お嬢様と私

jurias

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プロローグ

2、お嬢様と私の出会い

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私はすぐに通ってた学校を辞め、騎士士官学校に入った。
騎士士官学校には少数だが、女性もいる。
王女や王妃、高位貴族令嬢の護衛の為だ。優秀な女騎士だと王族の護衛となるが、私はお嬢様の公爵家に身を置いているので卒業したら公爵家に戻るだけだ。

私は誰よりも鍛錬をし、誰よりも強くなった。
全てはお嬢様の為。
女騎士たちは言うに及ばず、男の騎士も相手にならず、正騎士、果ては騎士団長までをも叩きのめした私は王国最強となった。

普通だったら王族付きとなることだが、私が断固拒否したことと、第一王子の不祥事もあり、お嬢様から離されることはなかった。
王族に悪感情を持っている騎士を王室に付ける馬鹿はいない。

お嬢様のお側で、お嬢様を守るのが私の使命であり、生き甲斐であった。
お嬢様さえいれば、何も要らない。
お嬢様さえ幸せであればいい。
お嬢様の為なら、どんなことでもやる。
私はお嬢様で構成されていたといっても過言ではなかった。

出来ることならお嬢様とずっと永遠に、共にありたかった。
しかしお嬢様は高位貴族の令嬢。
いつかはどこかの高位貴族に嫁がなければならない身である。
私は、たとえお嬢様が嫁いでも、何が何でも付いていくつもりだった。

だが、お嬢様が他国の王族に嫁ぐことが決まり、と同時に邪神が復活したという出来事が、私とお嬢様を引き裂く。

邪神を倒す使命を負った4人の戦士。
その1人に私は選ばれたのだ。

邪神などどうでもいい。
それよりもお嬢様をお守りしなければ。
たった1人で異国へ旅立つお嬢様は、心細いに違いない。
私がお側にいなければ、と傲慢な考えを持っていた。

しかし、お嬢様は私を諭した。
私にしかできないのは、お嬢様の側にいることではなく、邪神を倒すことだと。

初めて、お嬢様に反発した。
お嬢様の側にいたい、守りたい、笑顔を見ていたい。
私の我儘に、お嬢様は困った顔をしていた。
そんな顔をさせたくないのに、いつまでも笑顔でいて欲しいのに、私の独りよがりの想いは、お嬢様を困らせるだけだった。

こんなにも愛しているのに…

そう、私ではお嬢様を幸せに出来ない。
女の身であり、爵位も男爵令嬢でしかない騎士の私では、お嬢様の力になれない。
私の力のなさに、どうしようもできない我が身が憎い。

そして私は邪神討伐へ、お嬢様は異国へと旅立った。


結果から言うと、邪神を倒すことには成功した。
正直、私以外の3人は足手纏いでしかなかった。
力の差があり過ぎた。
しかし、このパーティーは、邪神討伐の為同盟を組んだ諸国がそれぞれ派遣した戦士で構成されている。
レベルが違い過ぎるからと置いていくことが出来なかった。
私としては手柄はやるから待機してくれた方がありがたいのだが、やたらヤル気のある3人に提案することが出来なかった。
3人を守りながら邪神を相手にするのはなかなか骨が折れたが、何とか追い詰めることが出来た。
もう虫の息である邪神は最後に言い放った。

「…はぁ……はぁ……人間め……最後の力で、貴様の想い人のいない世界に飛ばしてやる…!」

油断していなかったと言えば、嘘になる。
邪神の最後の願いは、光となり、私を包み込んだ。
私は、これから自分に起こることへの不安よりも、ただお嬢様のことが心配でならなかった。

貴方の幸せが、私の最上です。




そして私は全てを思い出す。




「お嬢様!お嬢様はどこにいらっしゃる‼︎」

突然、叫び出した私に皆が慌てた。
意味不明なことを喋りだす3歳児に、家族は心配し、医者に見せたり占術師にも見せたりしたが、私に変化はなかった。
当たり前だ。
私の言葉は妄言ではない。
お嬢様は存在していたし、私はお嬢様を守る騎士だった。
私の中で揺るぎのない事実であり、確信している。
証明することは出来ないが、する必要はなかった。
私さえ、わかっていればいいのだ。
周りの人間は、私がおかしくなったの何だのうるさかったが、黙らせる目的で、前世で得た魔法を使えば、天才だともて囃し別の意味でうるさくなった。
害はないのでそのままほっとく。
それよりもお嬢様だ。

