お嬢様と私

jurias

文字の大きさ
1 / 15
プロローグ

1、お嬢様と私の前世

しおりを挟む


私の前世の話をしようーーー


私は前世を覚えている。
私の前世は、しがない地方領地の男爵令嬢だった。
大した特産品もなく、戦争での実績もない。雇っている使用人など、畑仕事をリタイヤした老人ばかり。
典型的な貧乏貴族だ。


しかし、私の才能は非凡だった。


底が見えない魔力量、人より優れた知能、身体能力。
幼い頃から天才と言われ、王都の学校に呼ばれるのは必然だった。

地方では天才ともてはやされていたが、高位貴族が集まる王都では、そんな才能も埋もれてしまうーーーことはなかった。
そこでもやはり私は、天才だった。

入学試験の筆記も実技も、幼い頃から英才教育を受けている中央貴族たちを蹴散らし、断トツの首席。


そして高位貴族の男たちの目に留まる。

もう顔も名前も覚えていないが、言い寄ってきた男は4人。
第一王子、侯爵家嫡男、王室魔術師長男、騎士団長次男。
それぞれ家柄と容姿に絶対的な自信を持ち、婚約者がいた。

私とは縁のない人たち、と思っていたのに、入学式の校門での出会いを皮切りに、教室で、食堂で、街中で、有り得ない頻度で顔を合わせることになる。
何故高位貴族がそこら辺をぶらぶらしていたのか謎だが、他の令嬢には幸運なことでも、私には不運だった。

まず身分違いも程がある。
男爵など、貴族でも下の下。その中でも地方田舎の私の家など、最下層と言っても良い。
いくら能力があっても、身分差を埋めることはできない。
良くても愛人や第二夫人に以下に収まるしかないが、そんな気にはなれなかった。
だから彼らとは距離を取りたかったが、避けても避けても未来予知していたかのように、行く先々で出会う。
微笑みかけ、話しかけてくる彼らは決して紳士的ではなかった。
やたらと体をベタベタ触り、顔を近づけ、密着してきた。
ベンチに座っていた時など、腰に手を回し、擦り寄り、空いている手で太腿を撫で回してきた。
男の中心を起立させながら。

自分より身分が上なので、拒否することも出来ず、されるがままだったが、キスされそうになった時にどうにか脱出した。

そういったことが何度か続き、身も心もボロボロになり、1人で何度も泣いた。
その姿をじっと見ていた人がいたのにも気づかなかった。

そして、事件は起こる。

何度も口説いているのになかなか落ちない私に痺れを切らした王子たちが起こしたレイプ未遂事件。

私は魔法無効の首輪を付けられ、人気のないところに連れ込まれ、押さえつけられた。
奴らの目には愛情ではなく、憎悪に満ちていた。
プライドの高い彼らは、私の態度が許せなかった。
たかが男爵令嬢、たかが女に。
そんなところだろう。

私の選択は間違っていなかった。
ただその代償がこれだった。
それだけのこと。

1対4。
圧倒的な力の差に絶望し、諦めていたところに、救いの女神はやってきた。

第一王子の婚約者である公爵家令嬢がいた。
未来の王妃に相応しい凛とした態度、美しい顔立ち、光り輝く金の髪。
馬鹿な男たちの顔は覚えていなくても、彼女の顔は一生忘れない。
彼女がその場に現れた瞬間、彼女は私の唯一となり、絶対となった。

彼女はその後、事件の収拾の全てを担った。
事件とはいえ、未遂で被害者は男爵家。
普通なら何の音沙汰もなく終わるはずだったが、彼女はそうはしなかった。

どうやったかはわからないが、王子は廃嫡、その他の男どももそれに近い処分わ受けた。
私は領地に戻って療養していたので知らなかったが、王都はだいぶ混乱したようだ。
私が事の顛末を全て知ることになったのは、わざわざ彼女が私のところに来て、話してくれたからだ。

彼女は私を見るなり謝罪した。
元王子たちの愚行、そして事件が公になり、私の身に起こったことが広まってしまったこと。
彼女が謝ることなど、これっぽっちもない気がしたが、収まりがつかなかったので、受け入れた。
彼女だって、おそらく破談となったであろう。
一度破談された令嬢が、再婚約するのは難しい。しかも彼女は婚約者である王子を追いやったのだ。
彼女が負った不利益は、私の比ではないだろう。

何故そんなにも私に良くしてくれたのか彼女に聞いた。
側から見れば、私は王子たちを誑し込んでいる卑しい男爵令嬢だ。
実際、そう言われていた。

「貴方が泣いていたから……」

まるで聖女のような微笑みは、私を決心させるのには十分だった。

私はその場で髪を切り、彼女に渡した。

「私の全てを貴方に捧げます、お嬢様」

私はお嬢様を守る騎士となった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...