【完結】鳳凰抱鳳雛 ~鳳凰は鳳雛を抱く~

銀タ篇

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五趣生死情侣们(恋人たち)

136:震天動地(五)

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「大変だ! 彩藍方ツァイランファンに……今すぐ彩鉱門さいこうもんに知らせなきゃ!」

 彩藍方ツァイランファンは兄弟子を送り届けるために彩鉱門さいこうもんへ戻ったのだ。慌てて煬鳳ヤンフォン恒凰宮こうおうきゅうの外に出ようと立ち上がったが、すぐ鸞快子らんかいしに止められた。

「待ちなさい。いま君が急いで行ったところで、事態が好転するというわけでもない」
「だからって、彩鉱門さいこうもんにこのことを知らせないつもりか!」

 煬鳳ヤンフォンは思わず鸞快子らんかいしに掴みかかる。

「地震は今しがた起きたばかりなんだぞ! みなに報せて、逃げないと……!」

 彩藍方ツァイランファン黒炎山こくえんざんでの日々を共に過ごした仲であり、あの噴火の中で唯一生き残った大切な友人だ。地震だけならいざ知らず、それが睡龍すいりゅうの目覚めに関係しているというのなら、いち早く知らせる必要があるはず。
 黒炎山こくえんざんの噴火のとき、幼かった煬鳳ヤンフォン鋼劍こうけんの人々を助けてやることができなかった。

 同じ後悔を再び繰り返すわけにはいかないのだ。

 そんな煬鳳ヤンフォンを見かねたのか凰黎ホワンリィがなにかを言おうとしかけたが、鸞快子らんかいしは「任せて欲しい」とそれを止めた。
 鸞快子らんかいし煬鳳ヤンフォンに向き直り、穏やかな口調で諭す。

「落ち着きなさい。君にはやらなければならないことがあるのではないか? 何のために煬六郎ヤンリウラン殿が多忙の中を縫ってまで人界にんかいへやってきたと思っているのだ?」
「でも、藍方ランファンは俺の幼馴染みなんだ! 見捨てろっていうのか!?」
「……そうではない。彼だって彩鉱門さいこうもんの二公子だ。それに、噴火の折にも彩鉱門さいこうもん黒炎山こくえんざんで暮らしていた。彼らも黒炎山こくえんざんに異常を感じたらすぐに気づくはずだ」

 鸞快子らんかいしの主張は正しい。拝陸天バイルーティエン魔界まかいで混乱の渦中にある国を建て直す役目を負っている。にもかかわらず……煬鳳ヤンフォンのためにこうしてできる限り早く煬鳳ヤンフォンの元へ来てくれたのだ。
 しかも、本来は不可侵の睡龍すいりゅう魔界まかいの皇帝が来ることは、要らぬ軋轢を生みかねない。そんな中においても拝陸天バイルーティエンは甥である煬鳳ヤンフォンのため己の身分を隠してまで、恒凰宮こうおうきゅうを訪ねてきた。

「でも……」

 しかし、煬鳳ヤンフォンはそれでも心配だった。なにせ地震の源は、かつて封印されし睡龍すいりゅう本体なのだ。しかも、地震の直後に大地は枯れ果て鉱山の人々は骨と皮だけの状態になって死んでしまった。睡龍すいりゅう――火龍の力はそれほどに強大なもの。
 心配がないわけがない。

ヤン殿」

 凰黎ホワンリィの隣にいた凰神偉ホワンシェンウェイが口を開く。彼は先ほどまでずっと黙って煬鳳ヤンフォンたちのやりとりを見ていた。

彩鉱門さいこうもんへは私のほうから伝えよう。直接伝えに行くよりも、そのほうが早く伝えることができる」

 驚き返答に詰まる煬鳳ヤンフォンの肩を、凰黎ホワンリィが歩み寄り支えてくれる。

煬鳳ヤンフォン彩鉱門さいこうもんのことは兄上に任せましょう。恒凰宮こうおうきゅう彩鉱門さいこうもんとは交流がありますから。煬鳳ヤンフォンはまず、貴方の霊力についての問題を解決しましょう。鸞快子らんかいしも、煬六郎ヤンリウラン殿もそのつもりでしょうから」
凰黎ホワンリィ……」

 自分のことなど構っている暇はない。
 先ほどまではそう考えていた煬鳳ヤンフォンだったが、凰黎ホワンリィの顔を見てすぐ自分が愚かなことを考えていたのだと気づいた。

(そうだった、凰黎ホワンリィは俺の体の異常をなんとかするために、ずっといままで行動していたんだ。それなのに……)

 己のことは捨て置いて、煬鳳ヤンフォンの体を心配し、治すためだけに一緒にここまで来てくれた人。

「ごめん凰黎ホワンリィ。俺、浅はかだった」
「思いつめないで。誰も責める気はないのですから」

 俯く煬鳳ヤンフォンの頬を、凰黎ホワンリィが優しく包み込む。

「有り難う。……宮主ぐうしゅ殿、彩鉱門さいこうもんの件、よろしくお願いします」
「心得た。……くれぐれも、私の阿黎アーリィを悲しませることのないように」
「ははは……」

