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エピローグ:辿り着いた僕の居場所
『アインの日記』
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『〇月〇日
台風は夜のうちにすっかり通り過ぎて、朝には澄み渡る青空が広がっていた。
店の外は台風が残したゴミが散乱している。
すぐにでも店を開けたかったけれど、店の周りの掃除や割れた戸棚の修理、片付けたテーブルや椅子を戻したり……とにかく沢山後処理が残っていたからその日は終日臨時休業にした。
色々な事があった波乱の数日だったけれど、結果的にはきょっぴーが名実ともに『ビストロ・ノクターン』の一員として迎えられた切っ掛けになったのだと思う。
本人もようやく自分がどうしたいか、自分の気持ちを再確認できたみたいだ。
突然店に転がり込んで来たときは一体何事だと思ったけれど……偶然か必然か。
いや、必然だったのだと思う。
いつかこの日が来ないだろうかと、会える日が来るんじゃないかと。
その為にずっと待っていたのだから……』
そこまで書いて、ふと手を止める。
「マリオン?」
虚空に向かって呼びかけると彼女はふわりと姿を現した。
「兄さん」
「聖弘君に挨拶しなくて良かったのかい?」
本当は一言くらい何か言いたかったのではないか、そう思って声をかけた。
彼女は笑顔で首を振る。
「そんな事したら、あの子が寂しがっちゃうもの。だからこれでいいの」
「……そうか」
確かにそれは一理ある。
二度と会えないのなら……その方が良いのかもしれない。そう思った。
「有難うね、兄さん」
「お礼なんて……。私はただ、店に偶然やってきた彼を保護しただけに過ぎないよ。後は全部、彼の、聖弘君が思うように行動しただけだ」
聖弘がやってきた次の日の夜、突然訪れた妹の幻影にひどく驚いたものだ。
懐かしさと、信じ難さと。
「いいえ。――あの子のあんな嬉しそうな姿を見る事が出来たのは兄さんと、それにこのお店の人たちのお陰よ。沢山の優しさと温かさで包んでくれて有難う。……だから」
そこまで言った彼女の顔が少しだけ寂しそうなものに変わる。
「……お別れ、なのかな」
アインの言葉に彼女は目を伏せ頷く。
けれど顔をあげた時にはその顔に寂しさはなかった。
「あの人も先に行ってると思うしね。……これで思い残すことはないってもんよ!」
もう居ない筈なのに、元気なガッツポーズを見せる妹に思わず苦笑する。
――元気な幽霊だな。
「それじゃ、行くわ」
「もう? 心の準備、出来てなかったな」
「あんまり覚悟決めちゃうと、それこそ寂しいでしょ」
「確かにね」
もう会うことはできないというのに、他愛ない会話しか出てこない。
16年前、あんな急な別れ方をして、別れの言葉すら言う事が叶わなかったのに。
「私の方こそ、有難う。お前の大切な宝物、確かに受け取ったよ」
「大事にしてね。まだまだ頼りないけど」
「ああ、勿論だよ」
頷いたその言葉に彼女は満足して、そして部屋の扉に手をかける。
「それじゃあ……来世? あったらまたね」
「また、何時の日か会えることを祈って」
笑顔で手を振って、彼女は扉を閉めた。
閉めた扉の音だけがまだ少しだけ、彼女の余韻を残している。
暫くの間目を閉じて、その余韻を確かめるようにその場に立ち尽くしていた。
台風は夜のうちにすっかり通り過ぎて、朝には澄み渡る青空が広がっていた。
店の外は台風が残したゴミが散乱している。
すぐにでも店を開けたかったけれど、店の周りの掃除や割れた戸棚の修理、片付けたテーブルや椅子を戻したり……とにかく沢山後処理が残っていたからその日は終日臨時休業にした。
色々な事があった波乱の数日だったけれど、結果的にはきょっぴーが名実ともに『ビストロ・ノクターン』の一員として迎えられた切っ掛けになったのだと思う。
本人もようやく自分がどうしたいか、自分の気持ちを再確認できたみたいだ。
突然店に転がり込んで来たときは一体何事だと思ったけれど……偶然か必然か。
いや、必然だったのだと思う。
いつかこの日が来ないだろうかと、会える日が来るんじゃないかと。
その為にずっと待っていたのだから……』
そこまで書いて、ふと手を止める。
「マリオン?」
虚空に向かって呼びかけると彼女はふわりと姿を現した。
「兄さん」
「聖弘君に挨拶しなくて良かったのかい?」
本当は一言くらい何か言いたかったのではないか、そう思って声をかけた。
彼女は笑顔で首を振る。
「そんな事したら、あの子が寂しがっちゃうもの。だからこれでいいの」
「……そうか」
確かにそれは一理ある。
二度と会えないのなら……その方が良いのかもしれない。そう思った。
「有難うね、兄さん」
「お礼なんて……。私はただ、店に偶然やってきた彼を保護しただけに過ぎないよ。後は全部、彼の、聖弘君が思うように行動しただけだ」
聖弘がやってきた次の日の夜、突然訪れた妹の幻影にひどく驚いたものだ。
懐かしさと、信じ難さと。
「いいえ。――あの子のあんな嬉しそうな姿を見る事が出来たのは兄さんと、それにこのお店の人たちのお陰よ。沢山の優しさと温かさで包んでくれて有難う。……だから」
そこまで言った彼女の顔が少しだけ寂しそうなものに変わる。
「……お別れ、なのかな」
アインの言葉に彼女は目を伏せ頷く。
けれど顔をあげた時にはその顔に寂しさはなかった。
「あの人も先に行ってると思うしね。……これで思い残すことはないってもんよ!」
もう居ない筈なのに、元気なガッツポーズを見せる妹に思わず苦笑する。
――元気な幽霊だな。
「それじゃ、行くわ」
「もう? 心の準備、出来てなかったな」
「あんまり覚悟決めちゃうと、それこそ寂しいでしょ」
「確かにね」
もう会うことはできないというのに、他愛ない会話しか出てこない。
16年前、あんな急な別れ方をして、別れの言葉すら言う事が叶わなかったのに。
「私の方こそ、有難う。お前の大切な宝物、確かに受け取ったよ」
「大事にしてね。まだまだ頼りないけど」
「ああ、勿論だよ」
頷いたその言葉に彼女は満足して、そして部屋の扉に手をかける。
「それじゃあ……来世? あったらまたね」
「また、何時の日か会えることを祈って」
笑顔で手を振って、彼女は扉を閉めた。
閉めた扉の音だけがまだ少しだけ、彼女の余韻を残している。
暫くの間目を閉じて、その余韻を確かめるようにその場に立ち尽くしていた。
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