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第6話 破壊の後の創造3

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「嫌ああああああああああ!! 酷いよ! どうしてこんな事を!」

 父親の無残な最期を目の当たりにしたレミュウはショックのあまり錯乱しその小さな拳で俺を叩き続けるが、魔族とはいえ所詮は少女の力だ。
 何の痛みも感じない。

 それよりも俺は自分のスキルの成否の事で頭がいっぱいだった。

 レミュウの父親の肉体は俺の手でした。
 ならば俺の持っているユニークスキル【破壊の後の創造】によって新たな身体に創り変える事ができるはずだ。

 次の瞬間粉々になって飛び散った父親の肉片のひとつひとつが光に包まれた。
 スキル【破壊の後の創造】が発動したのだ。
 俺はそれを祈るような気持ちで見つめる。
 どうか俺の想像通りの結果になってくれ。

 俺はレミュウの父親が無事な姿で目の前に立っている姿を強くイメージした。
 さっきグリフォンを黒魔法で吹き飛ばした時、自分の黒魔法の威力を把握していなかった俺は、グリフォンがまだ健在で俺と対峙している姿を想像していた。
 そのイメージした姿が【破壊の後の創造】スキル発動後に創り変えられた対象の姿であると俺は考えている。

「何が起きた? ……私はまだ生きているのか……?」

 光が収まると、そこには五体満足で立っている父親の姿があった。
 脇腹の傷もすっかり塞がっている。

 俺の予想通りだ。
 俺はほっと胸を撫で下ろした。

「ええ、俺のスキルであなたの身体を再構築しました。体調はどうですか?」

「痛みが消えている……身体が軽い……まるで生まれ変わったみたいです」

「それは良かった」

 そう、実際彼の肉体は生まれ変わったのだ。
 懸念点のひとつだった記憶の喪失や人格の変化も見当たらない。

「お父さん!」
「レミュウ!」

 魔族の親子は抱きあってお互いの無事を喜び合っている。
 俺はその様子を微笑みを浮かべながら眺めていた。

 この力があれば俺は神聖魔法を使えなくても人々を救う事ができる。
 この【破壊の後の創造】というユニークスキルを神様から授けられた時は大層神様の事を恨んだものだけど、今となっては感謝しかない。

 もしかすると傷だらけの俺の身体もこのスキルで治す事ができるかもしれないけれど、俺の身体が瞬間、つまり俺が死んだ瞬間にスキルが無効になる確率が高い。
 恐ろしくてとても試す事はできないな。


 魔族の親子はひとしきり喜び合った後に俺の前に出て深く頭を下げて言った。

「あなたは私たちの命の恩人です。なんとお礼を言えばいいか……おっと、申し遅れました、私はこの谷を抜けた先にあるノースバウムという村に住んでいるハッサムと申します。こちらが娘の──」

「レミュウです。助けてくれてありがとうお兄ちゃん。あの、さっきはごめんなさい」

「いいさ、全然気にしてないから。俺の方こそびっくりさせちゃったね。俺の名前はルシフェルトです。……それにしてもハッサムさん、こんな危険な場所で何をしていたんですか。しかも幼い子供を連れて来るなんて普通じゃない」

「はい、実は……」

 ハッサムさんは眉をしかめながら自分たちがこの谷に足を踏み入れた理由を語った。

 彼らの住んでいる村はモロクという強大な魔力を持つ魔族に支配されていた。
 モロクは村人たちに重税を課し、村の皆はそれを納める為に牛馬のように働いていたがそれでも足りず、不足分を補うために已む無く危険を承知でこの魔獣の谷で採掘できる貴重な鉱石を求めてやってきたという。

「あいつらはただの掠奪者です。もし村の中にひとりでもモロクに逆らったり定められた税を納められなかった者がいれば、村全体の連帯責任としてと称した虐殺が行われるのです。近くにあった村も既に……」

「それは酷い……」

 話を聞いて俺は気分が悪くなった。
 俺は仮にも王国内に領地を持つ侯爵家の息子だ。
 領主は領民を保護する責任があるはずだ。
 搾取するなどあってはならない事だ。

「それでその貴重な鉱石は手に入ったんですか?」

「ええ、お陰さまで。レミュウ、ルシフェルトさんにも見せてやりなさい」

「はい、お父さん」

 レミュウは腰に付けたクマさんの刺繍が施された可愛らしいポーチから美しく光り輝く鉱石を取り出して俺に見せた。

「これは魔瘴石と申しまして、長い年月を掛けて魔界の瘴気をふんだんに取り込んでいますので魔道具の素材として利用できる大変価値のある物なのです。これひとつあれば村の皆がモロクに支払っている税の一年分にはなりましょう。……もっともこれを手に入れる為にうっかりグリフォンの縄張りにまで深入りしてしまった結果があの様ですが」

「なるほど、それは分かりましたがあなただけでなくレミュウちゃんまで危険に晒すなんて」

「レミュウを連れてくるつもりはなかったんですが、後から勝手についてきてしまいまして……」

「ごめんなさい、お父さんが心配で……」

「……いや、ルシフェルトさんがいなければお父さんも死んでいた。お前だけを責めたりはしないが、もう二度とこんな無茶な真似は止めてくれ」

「はい、お父さん……」

 目の前で美しい親子愛の様子が繰り広げられている。
 アガントス王国では魔族は邪悪な種族と言われているが、彼らは見た目こそ人間とは異なる部分があるが、その中身は俺達となんら変わらない。
 いや、自らの保身しか考えていない俺の父とハッサムさんを見比べれば、逆に俺達人間の方が碌でもない種族に思えてくる。

 一方でモロクのような暴君もいるらしいのでその辺りは個人差があるんだろうけど。

「それにしてもルシフェルトさん、これほどの素晴らしい力をお持ちのあなたがどうして王国を追放されたのですか?」

 やっぱり気になるよね。

「……胸糞が悪くなるような話になりますけど、それでも良ければお話しましょう」

 俺は二人にそう断りを入れた上で今までの経緯を語った。

 そう、全てはあの日に運命の歯車は狂いだしたのだ。
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