯えたが、書いてある内容は別れの言葉ではなかった。
『朝餉は置いてありますので、残さずしっかりと食べるように。それから……今日は玄烏門の方々と会って、貴方の力を戻してもらえないか掛け合ってきます』
凰黎ほど礼儀のある者が、約束も取り付けぬまま他門派の者たちの元に行くなどあり得ないことだ。きっと今日にいたるまでのあいだに、凰黎はあちこちに掛け合って面会の機会を得たのだろう。
(昨日あんなことがあったばかりなのに、俺のために……)
昨晩のあれこれが脳裏によぎる。
凰黎が作ってくれた朝餉はいつも通り、とても美味しかった。添えられていた竜眼をかじると甘い味が広がってゆく。
「甘いな……」
けれどどうしてなのか、涙で視界が歪んで仕方ないのだ。
「はあ……」
朝餉を済ませたあと、煬鳳は小屋の外で茶碗を洗っていた。凰黎は今ごろ玄烏門へ行っているのだろう。あれだけ皆で結託して煬鳳の力を奪い取ったのだ。どんなに凰黎が頼んだところでまともに取り合って貰えるわけはないだろう。
そんなことよりだ。
正直煬鳳にとって力が戻るかどうかなどということは、今どうでもよく思えた。それより頭の中は凰黎のことばかりが占有している。
(もし玄烏門から戻ってきたら、凰黎は俺のことをどうするつもりなんだろう。……愛想が尽きたと追い出すつもりだろうか……)
思い起こされるのは昨晩に見た、彼の冷たい眼差し。
雨の中凰黎に助けられてからというもの、煬鳳が見た凰黎の表情はどれも優しくて暖かい笑顔ばかりだった。どんな時でも柔らかく、時には意地悪な笑みを浮かべる。
それなのに……。
返す返すも昨晩の凰黎の表情が頭から片時も離れないのだ。
昔なら何一つ気にすることはなかったが、今はその眼差しの意味するところが気になって仕方がない。
『おい、若人よ』
何故だろう、幻聴が聞こえる。
多分寝不足のせいだろう、煬鳳はそう思った。
『おい、若人よ。儂じゃ』
どこかで聞いたことがある声だ。それに話し方にも覚えがある。
『川じゃ、川』
「川……? って、ああーっ! 鯉爺さん!」
『鯉仙人だと言ったじゃろう』
「爺さんは爺さんだろう」
『まあよい。それより若人よ。恋に悩んでおるな』
「ち、ちが、そ、そんなことは……」
『初心じゃな』
「だ、誰がだ! お、俺だって大人だぞ、酒楼に行ったり、女と遊んだことだってあるし……」
『どうせ何もできなかったのであろ?』
「ぐっ……」
鯉仙人の言うことはとても悔しいが当たっている。強がって妓楼や酒楼に弟子たちを引き連れて行ったものの、案外度胸が無くて何もできなかった。
(悔しい、鯉にそんなことまで見透かされるなんて……!)
「……」
『まあ、そう落ち込むでない。この爺にお前さんの悩みを話してみるがいい。何を一体悩んでいるのじゃ?』
「じ、実は……」
煬鳳は昨晩のことを、ありのまま鯉仙人に語った。鯉にこんな話をするなんて……とも思ったが、今は話を聞いてくれるならだれでも良いと思えたし、何より誰かに縋りたい気持ちだった。
「いきなり好きだって言われて、でも好きにしろって言ったら凄い怒られて。どうしたらいいのか分からない。もう嫌われたかもしれない……」
『ふむふむ。そりゃ相手さんが怒るのも無理はないじゃろ』
「どうして?」
『相手はちゃんと伝えているではないか。お前さんが投げやりで適当な対応をしたのが分かっている。そんな気持ちのまま受け入れて欲しくなかったんじゃ。分かるか?』
「あ……」
てっきり煬鳳は、投げやりなことを言ったから、凰黎が起こったのだと思っていた。しかし鯉仙人は怒ったのではなく――いい加減な気持ちで煬鳳に決めて欲しくなかったのだと言っている。
「俺は全ての力を失った。好きだってんなら俺がどう言おうかまた思おうが好きにすりゃあいい。なのになんであいつは俺の気持ちなんか優先して、遠慮するんだ……」
『はっ、お子ちゃまじゃなー』
「まだ言うか! この鯉ジジイ!」
『なぜ相手さんがお前に遠慮しているか? 遠慮しているからじゃない。お前の気持ちを尊重してるからじゃ。そんなことも分からないからお子ちゃまだと言うんじゃ』
鯉仙人は熱く語る。
(襲われかけたけどな)
煬鳳は黙っていたが、そこだけは言いたかった。
『まあ良い。それより、なぜ相手さんがそうしたのか分かるか?』
「……あいつは、優しいしいい奴だから……」
『違うな。お前さんのことが、好きだからじゃ。それ以上でも以下でもなく、ただ好きだから。大切にしたいと思うからじゃ』
「大切に……」
