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第17話 魔族の集落8

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 いくら百戦錬磨の魔族の将とはいえ、単独で魔獣を討伐する事は難しい。
 これが一般兵になると百人がかりで一頭の魔獣と刺し違える事ができれば上出来といったところだ。

 しかし今彼らの周囲から聞こえてくる魔獣の唸り声の数は一頭や二頭どころではない。
 少なく見積もっても十頭は下らないだろう。

「モロク様、あれだけの数の魔獣我らの手には負えません! 撤退しましょう!」

 兵士たちは完全に浮足立ったが、一方でモロクは落ち着いた様子で状況を見定めている。
 腐っても一端の将である。

 モロクは即座に違和感に気付いた。

「魔獣が集団で仲良くを行うなど聞いた事が無い。もしかするとこれはノースバウムの連中が魔獣のをして我らを欺こうとしているのではないか」

「なるほど……さすがはモロク様。我らも危うく騙されるところでした」

「ははは、狩りについての知識は私の右に出る者はいないからな」

 モロクは得意そうな笑みを浮かべながら前方の茂みを指差して言った。

「声がしたのはそこの茂みからだ。きっと村人たちが隠れているに違いない」

「はい、モロク様」

 兵士たちは手にした剣で茂みを薙ぎ払った。

「グルルルルルァァァ!」

 しかし次の瞬間茂みの裏から飛び出してきたのは村人ではなく、鷲の頭部に獅子の身体を持つ巨大な魔獣だった。

「ひいいいい、グリフォンだ!」

「まさか、本物の魔獣が潜んでいるとは……だとしたら周りの唸り声も!?」

「シャアアアアア!!」
「グギャアアアアアア!」
「ガオオアァァ!」

 モロクは自らの読み違いを悔やむが時すでに遅く、グリフォンに呼応するように三方向から巨大な魔獣が次々と飛び出してきた。

 巨大な鎌首を持ち上げて兵士たちを見下ろしているのは、全ての物を食らい尽くすという大蛇ウロボロス。
 不死身とも言われる生命力を持ち、燃え盛る炎に包まれた怪鳥フェニックス。
 地獄の番犬の異名を持つ双頭の巨獣ケルベロス。

 その他諸々、一頭一頭がアガントス王国の一個師団にも匹敵する強さを持つ魔獣たちだ。
 このままでは兵士たちが大混乱を引き起こす事を恐れたモロクがグリフォンを指差して叫んだ。

「勇敢な兵士たちよ臆するな! あの魔獣を討ち取った者には褒美として私の領内の村のひとつを与えるぞ!」

「え? それは本当ですか!?」

 村一つとはいえ領主ともなれば兵士から見れば破格の出世である。
 その一声で兵士たちはギリギリ踏み止まった。

「褒美は俺が貰った!」

 ワニの獣人である弓使いアサリーが前に出、グリフォンに向けて矢を放った。

 ピョーン。

 しかしその矢はグリフォンの身体に突き刺さる事はなく、グリフォンの体毛の弾力により外に弾き出された。
 もちろんグリフォンにはノーダメージだ。

「そんな、嘘だろ……」

 呆気に取られているアサリーに向かってグリフォンが突進し、その巨大な爪を振り下ろした。
 アサリーの身体は紙のようにいとも容易く引き裂かれてしまった。

 それを見て兵士たちは現実に引き戻された。

「だ、駄目だ! 俺たちが敵う相手じゃねえ!」
「うわあああああああ、助けてくれえ!」

「おい、勝手に動くな! 持ち場を離れるんじゃあない!」

「そんな事言われても無理なものは無理です!」

 必死に陣形を立て直そうとするモロクの怒鳴り声も空しく、兵士たちは悲鳴を上げながら我先にと逃げ惑う。

 恐怖に駆られて陣形が崩れた軍隊は脆いものだ。
 兵士たちは誰一人として魔獣たちに立ち向かおうとは考えず、碌な抵抗もできないまま逃げ遅れた者から順番に魔獣たちの餌食となっていった。

 そんな中ただひとり歴戦の将であるコモドだけは魔獣の攻撃を持ち堪えていたが、さすがに多勢に無勢で徐々に劣勢になっていった。

 この状態でもコモドが戦えていたのは、後ろにモロクが控えているからである。
 かつてはその屈強な肉体と強大な魔力で並みいる敵を打ち倒して武名を轟かせた魔将軍モロク。
 鋼のように鍛えられていた肉体は今や見る影もないが、その魔力は未だ健在である

「モロク様今です! 私がこやつらを押さえている内にそのお力をお示し下さい!」

 モロクの強大な魔力から放たれる黒魔法の破壊力を持ってすれば並の魔獣なら一撃で粉砕されるはずだった。
 しかしどれだけ待っても一向にモロクの黒魔法は飛んでこない。

「モロク様?」

 コモドが振り向いた時、先程までその場所にいたはずのモロクの姿はなかった。

「そんな……あなたほどのお方が……逃げられたのですか!?」

 長く前線から離れていたモロクにはもはやこの状況でも戦うだけの勇気は持ち合わせていなかった。
 兵士たちを置き去りにして我先にと逃げ去ったのである。
 最後の希望の糸が切れ、がっくりと項垂れるコモドの頭上からウロボロスが大口を開けて襲い掛かった。

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