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第三.五話:夢と現実の狭間とカレー
3.5-1:夢を見る
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ふわふわとした不思議な感覚が、僕の体中を支配している。
地面に足をつけている筈なのに、感覚がない。
多分これは――夢なのだろうと僕は思った。
目の前に、僕を見下ろすようにして誰かが立っている。あれは誰だろう、知っている人のような気がした。
「お前は――本当に役立たずの駄目なやつだ」
「――と同じ目で見るんじゃない!」
その言葉に、僕の心がずしりと重くなる。
やがて景色がぐるりと、今度は学校のような場所に変わった。
「お前、――が――だってな」
「こいつ――だ!」
「本当だ! ――が――!!」
何を言っているのか、途切れ途切れで聞き取れない。けれどそれはとても辛くて悲しい事を言われていたのだと僕は理解した。
やめて、やめて……。
声にならない言葉で僕は叫ぶ。
最後にもう一度、景色が変わる。
暗い暗い、陰鬱な場所だ。
目の前に誰かが立っている。
その人は僕に向かってゆっくりと手を伸ばす。
「そんなお前が役に立つ、唯一の方法がある――」
視界が手で塞がれて、そして僕は再び闇の中に落ちていった。
「っ……!」
多分相当勢いよく跳ね起きたんだろう。荒い息を整えて我に返った時、布団が半分以上捲れあがっていた。
時計を確認すると、朝の4時半だった。
「夢、か……」
さっきの嫌な映像を思い出す。
夢で良かった。
けれどどことなく、ただの夢ではないような……僕の戻らない記憶の一部であったような気もする。
正直、信じたくはないと思う。
二度寝するにも、あの夢の後ではあまり気が進まない。
この時間なら誰かしら起きているかもしれない、そう思って夢見の悪いまま僕は着替えることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
僕が一階に降りると、煮込み途中のスープの香りが漂ってきた。野菜を切るこのリズムは……多分、アインさんだろう。
「お早うございます、アインさん」
「おはよう、早いね」
厨房の入り口から顔をだして挨拶をかわした後、ロッカーに制服を取りに行こうとする。
「きょっぴー? 随分と顔色が悪いようだけど……大丈夫かい?」
と、思ったらアインさんに引き止められた。
自分ではそんなことないと思ったけれど、思ったより僕の顔色は悪かったらしい。
奥を見ると既に火は消され、鍋には蓋が乗せられている。どうやら態々作業の手を止めて来てくれたらしい。
「はい、ちょっと悪い夢をみたもので……」
誤魔化そうと思っていたのに見透かされてしまって、僕は苦笑いをする。
「ならいいんだけど……そうそう、物騒な奴が最近うろついているらしい」
「物騒なやつ、ですか? それって、悪いあやかしってやつですか?」
突然振られた話題に、僕は少し驚く。
「いや。まあ、今回のは噂レベルなんだけどね。どうもあやかし達が襲われたらしいんだ」
「あやかし達が?」
流石にその言葉には驚きを隠せない。
あやかしを襲うやつっていったい何者なんだろう。
「そう。……なんていうかなあ。あやかし同士の可能性もあるし、そうでない可能性もある。……現状そこまで詳しくは分からないけどね」
「へええ……」
「だからきょっぴーも夜道を歩くときは十分気を付けたほうが良い。特にこの前の件もあるし……」
僕はあやかしではないけれど。でもこの前中華街に行ったとき、確かに物騒な僵尸の一味にも因縁をつけられそうになった。
気を付けるに越したことはないかもしれない。
「はい、気を付けるようにします」
僕は素直に、そう頷いた。
「じゃあ僕、支度してきますね」
いつまでも立ち話をしている訳にはいかない。時間は有限だ。
アインさんは朝の仕込みがあるし、僕にはホールの掃除が待っている。
ロッカー室へ移動して着替えを……と思ったところで急に腕を引かれて元の場所に引き戻されてしまった。
「あの……?」
何がなんだか分からずにアインさんに聞き返す。
「もしかしたら体調が悪くて、変な夢を見た可能性もあるだろうから……今日は休んだ方がいいんじゃないかい?」
心配そうに僕の顔を覗き込む。
「いえっ、体調は全然大丈夫です! ほんとに、夢見が悪かっただけなん……うええっ!?」
話している途中でアインさんの顔が近づいたかと思うと、おでこに掌が当てられた。
「えと……あの……」
恥ずかしさと照れくささと戸惑いと、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになってぐるぐる目が回りそうだ。
綺麗な人の何気ない仕草は、人を殺す凶器にも等しい……。
僕の脳裏にまたあの言葉が蘇る。
本当に心臓に毒だから勘弁してほしい。
