ビストロ・ノクターン ~記憶のない青年と不死者の洋食屋~

銀タ篇

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後日談:ジェドさんと僕の長い一日

02-04:ジェドの宝物

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 それから月が明けて、ビストロ・ノクターンのいつもの日常が戻ってきた。
 アインさんもヴィクターも、定休日のぐうたら具合が嘘みたいにしゃきしゃきと働いているし、僕もジェドさんもいつも通り頑張っている。
 今日も一日の営業は終わりを告げて、店の掃除にとりかかったところだ。

「そういえば、ヴィクターはどんな映画を観たんですか?」

 ふとこの前の会話を思い出して、僕はヴィクターに尋ねた。
 ヴィクターは結構な映画好きらしい。サブスクリプションのプランに加入して時間があるときに映画を観まくっていると話してくれた。
 かなりの本数を観ているらしいから……名作とかにも詳しいのかもしれない。

「きょっぴー……」

 突然ヴィクターが僕の事をガン見した。
 何か変な事を言っただろうか?
「もしかして……映画興味ある!? ある!?」

「す、少しは……」

 肩をがっしりとつかまれて、僕はゆさゆさと揺さぶられている。目が回りそうなほどの揺さぶり具合に、僕は困惑してしまう。

「じゃあじゃじゃあー! 今度おすすめの厳選映画を用意しておくから、一緒に部屋で観ようよ! この前ボク、プロジェクター買ったんだ!」

「プロジェクター!?」

 気合の入りっぷりが半端ない。
 でも、プロジェクターで映画鑑賞したらきっと凄く楽しそうだ。

「そうですね、今度一緒に観たいです」

 僕がそう言うと、ヴィクターがすぐさまガッツポーズをとって飛び上がる。

「やったー! 約束だからね!?」

 指切りで約束した後で、スキップをしながらヴィクターは走っていった。

「映画も一人より皆で観たほうが楽しいですからね。きっとよっぽど嬉しかったんでしょう」

 後ろからジェドさんがやってきてにこやかに微笑んだ。

「あ、そうだ。ジェドさん」

 僕は、今日の営業が終わったらジェドさんに声をかけようと思っていたことを思い出す。

「どうしたんですか? きょっぴー」

「はい。ええと……」

 僕は急いでカウンターの後ろに隠しておいた袋を取ってくると、ジェドさんに見せた。

「これ、ジェドさんにって思って……」

「見ても良いですか?」

 怪訝な顔で訊ねるジェドさんに、僕は頷く。

「!」

 包みの中身を確認するなり、言葉にならない悲鳴をあげてジェドさんは口元を抑えた。いや、驚きすぎだ。なんだか気恥ずかしくなってしまう。

「きょっぴー、これ……!」

 取り出したそれを、ジェドさんは僕に見せる。
 それは船が浮かんでいるインテリアだ。ボトルの中に海に見立てた水と油が入っていて、そこの真ん中で船がゆらゆらと動くようになっている。
 勿論、売っているものではなく……僕が見よう見まねで、この前見た船を思い出しながら少しずつ作ったものだ。

「その、そんなにいい出来じゃないですけど……写真だけじゃなくて、何か目で見て楽しめるものがあったら良いなって思って……」

 とはいえ、そんなに自慢できるほど器用でもないので、正直なんとなく船、程度のものだ。
 でも、あの日ジェドさんの話を聞いて――あの時の思い出を、そしてビストロノクターンでの思い出を……それに僕の事も。これから何百年先も、千年先も、これを見るたびに思い出して欲しいと思った。

「そんな事ないです。……とても、とても嬉しいです!」

 見たこともないような嬉しそうな満面の笑みで、ジェドさんはボトルを抱きしめた。

「えー! ずるいなジェド! 私も欲しい!!」

 何故かそれを見たアインさんが、不服そうに割り込んできた。

「これはきょっぴーと余の思い出ですから。店長は別の思い出で我慢してください」

「うわ、ジェド身も蓋もない!」

 何故かジェドさんとアインさんが言い合っている。

「アインさん、落ち着いて下さい……。アインさんともきっとそのうち、何かいい思い出ができますって……」

 何故僕はそれを一生懸命仲裁しようとしているのか。
 だれか答えを教えて欲しい。


 ジェドさんの部屋には、僕の作ったボトルが置かれている。
 あの日の船の写真と共に、大切に飾られている。
 僕の一生は、どれくらいあるか分からない。けれど……。
 大切な人たちには、ほんの少しでも覚えていて貰えたら嬉しいと思う。
 ずっとずっと……気の遠くなるような先の未来であったとしても。

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