鯉仙人の言う通り、山の中で助けられてからずっと、凰黎は煬鳳のことを大切にしてくれた。昨晩でさえも、決して邪険にはしなかった。
(襲われかけたけどな)
しかし、それでも最終的には煬鳳が戸惑っているのを理解して、無理強いはしなかったのだ。
「凰黎……」
凰黎は今、どうしているのだろう。凰黎のことを考えると胸が痛む。
『それで。お前さんはどう思ってるんじゃ? 相手さんのことを』
水面からぱくぱくと口を出して鯉仙人は問いかける。
煬鳳は胸に手を当て、考えた。答えは浮かんでは来ず、悩みばかりがぐるぐると回る。
「俺? 俺は……分からない……。急にそんなこと言われても……」
『ならどうしてお前さんはそんなにも悩んでいるのじゃ? 分からないなら分からない、それでもいいんじゃよ?』
「そ、そうだけど……」
『よいか、聞くのじゃ。お前さんが今ウジウジしているのは、相手さんの気持ちが嫌だと思ってはいないからじゃ。嫌なら拒絶すれば済む話。それをしないのは……お前さん自身迷っているからじゃ』
「迷って、いる?」
『そうじゃ。確かに突然で戸惑ってもいるじゃろう。だがそれ以上にお前さんは自分の気持ちに揺れているのじゃ。何故か。簡単なことじゃ。相手さんのことを意識しているからだ。嫌じゃない、でも分からない。しかし気にはなる。違うか?』
「……当たってる」
否定できない思いに、煬鳳は素直に頷いた。
「なら、どうしたら良いと思う? かつての力もない、生活能力もない、普通以下のこの俺に、あいつの、その思いに応えるだけの価値がどこにあるっていうんだ?」
何故だか鯉仙人は水の中から泡をブクブクと出し、煬鳳の言葉を豪快に笑い飛ばした。
『馬鹿じゃな~~~~! 力は仕方ないとしても、生活能力は努力さえすればどうにでもなるじゃろ』
「……か、簡単に言うなよ」
『そんなに自分に自信がないのなら、まず自分にできることをしながら、これからどうしたらいいか考えたらいいのではないか? 何もしないお前さんが、その少ない力で懸命に相手さんのために頑張ったとしたら、きっと相手さんは心から喜んでくれると思うがのう?』
「ほ、ほんとか?」
『儂が嘘を言うと思うか?』
「言わないとは思わないけど、説得力はあったと思う」
『正直じゃな、お前……。まあ良い。とにかくそうやって関係を修復しているうちにおのずと自分の気持ちもはっきり理解することができるじゃろうて。まずは今の自分にできることを、探してみるがよいぞ』
「鯉仙人って、凄いんだな……」
『崇めてもいいのじゃぞ』
「とにかく、有り難う。少しでも今の無価値な状況から這い上がれるか……やってみようと思う!」
* * *
『ふう、やれやれ。全く世話の焼けるお子ちゃまじゃ』
いそいそと小屋に戻って行った煬鳳を見ながら、鯉仙人は溜め息をついた。
(相手さんの気持ちにどうやったら応えることができるか。……そう考えるってことは、もうお前さんの気持ちなど決まっているのじゃよ)
それに気づいていないところが、子供なのだと鯉仙人はぼやいた。
* * *
意気揚々と小屋に戻った煬鳳だったが、いざ自分にできることを考えてみると薪拾いくらいしか思い浮かばない。
(料理は……ううん、簡単な羹か粥くらいなら何とかなるか?)
穀物類は小屋の中に常備してあるはずだ。粥や羹なら、普段から凰黎が作っているところを見ていたし、似たものくらいは作れるかもしれない。力はないが、幸いにして煬鳳は山菜の見分けなら何とかできる。頑張れば木の実や果実も何とかなるかもしれない。
(凰黎みたいにうまくはいかなくても……少しでも誠意を見せて昨日のことを謝ったら、許してくれるかもしれない)
そうと決まったら善は急げだ。煬鳳は籠を背負うと小屋を飛び出した。
『やれやれ、入ったと思ったら出て行って。実に騒がしいやっちゃのぉ……』
背後から鯉仙人の声が聞こえたような気がしたが、煬鳳はそれどころではない。
「確か、山草がありそうな場所は……」
昨日の場所には行きたくないが、この山で暮らすようになってそれなりに山の中を歩いた。だから、どこにどんなものが生えていたか少しは覚えている。
食事のお礼もしたい。
昨日のことは謝りたい。
それから……。
(それから、もっとあいつのことが知りたい。……だから、もう暫く一緒にいられたら……)
しかし、そこまで考えて「もう暫く?」と自問自答する。
(暫くって、いつまでだ? 三日? 四日? もっと? でも、もっとって……いつまでだ?)
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