 先ほど危うく悲しませかけたからか、凰神偉ホワンシェンウェイの言葉は多少棘があるように聞こえる。

「必要なものがあれば、燐瑛珂リンインクゥに遠慮なく伝えて欲しい。恒凰宮こうおうきゅうで賄うことのできるものならなんでも協力しよう」

 凰神偉ホワンシェンウェイ燐瑛珂リンインクゥ煬鳳ヤンフォンたちの助けになるようにと言い含めると、自らは彩鉱門さいこうもんへ連絡を取るために部屋をあとにした。

 凰神偉ホワンシェンウェイが部屋を出て行ったのを見届けると、鸞快子らんかいしは一同を見回す。

「さて……善は急げとはいうものの、夕餉の時間もとうに過ぎている。せっかく恒凰宮こうおうきゅうで用意してくれたものなのだから、煬鳳ヤンフォンの霊力の調整については夕餉が終わったら始めようか。それまでに私は燐殿と準備を済ませておこう」
「大事なことの割には夕餉のほうを優先するんだな」
「当たり前だろう。こういうときには体力だって大事だ。それに、今すぐ始められるわけではないのだから、時間は有効に使わなければならないだろう。……何より、煬六郎ヤンリウラン殿は君のために忙しい合間を縫ってきてくれた。感謝の気持ちを込めて、夕餉の時間くらいは共に過ごしなさい」
「へ~い」

 こら、と鸞快子らんかいしが軽く窘めたが、拝陸天バイルーティエンは「構わぬよ」と言って笑った。憎まれ口をつい叩いてしまったが、準備が終わるまでの間を有効活用するのは何らおかしいことではない。何より夕餉は既に出来上がっていて、煬鳳ヤンフォンたちが席に座ればすぐにでも食べることができるのだ。

陸叔公りくしゅくこう……じゃない、煬六郎ヤンリウラン殿。魔界まかいの様子はあれからどうなったのか、夕餉を食べながら話してくれよ」
「もちろんだ、小鳳シャオフォン。しかし煬六郎ヤンリウラン殿は他人行儀すぎるな……ここはやはり陸叔公りくしゅくこうと呼んでくれ」

 少しおどけた拝陸天バイルーティエンの言葉の中に、煬鳳ヤンフォンへの思いやりを感じられる。それがとてつもなく有り難くて、煬鳳ヤンフォンには嬉しいものだ。

「分かったよ、陸叔公りくしゅくこう

 叔父という存在に感謝しつつ煬鳳ヤンフォンは笑い、煬鳳ヤンフォンの言葉に拝陸天バイルーティエンも笑う。

 ――だって、こんなにも早く駆け付けてくれたのだから。

 嬉しそうに微笑んだ叔父を見て、煬鳳ヤンフォンも嬉しくなった。

「既に料理は冷めてしまったでしょうが……行きましょうか。そろそろ兄上も戻ってくるでしょうから」
「うん」

 凰黎ホワンリィの呼びかけに応じ、煬鳳ヤンフォンたちは食事が用意されている隣の部屋へと移動する。そこにはいつの間に戻ってきたのか凰神偉ホワンシェンウェイも立っていて、煬鳳ヤンフォンたちがやってくるのを待っていた。

 意外なことに、凰神偉ホワンシェンウェイ凰黎ホワンリィより先に煬鳳ヤンフォンに向かって歩み寄る。恐らく彩鉱門さいこうもんのことであろうと煬鳳ヤンフォンが気を引き締めると「そう気を張ることはない」と諭された。

彩鉱門さいこうもんには既に報せてある。既にみな荷物を纏め下山を始めているようであったが、くれぐれも気を付けると言っていた」

 みなが既に行動を起こしていることを知り、煬鳳ヤンフォンは心からの安堵の息をつく。皆と話しているときも、ずっと彩藍方ツァイランファン彩鉱門さいこうもんのことが気がかりで仕方なかったのだ。

「そっか……有り難うございます。宮主ぐうしゅ殿」
「それから――彩二公子から伝言だ。兄弟子はすぐに手当てをした上で安全な場所に運ばせた。自分たちは清林峰せいりんほうにいったん身を寄せることになったので安心して欲しい。……だそうだ」

 随分長い伝言だと思ったが、間違えずに伝える凰神偉ホワンシェンウェイは凄い。さすがは凰黎ホワンリィの兄だなと妙に感心してしまう。思わず口の端が笑いかけて慌てて煬鳳ヤンフォンは咳ばらいをした。

「ごほん。宮主ぐうしゅさま、重ね重ね、有り難うございます」
「安心したら、早く席に着きなさい。そして、万全の体制を整えて治療に挑みなさい」
「は、はい」

 煬鳳ヤンフォン凰黎ホワンリィ凰神偉ホワンシェンウェイに近いほうの隣を譲り、凰神偉ホワンシェンウェイとは逆側の凰黎ホワンリィの隣に座る。煬鳳ヤンフォンの行動に凰黎ホワンリィは驚いたようだったが、本音は凰黎ホワンリィのためだろうが、それでも凰神偉ホワンシェンウェイ煬鳳ヤンフォンのために彩鉱門さいこうもんに連絡をとってくれた。そして彩藍方ツァイランファンからの伝言も伝えてくれたのだ。
 感謝の気持ちも兼ねて可愛い弟を隣に座らせるくらいの心配りは、したっていいだろう。

「あー、小鳳シャオフォン?」

 なにかもの言いたげな叔父がこちらを見ている。
 煬鳳ヤンフォンはすぐに叔父の意図を察すると、「陸叔公りくしゅくこう! こっちこっち!」と手招きをした。

「私も小鳳シャオフォンの隣に行っても良いのかな?」
「もちろんだよ。だって、陸叔公りくしゅくこうは俺のために来てくれたんだから。当然だろ?」

 拝陸天バイルーティエン煬鳳ヤンフォンの言葉を聞いて嬉しそうに微笑む。差し出された拝陸天バイルーティエンの手が、頭上に伸びてきたかと思うと頭をかき混ぜられる。照れくさくて煬鳳ヤンフォンは体を捻ろうとしたのだが、結局のところ喜んだ拝陸天バイルーティエンに抱きしめられてそれどころではなくなってしまった。
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