写真のやつはこの世界がお嬢様のいない世界だと言っていた。
そんなことあるはずない。
私が、お嬢様がいないところにいるはずないだろう。そんなの意味がないからだ。
私はお嬢様の為の存在であり、お嬢様がいるからこそ私が存在しているのだ。
私が存在しているということは、お嬢様は絶対にいる!

今の私は、ルーク=ウェルチェスターという名である。
父はロバート=ウェルチェスター侯爵であり、私は次男だ。
兄は5歳上でチャールズ=ウェルチェスター。このままいけば、兄が侯爵家を継ぐことになる。
そう、今の私は男なのだ。
どんなに強くなろうと、どんなに手柄を立てようと、私は爵位を与えられることはないし、お嬢様と結婚することは出来なかった。

今ならそれが出来る!

お嬢様といつ出会えるかわからない。
まずはいつでも迎えられる準備をしよう。
侯爵家次男では立場が弱い。
やはり後継になった方がいいだろうか。
それとも騎士になり、立身出世を目指そうか。

こんなにわくわくするのは、初めてかもしれない。
確かな目的があり、生きる意味があることは素晴らしい。

全てはお嬢様の為に。




と、そんな時期もありました。


未来に向かって輝いていた私は、もういない。
前世では邪神を相手にし、苦戦しながらも倒した私にとって、人間相手は赤子の手を捻るどころか、蟻を潰すようなものだった。
誰よりも強く、賢く、気高く有れ。
全てはお嬢様の為に。
お嬢様を迎える為に。

しかし、前世でお嬢様と出会った15歳なった時、もうこのままお嬢様とは会えないのではないか、という絶望感に苛まれた。

一度、ネガティブな考えを持つと、切り離すことが出来ず、何もやる気が起きなくなり、期待を一身に受けて入学した王立魔法騎士学校も、初日からサボるようになった。

怒り狂った父親が、毎日毎日説教してきたが、私がお嬢様の話しかしなかったら、いつしか何も言わなくなった。
もう何もかもどうでもいいのだ。

今までの努力…大して努力はしていなかったが……全部無駄だった。

死ねば元の世界に戻れるだろうか。
でももしかしたらこの世界にお嬢様がいるかもしれない。
一縷の希望に縋る、弱い部分が判断を鈍らせる。

グダグダと答えを出せない鬱屈した気持ちをどうにかしたくて、狭苦しい学校から抜け出し街へと出る。

やさぐれたち気持ちで街中を歩いていると、小さな子どもを連れている男が前を歩いていた。
何故その2人が目についたかというと、子どもの方は髪が伸び放題、服というより布切れ1枚という感じの物を体に身につけ、鉄の首輪と鎖を付けられて男に引っ張られていたからだ。
子どもは奴隷だった。
あんな小さな奴隷も珍しい。
年は7、8歳くらいだろうか。
もしかしたら発育が悪いだけで、もっと上かもしれない。
奴隷は労働力として主に使われる。
なのである程度育ってないと、まともな金額で取引出来ない。
おそらく、生活が困った家庭が二束三文で子どもを売ったのだろう。

首輪を引っ張られ、奴隷の少年が転倒する。
ガリガリの体は、なかなか起き上がられずにもたもたしていると、男に蹴りを入れられる。
軽い体は簡単に転がるが、鎖が繋がっていて、首がまた引っ張られる。

少年と目が合う。
長い前髪の隙間から青い瞳が覗く。
その瞬間、血が沸くような感覚で体がカッと熱くなった。

その理由を瞬時に理解する。
彼だ。


彼が


「お嬢様‼︎」


気付いたら、叫んでいた。
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