「ほ、ほんとに大丈夫です! だから……すぐに支度してきます!!」
ほうほうのていで僕は厨房を飛び出して、ロッカー室に避難したのだった。
地面に足をつけている筈なのに、感覚がない。
多分これは――夢なのだろうと僕は思った。
目の前に、僕を見下ろすようにして誰かが立っている。あれは誰だろう、知っている人のような気がした。
「お前は――本当に役立たずの駄目なやつだ」
「――と同じ目で見るんじゃない!」
その言葉に、僕の心がずしりと重くなる。
やがて景色がぐるりと、今度は学校のような場所に変わった。
「お前、――が――だってな」
「こいつ――だ!」
「本当だ! ――が――!!」
何を言っているのか、途切れ途切れで聞き取れない。けれどそれはとても辛くて悲しい事を言われていたのだと僕は理解した。
やめて、やめて……。
声にならない言葉で僕は叫ぶ。
最後にもう一度、景色が変わる。
暗い暗い、陰鬱な場所だ。
目の前に誰かが立っている。
その人は僕に向かってゆっくりと手を伸ばす。
「そんなお前が役に立つ、唯一の方法がある――」
視界が手で塞がれて、そして僕は再び闇の中に落ちていった。
「っ……!」
多分相当勢いよく跳ね起きたんだろう。荒い息を整えて我に返った時、布団が半分以上捲れあがっていた。
時計を確認すると、朝の4時半だった。
「夢、か……」
さっきの嫌な映像を思い出す。
夢で良かった。
けれどどことなく、ただの夢ではないような……僕の戻らない記憶の一部であったような気もする。
正直、信じたくはないと思う。
二度寝するにも、あの夢の後ではあまり気が進まない。
この時間なら誰かしら起きているかもしれない、そう思って夢見の悪いまま僕は着替えることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
僕が一階に降りると、煮込み途中のスープの香りが漂ってきた。野菜を切るこのリズムは……多分、アインさんだろう。
「お早うございます、アインさん」
「おはよう、早いね」
厨房の入り口から顔をだして挨拶をかわした後、ロッカーに制服を取りに行こうとする。
「きょっぴー? 随分と顔色が悪いようだけど……大丈夫かい?」
と、思ったらアインさんに引き止められた。
自分ではそんなことないと思ったけれど、思ったより僕の顔色は悪かったらしい。
奥を見ると既に火は消され、鍋には蓋が乗せられている。どうやら態々作業の手を止めて来てくれたらしい。
「はい、ちょっと悪い夢をみたもので……」
誤魔化そうと思っていたのに見透かされてしまって、僕は苦笑いをする。
「ならいいんだけど……そうそう、物騒な奴が最近うろついているらしい」
「物騒なやつ、ですか? それって、悪いあやかしってやつですか?」
突然振られた話題に、僕は少し驚く。
「いや。まあ、今回のは噂レベルなんだけどね。どうもあやかし達が襲われたらしいんだ」
「あやかし達が?」
流石にその言葉には驚きを隠せない。
あやかしを襲うやつっていったい何者なんだろう。
「そう。……なんていうかなあ。あやかし同士の可能性もあるし、そうでない可能性もある。……現状そこまで詳しくは分からないけどね」
「へええ……」
「だからきょっぴーも夜道を歩くときは十分気を付けたほうが良い。特にこの前の件もあるし……」
僕はあやかしではないけれど。でもこの前中華街に行ったとき、確かに物騒な僵尸の一味にも因縁をつけられそうになった。
気を付けるに越したことはないかもしれない。
「はい、気を付けるようにします」
僕は素直に、そう頷いた。
「じゃあ僕、支度してきますね」
いつまでも立ち話をしている訳にはいかない。時間は有限だ。
アインさんは朝の仕込みがあるし、僕にはホールの掃除が待っている。
ロッカー室へ移動して着替えを……と思ったところで急に腕を引かれて元の場所に引き戻されてしまった。
「あの……?」
何がなんだか分からずにアインさんに聞き返す。
「もしかしたら体調が悪くて、変な夢を見た可能性もあるだろうから……今日は休んだ方がいいんじゃないかい?」
心配そうに僕の顔を覗き込む。
「いえっ、体調は全然大丈夫です! ほんとに、夢見が悪かっただけなん……うええっ!?」
話している途中でアインさんの顔が近づいたかと思うと、おでこに掌が当てられた。
「えと……あの……」
恥ずかしさと照れくささと戸惑いと、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになってぐるぐる目が回りそうだ。
綺麗な人の何気ない仕草は、人を殺す凶器にも等しい……。
僕の脳裏にまたあの言葉が蘇る。
本当に心臓に毒だから勘弁してほしい。
「ほ、ほんとに大丈夫です! だから……すぐに支度してきます!!」
ほうほうのていで僕は厨房を飛び出して、ロッカー室に避難したのだった。
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