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第16話 魔族の集落7

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「ルシフェルトさん、奴らが攻めてきました!」

「皆さん落ち着いて下さい。作戦通りまずは奴らを引きつけて、城壁を登ってきたところをその上から熱湯を被せたり岩を落として防ぐんです」

「は、はい!」

 所詮は村人の集まりだと高を括っていたモロクの兵士たちは一直線に城壁に取り付きよじ登ってきた。
 それに対し村人たちは城壁の上から予め用意しておいた岩や熱湯、あげくにはをお見舞いする者もいる。

 兵士たちは溜まらず城壁を離れて後退する。

「うぬ、思ったより手強いぞ!」
「正面の城壁には村人どもが待ち構えているぞ! 迂回して奴らがいない場所からよじ登れ!」

 モロクの兵士たちが一斉に散り、四方から城壁に取りつこうとしたその時だ。

「うわああああっ」

 村の側面の城壁に取りつこうとした数人の兵士たちが悲鳴を上げながら姿を消した。
 その後には底が見えない程の大きな穴がぽっかりと空いていた。

 そこは昔古井戸があった場所だ。
 予め俺が【破壊の後の創造】スキルで落とし穴に創り変えていたおいたんだ。
 単純な罠だけど効果は抜群だった。

「罠だ! 全員足元に気をつけろ!」

 兵士たちは他にも罠があるんじゃないかと警戒をして攻撃の手が弱まった。

「ええい、たかだか村人相手になんてザマだ! 弓部隊前に出ろ! 城壁の上の奴らを射殺してしまえ!」

「お任せ下さいモロク様」

 モロクの命令でアサリー率いる弓部隊が前に出てきて城壁の上の村人に向けて一斉に矢を放った。

「うわっ、来たぁ!」

 戦い慣れていない村人たちは最初こそ飛来する矢の雨に怯え戸惑っていたが、彼らが身につけている鎧は元々獣の皮で作られた鎧を俺の【破壊の後の創造】スキルで鋼鉄製のプレートアーマーに創り変えたものだ。
 如何にアサリーの弓術が優れているとはいえ、ただの弓矢では鋼鉄製のプレートアーマーを貫く事はできずにカンッという高い音を響かせて跳ね返るばかりだった。
 実際に攻撃を受けても全くダメージを受けないのなら何も恐れる事はない。
 村人たちは今度は逆にモロクの兵士たちに投石をお見舞いする。

「闇雲に攻撃をするな! 一点を集中的に叩け!」

 しかし兵士たちと村人の実戦経験の差は如何ともし難かった。

 兵士たちの執拗な投石と、黒魔法使い部隊による爆裂魔法の集中砲火によって城壁には大きなひびが入り、ついにはその一角が崩れ落ちて内部へ侵入できる隙間ができた。

「一番乗りは俺だ!」
「いいや俺だ!」

 兵士たちは先を争ってその隙間に殺到する。
 兵士たちがその隙間に集まった瞬間を狙って俺は城壁の上から魔力を放出した。

「……破壊魔法デモンズクラッシャー!」


 ドォン!


 兵士たちを巻き込んでその一角が爆発し、爆煙が辺りを包む。

「なんだ!? 黒魔法か!?」
「そんな馬鹿な、この村には黒魔法を使える奴などいないはずだ」

「あいつだ! あいつが魔法を使うところを俺は見ていたぞ!」
「待て、あいつは人間じゃないのか? どうして人間がこんな村にいるんだ?」

 兵士たちの注目が城壁の上の俺に集まった。

「くそっ、村の奴ら人間の魔法使いと手を組みやがったのか。しかし馬鹿な奴だ、自分たちの手で城壁を破壊しやがった。今が攻め時だ、全員進め!」

「おお!」

 モロクの指揮で兵士たちは再び進撃を開始した。
 しかし煙が晴れた後彼らの目に飛び込んできたのは崩れ落ちた城壁ではなく、【破壊の後の創造】スキルによって完璧に修復されているどころか以前よりも更に強固となった鋼鉄の壁だ。

「おい、これは一体どういう事だ!?」
「辺りが煙に包まれていたあの僅かな時間で修復をしたとでもいうのか!?」
「馬鹿、そんなことできる訳ないだろう!」
「誰か説明してくれよ!」

 兵士たちは何が起きたのかを理解できず戸惑っている。
 その隙に村人たちは城壁の上から投石や弓矢を放つ。

「モロク様、このままでは俺たちは的になるだけです!」

「くっ、たかが村人相手に情けない……仕切り直しだ、一旦退け!」

 モロクは溜まらず兵士たちに射程範囲外へ後退させる。

 この戦闘で既に兵士たちの一割は討たれ、残りの兵士たちも疲弊していた。

 しかしこれで諦めるモロクではない。
 ノースバウム村から少し離れた場所に陣を設け、長期戦の構えを見せた。

 初戦ではモロクたちが村人が相手だと思って油断をしていたので容易に撃退できたが、じっくりと策を練られた上で攻められたらさすがに持ち堪えられないかもしれない。

 だからこのまま決着をつけさせてもらおう。

「よし、頃合いかな。爆裂魔法、フラワーボム!」


 ドォーン!


 俺が空に向かって魔力を放出すると、轟音を響かせながら上空で色とりどりの炎の花が咲いた。

「なんだ今の音は!」
「モロク様ご覧ください、上空に炎が!」
「またあの人間がやっているのか、全員警戒を怠るな!」

 それを見た兵士たちは黒魔法での攻撃を警戒をするがこれは攻撃魔法ではない。
 本来はその美しい見た目を楽しむ事が目的の魔法だが、俺はこれを離れた場所にいるへの合図として使用した。

「グルルルルル……」

 その時、モロクたちが陣を敷いている場所のすぐ背後にある森の中から魔獣のものと思われる身の毛もよだつような唸り声が響き渡った。

「モロク様、森の中に何かが潜んでいます! 今度はカラスや犬ではなさそうです!」

「うろたえるな、これだけの兵士が集まっているのだ。魔獣の一頭や二頭など恐れる事はない」

「は、はいモロク様」

 兵士たちは声がした方角に防衛の陣形を組んで臨戦態勢を執る。
 彼らが自身の判断の誤りに気付いたのはその直後だ。

「シャアアアアア……」

「ギャア、ギャア……」

「ガウウゥ……」

 前方からだけではなく左右の茂みの中からも多くの魔獣の唸り声が聞こえてきたのである。

「モロク様、一、二頭どころではありません。俺たち完全に魔獣に包囲されています!」

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